この記事をまとめると
■スポーツカーのなかには手組みエンジンを搭載するモデルがある
どれもが圧倒的なパフォーマンスのAMG! そのなかでもアカデミーのチーフインストラクターが激推しする3台とは
■手組みエンジンは機械では出せない精度を期待することができる
■小規模生産ラインでは自動化するよりも手組みのほうが結果的にコストを抑えることができる
エンジンをあえて手組することの意味とは?
「このクルマのエンジンは“手組み”なんだぜ」と聞くと、ありがたく感じてしまうものだが、はたして量産車における手組みエンジンとは、どんなものだろうか。
たとえば国産車でいえば、トヨタのGRヤリス/GRカローラに搭載される1.6リッター3気筒ターボ「G16E-GTS」エンジンは職人によって手組みされている。そのほか、日産のスポーツフラッグシップであるGT-Rの積む3.8リッターV6ツインターボ「VR38DETT」エンジンも認定された匠によって手組みされていることは有名だ。
もっとも「手組み」という言葉に業界共通の基準があるわけではない。基本的には、通常のエンジンを作るような流れ作業のラインを使わずに、ひとりの人間が一機のエンジンを最初から最後まで数時間かけて組み上げることを意味していると捉えていいだろう。
とはいえ、いまどきの製造ラインは高性能なロボットなどが鎮座しているわけで、あえて手組みすることで性能が上がる要素があるのだろうか?
たとえばGT-RのVR38DETTについていえば、認定された匠によって1/1000mm単位でのクリアランス(隙間)調整が実施されているという。これは機械ではできない領域というのが、よく聞かれる触れ込みだ。
エンジンヘッドとブロックをつなぐボルトの締め付け方やトルク管理なども流れ作業のラインに比べて丁寧にできるため、組み立て精度も高めることができるというのも、手組エンジンのセールスポイントとして目にすることが多い。高性能エンジンの設計を活かすには丁寧な手組みが必須、といわれる所以である。
手組みすることでコストを抑えられる場合もある
ただし、それだけが手組みエンジンが存在している価値ではないだろう。経済合理性でいってもスポーツカーなどの高性能エンジンは手組みにすることに意味がある。
このように書くと「手組みは労働コストがかかるし、量産性もよいとはいえないのだから経済合理性とは真逆の生産方法だ」と思うかもしれない。
よく考えてみてほしい。GRの3気筒ターボエンジン、GT-RのV6ツインターボエンジンは年間で何基作る計画だろうか。そもそもの計画がメーカーにとっては少量であることは間違いない。生産現場においては、そうしたイレギュラーなエンジンを通常のラインに流すよりは、別のラインを用意したほうが合理的といえるのだ。
仮に、従来のエンジンよりクリアランスの基準を厳しくしたとしても、現在の技術であれば機械の精度を上げていくことは可能だろう。ただし、一部のエンジンのためだけに生産設備のコストを上げてしまうのはナンセンスだ。
小規模な生産ラインについてはオートメーション化するよりも、数名の匠を鍛えて職人技を磨いたほうが結果的にコストを抑えることが期待できる。
手組みエンジンというと、いかにも高性能を追求するためだけに選ばれた製法と感じてしまうし、それは事実であるのだが、だからといって企業がコストを無視して採用しているわけではなく、ある種の経済合理性から選ばれているともいえる。
必要最低限のコストで、最大のパフォーマンスを生み出しているという意味では、メーカーとオーナーにとってWin-Winの関係といえるのが手組みエンジンなのかもしれない。
なお、手組みというのはエンジン製造において組み立てに関する手法であって、設計どおりの性能を引き出すためには各部品の精度を高めておくことも重要といえる。重量バランスが崩れていたり、形状の精度が悪かったりする部品しかなかったら、いくら熟練工が手組みしてもパフォーマンスは上がらないことは、メーカーや生産現場は百も承知であろう。
手組みエンジンという響きには、そうした点においても配慮していることを期待させる効果もある。そのためにプロモーションとしても活用されることも多いのだろう。
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おにぎりだってコンビニより近所のおにぎり屋でおばちゃんが手組みしてくれたおにぎりのほうが味も食感も高性能。