アイ・ペースeトロフィ・レースはこれで終了
車いすのレーサーの青木拓磨選手は、電気自動車レース「JAGUAR I-PACE eTROPHY(ジャガー・アイ・ペースeトロフィ)」へ今季第3戦から参戦を開始しているが、そのシーズンが終了した。「ジャガー・アイ・ペースeトロフィ」は、電動フォーミュラマシンで争われるFIAフォーミュラEの前座レースで、毎年秋に開幕し、年をまたいで行なわれている。その開催は、フォーミュラE同様常設のサーキットではなく、市街地コースを使用して行われる。
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2019-2020シーズンは2019年11月に開幕し、2月の第3戦まで開催したところで、新型コロナウィルス感染拡大の影響で開催を中断。3月から7月までの5か月間で中国、イタリア、フランス、ドイツ。アメリカ、イギリスで開催予定だった7戦をキャンセルし、ドイツ・ベルリンで8月5日から13日までの9日間で第4戦から10戦までの7戦を消化することとなった。
2輪ロードレース世界選手権(WGP)に参戦を開始した翌年となる1998年シーズン直前のGPマシンのテスト中の事故によって脊髄を損傷、下半身不随となってしまった青木拓磨選手。現在はレース・フィールドを4輪に移し、今年ル・マン24時間レースへの挑戦を目指して積極的にレース活動を行っている。その活動の中で、新たな挑戦として、この電気自動車レースへ挑戦をスタートさせた。
このワンメイクレースで使用するマシンは、ジャガー初の市販EV(電気自動車)であるI-PACEをベースとしたレーシングカー。市販車と同じ容量90kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載し、パワーユニットは最高出力400PS、最大トルク700N・mを発揮。0→100km/h加速は4.5秒、最高速度は205km/hとなる。
そして青木選手が所属するのは、市街地レースであるフォーミュラEを神奈川県横浜市に誘致するために設立された「TEAM YOKOHAMA CHALLENGE」。ゼッケンは、青木選手が2輪ロードレース世界選手権(WGP)時代から使い続ける「24」となる。青木選手のマシンは、イタリアのグイドシンプレックス社のハンドドライブユニットを組み込んで、上腕だけで車両操作ができるようになっている。
2月15日に開催となった第3戦のメキシコシティ(メキシコ)戦からこのeトロフィへ参戦を開始し、初戦からProクラス3位(総合5位)を獲得した青木選手。その後半年間参戦なしの状態だったが、ここで一気に最終戦までを行うレースフォーマットとなった。その内容は超過密スケジュールと言っていいだろう。
9日間で7戦をおこなう強行スケジュールがスタート
ベルリン・テンペルホフ空港に設置された特設コースを舞台に、8月5日(水)に第4戦、6日(木)に第5戦。一日置いて8日(土)に第6戦。続く9日(日)は、午前と午後に一戦ずつ。そこから中2日空いて第9戦が12日(水)に、そして最終戦となる第10戦が13日(木)に行われる。残念ながら無観客レース、さらに会場は総入場者数を1000人以下に抑えるという制限もかかる中でのレースウィークとなった。 7月28日にベルリン入りした後、2回に及ぶPCR検査で陰性の判定を受けた青木選手は、8月4日にようやくコースの下見、そして練習走行を行った。その翌日の午前中にさっそく第4戦の予選、そして夕方4時45分からは決勝レースという慌ただしい中でのレースウィークのスタートだ。その予選では、前日の練習走行時と路面状況が大きく変わっており、そのハンドリングに苦しみ10番手(クラス予選7番手)。午後に行われた第4戦決勝レースは、一進一退の攻防を繰り広げたものの、9位(クラス7位)でレースを終えた。
続く6日の第5戦は天候が回復し、気温も上昇する中、午前中にセットアップを変更して臨んだ予選は9番手(クラス7番手)、そして決勝も接近戦を繰り広げるもなかなかポジションアップにつながらず、アタックモード(通過することでパワーブーストをかけることができる)を使用して7番手にまで一度は浮上するも、結果的には再び9位(クラス7位)に順位を落とし、そのままチェッカーを受けた。
オフを挟んだ8日(土)からはコースが反対周りとなって、第6戦(予選1)と第7戦(予選2)の予選セッションが続けて行われてからの決勝レースとなる。その予選1では7番手のタイムを出したものの、セッション終了間際にウォールにヒットしてしまい、セッション終了5分後にスタートとなった予選2への修復が間に合わず、第7戦のグリッドは最後尾からのスタートとなってしまった。
7番手からスタートした第6戦では、新しいレイアウトのコースを積極的に攻め、一時は4位が狙えた中での6位フィニッシュでこの日のレースを終えた。
そして迎えたダブルヘッダーの9日(日)。前日同様暑い一日となったその第7戦は最後尾スタートであったが1周目からアタックモードを使用する等積極的にレースを進め、自ら順位を上げ、さらに前走車のペナルティもあって一時7番手まで順位を上げ、最終的には8位(クラス7位)でレースを終えた。続く第8戦は第7戦の結果のリバースグリッドとなり、スタートから一気に前に出て一時は2番手まで順位を上げる。その後アタックモードを使うタイミングも悪く、後続集団に飲み込まれる形でのバトルで8番手~9番手でバトルを展開。ラスト1周というところで前に出ることに成功し7位(クラス5位)でチェッカーを受けた。
2日間のオフの後に2日にわたって第9戦、そして最終戦が開催となった。この2戦はこれまでとはまた若干トラックレイアウトが変更となったコースでのレースとなる。第9戦開催の8月12日(水)も暑い一日となった。車両の状態が「今までで一番良い」と、そのグリッドを決める予選セッションから気合の入った走りを展開。13周にわたってアタックを続けたが、8番手にコンマ1秒届かず結果は9番手。決勝でも終始接近戦を展開するバトルを繰り広げたものの、そこから抜け出すことができず、逆にアタックモードでミスを犯し順位を下げてしまい、結果は9位にとどまった。
そして13日(木)。FIAのレース史上最も過密と言える9日間で7レースを行うこととなったジャガー・アイ・ペースeトロフィ最終レース日を迎えた。この予選では、これまでよりもスムーズな走りができたものの、予選での順位は7番手。そしてこの最終戦では、うまくタイミングを合わせ、スタートで一機に5番手まで順位を上げる。その後は団子状態の中で、レース中には小雨が降る展開となり、24号車はタイヤをウォールにヒットしてしまったこともあってペースが上げられず、最終的には7位でチェッカーを受けた。
青木選手としては今季初参戦となったシリーズだが、参戦初戦の第3戦メキシコシティでのProクラス3位が最上位フィニッシュ。7戦で42ポイントを獲得した青木拓磨選手のシリーズランキングはProクラス6位(第1戦2戦不出場ながら)となった。シーズン途中でこのシリーズの終了がアナウンスされ、青木選手のeトロフィへの挑戦はこれで終了となった。
このシーズンを終えて、青木選手は「このクルマは走らせ方がとても特殊だということで、大きな経験となりました。来年はこのeトロフィ・シリーズは終わってしまうけど、この機会を与えてくれた関係者の皆様には、多大な感謝を申し上げたいと思いますありがとうございました」とコメントを残している。
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