日本ではすっかり市民権を得た感もあるルノー・カングー。ヨーロッパの街中の風景写真などを見ると、同系統の商用車が多数走っており、かの地ではごく一般的なコマーシャルカーであることがわかります。しかしながら、日本ではルノーのカングーだけが正規輸入されていることもあり、ほかのブランドの車種はどちらかというと影が薄い印象がありました。それゆえ、ルノーのいちモデルとしての存在感もかなり大きく、いまや日本におけるルノーのセールスの重要な主力車種になっています。
しかしここへきて、プジョーやシトロエンもこのクラスの車種を日本に導入することになりました。
第一印象良し!忖度なしの中古車試乗レポート第3弾、1989年式ポルシェ911カレラtype930
ちょうど、最近流行りの車中泊に「かんぽの宿」が注力していて、その体験ができるという機会にお誘いをいただきました。いい機会ということで、国産のミニバンでなく、シトロエン・ベルランゴを拝借してでかけることにしました。走り始めると早々に、実に多くの説得力を目の当たりにすることになったのです。
そんなフランスの商用車派生MPVの「カングー以外の選択肢」であるシトロエン・ベルランゴに乗ってみた印象をまとめておきたいと思います。
●このタイミング、仕様、価格。どうしてこうなったのかがよくわかる日本仕様のベルランゴ
ルノー・カングーは、もはや日本において「定番」といえるクルマになったといえます。決してこの国においてメジャーなブランドではないルノーを浸透させた功績に目を向けると、日本におけるカングーの存在は偉大であると表現することもできるでしょう。もともと商用車として作られたクルマを、気取らない使い勝手の良いフランスの日常の雰囲気を安価に楽しめる存在。日本におけるカングーファンの楽しみ方は、今やフランス本国からも注目を集めるほどです。限られた空間を上手に使う日本人が、国産のミニバン以外の選択肢として選んだクルマといえるのではないでしょうか。
他方、今回試乗したシトロエン・ベルランゴ。何も最近急に追加された車種ということではなく、これまでもカングーと同等のクラスでヨーロッパではすでにポピュラーな存在になっていた車種です。しかし、どういうわけかこれまで正規輸入されることはありませんでした。
シトロエンというと、どちらかといえば個性的なものを追い求め、他とは明らかに違うクルマとして日本では選ばれてきた傾向があったように感じます。そういうラインナップのなかに商用車が含まれていたとすると、なかなか販売戦略上難しかったのかも、とも思ったりするものです。
しかし、最近のモデルはかつてほど個性を前面に打ち出さず、実用的で長距離のドライブもこなす。そんなキャラクターのモデルが増えてきていて、日本市場でのラインナップでもあまり「浮かなくなった」というのがベルランゴ導入の理由なのでは?そんな風に感じました。
しかし、すでにカングーが長いこと販売されてきた土俵に遅れて参入してきたことは動かしがたい事実でもあるわけです。そこで「後出しじゃんけん」と言われないような仕様選定がなされており、カングーのライバルではないキャラクターが与えられていることを明確に感じることができたのです。
シトロエン・ベルランゴは、まずディーゼルエンジンモデルで導入されました。車格を考えるとマッチはしていますが、カングーの正規輸入車はガソリン車。ここでも明確な差別化が図られています。カングーは間髪入れず限定車を企画導入し、色のチョイスで遊べる楽しみを提供してくれています。それに対してベルランゴはカラーコーディネートの妙で魅せます。そしてこれらは、ディーゼルエンジン仕様にすることで、どうしても価格が上昇してしまうことへの理由付けとしての差別化に充てられているように感じました。と同時に、フランスの商用車を足に使うというキャラクター付けではなく、しっかりとフランス車の小型MPVとしての成り立ちを大切にしている印象を受けました。テールハッチの窓だけでも開閉できる仕掛けも商用車あがりという文脈ではなく、完全に乗用車としての建付けを感じさせるものです。
このタイミングで、カングーよりも高価格で販売する。その説得力は少なくともクルマを見ると感じ取ることができました。
●ハイドロ、新奇さではなく「シトロエンが思い描くあるべき姿」がここにある
ハイドロではないシトロエンはシトロエンにあらず。そう宣うファンは少なくありません。確かにあの独特の個性は他の何にも替えがたく、また惹きつけられるものがあるものです。しかし、実はハイドロモデルをラインナップしていた時代から、シトロエンのバネサスモデルは美徳であるという声もクルマ好きの中ではしばしば語られて来たことでした。高速道路のクルージングではハイドロニューマチックサスペンションの鷹揚な抑揚とともにもたらされる浮遊感のような感覚は、もはや大船に乗った心地。でも、石畳の路地や町中の荒れた個所などでは、案外追従しきれない部分もあるものでした。その点ハイウェイでの滑空感ではハイドロニューマチック系モデルにかなわないものの、コツコツと小さな凹凸にしっかり対応してもっちりとした乗り味をもたらしてくれるのがシトロエンのコイルスプリングの魅力でありました。
シトロエン・ベルランゴ、この非ハイドロ系シトロエンの居心地のカテゴリーでした。
