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電動化推進で高額に!? 生活必需品としての軽自動車を守るために必要な戦略

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電動化推進で高額に!? 生活必需品としての軽自動車を守るために必要な戦略

 いずれ、新車をすべてハイブリッドかEVにする…と宣言した日本政府と東京都。もちろん環境性能は大切だけど、それって本当に可能なのだろうか。

 そりゃあ新車価格1500万円の高級SUVにモーターを搭載してハイブリッド車にするのは簡単だろうけど、新車価格100万円以下の軽自動車を値上げゼロでハイブリッド化する…なんてことは出来るのか?

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 出来ないとしたら困るのは、そうした軽自動車を生活必需品とする、地方在住の高齢者では??

 生活を支えてきた軽自動車は高騰化するしかないのか???

 以下、政策として進められる電動化戦略からこぼれ落ちるかもしれない盲点について、渡辺陽一郎氏に伺いました。

文/渡辺陽一郎 写真/AdobeStock、ホンダ、スズキ、ダイハツ、軽販連

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■日本における「軽自動車」は生活必需品

 2020年度(2020年4月から2021年3月)に日本国内で新車として売られたクルマのなかで、38%を軽自動車が占めた。軽自動車はいま最も販売台数の多いカテゴリーだ。

 そして軽自動車の世帯当たり普及率を都道府県別に見ると、1位:長野県、2位:鳥取県、3位:佐賀県、4位:島根県、5位:福井県、6位:山形県と続く。上記の6県では、10世帯当たりの軽自動車普及率が10台以上になる(つまり「一家に一台以上の割合で軽自動車を所有している」という状況)。

全国軽自動車協会連合会が発表した、都道府県別世帯たりの軽自動車保有台数

 これらの地域では、日常的な移動のためにクルマが必要で、1世帯が複数の車両を所有することも多い。

 仮に4台のクルマを使い、そのすべてが1.2~1.5Lエンジンを搭載するコンパクトカーであれば、1年間の自動車税だけで合計約14万円に達する(2019年9月30日までに購入した場合)。

 それが軽自動車であれば、4台でも4万円少々で済む。従って軽自動車は、公共の交通機関を使いにくく、1人に1台の割合で所有される地域で普及している。

 また都道府県別の高齢化率を見ると、前述の鳥取県、島根県、山形県などは、65歳以上の高齢化率が30%を超えている。軽自動車の世帯当たり普及率の高い地域ほど、人口に占める高齢者の比率も増えるわけだ。

 逆に東京都は軽自動車の普及率が最も低く、10世帯当たり1台を少し超える程度だ。公共の交通機関を利用しやすいから、軽自動車は普及していない。加えて高齢化率も23%と低い。

■高齢者にとって軽自動車は必要不可欠なライフライン

 以上のデータに基づくと、軽自動車普及率の高い地域では高齢化も進み、お年寄りが軽自動車を使って日常的な通院や買い物をしている。

 軽自動車は生活必需品であり、ライフラインだ。

 こういった切実な事情は、軽自動車の普及率と高齢化率の低い東京で生活する政治家や官僚からは見えにくい。

地方で生活している高齢者にとって軽自動車は大切なライフラインであり、政府はこういった切実な事情を考慮すべきだ(ka21@AdobeStock)

 なお切実な状況で使われる軽自動車は、価格帯が160~180万円に達する新型のN-BOXやタントとは違う。古いワゴンRやムーヴが使われる。

 つまり軽自動車の性格は福祉車両に近い。税金だけでなく、価格も安く抑える必要がある。

 ところが政府は、2035年までに、新車として売られる乗用車を電動化する目標を掲げた。電動化にはハイブリッドやプラグインハイブリッドも含まれるが、モーターを使わない純粋なエンジン車は廃止される。

 また、小池百合子東京都知事は、電動化(純ガソリン車の新車販売禁止)を2030年までに、前倒しで達成する方針を示した。政府が2035年までに電動化するなら、東京都は2030年に達成して一歩先を行く発想だ。

