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「Appleのパクリ」はもはや過去! 中国シャオミ初EV「SU7」受注7万台突破と新経済圏ブチ上げ、米中貿易摩擦も何のその?

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「Appleのパクリ」はもはや過去! 中国シャオミ初EV「SU7」受注7万台突破と新経済圏ブチ上げ、米中貿易摩擦も何のその?

「世界トップ5」目指すEV事業

 中国の家電大手である小米(シャオミ)が、電気自動車(EV)市場への参入を果たした。初のEVとなる「SU7」は、高性能ながら価格を抑えた競争力の高いモデルで、テスラなど既存の主要EVメーカーの大きな脅威となりそうだ。返金不可の受注は7万台を超えた(4月20日時点)。25日から始まった自動車展示会である「北京国際モーターショー」でも注目を浴びている。

【画像】えっ…! これがシャオミSU7の「内部」です(計10枚)

 シャオミの創業者である雷軍最高経営責任者(CEO)は、EVへの参入を「自動車事業が自身最後のビジネスになり、自身の名誉と業績を賭ける」と宣言している。スマホや家電事業で培ってきた技術力とブランド力、そして豊富な資金を投入し、本気でEV業界のトップを狙う構えだ。雷氏は

「10年以内に世界トップ5の自動車メーカーに入る」

と豪語しており、その野心の大きさがうかがえる。

 シャオミのEV参入には、大きくふたつの狙いがある。ひとつは、成長に限界が見え始めたスマホ市場からの脱却。そしてもうひとつが、スマホ、スマート家電、EVを統合した、いわゆる

「シャオミ経済圏」

の完成だ。その中核となるのが、IoTプラットホーム「小愛同学」だ。小愛同学はAIアシスタントを介して、スマホやスマート家電、EVを連携させ、ユーザーの生活に寄り添うサービスを提供する。同社は、このシャオミ経済圏を軸に、ユーザーを自社のエコシステムに取り込むことを狙っているのである。

 2020年頃からEV事業への参入を検討し始め、2021年3月に正式に参入を表明した。当初は販売台数5万台を目標に掲げ、20億米ドル(約2200億円)の投資計画を発表。北京郊外に開発拠点と工場を新設するなど、異例のスピードで体制を整えてきた。

 ソフトウエアとコネクテッド技術を軸に自動車産業の主導権争いが激化するなか、ハードウエアだけでは生き残れないと判断したのだ。

・IoT化
・サービス化

の流れを先取りし、スマホで培った強みを生かしきるために、シャオミはEVで大手をかけた形だ。

テスラ半額以下の価格

『日本経済新聞』電子版2024年4月1日付の記事で伊藤忠総研の深尾三四郎上席主任研究員は、シャオミのEV参入について次のように評している。

「米アップルのスティーブ・ジョブズ氏が初代『iPhone』を発表したときと同じような衝撃があった。アップルは『Appleカー』の構想を断念した。小米はアップルの代わりにスマホとEVを組み合わせたエコシステムの実現を仕掛けてきた格好だ。グレード名に『PRO』や『MAX』と命名するところもアップルを意識している」

深尾氏は続けて

「発売までのSU7の情報の出方もiPhoneのようだった。発売前に小出しのリーク情報を通じて意図的に期待値をあげてきた。消費者の反応をみながら、プライシングを決めている。SU7の豊富なカラーバリエーション含め、まるでスマホのようなクルマの打ち出し方だ」

と指摘する。このことからも、シャオミが本気でソフトウエアとサービスを含む統合的なエコシステム構築を狙っていることがうかがえる。

 シャオミ初のEV「SU7」の最大の特徴は、同クラスの他車と比べて圧倒的に安い価格設定にもかかわらず、高性能を実現していることだ。中国での価格は約38万元(約630万円)からで、同クラスのEVであるテスラ・モデルSの半額以下だ。