そして、ある種の根本的なシトロエンの思想もベルランゴに感じたのです。とかく日本では「個性的なもの」というレッテルを張られてきたシトロエンですが、創始者であるアンドレシトロエンは、おそらく誰も真似をしない個性的なクルマを作ろうと思っていたわけではないと思うのです。シトロエンが、長距離も安楽で快適に走るためにはこうあるべきだ!と考えた、極めて真っ当でほかの方法よりも合理的なスタイルとして到達した手法スタイルこそ、従来のシトロエンの名車たちの成り立ちだったのではないかと思うのです。そんな、ニュートラルなクルマのあるべき形。シトロエンのそういうメッセージをベルランゴにも感じることができました。ごくごくちゃんとしたクルマを作ろうとした暁に誰も真似しないクルマになってしまった。そういうことなのだと思うのですが、そういう片鱗、隙のないクルマ作りのようなものを感じとれたのはうれしい発見でした。
●VIVA!AL4(オートマチックにも感じることができるフランスの流儀)
フランス車のオートマチックは嫌いだ、という人がいます。これは「AL4」と言われる4速オートマチックのことを指している場合が多いのですが、あれは慣れるとタウンユースから高速走行までカバーするなかなか当時としては優れたオートマチックなのです(定期的にATF交換をしないとコンディションに影響するというのも悪評の原因の一つではありましたが)。加速時にしっかり速度が乗るまで、あくまでもギヤーをホールドさせる。例えば一たび60キロを超えると、逆にアクセルを踏んでいれば、簡単にはギヤーが落ちない。けれどもブレーキを踏んで減速していくと、きちんとシフトダウンしてエンジンブレーキも併用できるのです。街中ではなかなか3速あたりから上がらないので、やややかましいのと燃費があまりよろしくない傾向がありますが、60キロオーバーまで速度が乗ると反対に4速のまま2000回転前後でクルージングを続けるのでショックもなく燃費も格段に改善します。また、タウンスピードだとエンジンブレーキが使いやすいので、最新のEVなどで話題の「ワンペダルコントロール」的な運転がやりやすいトランスミッションでした。
このベルランゴのオートマチック。アイシンAW製の電子制御8速ですが、より機敏でなめらかで信頼性は高くなりつつも、変速スケジュールは昔のこうした傾向「シフトアップしにくく、一度上がるとシフトダウンしにくい。」という印象がありました。しかしながら、段数が増えた分燃費もよくなってメリットは大幅に増えているのです。
こういうところにも意識を集中させながら運転などすると、だいぶ薄味にはなったといわれがちな最近のシトロエンですが、いやはや依然なかなかフランス車ならでは世界観が健在。うれしくなるものでした。
●フラットな荷室にお布団を敷いて大の字になって熟睡を!
今回はくるまパークで車中泊を試みました。
訪れたのは「かんぽの宿石和」。リニューアルを機にくるまパークがオープンしたということで、ここを訪れ、夜は寝袋を持ち込んで車中泊しました。
全国津々浦々にある「かんぽの宿」。この駐車場が今ぞくぞくくるまパークになっています。「くるまパーク」は「くるま旅クラブ」の会員が利用できる車中泊スポットです。もともとは遊休地の活用という視点もあり整備されているということですが、温泉施設が充実しており、それぞれの地域の景勝地への観光のベースにも大変便利です。ここをさらに、施設内での宿泊者でなくとも、キャンピングカーや自家用車で旅をする人にも利用してもらおうという取り組みで整備されているのだとか。
もちろん平常時は客室の収容人数の余裕が増える、施設稼働率があがるというかんぽの宿のメリット、そして、一台一泊2000円という低価格で利用できるためユーザーにもメリットが多く、万が一の災害時にはキャンピングカーやクルマを用いた避難場所としても活用できることを視野に入れているとのことです。そして日ごろからこうしたところの利用を促進することで、地域内での認知もあがることで、迅速な災害避難等の訴求も可能になるということです。
加えて、新型コロナウイルス感染拡大防止で密を避ける旅行のスタイルや、リモートワークを、旅しながらでも遂行する「ワーケーション」といった流れにもマッチ。様々な可能性を秘めた展開といえるでしょう。
シトロエン・ベルランゴは、こんなときも単なるおしゃれな小型SUVではありません。しっかりと車幅がとられていてフラットなフロアには身長180センチほどある筆者も余裕をもって眠ることができました。スペース的なゆとりが十分であるだけに、むしろ布団を敷いて普通に睡眠をしたくなる快適さ。走っても、車中泊しても、シトロエン・ベルランゴは優しさで包み込んでくれます。
「バカンスの国のワゴン」。昔からフランス製のワゴン車というとそんなことを言われたものですが、相当懐が深い。山梨から神奈川に帰るのについつい雁坂峠から埼玉県の深谷を回ってぐるりと遠回り。寄り道か?それともお出かけか?は、このクルマにとってはあまり大きな問題ではありません。どこまで走っても疲れないし、眠くなったら寝ればよい。万能な旅車。ある意味で理想的なシトロエンはベルランゴなのかもしれません。
[ライター・画像/中込健太郎]
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