ハンドリング性能は、安全性、クルマの安定性、ドライビングプレジャーのいずれにとっても欠かせない。ここではレース経験豊富で走り好きの山田弘樹氏がワインディングでハンドリングが楽しいモデルを語る。
RRのネガティブを全く感じさせない911
【比較試乗】このサイズだからこそ味わえる魅力とは? コンパクトなボディに機能が凝縮「BMW・X1 vs アウディ・Q3 vs メルセデスベンツ・GLA」
ハンドリングが楽しいマシン。人それぞれに好みはあろうが、筆者が一番大切にしているのは、ドライバーとの一体感だ。
ブレーキを踏んだ時の、制動Gの立ち上がり方。そこからハンドルを切り込んだときの曲がり方が、自分の感覚や予想とずれないこと。そしてターンミドルでの挙動が、体に伝わってくること。ワインディングだとそれは試し難いが、たとえそこからオーバーステアに転じても、スロットルワークでこれを心地良くバランスできること。
ドイツ車ラブのル・ボランで言えばその最右翼は、ポルシェ911だろう。911は確かにリアエンジン・リアドライブだが、その弱点があるからこそシャシーと制御技術を徹底的に磨き上げ、恐ろしく完成度の高いスポーツカーへと成長した。その中でも現行モデルでイチオシは911カレラTだ。歴代最高と思える992ボディに、しなやかな足周りの組み合わせ。拍子抜けするほど軽やかだが確実に路面からのフィードバックを伝えるステアリングと、最高品質のブレーキ。そして6速MTを駆使して、358psのフラット6ターボを操る。その全開率の高さ、RRのネガティブを全く感じさせない動きは感動的だ。
究極的な911としてはGT3RSがある。フロントをダブルウイッシュボーンとすることで得た、素晴らしい操舵フィール。これを2WAYダンパーを駆使してセッティングし、ボタンひとつでハイ/ローダウンフォース仕様が選べるその走りは、もはやロードゴーイングレーシングカーだ。
そして今回は、そんなポルシェに負けないくらい個性的で、素晴らしいハンドリングをもったクルマたちを4台選抜してみた。どれも自信をもってお勧めできる楽しいハンドリングをもったクルマたちばかりだから、次の愛車選びに役立ててくれたら幸いだ。
要となるのはジョルジオプラットフォーム
マセラティのミドルSUVであるグレカーレは、素晴らしいハンドリングを持ったSUVだ。イタリアン・プレミアムなキャラクターからエレガントな外観やインテリアばかりが強調されがちだが、走りが驚くほど上質なのである。
その要となっているのは、ステランティスが多額な資本投下の元に作り上げた「ジョルジオプラットフォーム」。同じくアルファ・ロメオのステルヴィオもこれをベースに切れ味鋭い走りで登場時は話題をさらったが、グレカーレはそこに輪を掛けて上質さまでをも備えた。切り始めからしっとりと路面を捉えるそのステアフィールはたとえ飛ばさずとも質感豊かであり、かつハイスピード領域においては正確な操作を可能とする。
一番ホットな走りを披露するのは、もちろんハイエンドモデルの「トロフェオ」だ。MC20にも搭載される3LV6は、ややデチューンされたとはいえ560psものパワーを発揮。その弾けるサウンドとパワーを前6/後4ポットのキャリパーを持つ大径ブレーキでがっつり受け止めてターンインすると、後輪駆動ベースの4WDがしっかりとコーナーでグリップを確保してくれる。唯一残念なのは電子制御式LSDなのか、サーキットのようなハイスピード領域だとターンインの挙動がギクシャクしてしまうこと。その分日常領域はとても曲がりやすいのだが。
対して300psの2L直列4気筒ターボにマイルドハイブリッドを搭載した「GT」は、終始そのハンドリングが穏やかでありピュア。そしてより充実した走りとハンドリング性能を求めるなら、出力を330psに上げて、標準で可変ダンパーを備える「モデナ」がお勧めだ。モデナはオプションでエアサスやLSDを選べるから、よりそのハンドリング性能と質感にこだわれる。グレカーレは、なかなかに奥が深いのだ。
MASERATI GRECALE TROFEO
X1は飛び抜けて走りの質が高い!
