1980年代から1990年代にかけて販売された日本車のスポーツカーは、JDM(Japanese Domestic Market)と呼ばれ、北米を中心にロシアや中国、東南アジア、中東、欧州と世界的な人気になっているという。その人気とともに大きな問題となっているのがそうしたJDMをターゲットにした盗難である。
つい先日も目の前で愛車のRX-7が盗難される様子を動画で撮影していた、RX-7の盗難事件が記憶に新しい。
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そこで本企画では、バラバラにされアメリカでパーツとして販売されている実態など、自動車盗難の実態を徹底調査! コロナ禍で国産旧車盗難は増えたのか? 盗まれないためにはどうすればいいのか、レポートしていこう。
文/加藤久美子
写真/加藤久美子、RX-7(FD3S型)オーナー
【画像ギャラリー】盗難注意 !! ALERT !! 狙われている国産旧車を写真でチェックして愛車を守ろう!!
■「JDM」として日本製旧車スポーツカーが世界的人気に
この先R32、R33、R34の第2世代GT-Rを手に入れるのはかなり難しくなることは間違いない。R34GT-Rも25年ルールが適用される前からすでに高騰
1993年5月に登場した後、平成12年度自動車排出ガス規制をクリアできず、惜しまれつつも2002年8月に生産終了。2001年に公開された映画『ワイルド・スピード』で主人公のブライアン・オコナーがスープラ・エアロトップ仕様に乗ったことで一気に有名になり中古市場でも高騰。現在、中古車流通台数は36台、中古車価格帯は240万~1080万円
「JDM」(Japanese Domestic Market)とは主に1980~1990年代に発売された日本製の右ハンドルスポーツカーのことで、スカイラインGT-R、ランエボ、シビックタイプR、70/80スープラ、インプレッサなどの車種を指す。
アメリカには輸入されなかった歴代GT-R(R35を除く)はもちろん、アメリカ仕様として正規輸入されたモデルであっても本物のJDMとして右ハンドル車が高い価値を生んでいるのだ。北米を中心に、ロシアや中国、東南アジア、中東、欧州…と今やJDM人気は世界的なものになっている。
JDMについて改めて説明しておこう。
アメリカにおいてJDMというと「25年ルール」でアメリカへの輸入、一般ユーザーへの販売、公道を走る一般車両として登録することなどが「解禁」となったクルマのことを指す。
アメリカには日本の保安基準に相当するFMVSSという保安基準があり、展示用や自動車メーカーの研究用など一部の用途を除いて、右ハンドル車の輸入は禁止されているが製造(年月)から25年経過すればそれも解禁となる。
2020年にはR33型スカイラインGT-R(1995年~1998年)の初期年式にも25年ルールが適用され、1年前の中古車の価格帯は約250万~約1400万円だったが、現在は約378万~約1699万円と高騰
日本からの輸入車だけではなく世界各国のクルマが対象だ。25年ルールとともに、2021年で解禁となる排ガスに関するEPAという規則も含まれる。
この25年ルールで解禁になった日本車のことを総称して「JDM」と呼ぶが、それ以外に本来のJDM(日本国内市場向け)の意味もある。
・右ハンドル
・オレンジ色のウィンカー
・サイドバイザー
・水中花シフトノブ
・小径ハンドル
・深リムホイール
・赤い斜線入りの仮ナンバー
・漢字入りナンバープレート
などなど、日本独自だったり、日本発祥だったりする装備や仕様などもJDMと呼ばれるのである。JDMの人気に火が付いたのは公開延期が続いて8月6日にやっと最新作(9作目)が公開される映画「ワイルド・スピード」(原題:Fast and Furious)シリーズによるところが大きい。
ワイルド・スピードの1~4作目は特に多くの日本車が登場しており、映画の人気とともに日本製スポーツカーのカッコよさを(日本人を含めて)世界中に知らしめることになった。
■盗難された国産旧車がバラバラにされてアメリカの専門店で発見!