 しかしこれは浅知恵だ。仮に神奈川県、千葉県、埼玉県などが2035年の実施で、東京都だけが2030年になると、2030~2035年には近隣の地域とは販売できる車種が異なってしまう。東京の政策だけが異なるために、ハイブリッドの生産規模や流通台数が中途半端に増えたり、ノーマルエンジンは減ることになる。

 その結果、商品の開発、生産、流通に負担が掛かり、なおかつユーザーから見ても分かりにくい制度になる。足並みをそろえないと、さまざまな迷惑が生じて、コストもムダに高めてしまう。

 小池東京都知事は、ユーザー、自動車販売店、自動車メーカーなどの意見を聞くべきだ。簡単な調査を行えば、このような浅知恵が生まれるのも防げる。

■数年後には電動化と燃費規制の実施で軽自動車の価格が高くなる..⁉

 また政府や自治体の方針のほかに、2030年度燃費基準に基づく燃費規制も実施される。燃費基準の達成度合いはCAFE(企業別平均燃費方式)で判断され、この仕組みは2020年度と同じだが、基準となる燃費数値は大幅に引き上げられる。

 2020年度は、車両重量が741~855kgの車両は、JC08モード燃費が24.5km/Lという具合に車両重量の枠を定めて対応する燃費数値を決めていた。それが2030年度はシームレスになり、車両重量が741kgと855kgでは、対応する燃費数値も異なる。

 そしてN-BOXで売れ筋になる2WD・カスタムLの場合、車両重量は910kgで、WLTCモード燃費は21.2km/L、JC08モード燃費は27km/Lだ。910kgに相当する2020年度燃費基準はJC08モード燃費で23.7km/Lだから、27km/LのN-BOX・2WD・カスタムLは、余裕を持ってクリアできた。

ホンダN-BOX。日本で一番売れてる軽自動車。ただし地方の高齢世帯ではこうしたスーパーハイトワゴンはあまり見ない

 ところが2030年度燃費基準では、910kgに相当する燃費基準値は、WLTCモード燃費で27.8km/L前後だ。N-BOX・2WD・カスタムLのWLTCモード燃費は21.2km/Lだから、燃費数値を31%向上させねばならない。

 現時点で軽自動車に使われる電動技術には、マイルドハイブリッドがある。

 モーター機能付き発電機と小さなリチウムイオン電池を搭載して、前者が減速時の発電、アイドリングストップ後の再始動、エンジン駆動の支援を行う。

 マイルドハイブリッドの正味価格は約9万円と安いが、ノーマルエンジンと比べた時の燃費向上率も3~6%と小さい。前述の31%を向上させるには、本格的なストロングハイブリッドが必要だ。

 ただしストロングハイブリッドは価格が高い。ノーマルエンジンとの差額を小さく抑えた車種としてフィットのe:HEVがあるが、この価格差はフィット「ホーム」同士の比較で約35万円だ。N-BOX・2WD・カスタムLの価格は176万9900円だから、ストロングハイブリッドになって35万円高まれば約212万円に達する。

ホンダフィット(写真はeHEV HOME(FF) オプション装着車)

 N-BOX・2WD・カスタムLがストロングハイブリッドになると、WLTCモード燃費も約35%向上して28.5km/Lくらいに達するが、価格も35万円高まると、軽自動車として成立させるのは難しい。

 そして新車価格の上昇は中古車価格も押し上げるから、数年後には、年金で生活する高齢者のライフラインや生活権を奪う心配も生じる。

■価格を始めとして今後軽自動車はさまざまな工夫が求められる

 2020年度/2030年度燃費基準は、前述のCAFE方式だから、すべての車種が燃費基準値をクリアする必要はない。燃費基準値を大幅に上回る優れたクルマを積極的に販売すれば、下回る車種をおぎなえる。

