メルセデス〝AMG〟とアウディ〝RS〟、これまで数々の高性能マシーンを提供してきた両ブランド。電動化という時代の流れの中で2台の最新ハイパフォーマンスモデルからジャーマンスポーツモデルのいまを見る。(Motor Magazine 2024年3月号より)
メルセデスAMGとアウディRSという方向性の異なるハイパフォーマンスモデル
考えて見ればみるほど、メルセデスAMG C63 S Eパフォーマンス(以下C63 S)とアウディRS6アバント パフォーマンス(以下RS6)の比較テストは興味深い企画だと思う。
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なぜならば、それは今後のスポーツモデルの方向性を指し示すと同時に、メルセデスAMGとアウディRSというハイパフォーマンスブランドの違いを再確認することにもつながるからだ。
まず、C63 Sからして、メルセデスAMGの歴史に残るモデルといえる。
同ブランドの最高峰として長らく君臨してきた“63”といえば、V8の代名詞というべきシリーズ。しかし、最新のC63 Sでは、V8エンジンに換えて排気量2Lの4気筒エンジンを搭載したのである。
地球温暖化問題が注目されている現在、エンジンのダウンサイジング自体いまさら珍しくもないが、メルセデスAMGが(一部モデルとはいえ)V8エンジンを取り下げるとなると、これは大ごとである。
なにしろ、AMGが世界的に注目されたのは、ハンス・ヴェルナー・アウフレヒトとエバハルト・メルヒャーのふたりが手がけたメルセデス・ベンツ300SELが、1971年スパ24時間でクラス優勝を果たしたことがきっかけ。
そこに積まれていたのが排気量6.8Lに拡大されたV8エンジンだったので、これまでAMGとV8エンジンは切っても切れないほど深い関係にあったのだ。
C63 Sで興味深いのは、フロントに搭載されたエンジンが直4になっただけでなく、リアに最高出力204psのパワフルなモーターを搭載し、両者の出力を足し合わせたうえで4輪に配分する4WDとした点にもある。
しかも、私が2022年に参加した国際試乗会では、従来のC63とは比べものにならないほど乗り心地が快適になったうえに静粛性も向上。ハンドリングも、前後重量バランスの改善と4WD化により、かつてないほどレスポンスが鋭く、良好なスタビリティに仕上がっていたのである。
ハイパフォーマンスとスタビリティ、万能性を手に入れたRS
4WD化によってスタビリティが改善され、乗り心地も快適なハイパフォーマンスモデルといえば、これまではアウディのRSモデルが代表例だった。
なにしろ、その元祖にあたるRS2アバントは、フルタイム4WDであるのはもちろんのこと、現在のA4アバントに相当する80アバントをベースに開発されたほか、アウディの特徴的な直列5気筒エンジンはポルシェの手で315psにまでパワーアップされていた。
つまり、アバント=ワゴンの実用性・快適性とポルシェ由来のパフォーマンスを1台に合体させたのがRS2であり、そこにフルタイム4WD=クワトロが組み合わせることで、それまでのハイパフォーマンスモデルには期待できなかったスタビリティと万能性を手に入れた点にRSモデルの真骨頂はあった。
最新のRS6 アバント ハイパフォーマンスは、既存のRS6をさらに高性能化したモデルで、48Vマイルドハイブリッド搭載の4L V8ツインターボエンジンは従来比+30 psの630psを発揮。0→100km/h加速を3.4秒でクリアする瞬足の持ち主だ。
なお、これまで日本で販売されてきたRS6は、ドイツ本国ではオプションのメカニカルなスポーツサスペンションしか設定されていなかったため、「乗り心地はハード」というイメージがつきまとったが、2020年発売の現行型よりエアサスペンションも選べるようになり、RSモデルらしい快適な乗り味が楽しめるようになったことを付け加えておく。
電動化がもたらしたAMGキャラクターの変化
まず試乗したのはC63 S Eパフォーマンス。
スペインの国際試乗会で体験したとおり、従来型に比べると足まわりははるかにしなやかで快適。ゴツゴツ感も明らかに軽くなっている。車内のノイズレベルもはっきりと抑えられていて、私好み。
なぜ、新型はこれほどまでにスパルタンなイメージが影を潜め、より洗練されたのだろうか? 国際試乗会の会場でインタビューしたメルセデスAMGのドライビングダイナミクス担当者は、私にこんな話を聞かせてくれた。
「ハイブリッドを始めとするさまざまなハイテク装備を搭載できることが決まったとき、それまでのAMGの価値観を大きく改めることを社内で議論しました」
つまり、直4エンジン+ハイブリッドのパワートレーンは、メルセデスAMGのキャラクターまで大きく変革するきっかけになったというのである。