 とはいえ、最上級グレードの「マックス」は最高出力500kW(680ps)、最大トルク800Nmを発揮し、0~100km/h加速2.8秒というテスラ並みのパフォーマンスを誇る。高い電気性能、先進運転支援システム(ADAS)、インテリアの質感など、トータルのコストパフォーマンスは業界随一とされる。

スマホメーカーの“本気EV”脅威

 そんなシャオミのEVが、業界に与えた衝撃は極めて大きい。最大の驚きは、スマホメーカーがここまでのEVを作れたことである。完成度の高さと、圧倒的な低価格を両立したSU7は、既存メーカーに衝撃を与えるに十分なインパクトがある。

 特にテスラにとって、SU7は脅威となりそうだ。中国の主力工場で生産するモデル3は、SU7より割高な価格設定である。性能面での優位性も僅差でしかなく、コストパフォーマンスでは完全に見劣りしてしまう。シャオミに価格競争力で負けてしまえば、テスラのブランド力がどこまで通用するのか、試されることになる。

 中国の新興EVメーカーにとっても、SU7は驚異だ。ニオやシャオペン、リ・オートといった新興勢は、これまでテスラを性能面での目標としてきた。だが、SU7の登場で、目標であったテスラをしのぐ存在が現れた。しかもシャオミは、自動車メーカーと異なりスマホで培った

・ブランド力
・技術力
・サプライチェーン

を武器に参入してきている。土俵が広がり、競争はさらに激化しそうだ。

 欧米メーカーにとっても、SU7はひとごとではない。フォルクスワーゲンやゼネラルモーターズ、フォードなどは中国市場を最重要視しており、現地生産を拡大している。手頃な価格帯のEVを投入し、シェアを広げていくのが彼らの戦略だが、SU7はそのもくろみに立ちはだかる強敵となる。見くびっていたスマホメーカーが、本気のEVを作ってきたことに、危機感を募らせていることは間違いない。

SU7がもたらす車内革命

 当面の市場である中国国内では、メディアの反応も上々だ。

「技術レベルの高さはさることながら、あのデザインと質感を実現したことに驚いた」
「価格と性能のバランスは、間違いなく業界トップ」

など、SU7を称賛する声が相次いでいる。中国政府が充電インフラの整備を急ピッチで進めるなかで、SU7は満を持して登場した理想的なEVといえる。

 SU7の破格の価格設定は

「EVを安く売って他で稼ぐ」

というシャオミの戦略を表している。同社はスマホ事業で、ハードの利益率を極限まで下げ、ソフトやサービスで収益を上げるビジネスモデルを確立してきた。EVでも、同様の戦略を展開する構えだ。

 SU7には、前述した小愛同学が深く組み込まれている。例えば、車内のエアコンやオーディオ、ナビゲーションなどを音声で操作できる。「小愛同学、会社まで最速ルートで」と話しかければ、渋滞を避けた経路を提示してくれる。駐車場に着いたら、スマホを使って空いている駐車スペースを探すことも可能だ。

 また、小愛同学を軸に、他社との連携が可能だ。例えば、

・料理宅配「美団」
・シェアサイクル「摩拜単車」
・決済サービス「アリペイ」

などとの連携である。これを用いれば、車内から食事を注文したり、駐車場で自転車をシェアしたり、ワンタッチで支払いを済ませたりもできる。さらに、将来的には保険や安全サービスなどとの連携も視野に入れている。

 こうしたサービス利用の「入り口」となるのがSU7となる。クルマはスマホや家電を含む大きなシステムの一部として位置づけられるわけだ。シャオミはEVの将来像である「所有」から「利用」へとユーザーの意識のシフトを真っ先に実現させようとしているのだ。

 したがって、シャオミのEV市場への参入は、モビリティ産業の変革を加速させる効果がある。CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)トレンドは新たな局面を迎えている。

アップル模倣からの進化

 自動車産業は100年以上にわたってハードウエアを中心に発展してきた。しかし、EVへのシフトとデジタル化の加速は、その前提を覆そうとしている。基本ソフト(OS)、アプリケーション、データをコントロールする者が業界を支配する時代が到来しつつあるのだ。