使い勝手や広さ、そして流行を考えるとSUVが欲しいんだけど、やっぱり走りの楽しさは諦めきれない。だから買うならハッチバックか、少なくともそのワゴンタイプか。そんな風に考えているならぜひとも、X1を試して欲しい。現代のSUVはオンロード性能に優れていて、走りが良くて当たり前というイメージも定着しているけれど、その中でもX1は飛び抜けて走りの質が高い。
走らせてまず感じるのは、ごっつい骨太感。ボディがガッシリとしているから、操作系のタッチやフィーリングが明確で、街中を走っている領域でもその素性を推し量ることはできるけれど、スピードレンジを高めるほどにそのボディワークの良さが、体に染みこんでくる。ブレーキを踏み込んでフロントに荷重を伝えたときの踏ん張り感。そこからのリリースに対する素直さ。ターンして行くときの、高い重心を支えながらも滑らかにロールスピードを制御する足さばきの秀逸さ。筆者はこれをクローズドコースで走らせる機会に恵まれたが、Mパフォーマンスモデルに限らず走りは本物だった。
日本仕様の駆動方式はxDriveのみ。ラインナップは2Lディーゼルターボ(150ps/360Nm)のマイルドハイブリッド「20d」と、2Lガソリンターボ(204ps/300Nm)の「20i」、そして新たに317ps/400Nmの高出力マイルドハイブリッドモデル「M35i」が加わった。トルクを取るならディーゼルターボ、軽さとパワーのバランスはガソリン、走りに特化するならMモデルもしくはMスポーツというのはBMW定番の選び方だが、どのモデルも基礎となるボディの良さは同じで、そここそが味わうべきポイント。エントリーモデルで604万円~という値付けは非常に高価だが、そこにはBMWの走りの良さが凝縮されている。
電動パワステの改良で運転の楽しさが倍増
ハンドリングカーの世界選抜、日本代表としてぜひとも紹介したいのが、先日大幅改良を受けたロードスターだ。マツダは常に商品改良を細かく繰り返すメーカーで、ロードスターも磨き上げられるたびに「これぞ決定版」という評価を得てきたが、時代の流れを読めば今度こそこれが決定版。もしアナタが購入を迷い続けてきたのであれば、遂に手に入れるべきタイミングが来たと背中を押したい。
その決め手となるのは、一気に洗練された電動パワステ(EPS)のステアフィールだ。システム的にはラックのフリクションを低減し、モーターを刷新。さらに今回からマツダ開発陣がその制御を自らプログラミングしたことで、これが劇的に良くなった。これまでのEPSは微少舵角の手応えが曖昧で、コーナーに対してグリップを探りながら入って行くイメージだった。そこからいきなりグラッとロールが始まる印象だったのが、今度は最初から路面をつかむ感触が豊かになった。だから自信をもってターンインできるようになり、運転の楽しさが倍増した。
さらに「S」以外のグレードには減速側の作用角を高めたアシンメトリックLSDを装備。高G旋回中のリフトを抑えるKPC(キネマティック・ポスチャー・コントロール)と併せて、ブレーキングからターンインにかけてのオーバーステア傾向が穏やかになった。また横滑り防止装置にDSC-TRACKが追加されてタイヤの滑り出しに対する許容値が広がり、アマチュアでもサーキットで、ドライビングを安全かつ段階的に学ぶことが可能になったのだ。
電子プラットフォームの刷新を含む改良でその車重は一番軽量「S」でも1010kgとなったが、走りには一層の磨きが掛かった。日本が世界に誇るライトウエイトスポーツカー、ロードスターを手に入れるなら絶対に今である。
「R」はレーシーな雰囲気が存分に楽しめる
希代のハンドリングマシンとして多くのエンスージアストから絶賛されたアルピーヌA110。そのガソリン時代最後のエボリューションモデルとして生み出された「A110R」を、最後に究極の一台としてご紹介しよう。
アルピーヌいわく、“R”の意味はありがちなレーシングではなく、「過激な」や「徹底した」を意味する“ラディカル”。しかしその操縦性は、過激どころか驚くほどにピュアなのが、A110R最大の特徴だと言える。
では何が過激なのかといえば、それはピュアスポーツを追いかける姿勢だ。奇しくも現状はその最たるアイコンであるカーボンホイールの供給が追いつかないという事態に陥ってはいるものの、カーボン素材を多用したボディワークは見ているだけで刺激的。フロントバンパー下にダウンフォースを高めるスプリッターを装着しながら、専用パーツでバンパー開口部を狭めて空気抵抗を約5%低減し、大型サイドステップを装着することで床下面積を広げながらボディ剛性をアップしながら、大型リアディフューザーでフロアの空気を排出。A110Sで設定されたスワンネックタイプのウイングを後方マウントして車高を20mm低めることで、標準車に対してフロント+30kg、リア+110kgものダウンフォースを実現。そしてその最高速度は、カーボンホイールを装着しての数値だとは思うが、1.8L直列4気筒ターボ(300ps)で285km/ hを得ている。
