この記事をまとめると
■BYDがタイにBEVの新工場を開所して東南アジアでのBEV普及を狙っている
BYDってBEVメーカーじゃなかったの!? じつはアジアや本国じゃBYDの「ハイブリッド」がバカ売れしていた!
■BEVから乗り換える人の多くはハイブリッドを選ぶ傾向にある
■ICE車に回帰する層へ向けてBYDでも新型PHEVモデルなどの開発に注力している
BYDの新工場は東南アジアに建造
7月4日、中国BYDオート(比亜迪汽車)は、同社では東南アジアでは初となるタイ東部ラヨーン県にあるBEV(バッテリー電気自動車)の新工場を開所した。東南アジアではこのタイの新工場のほか、インドネシアにおいて年産15万台規模ともされるBEVの新工場建設計画がインドネシア政府より発表されている。
さらに視野を広げると、欧州では東欧のハンガリーやトルコでの工場建設計画が進んでおり、さらに南米ブラジルでも工場建設を発表している。また、アメリカやカナダ市場をにらんでいるとされているが、メキシコでの工場建設計画を進めているとも報道されている。
先日、中国のテレビニュースを見ていると、中国国内のBYDの完成車工場の様子がリポートされていた。聞き違いかもしれないが、内装品装着などの最終工程を除くと、全工程の95%が自動化されているということであった(たしかに工場内に作業員はほとんどいなかった)。
EU(欧州連合)は、7月5日より中国製BEVに対し17.4~37.6%の追加関税を課している。アメリカもバイデン政権が中国製BEVの関税を100%に引き上げることを発表している。
中国としては各地域で現地生産を進めることで、前述したような関税引き上げへの対抗策のほか、現地生産化でさらに買い得感の高い価格設定を実現することなどが目的としてあるようだ。
自動車需要の「伸びしろ」が高いともされるアフリカ大陸でもBEV普及は進んでいる。報道によると、東南アジアなどのほかの新興地域と同じように大気汚染改善という側面のほか、最近の燃料費の高値安定傾向もあり、二輪車や三輪車においては中国メーカーの進出もあってBEVが目立ってきているようである。
報道映像を見ると、電動二輪車や電動三輪車が街なかを走る一方で、四輪車は年式が古めな日本から中古車として輸入された日本車ばかりとなっているのだが、これも将来的には、前述したBYDのような中国メーカーの現地への進出度合い(電力インフラ整備の進捗状況もあるが)次第では、見える風景が一変するかもしれない。
現状、中国では充電インフラの問題などもあり、首都のごく一部のみといった限定的な電動車普及の様子であった。ただ中国企業は、中国政府と密接な関係にあるのは自動車に限ったことではないとともに、その強大なバックボーンを得てのスピード感は我々の想像を絶するレベル。甘く見ることはできないだろう。
BEVからICE車に乗り換える人が急増
問題は世界的にBEVの普及スピードが鈍化していることにある。東南アジアというかタイでは、新型コロナ感染拡大が落ち着きを見せた2022年あたりから中国メーカーの相次ぐ進出もあり、都市部を中心にBEVが物珍しさもあってか急速に普及していった。しかし、そのような初期にBEVを購入したユーザーの乗り換え時期に差しかかっている最近では、HEV(ハイブリッド車)やPHEV(プラグインハイブリッド車)も含め、乗り換え車両についてはICE(内燃機関)車への回帰が目立ってくるともいわれている。
世界的にHEVが注目されているのも、BEVからICE車への回帰傾向が目立っていることも影響しているかもしれない。日本でも初代リーフ以来、長い間BEVを販売している日産系正規ディーラーで話を聞くと、いったんBEVへ乗り換えた客が再びICE車(e-POWER車が多いみたいだが)へ乗り換えるということは珍しくないとの話であった。
BYDがここのところPHEVにも熱心に取り組んでいる状況が目立っている。その背景はいろいろあるのだろうが、今後目立ってくるであろうICE車へ回帰しようとするユーザーの「つなぎとめ」に使おうという狙いもあるように見える。
BEVは、同クラスのICE車に比べれば割高イメージが先行してしまう。そのため、現状で興味を示し、実際に所有するのは所得に余裕のある人となってしまうほか、最近では短期間でクルマの乗り換えを繰り返す人も多い。「やっぱりBEVは合わない」と短期間でICE車へ回帰できる人はいいが、日々生活に追われる層では短期間でマイカーの乗り換えを繰り返すことは難しい。これこそが、いまBEV普及の「踊り場状態」を生んでいるひとつの背景ではないかと筆者は考えている。
その踊り場状態を、BEVのなかでは圧倒的に買い得感の高い中国系BEVが風穴を開けようとしているところで、とくに先進国では警戒感を高めているようにも見える。
BYDにしても現地生産計画は各地域であるものの、実際に開所しているのはタイ工場のみとなっている。いまの市場環境、そしてBYD以外の中国メーカーも海外現地生産を模索しているなかでは、供給過剰によって乱売状況に陥るのではないかとの不安もあってしかるべきだろう。
次世代産業としてBEVが注目されるなか、中国がこの分野では主導的立場になっている。単純な開発競争だけならまだいいのだろうが、さまざまな「チャイナリスク」をはらんでいることで、BEV普及に政治の影が大きくチラついてしまっていることで問題がより複雑化してしまっている。
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