デジタル化がさらに進んだSクラス
text:Matt Saunders(マット・ソーンダース)
photo:Olgun Kordal(オルガン・コーダル)
外から眺める限り、Sクラスは高級感でフライングスパーにすっかり水をあけられている。ところが車内に入ると、このメルセデスにはマテリアルのリッチさが十分すぎるほど見出せ、スペースもかなり広い。デジタルディスプレイの多さも顕著で、これはこの10年ほどでテスラに向いたユーザーの目を引き戻す狙いも感じられる。広々とした開放感はベントレーよりやや上で、視認性やトランクの広さでも優っている。
Sクラスにはビジネス向けだと思えるところもあり、道楽品的な感覚はベントレーのほうがはるかに強い。その違いは明らかだ。Sクラスのほうがまじめな印象で、目を引く華麗さでは下回る。ネクタイとジャケットを身に着けてSクラスに乗る人はかなり多いだろうが、正装しないと乗れないように感じるクルマではない。
デジタル的な改良が、すべてそこにある価値を持つわけではない。たとえ、それを装備することが、OTAアップデート時代の高級車に欠かせないものだとしてもだ。大型化されたARヘッドアップディスプレイや3Dデジタルメーターは、必要か不必要かを問わず、すべてのインフォメーションを絶えず投げかけてきて、ときにそれを追う目が混乱するのだ。
ダッシュボードには、12.9インチのスクエアなタッチ式ディスプレーが鎮座するが、そのせいで周辺の操作系が収まりの悪い位置にずらされている。しかも、画面が斜めに寝かされているので、ウインドウから差し込んだ光を、ドライバーの顔へダイレクトに反射させてしまう。どれも、Sクラスを扱いやすくしてくれるのではないところで驚かされる。
明らかにメルセデスは、Sクラスのユーザーが、ほぼいかなる犠牲を払ってもより多くのデジタル技術がほしい人種だと考えているようだ。公平にみれば、このセッティングも使ううちに慣れる。運転中も、方向を示す矢印やホログラフ的表示に惑わされることはない。タッチ操作に多くが依存するのにも馴染めるだろう。自分ならば積極的に選びたくはないが、やむをえず使いこなしていくことはできなくないはずだ。
室内の質感に決定的な差
使い勝手に決定的な不備を覚えなかったためだろうか、テストを終えてみて、キャビンの新たなテクノロジーはどれも、このSクラスの評価を下げるものとは思えなかった。フライングスパーと比べるなら、キャビンで見劣りするのはマテリアルのほうだ。ベントレーの、ローレット加工された鏡のようなクロームの送風口やスイッチなどは、じつに見栄えがいい。
温度感もテクスチャーもソリッドさも、なかなか得がたい妙なる手触りを生んでいる。レザーはみごとに調えられ、ほかではいまどきリアルなウッドやクロームを使わないことがほとんどの場所にも、いつもながら華やかなフィニッシュが施されている。
たとえドリンクキャビネットのウォールナットパネルがお気に召さなくても、ほかの選択肢がふんだんに用意されている。クルマの外も中も、ルックスも手触りも、その高級感にスキはない。
対するSクラスも高級感はあるが、比較にならない。個別に見れば、その質感に文句をつけるユーザーはまずいないはずだ。しかしベントレーに比べると、レザーはふっくらしていないし、使っている範囲は狭い。アンスラサイトカラーでオープンポアのポプラウッドは、目新しい素材ではあるが、正直いって期待外れだった。ダッシュボードに海苔を貼ったみたいなのだ。
それ以外の広い範囲には、指紋のつきやすいピアノブラックのパネルが張られ、プラスティックのクローム風トリムで飾られる。素材としては、Aクラスの上級グレードと同じものかもしれない。だからといって不満を覚えることはないのだが、ベントレーを見たあとではどうにも分が悪い。まるでメルセデスが、ユーザーの指先がタッチパネル操作のしすぎで麻痺してしまうので、手触りにこだわっても意味がないと考えたのではないかと疑いたくさえなる。もったいない。
Sクラスに勝るフライングスパーの洗練性