J-Spec Auto Sports Inc.では切断されたフロント部分だけを「フロントクリップ」として販売されていた
2代目インテグラタイプRの「フロントクリップ」
2代目インテグラタイプRの「フロントクリップ」部分の裏側。実に痛々しい
JDM人気に伴って近年、大きな問題となっているのが国産旧車スポーツカーの盗難である。外国人を中心とした窃盗団による国産旧車の盗難が増え始めたのはR32スカイラインGT-Rが「解禁」となる2014年以降をにらんだ2010年代前半と言われており、この1~2年は特に急増している。
しかし、実はコロナ禍にあって盗難が激減した時期があった。2020年6月頃から約半年間、自動車盗難情報局に登録される旧車盗難の件数が大幅に減ったのである。
理由としては、
・コロナ禍で外国人窃盗団の活動がおとなしくなった。入国できなくなった
・コロナ禍で外国へのコンテナ船が止まってしまった(船会社に確認したところ、アメリカ向けのコンテナだけはほとんど影響を受けずに出航していたそう)
と、感染拡大によって外国との往来がやりにくくなったことが理由としてあったと思われる。しかし理由はこれだけではない。もう一つ、2020年5月末に国産旧車の盗難に絡むとんでもない事実が明るみに出たことも盗難減少に関わっているはずだ。
これは、筆者もいち早く自動車メディアに記事を書き、TBS「あさチャン!」や同「Nスタ」などでも報道されているが、「日本で盗まれた国産旧車スポーツカーがバラバラにされて、米国ヴァージニア州にあるJDM専門店でオンライン販売」という事案である。
盗まれたオーナー自身が自らバラバラにされた愛車の写真を発見し、エンジン番号も一致していた。
その後も続々と、日本から盗まれたことが確実な旧車20台以上がそのサイトで発見された。
Facebookでは、「Expose J-Spec autosports=ジェイスペックの悪事を晒す会」というグループもでき、わずか3-4日でメンバーは2000人を突破(現在は3000名)。
メンバーのほとんどはアメリカ人で、「J-Spec Auto Sports Inc.でJDMを購入した。あれは盗品だったのか! 」「J-SpecのオンラインショップでEK9(シビック)のパーツを購入した。詳しく調べたら日本で盗まれたクルマの部品であることが分かったので返品した」という書き込みもあった。
エンジン番号までバッチリ出ている。Mさん所有のEK9のエンジンである
筆者もEK9を盗まれた被害者であるM氏の取材とアシストを兼ねてヴァージニア州にあるJ-Spec Auto Sports Inc.にメールや電話や通訳などを行ってきた。また、地元のヘンリコ警察の自動車窃盗専門刑事のグループとも連絡を取り合っていたのだが、いまだ返還には至っていない。
この事件が発覚した2020年5月末からしばらくは、自動車盗難情報局に登録される旧車の盗難も数か月は激減していたのだ。
■盗まれた国産旧車はどこにいくのか?
2021年7月12日午前1時過ぎ、愛知県中村区烏森町のコインパーキングに停めていたRX-7(FD3S型)を盗まれるのを撮影していた事件があった。翌日には約20km離れた愛知県稲沢市のコインパーキングで発見されるも犯人はまだ捕まっていない(写真提供:RX-7オーナー)
日本で盗まれた旧車は、まず1~2日以内に「ヤード」といわれる解体作業場に持ち込まれる。ヤードは全国に約2000箇所が登録されており、そのうち1/4は千葉県にある。
愛知、千葉、茨城、埼玉の4府県には「ヤード条例」なる自治体の条例があり、2021年3月には違法ヤードが急増する三重県でも県議会でヤード条例案が提出されている。
ヤード条例が導入された県内においては解体施設と輸出事業者の届け出や保管場所への標識の掲示、引き取り記録の保全などを義務付ける。違反した場合は公安委員会が業務停止を命じるほか、懲役などの罰則規定も設ける。
日本で盗難された旧車は即座にナンバーを外されて仮ナンバーや盗んだ別のクルマのナンバーに付け替えられる。そして、違法ヤードに持ち込まれるわけだが、その際、盗んだ場所からヤードまでのルートは証拠が残らないよう事前に調査して「Nシステムがない」ルートを使うことが多い。
そしてヤードに持ち込んで解体作業開始となる。車台番号は削られてバラバラに解体され、その後はコンテナに積んで違法に海外へ持ち出されるパターンが多いのだが、2020年はコロナ禍によりネットオークションなど国内で販売された例も少なくなかった。
2020年秋、筆者が取材をしたケースでは、愛知県で盗まれたA80スープラが翌日に千葉県野田市内で走っていたことが判明し(他車のドラレコ映像)、その後、ヤフオクでパーツとして販売されていた例もあった。
盗難から解体までのスピードは恐ろしく早い。「盗難から2日過ぎると発見の確率が大幅に下がる」と言われているのはそれが理由だ。
