ロブ・アトキンス:ビークル・エンジニアリング担当チーフエンジニア
成功の理由 本物のクルマ
「初期の段階から新型ディフェンダーの開発計画に携わっていました」と、アトキンスは言う。
「車両のメインコンポーネントとなるアーキテクチャ全般を担当しています。われわれのチームでは全ランドローバー製モデルに対応しており、確かに非常に重要なモデルではありますが、新型ディフェンダーもそのなかの1台でしかありませんでした」
「社内で働くさまざまひとびとを知るわたしの役目は、プロジェクトに合わせて彼らの専門性を発揮してもらうことにあります」
新型ディフェンダー成功の大きな理由のひとつが、シリーズ1や先代の単なるデフォルメではなく、いまの時代にあったモデルを創り出そうと挑戦するとともに、今後数十年を見据え、すべての面で現代的でありつつ、1948年に誕生した初代と同じ象徴的価値も備えているという点にあると、アトキンスは話す。
「既存モデルの名前を単に変えただけの新型ディフェンダーなどという選択肢はまったくありませんでした」とも彼は言う。
「この点に関しては、ニック・ロジャースが見事に関係者をまとめてくれました。彼は一貫して新型ディフェンダーとは本物でなければならないと言い続けて来たのです」
「いずれにせよ、デザイン責任者のジェリー・マクガバンと彼のチームは、現代性を備えた見事なコンセプトを創り出すことに成功したのであり、われわれ全員がそれに真正面から取り組む必要があると感じていました」
ふたつの決断 重要な瞬間
伝統的なラダーフレーム構造からモノコックへの変更や、非常に先進的な電子設計の採用など、新型ディフェンダーにとって重要な決定の多くが悩ましいものだったとアトキンスは言う。
そして、彼と彼のチームはこうした重要な決断に深く関わっていたのだ。
なかでも彼は特にふたつの決断を誇りに思っていると話す。
ひとつはドライバーを高く座らせるとともにオフロードでのトラクション性能を向上させるための大径タイヤの採用であり、もうひとつが一般的なSUVに比べ、広く使い勝手の良いトランクスペースを実現するため、特殊なパッケージデザインを取り入れたことだと言う。
大径タイヤの採用は初期段階には決まっていたとアトキンスは話す。
「プロトタイプが完成する前の段階で、レンジローバー・スポーツにインチアップしたタイヤを履かせてテストを行っていますが、その結果は非常に自信を与えてくれるものでした」
「その後、砂漠でのドライビングが広く楽しまれているドバイへと向かっています。オンロード用の空気圧だったにもかかわらず、新型ディフェンダーのインチアップしたタイヤサイズがもたらすパフォーマンスには圧倒されました」
「すでに力強いエクステリアデザインでしたが、インチアップしたホイールは新型ディフェンダーに十分な車高とともに存在感を与え、より強力なグリップを確保することに成功しています」
「まさに重要な瞬間でした」
エミリー・グリーンハウ:インテリア&ボディ・イノベーション・マネージャー
素晴らしいチャンス 未来とはディフェンダー
2013年当時、エミリー・グリーンハウは、ニック・ロジャースから2週間でランドローバーブランドの未来に向けた新たなアイデアを考え出すというミッションを与えられた新卒エンジニアのひとりに過ぎなかったが、これが素晴らしいチャンスをもたらすことになったと彼女は言う。
「ニックは別のプロジェクトに対応しなければならなかったので、われわれが彼のオフィスを使えるようになったのです」と、グリーンハウは話す。
「彼はわたし達に、『ランドローバーに新たなエネルギーをもたらすことが出来るのは君たちだけであり、これまでの延長線上に未来はない』と言ったのです」
「すぐにその未来とはディフェンダーのことだと分かりました。そして、どうやってシリーズ1からの伝統を活かすべきかを考えました」
「わたし達に求められていたのは新たな思考と革新であり、すでに市場に存在しているようなモデルを創り出すことではありませんでした」
グリーンハウと彼女のチームは、1948年に誕生したシリーズ1だけでなく(ロジャースは自身が所有するシリーズ1を彼らに体験させている)、トラクターや消防車、さらには(外装パネルの取り付け方法を学ぶため)ロータスのスポーツカーまで参考にしている。