 シャオミは、ソフトウエア技術とビッグデータ活用のノウハウを武器に、この変革の波に乗ろうとしている。自動車メーカーはEVを、単なる移動手段ではなく、

「あらゆるサービスとつながるスマートデバイスへの進化させる」

ことを目指している。シームレスかつ、パーソナライズされた体験の提供が、勝負を分けるキーワードになるからだ。

 以上のように、シャオミのEV参入は業界に大きな衝撃を与えている。同社の戦略は、EVの未来像を先取りし、新たなモビリティ産業の地平を切り開くシャオミの野心を如実に示している。

 わずか10年前、シャオミは

「アップルのパクリ」

とやゆされていた。アイフォンに酷似したスマホ「Mi4」、アイパッドを模倣したタブレット「Miパッド」、アップルTVのコピー品のような「Miボックス」など、ハードウエアからソフトウエア、さらには製品ページのデザインに至るまで、あからさまにアップルを模倣していた。

 創業者の雷氏はスティーブ・ジョブズのようなプレゼンテーションを行い、

「One more thing(もうひとつ)」

を連呼。服装も黒いタートルネックにジーンズといういでたちで、“中国のジョブズ”とも呼ばれた。当時は、怪しげなメーカーという印象が強かったのだ。

鍵を握るサービス設計の差別化

 ところが、その後のシャオミは見事な変貌を遂げる。模倣からノウハウを蓄積し、シャオミは「アップルのパクリ」のレッテルを見事に剥がしたのである。わずか10年で、EVのゲームチェンジャーになった。

 その変貌ぶりは、モビリティ業界のみならず、ビジネス界全体に衝撃を与えている。シャオミが起点となって、新しい潮流が生まれようとしているのだ。

 テスラやフォルクスワーゲン、トヨタなど大手メーカーも、すでにEVとIoTの融合を見据えた開発を進めている。シャオミの参入は、この流れに拍車をかける。EVにおけるIoTの本格実装が現実味を帯びてくるなか、各社のイノベーション競争は一層激しさを増していく。

 ソフトウエアの開発力が問われ、AIやビッグデータの活用が進む。「スマホ×EV」の先行者となったシャオミに対抗するべく、他のメーカーもサービス設計の差別化に注力する。

 同時に、異業種との連携も活発化する。エネルギー、住宅、流通など、さまざまな分野の企業がEVを起点としたエコシステム作りに参画する。業界の垣根を越えた協業や企業の合併・買収(M&A)が増え、オープンイノベーションが進展する可能性がある。こうした変化は、EVそのもののスマート化を促進するとともに、移動の概念を大きく変える起爆剤にもなり得る。

国際的な貿易摩擦の火種化

 しかし、この変革の過程では、新たな課題も浮上している。

 2024年4月、米国のイエレン財務長官が中国を訪問し、中国政府の補助金政策によるEVの過剰生産問題について協議したことは、その一例だ。中国のEV産業への手厚い支援が、

「米国経済に影を落としている」

との懸念が、米国側から表明されたのである。イエレン長官は

「過剰生産を引き起こす政策からの転換が、米国、中国、そして世界経済に利益をもたらすと確信している」

と述べ、中国の政策転換を促した。一方、中国側は自国の補助金政策を正当化し、むしろ米国の対中制限措置に懸念を示すなど、両国の対立が浮き彫りになった。

 シャオミを始めとする中国のEVメーカーの躍進は、政府の手厚い支援あってこそのものだった。だが、その成長戦略は、いまや国際的な貿易摩擦の火種となりつつある。スマホが社会を一変させたように、EVが人々の生活とビジネスの在り方を根底から覆すような、ダイナミックな変化の時代がすぐそこまで来ている。その実現を国家間の対立が阻んでいる。

 新たな時代を実現させるために、乗り越えなくてはならない課題はまだまだ多いのだ。

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