実際、つい最近、愛知県名古屋市内で発生した「マツダRX-7(FD)」の盗難事件は、被害者本人によって撮影された動画がTwitterに投稿されたこともあって、多くのクルマ好き、FDオーナー、そしてテレビ局などが知ることとなり報道合戦が繰り広げられた。
目の前で愛車が盗まれていく状況に呆然としながらも、オーナーが絶叫するというセンセーショナルな動画は300万回以上再生されている。
オーナーに話を聞いたところ、「大きな声を出したら諦めて逃げていくんじゃないかと思った。突然のことで何もできなかった。頭が真っ白になって、ただただ叫んで、動画を撮っていた」とのことだった。
しかし、その動画拡散が結局は功を奏したのか。多くのメディアで紹介されたことで、世間の注目が集まったのは確かだろう。FDは盗まれた日の翌日、無事、愛知県稲沢市のコインパーキングで発見されている。
幸い、イグニションキーの損傷はあったものの、外観の損傷等はなく、室内が荒らされたり、消火器撒かれたりということはなかったそうだ。
GTウイングやマフラーが装着されたRX-7(写真提供:RX-7オーナー)
イグニションキーが破壊されていた(写真提供:RX-7オーナー)
■盗まれないためにやるべきこと
国産旧車はいずれも絶版車で日本の宝ともいえるクルマたちだ。25年ルールが適用されて正しい手順でアメリカにわたるのならまだしも、盗まれたあげくにバラバラにされて海外流出など、本当に非道なやり方で海外に持ち出されることには壮絶な憤りと怒りを感じる。海外に持ち出されると、ただでさえ盗難車の捜査に消極的な日本の警察は全くお手上げ状態となる。
盗まれないためにやるべきこととしては以下の通り。
1/車両保険をつける。
通販型自動車保険では難しいが代理店型自動車保険では保管状況など諸々の条件をクリアすれば購入金額と同レベルの車両保険が付けられることもある。また、製造から25年以上経過したクルマ専用の「クラシックカー保険」(チャブ保険)などの選択肢もある。
2/しっかりしたお店でセキュリティシステムを組む
セキュリティシステムは誤報のないものを選ぶ(パンテーラ・ゴルゴなど)のも重要だが、取り付けるお店の選び方も重要。ユーザーに時間をかけてカーセキュリティの仕組みから使い方、注意点などをしっかり説明できるお店を選ぶべし。
開業して16年間、施工した車両が1台も盗難されていない群馬県内にあるセキュリティプロショップでは2時間かけてオーナーに説明をしているという。
3/保管場所
理想的にはシャッター付きのガレージだが、せめてボディカバーをかけるなどして存在を分からせないようするだけでも効果はある。Googleストリートビューのカメラに写らないことも大事。
4/複数の防犯グッズを使用する
旧車窃盗団は狙いを定めた車両はどんな手を使ってでも盗んでいくといわれているが、ハンドルロックやキーロックシステム、キルスイッチ、タイヤロックなどを複数使用することで盗まれるまでの「時間稼ぎ」の効果はある。
5/クルマの周辺に注意を払う
長期間乗らないクルマであっても週に2-3回は少しでも良いので動かすこと。また窃盗団は必ず事前に「下見」に来ているので不審なクルマや周囲の様子を写真に撮っている人などを見かけたら警戒すべし。
愛車を盗まれた旧車オーナーに聞くと「GT-Rの盗難が増えている話は聞くが、まさか自分のクルマが盗難の対象になるとは思わなかった」、「防犯対策は何もしていなかった。考えもなかった」など、「古い国産車である愛車に盗難される価値があるとは思わなかった」という人が多い。
1980~1990年代の国産スポーツカー、とくに25年ルール解禁となった(これから解禁も含む)1990年代半ば前後に製造された車両は特に警戒してほしい。
1991年~1997年9月までのアンフィニRX-7を除いた1997年10月~2002年8月までのFD3Sの中古車はは1年前に比べ約137.5万円の値上がりで、流通台数は133台から68台へと減少、価格帯は約135万~約985万から現在では約288万~約899万円と高騰中
2021年に25年ルールが適用される三菱ランサーエボリューションIV(1996年10月登場)。現在、中古車流通台数は8台、中古車価格帯は160万~320万円
2021年に25年ルールが適用される、初代GC8型インプレッサWRX STiバージョンIII。(1996年9月登場)。現在、中古車流通台数は2台しかなく、中古車価格帯は270万~300万円
25年ルール適用前のR34GT-Rも「ショー&ディスプレイ」対象モデルとして米国輸入可能だという。現在中古車の平均価格は約1725万円。中古車価格帯は約1280万~約3580万円と1000万円以下の中古車はない
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