 しかし軽自動車は販売台数が多く、2020年度には国内で新車として売られたクルマの38%を占めたから、軽自動車の多くの車種で燃費基準もクリアせねばならない。

 そうなるとさまざまな工夫が求められる。

 最も大切なのはもちろん「価格」だ。前述のN-BOX・2WD・カスタムLは176万9900円で、この金額が実質的に軽乗用車の上限になる。

 それが同じN-BOXでもカスタムではなく、標準ボディの2WD・Lなら、価格は155万9800円だ。標準ボディはカスタムに比べて約21万円安い。

 従って標準ボディの外観をカッコ良くデザインして、そこに20万円の価格上昇で機能をシンプルにしたストロングハイブリッドを搭載すれば、軽自動車の商品力をほとんど損なわずに2030年度燃費基準をクリアできる。

 そのためにはエンジン排気量を見直すことも考えたい。軽自動車の開発者は「排気量を800cc前後に拡大できれば、エンジンの負荷が減り、現在の660ccに比べて燃費の向上が可能になる」というからだ。

 軽自動車の排気量拡大で注意したいのは、増税の心配が伴うことだ。

軽自動車が排気量拡大するとそれに伴って自動車税が増える心配が考えられる(眞@AdobeStock)

 仮に排気量が800ccに拡大された代わりに、軽自動車税も1.2倍の年額1万3000円になると、高齢者のライフラインや生活権を守ることはできない。本末転倒になってしまう。

 つまり軽自動車に適したハイブリッドを20万円以下の価格上昇で設定して、必要に応じて増税はせずに排気量の見直しを行い、燃費規制に適合させることが不可欠だ。

 それでも20万円の上乗せでストロングハイブリッドを搭載するのは難しい。35万円に比べると、40%の大幅値下げになるからだ。

■軽自動車は環境性能よりも大切なライフライン!

 そこで業務提携の(今以上の)活用が考えられる。今はダイハツがトヨタの完全子会社になり、スズキもトヨタと提携している。日産と三菱は、OEM車を通じてスズキと関係がある。

 そうなると、例えばダイハツが軽自動車用のストロングハイブリッドを開発/生産して、すべての軽自動車メーカーに供給することで、コストを抑える方法が考えられる。商品の個性化は守りながら、必要に応じて共通化を行い、低コストで燃費を向上させるわけだ。

ダイハツミライース(写真はイースG SA III 2WD)

スズキアルト (写真はS アップグレードパッケージ装着車 S アップグレードパッケージ装着車)

 これらの対策を施しても燃費基準の達成が困難な時は、軽自動車には別枠を適用することも考えたい。

 もともと軽自動車は、ボディサイズやエンジン排気量を小さく抑える代わりに、税額を安くすることで、さまざまな人達がクルマを使えるようにした商品であるからだ。

 軽自動車は街中の移動手段だから、小型/普通車に比べると1年間の走行距離は短く、環境負荷も小さい。軽自動車の規格自体、環境性能が優れているから、小型/普通車と同じ2030年度燃費基準を当てはめる必要はないという見方もできる。

 メーカーの商品開発や販売促進も見直すべきだ。今は国内で売られる新車の38%が軽自動車だから、付加価値を重視して価格も上昇した。

 今後はホンダであればN-BOXから割安なN-WGNに、スズキもスペーシアからワゴンRに主力商品を変更することで、燃費向上のコストを捻出したい。それと併せて、軽自動車の偏った売れ方を是正することも考えるべきだ。

スズキワゴンR(写真はHYBRID FX 全方位モニター用カメラパッケージ装着車 フェニックスレッドパール)

 軽自動車のライフラインの機能は、絶対に守らねばならない。それは生活権に係わるので、環境性能を向上させることよりも遥かに大切だ。

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みんなのコメント

6件
  • 車が減れば、自然と温室効果ガスは減るでしょう。副作用として、経済もダダ下がりに。
  • またどうせ走る棺桶とか貧乏人の車とか軽の悪口があるだろうけど、結局は誤った使い方をするからそうなる
    普通車は安全とかいう人もいるが、普通車も誤った使い方をすれば最悪死亡なんだよね
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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