新型オービスが全国に増える中、警察庁が始めて採用した外国製オービスがスウェーデンのセンシス・ガッツォグループ製だ。一体どんな会社で、日本市場で何を目指すのか。同社の役員がインタビューに応じた。
新型固定式オービス、センシスSSSは、なんと360km/hまで測れる高性能を誇る!
PART4年末年始ドライブ要注意非定置式スピード取り締りポイント大公開!【交通取締情報】
センシス・ガッツォグループ(以後、センシス)の新型オービス、センシスsssが導入されたのは、埼玉県北本市と岐阜県大垣市にある固定式。重さ50kgの本体を高さ3mほどの支柱で支え、向かってくる車両の速度を測定する。点滅するLEDライトで速度超過車両に警告を発し、音楽で歩行者に注意を促す機能もある。
このセンシスSSSはレーダー式で、計測可能な最高速度は時速360km/h。一定速度以上の高速走行車は取り締まれないと言われていたいままでの国産オービスより格段に性能が上だ。警察庁は新型オービスをセンシス社と東京航空計器の2社から採用することに決め、センシス社はレーダー計測式の固定式と可搬式、東京航空計器は新たにレーザー計測式の半可搬式と可搬式を提供することになった。
今回、インタビューに応じてくれたのは、センシス社で政府関係を担当する役員のフィリップ・ウィジャース氏だ。
センシス・ガッツォグループは世界70ヵ国に市場を持つ、ワールドワイドな計測器メーカーだ!
―突然、日本のオービス市場に外国製が入ることになって驚きました。なぜ、進出したのですか?
ウィジャース氏 日本は人口の割に速度自動取り締まり装置が少ない国です。しかし、ネズミ捕りと呼ばれる定置方式の取り締りは人員も必要で効率が良くない。そこで、当社のシステムを採用してもらおうと2年前、警察庁へ売り込みに行ったのです。
―警察に直撃営業とは凄い。しかし、警察庁が前例のない外国製品を採用するのは敷居が高くありませんでしたか?
ウィジャース氏 現在の日本オフィス代表の安川昌昭氏が警察庁の担当課長に「欧州では生活道路での速度取り締まりが増えている」と、新たな視点でプレゼンテーションしました。すると興味を持ってくれ、その後、欧州に視察に来たほどです。それから入札手続きを経て、今回、当社のシステムが警察庁に採用されることになったのです。
―そもそも、センシス・ガッツォグループとはどんな会社ですか?
ウィジャース氏 センシス社は1982年に設立し、スウェーデンの警察向けにレーダーで車速を測るシステムの開発していました。2015年にガッツオ社を買収して今の社名になったのです。ガッツオ社は元レーシングドライバーのガッツォニデス氏が設立し、1958年に世界で初めて路面へセンサーを埋め込むタイプの車速計測システムを作った会社です。それまでサーキットでレーシングカーのスピードは手動で計測していましたが、もっと正確に測れないかと考えて機械式を開発したのです。
―市場はスウェーデンだけですか?
ウィジャース氏 いいえ。世界70か国以上に5万台の取り締り装置を販売しました。世界には取り締り装置を開発する4大メーカーがあります。ドイツのジェノプティック、ビトロネック、オーストラリアのレッドフレックス、そしてセンシス・ガッツォグループです。当社は11か国に拠点を構え、昨年度の年商は約55億円。ストックホルムの株式市場に上場しています。この分野では結構知られた会社で、速度違反で捕まったことをスラングで「ガッツォードされた!」と言う国もあるのですよ。
―「ガッツォードされた」ですか。できれば言う機会がないほうがいいですね。速度取り締まり装置以外にも開発を?
ウィジャース氏 信号無視車両を撮影するシステムや、車の平均速度を測定する装置などがあります。英国、オランダ、オーストリア、フランス、スペインなどの国では最高速度だけではなく、平均走行速度が指定された速度を上回ると違反になるため、こうした装置も作っているのです。最近では米国オクラホマ州で、無保険車のナンバープレートを撮影する装置を受注しました。米国では、弊社が速度違反車を取り締まる、いわゆる民間委託も請け負っています。
国内メーカー製に勝るとも劣らない計測精度&耐久性に自信あり!
―オービスを巡っては裁判も多い。三菱電機も裁判対応が追い付かないこともありオービスから撤退しました。これから大変ですよ。
ウィジャース氏 自慢になりますが、当社は取り締まり装置を巡る裁判では一度も負けたことがありません。測定機に使うレーダーは自社開発で、精度には絶対の自信を持っています!
―確かに、国内のライバル社はレーダーを自社開発していませんからね。それはそうと、裁判になったらその高い精度を証明するために、スウェーデンから技術者が日本まで来るのでしょうか?
ウィジャース氏 日本での弊社の代理店は沖電気が担当しています。警察庁から日本で販売するなら国内の代理店が必要といわれました。もし裁判対応が必要となったら、沖電気さんがやることになるでしょう。
―ライバルの東京航空計器は、新たにレーザー式のオービスを出してきました。オービスを見つけるとドライバーに警報を鳴らすレーダー探知機はあってもレーザー探知機はいまのところありません。警察からしたらたくさん取り締まれるレーザー式オービスを入れたいはず。レーダー式しかない御社は日本市場では不利では?
ウィジャース氏 弊社がレーザー式に手を伸ばさないのは精度の問題です。ある中東の国ではレーザー式を採用しようとしましたが、雨が降ると全然ダメだった。それで結局、当社のレーダー式を採用した経緯があります。それに、今回導入されたレーザー式は測定中にミラーがずっと動いているタイプ。果たして耐久性はどうなのか気になります。
―なるほど。ところでオービスは本当に事故防止に効果的なのでしょうか。単に、警察がドライバーから違反金を集めたいだけでは?
ウィジャース氏 走行速度を1%下げると交通事故によるケガが2%減り、重傷者を3%、死者を4%減らせるというデータがあります。また、時速50km/hで走行している車に人がぶつかると85%が死亡してしまいますが、時速40km/hなら25%、30km/h以内なら10%以下で済みます。つまり、車の平均速度を落とすことは交通安全にとても重要なのです。
―よくわかりました。最後に日本の皆さんへメッセージを。
ウィジャース氏
日本は先進国のなかで交通安全意識は比較的高いほうです。当社のビジョンは、交通事故から子供を守り、無実の人を処罰しないことです。日本のためにお役に立てればよいと考えています。
オービスメーカーに限らず、欧州で道路交通の在り方を考えるとき、そのバックボーンにあるのは、交通事故をゼロにする「ビジョン・ゼロ」という考え方だ。実は、日本の関係機関や自動車メーカーにもだいぶ普及し始めている。ビジョン・ゼロの提唱者、クラウス・ティングバル氏にも話を聞けたので、その内容は次回お伝えする。(ジャーナリスト 桐島瞬)
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