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観客動員数の制限なく開催されたF1イギリスGP。新フォーマットは盛り上がりを見せるも課題あり

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観客動員数の制限なく開催されたF1イギリスGP。新フォーマットは盛り上がりを見せるも課題あり

 政府によるイベントリサーチプログラム(ERP)の対象として、観客動員数の制限なく開催された2021年F1第10戦イギリスGPでは、この瞬間を待ち焦がれてきたファンの多くが金曜日からサーキットに集まった。

 ワクチン接種が進んでいるイギリスだから可能なERP。ただしワクチンも検査も100%の感染予防を保証するものではない。リスクがあることを了解した上で、そのリスクを実証的に分析するプログラムなのだ。

クラッシュで0周リタイアを喫したフェルスタッペン。接触の引き金になったハミルトンとのタイム差

 マシンが走り始めると、観客スタンドから発せられた大きなエネルギーはテレビ映像からもしっかり伝わってきた。まるで、トンネルの出口に向かって加速しようと、観客全員が全力を注いでいるように──それくらい、モータースポーツへの愛は深い。F1が“産業”として成り立つ唯一の国でもある。

 週末の新たなフォーマットも、ファンの気持ちを後押しした。金曜の予選、土曜のスプリント予選、日曜のレースと、毎日“正式な順位”が決まるフォーマットは観戦の見どころを増やす目的で考え出されたもので、その試みが大成功であることはファンの歓声が示していた。

 100km(シルバーストンの場合は17周)のスプリント予選は、金曜の予選によるグリッドでスタートする。トップ10のドライバーもタイヤの選択は自由。タイヤ交換の義務はなく、チームによる作戦が介入する余地も小さく、ドライバーには、セーブするより思い切りアタックすることが求められる。多くのドライバーが“エキサイティングで楽しい”と歓迎したゆえんだ。

 フロントタイヤへの負荷が大きなシルバーストンでは、20人中16人のドライバーがミディアムタイヤを選択した。ソフトタイヤでスタートしたのはフェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)、エステバン・オコン(アルピーヌ)、キミ・ライコネン(アルファロメオ)、バルテリ・ボッタス(メルセデス)の4人。

 スプリント予選を盛り上げた主役はアロンソで、11番グリッドからスタートを決め、タイヤのグリップを活かしてイン側に開けたスペースを巧みに抜け、1周目のコプスまでに6つもポジションを上げた。中盤以降はマクラーレン勢を抑え込むことができなかったが、7位でゴールして4ポジションアップ。オコンも13番手から10番手へ、ライコネンは17番手から13番手へと前進し、ソフト作戦を成功させた。

「フェルナンド(・アロンソ)のタイヤが最後までもつとは思わなかった」というセバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)も、ミディアムタイヤで10番手からスタートし、アロンソの真後ろ、8番手でゴールした。

 アロンソ、ベッテル、ライコネンというベテラン勢の活躍が興味深い。2009年までの“給油時代”を経験した彼らが、軽いマシンでのスタート直後の戦い方を熟知しているからかもしれない。

■FP1が果たす役割
 金曜の予選でQ3に進出したドライバーのなかではボッタスがソフトを選択したが、彼の場合はユーズドタイヤである。予選ではソフトの使用が義務付けられるため、Q2で予選を終え、手元に新品のソフトを残したドライバーのほうが、スプリント予選でソフトに賭ける“旨味”が大きくなるのだ。シルバーストンのようなコースでは3周ユーズドと新品の差は大きい。

 レース形式で行われるスプリント予選では、レースに向かってより“現実的”なデータを収集することも可能だ。ミディアムの第1スティントでメルセデスに迫られることなく首位を走ったシャルル・ルクレール(フェラーリ)は、スプリント予選の経験をフルに活かしてドライビングしていた。

 ただしチームにとっては、金曜のFP1だけで予選、スプリント予選、レースを見越したセットアップを決定しなくてはならないのが難点。金曜の予選以降はパルクフェルメルールが適用されるため、土曜のFP2で改善方法を見出してもマシンのセットアップを変更することができず、FP1の1時間だけですべてをこなすのは、小さなチームほど負担が大きくなる。

 今シーズン3戦で予定されているスプリント予選(2戦目はイタリアGP、3戦目は未定)はトライアルであり、来シーズン以降も採用される場合にはルールを改善し、よりシェイプアップした形式で実施されるはずだ。

 たとえば、予選専用の特殊なデバイスを禁止しつつパルクフェルメは土曜のスプリント予選以降とすれば、金曜のFP1と予選はより純粋に1周の速さを探求するセッションになる。レースを中心に考えるのは土曜のFP2以降で、スプリント予選は100kmで完結すると同時に、レースの第1スティントの意味合いを持つことになる。

 2003年から施行されている現行のパルクフェルメルールは、コスト増大に歯止めをかけ、予選用エンジンの使用を不可能にし、ルールの隙をついたマシン変更を抑え込む意味を持っていた。しかしチーム予算の上限が決められ、パワーユニットの年間使用基数が3基に固定された今日では、その意味は薄れている。

 作業を行う要素もそのための人員もそろっているのに、走行初日の夕方からマシンを触れることができない状況は歯がゆすぎる。パルクフェルメは土曜のスプリント予選以降としても、FIAの車検による公正さは充分に保たれるはずだ。

 また、レースでのタイヤ選択が自由になったことによって、今回はピットスタートのセルジオ・ペレス(レッドブル・ホンダ)以外の全員がミディアムを選んだ。作戦のバリエーションはスティントの長さのみになり、オーバーテイクの難しいシルバーストンではあちこちでDRSトレインが発生した。2022年型マシンのオーバーテイクのチャンスを考慮に入れつつ、これも再考の余地がある課題だ。

 今回は、初めての試みという点もファンの盛り上がりに貢献したが、この先、スプリント予選のフォーマットが習慣化しても、各チームの作戦が定番化してしまうことは避けなくてはならない。そしてもっとも大切なのは、ファンの気持ちを考えるならこれ以上ルールを複雑化しないことだ。

※この記事は本誌『auto sport』No.1557(2021年7月30日発売号)からの転載です。


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