一方で、さまざまな新機軸はAMGらしいスポーティなパフォーマンスの強化にも役立てられていた。たとえば、スロットルレスポンスはハイブリッドシステムを活用することでさらに鋭くなり、それこそアクセルペダルを1mm踏み込んだだけでもグンと前に押し出されるような加速感が味わえる。
ステアリングレスポンスも相変わらずシャープだが、中速コーナーの途中でわざとアクセルペダルを強く踏み込めば、これまでのようにトラクションが失われるのではなく、むしろハンドルを切った方向に強く引っ張られるかのようにして加速していく。
この辺はハイブリッドシステムや4輪操舵、さらにはリアの電子制御式リミテッドスリップデフなどが総動員された結果だろう。
しなやかな足まわりが印象的なRS6
続いてRS6に乗り換えると、あれほど感心していたC63 Sよりもさらに足まわりがしなやかなことに気づいて、あ然とした。
試乗車がエアサスペンション仕様車(C63 Sはメカニカルスプリング仕様のみ)だったせいもあるだろうが、直前まで乗っていたライバルのゴツゴツ感が妙に克明に思い出されて「メルセデスAMGもずいぶん洗練されたと思ったけれど、RS6と比べるとはるかにレーシングカーに近い」と思い直したほどである。
ただし、RS6の足まわりはショックの吸収が巧みなだけに、ハンドルをかすかに切り始めた瞬間の反応はC63 Sには及ばないし、ハードコーナリング時に電子デバイスが介入して積極的にクルマを曲げようとする作用も認められない。RS6はいつでも同じように、切れば切った分だけ素直に曲がってくれる。
しかも、初期応答の鋭敏さがC63 Sに比べてわずかに劣っているだけで、RS6のハンドリングだって相当にスポーティだ。それどころか、ハンドルを操舵する速度によってノーズの向きが変わる勢いが変化するC63 Sと異なり、RS6は反応が一定している点が好ましいともいえる。
軽快でシャープなC63 Sと重厚で快適なRS6
パワートレーンのトルクの立ち上がり方も、C63 SとRS6とではずいぶん異なる。とにかく瞬発力が鋭く、スロットル操作に俊敏に反応するのはC63 Sのほう。
一方、RS6の初期反応が鈍いとはいえないけれど、C63 Sに比べておっとりしているのは間違いない。そのままアクセルペダルを踏み続けると、やがてRS6は最高630psの超弩級パワーをモリモリと発揮し始めてその迫力に圧倒されるが、反応の仕方が常に一定なのでやがて慣れるはず。その意味では扱いやすいエンジンといえなくもない。
C63 SもRS6も、パワフルなパワートレーンと4WDの組み合わせで、現代的なスポーツドライビングが楽しめるのは確か。ただし、C63 Sのほうがより軽快でシャープなのに対し、RS6はより重厚で快適性が高いというのが私の評価である。
そして、いずれも確実に洗練度を高めてはいるが、メルセデスAMGはやはりレース直系のクルマ作りであるのに対し、アウディのRSモデルは万能性や快適性にも配慮しているという伝統の違いが息づいていた。これこそ、両ブランドの個性というべきものだろう。(文:大谷達也/写真:佐藤正巳、永元秀和・撮影協力:河口湖ステラシアター)
メルセデスAMG C63S Eパフォーマンス 主要諸元
●全長:4835mm
●全幅:1900mm
●全高:1455mm
●ホイールベース:2875mm
●車両重量:2130kg
●エンジン:直4DOHC電動排気ターボ
●総排気量:1991cc
●最高出力:350kW(476ps)/6750rpm
●最大トルク:545Nm(55.5kgm)/5250-5500rpm
●WLTCモード燃費:10.2km/L
●CO2排出量:228g/km
●モーター:交流同期電動機
●モーター最高出力:150kW(204ps)/4500-8500rpm
●モーター最大トルク:320Nm/500-4500rpm
●WLTCモード一充電EV走行距離:15km
●駆動方式:4WD
●トランスミッション:9速AT
●タイヤサイズ:フロント 265/35R20・リア 275/35R20
●価格:1660万円
アウディ RS6 アバント パフォーマンス 主要諸元
●全長:4995mm
●全幅:1960mm
●全高:1485mm
●ホイールベース:2925mm
●車両重量:2200kg
●エンジン:V8DOHCツインターボ+モーター
●総排気量:3996cc
●最高出力:463kW(630ps)/6000rpm
●最大トルク:850Nm(86.7kgm)/2300-4500rpm
●WLTCモード燃費:8.2km/L
●CO2排出量:83g/km
●駆動方式:4WD
●トランスミッション:8速AT
●タイヤサイズ:フロント 275/35R21・リア 275/35R21
●価格:1910万円
[ アルバム : メルセデスAMG C63S Eパフォーマンス&アウディ RS6 アバント パフォーマンス はオリジナルサイトでご覧ください ]
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