マセラティのブランド新時代を象徴
『マセラティMC20』がブランド新時代を象徴するモデルとしてデビューしたのが2020年。コロナ禍でテストも思うようにできないなか、ようやくこの手で操ることができたとき、ふたつの驚きがあった。
【画像】日本上陸を果たしたマセラティGT2ストラダーレとレース用マシンGT2! 全172枚
ひとつは、たとえミドシップのスーパーカースタイルであっても、マセラティらしく『よくできたグラントゥーリズモ』に仕立てられていたこと。そしてもうひとつは、街中や高速ではとてもGTらしく振る舞う一方で、ひとたびワインディングロードに持ち込めばまるでレーシングカーのような走りを見せたことだった。
不必要なまでに強靭なボディとよく動くアシ、パワフルな心臓と秀逸な制動システムは、GT走行とスポーツ走行をかくも高いレベルで両立するのかと、改めて感心したのだった。
そんなMC20のポテンシャルの高さは、ステファン・ラテル・オーガニゼーションによって催されている欧州の『ファナテックGT2選手権』においても存分に発揮された。MC20をベースに開発されたレーシングカー、マセラティGT2が圧倒的な戦績を収めたのだ。
もちろんGT2は、エアロダイナミクスを中心に大胆なレースカーチューニングが施されている。とはいえ、基本骨格を含めてその多くはMC20そのものだ。ナンバーのついたMC20を初めてホームワインディングの駐車ロットに置いたときの違和感の正体はそれだったかと、勝利の報に接するたび思ったものだった。
そう、幅といい低さといい、そしてそこまでの道のりにおける走りといい、MC20のパフォーマンスはロードカー離れしていた。
マセラティ・コルセがロードカーに仕立て直し
今年(2024年)の夏、ザ・クエイルの『モータースポーツ・ギャザリング』において、『マセラティGT2ストラダーレ』がワールドプレミアされた。壇上には3台のミドシップ・マセラティが並んでおり、まさにマセラティ新時代の本格的な幕開けを象徴する出来事だった。
あれから3ヵ月と少し。早くもGT2ストラダーレが日本上陸を果たし、創立110周年を記念するイベントにおいてファンに披露された(今回ご紹介する写真は事前に行われたメディア向けプレビューで撮影されたもの)。
GT2のロードカー版である。マセラティ・コルセ(MC)がレーシングカーをロードカーに仕立て直したというわけだ。『ストラダーレ』とわざわざ名乗らなくてはいけないほど、その姿がレーシングライクであることがこのモデルの本質を物語っていると思う。
そもそも高いポテンシャルを持つMC20である。プリプレグ成型のカーボンモノコックボディなどはさしずめその核心というべきだろう。それをベースにレーシングカー由来のエアロダイナミクスを応用する。もうそれだけでロードカーとして十分刺激的な内容になることは想像に難くない。
実際、280km/h時におけるダウンフォースは最大500kgと、MC20の3倍強だ。スワンネックタイプの大型リアウイングの恩恵でリアには370kgもの力がかかる。コーナリングスピードの増大は火を見るより明らかだろう。
アピアランス的にも、空力デバイスの存在がMC20との差異を最も明確に表現していた。複雑な立体構造を持つフロントバンパースポイラーに始まり、サイドステップ、サイドダクト、アンダーディフューザーなど、その形状にはいちいち見所が詰まっている。
まるで押し寄せるコーナーが見えてくるかのよう
バタフライドアを開ければ、車内の雰囲気はさらにコンペティツィオーネ気分。MC20の面影は一掃され、スペシャルなバケットシートやコンソールがものものしさと緊張感を生み出している。身をまかせ、ステアリングを握りしめると、まるで肩越しにけたたましいサウンドが聞こえ、押し寄せるコーナーが見えてくるかのようだ(早く運転してみたい!)。
この手のスペシャルモデルを語る時、エンジン性能の向上をことさら気にする人も多い。エンジンスペックはわかりやすい指標だが、裏を返せば、数字のみにほだされて総合的な判断を失うこともなきにしもあらず。
GT2ストラダーレにはMC20と同じくドライサンプ式ネットゥーノエンジン(つまりメイド・イン・モデナ)をドライバーの背後、低い位置に積んでいるが、その最高出力はわずか10psアップの640psである。大したことない、と思うなかれ。ターボエンジンなのだから、数字だけあげて驚かそうと思えばさほど難しくはなかったはず。けれどもこのクルマを作ったのはレーシングチームなのだ。総合バランスを重視した結果の数値と見るべきだろう。
実際には、サーキット走行に耐えうる冷却性能や吸気性能を確保した結果エンジンスペックが上がった、というあたりが真実であろう。+10psという控えめな数字に、かえってプロフェッショナルの仕事が透けてみるようだ。
最後に軽量化の話もしておこう。マイナス60kg。大人ひとり分である。貴方はこの数字もわずかと見るだろうか? 重要な事実はその大半(40kgくらい)がバネ下重量、ホイールとブレーキシステムであるということ。サーキット派の諸氏にはそのことだけを伝えれば、十分ではないだろうか?
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