そんなA110Rの走りは、横置きミッドシップの重心高がまったく気にならないほどオンザレール。かつレーシングダンパーを装着するにもかかわらず、車高を上げて減衰力をソフトにすることで、驚くほど良好な乗り心地が得られている。タイヤは浅溝ゆえ雨量に気をつける必要はあるが、ワインディングではそのレーシーな雰囲気が、存分に楽しめる。
トラックでの懐深さも絶品で、A110のパワーを全力でたたきつけることが可能だ。その操縦性は同じく超安定志向だが、ZF製車高調整ダンパーを軸にセットを合わせて行けば、より切れ味鋭いバランスが求められるだろう。
正直標準モデルの方が、より低いグリップ限界の中でそのコントロールを楽しめるだろう。しかしA110の素性を研ぎ澄ませた「R」の走りは、そこにレーシングな魅力が加わる。物価の上昇からカーボンホイールレスの「チュリニ」でも1550万円となってしまったが、ケイマンGT4 RSと比べれば遙かに現実的で、いまやそのパワーに頼らないソリッドな走りは、他のメイクスでは得られない貴重なものとなった。A110Rはまさに過激で純粋な、最後のクラブレーサーだと言える。
【SPECIFICATION】MASERATI GRECALE TROFEO
■車両本体価格(税込)=16,830,000円
■全長×全幅×全高=4859×1979×1659mm
■ホイールベース=2901mm
■車両重量=2027kg
■エンジン種類/排気量=V6DOHC24V+ツインターボ/3000cc
■最高出力=530ps(390kW)/6500rpm
■最大トルク=620Nm(63.2kg-m)/3000-5500rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション=前:ストラット、後:Wウイッシュボーン
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=255/40R21:295/35R21
問い合わせ先=マセラティジャパン TEL0120-965-120
【SPECIFICATION】BMW X1 xDrive20d M SPORT
■車両本体価格(税込)=6,200,000円
■全長×全幅×全高=4500×1835×1625mm
■ホイールベース=2690mm
■車両重量=1740kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ/1995cc
■最高出力=150ps(110kW)/4000rpm
■最大トルク=360Nm(36.7kg-m)/1500-2500rpm
■トランスミッション=7速DCT
■サスペンション=前:ストラット、後:マルチリンク
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤサイズ=前後:225/55R18
問い合わせ先=BMWジャパン TEL0120-269-437
【SPECIFICATION】MAZDA ROADSTER S SPECIAL PACKAGE
■車両本体価格(税込)=3,087,700円
■全長×全幅×全高=3915×1735×1235mm
■ホイールベース=2310mm
■車両重量=1020kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V/1496cc
■最高出力=136ps(100kW)/7000rpm
■最大トルク=152Nm(15.5kg-m)/4500rpm
■トランスミッション=6速MT
■サスペンション=前:Wウイッシュボーン、後:マルチリンク
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤサイズ=前後:195/50R16
問い合わせ先=マツダ TEL0120-386-919
【SPECIFICATION】ALPINE A110R
■全長×全幅×全高=4255×1800×1240mm
■ホイールベース=2420mm
■車両重量=1090kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ/1798cc
■最高出力=300ps(221kW)/6300rpm
■最大トルク=340Nm(34.6kg-m)/2400rpm
■トランスミッション=7速DCT
■サスペンション=前後:Wウイッシュボーン
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤサイズ=前:215/40R18、後:245/40R18
■車両本体価格(税込)=15,000,000円
問い合わせ先=アルピーヌ・ジャポン TEL0800-1238-1100
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