熱心な議論 何か新しいこと
彼らは「残すもの」、「新たに創り出すもの」、そして「採用するもの」という3つの項目に基づいてアクションリストを作成すると、幅4mの壁いっぱいにアイデアを書込み、時には「幹部」も巻き込んで毎日熱心な議論を行ったと言う。
その結果が、キャビン・クロスビーム(「デザイナーたちが素晴らしいアイデアを出してくれました」)や高い位置に設置したギアシフター、セントラル・フロントシートとバーチカル・ウイング・ミラー(「オリジナルのシリーズ1への回帰です」)、さらにはリアボディに設けられたアルペンライトなどといったものだ。
「いま思い返すと、こんな風に新型ディフェンダーに自分たちのアイデアが採用されるなどと何故信じられたのかと思います」
「もちろん、社内のベテランスタッフからも沢山のサポートがありましたが、わたし達全員、何か新しいことをしなければならないと分かっていました」
グリーンハウはその後も新型ディフェンダーに関わり続け、多くの時間をロブ・アトキンスのもとで働いている。
いま彼女は将来のインテリアデザインをリサーチする新たなチームを率いている。
マイク・クロス:ビークルインテグリティ担当チーフエンジニア
言葉よりも実践 ルックスに相応しい走り
マイク・クロスは寡黙な男だ。
すべてのモデルに「ランドローバーらしさ」を与えるという自らの仕事を説明するのに、彼は言葉よりも実践を好む。
ひとたび車両の仕上がりに納得すると、ひとびとに実際にステアリングを握ってもらったり、そのクルマで自らの見事なドライビングスキルを披露するのだ。
そして、それがいま新型ディフェンダーの開発でクロスが果たした役割に耳を傾けながら、ゲイドンにあるテストコースを150km/h近くのスピードで周回している理由だった。
「まさにこのクルマのルックスに相応しい走りを実現したいと思っていました」と、彼は言う。
「少しばかりメカニカルな感じと、適度な正確性といったものを備えた楽しめるドライビング性能ですが、決して特別なものではありません。スポーツカーではないのですから」
これがこれまでクロスが携わってきた数々のモデルよりも新型ディフェンダーが大きなロールを許す理由であり、このクルマにはオフローダーとして悪路への対応能力が求められているのだ。
わたしがステアリングを握って、新型ディフェンダーが大小の路面不整にしなやかに対応する様子に感心していると彼は嬉しそうな表情を見せた。
四輪独立懸架のソフトなエアサスペンションにもかかわらず、例え高速であってもこのクルマはしっかりとした接地感を感じさせる(190km/h以上の速度も試してみた)。
誇らしげな笑み 最高傑作のひとつ
ステアリングフィールも正確で心地よいものであり、決してスポーティーではないが見事なハンドリングだと言えるだろう。
「路面とのしっかりとした繋がりを感じられるはずです」と、クロスは言う。
クロスと彼のチームは、開発初期と最終評価が行われていた最後の15カ月間という、新型ディフェンダーにとって重要なふたつのタイミングでこのクルマに関与している。
「初期段階ではエンジニアとともに新型ディフェンダーのコンセプト創りを行い、開発が進むにつれて動力性能の面から進むべき方向性についてアドバイスを行っています」
「その後、プロトタイプが完成すると、実際にステアリングを握っていますが、われわれの役目は当初掲げた目標とお客様がランドローバーに期待するものを、実際の車両が確実に達成出来るようにすることです」
「騒音や振動、静粛性などとともに、ステアリングフィールやパワー、ブレーキフィール、乗り心地、さらにはハンドリングといったものです」
高速でテストコースから離れると、145km/hの速度で次々とコンクリート製のジャンプ台に挑戦することになった。
その度に新型ディフェンダーは宙を舞うが、着地しても進路が一切乱れていないばかりか、まるで巨大で硬いクッションの上に落ちたかのように感じられる。
サスペンションが底付きするような様子を見せなかったことで、クロスは少し誇らしげな笑みを見せる。
「われわれの最高傑作のひとつだと思っています」と、彼は言う。
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