と、ここまでは静物的な高級品として比較してきた。では、ドライビングはどうか。これはショーファーカーではないのかもしれない、というのが、Sクラスに乗って感じることだ。フライングスパーはというと、少なくともある意味でドライバーズカーだ。
今回のテストに関して、そのことは必ずしもどちらが上かを決定する要素ではない。しかし、メルセデスにとってマイナスなのは、ソフトな乗り心地でコンフォート志向なのは明白なのに、より重く、硬いスプリングを備えたベントレーに、メカニカルな点でも、乗り心地についても、洗練度で遅れをとっているという事実だ。ディーゼルエンジンによるところも小さくないが、それだけが原因ではない。
Sクラス独特のふんわりした乗り心地は、新型でも秀逸で魅力的だ。やわらかくジェントルに走るクルマで、ロールも上下動もフライングスパーより大きい。エキサイティングなところはまったくない。とはいえ、そのソフトさが、ハンドリングを損ねることはまったくなかった。
ただし、テスト車のように、21インチホイールにロープロファイルタイヤを履いた上級グレードでは、路面の隆起や溝を踏み越える際に、Sクラスとしてあるべきよりちょっと大きい打撃音や衝撃を感じる。高速道路でも、路面の荒れたところでは、ロードノイズやソワついた動きが出てしまう。
高級サルーンでは、それ以外の車種より洗練性や静粛性の要求が高くなってしまうのだが、その分野ではほかより優れているべきジャンルなのだからしかたがない。今回試乗した2台は、それぞれ理由は異なるが、その高い水準の要求を満たしているといえるものではなかった。
時代に追い越された高級車の代名詞
フライングスパーは、その要求を完全に満たすレベルには及ばないまでも、かなり近いところにあった。Sクラスより500kgほど重く、ハンドリングでも上回ることを考えると、走らせての比較でも、評価はこちらのほうがずっと上ということになる。
小さい入力に対してはやや脚が硬く、ノイズも期待したよりわずかに大きめだが、スピードを上げると滑るように走り、市街地ではすばらしくクッションが効いた乗り心地だ。また、コーナリングでは非常に安定していて、ドライバーも同乗者も満足させてくれる。
上下動や左右へのロールは、Sクラスのそれとは異なる。ボディコントロールはタイトで、路面の隆起やシャープなコーナーでもすばらしく快適だ。そして、そのことはペースを上げなくてもわかるはずだ。
635psのW12が、330psの直6ディーゼルを打ち負かすのは当然といえるが、高級車においてはパワーだけが判断基準ではない。ドライバビリティや機械としての魅力、音的な洗練ぶりといった点も含めて、ベントレーの12気筒のほうが優れているのだ。Sクラスの71.3kg-mを使い切ることさえ滅多にないのだから、いわんやベントレーの91.8kg-mをや、である。ましてやW12のトルク特性は、パートスロットルでは穏やかで扱いやすい点でも差をつけている。
Sクラスは、ゆったり流しているとじつに気持ちいいが、それもボディサイズを持て余すような状況になるまでのことだ。取り回しを改善してくれる四輪操舵は、英国では上位モデルにしか用意されない。たまにドライブラインが素っ気なさを見せるところもあるが、それでもフライングスパーを走らせるほうが楽しい。
以上の点を踏まえて、われわれはメルセデス最大の高級サルーンを、世界一説得力のある、無駄の少ない、目的に適ったパーフェクトな高級車とみなすことはできない。マーケットは移ろい、その要求が、かつてSクラスが他を圧倒していた能力を追い越してしまった。いっぽうでベントレーのようなクルマのグループは、かつてより技術面で大きく進歩し、多様な領域での完成度を大幅に高めた。
のみならず、Sクラスは以前の技術面や機能面の卓越性を失ってしまったところがあるようにも思える。満ち満ちていた自信の一部もだ。ひとつの時代が終わった、といえるのではないだろうか。そして今、誰もが次になにが来るのかを見極めることに興味津々だ。
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みんなのコメント
マイバッハSクラスと比べてもさらに高いのに普通のSクラスと比べるのは馬鹿らしい