BMWのハイパフォーマンスモデルを製造する“M”。そこが手掛けたM5を500kmほどテストする機会に恵まれたのでその試乗記をお届けしよう。
BMWのハイパフォーマンスモデルを手掛けるBMW M社が開発した初代BMW M5は、プレミアムセグメントにおける高性能セダンとして1984年に登場した。6代目となる新型M5は、初代M5のコンセプト、サーキットにおける最高の運動性能と、プレミアムセグメントにおけるラグジュアリースポーツセダンとしての要素を継承。デザインと走行性能の両面において、ひと目でMモデルであると実感出来る力強い存在感を放っている。
そのデザインは、高性能ユニットの走行性能を最大限発揮できるよう機能面にも配慮しつつ、サーキットでも公道でもMモデルとしての個性を主張するスポーティさを表現。Mモデルで初めて採用されたカーボンファイバー強化プラスチック(CFRP)のルーフと、筋肉質なパターンが力強く浮かび上がるアルミニウム製のエンジンフードは軽量化と強度向上に寄与。そして、存在感あるフロントのエア・インテークはパワーユニットの冷却効率をアップさせている。Mモデルのスポーティな存在感を強烈に印象付けるデザインだ。
◆新開発のドライブトレーン
注目のパワートレーンでは、排気量4.4L V型8気筒Mツインパワーターボエンジンが新開発のターボチャージャーを採用し、よりパワフルになった。この新しい高回転型エンジンは最高出力600馬力/5600~6700rpm、最大トルクは750Nm/1800~5600rpmを発揮し、先代モデルに比べて最大トルクが70Nm増大。エンジン特性は、基本設定の設定からSport(スポーツ)、SportPlus(スポーツプラス)に変更可能で、アクセルペダル操作に対するレスポンスを走行状況に応じて段階的に早めることができる。
そしてMモデルのセダンで初めて専用四輪駆動システム“M xDrive”が搭載された。これは、BMWの4WDシステムであるxDriveにMアクティブディファレンシャルを組み合わせ、さらに専用制御システム”ドライビングダイナミクスコントロール”を加えたまったく新しい4WDシステムだ。DSCのオンオフも含め5種類ものドライブモードを用意。約30年に渡る歴史のなかで守り続けてきたサーキット上でのハイパフォーマンス性能はそのままに、様々な路面状況でのトラクション性能を最大限にサポートすることが可能となった。サーキットで性能を最大限発揮するときは、スポーツモードや2WDモードも選択することが可能で、ユーザーの多様なニーズに応えるモデルとなっている。
組み合わされるトランスミッションは、ドライブロジック付きの新型8速トランスミッションだ。ドライバーはドライブロジック選択スイッチによって、シフト特性を3段階から選択し、状況に応じた最適なギヤ比設定とレスポンスが得られ、思い通りの走りを体験することが可能となる。“モード1”は効率的な走りをサポートし、“モード2”ではシフト時間を短縮し、俊敏な走りを実現する。さらに、“モード3”はシフト時間を最大限短縮するため、サーキットでのスポーティでアグレッシブな走りに適した設定となっている。また、“モード3”では、エンジンがリミットに達したときの強制シフトアップも行わないため、最大限自由に車両を操作することが可能だ。
これらのほかにも、サスペンションとパワーステアリングの設定もそれぞれ3種類用意され、オーナーが自分好みの設定を行えるようになっている。そしてこれらエンジン、4WD、トランスミッション、サスペンション、ステアリングのすべてを合わせた設定は2通りまでならステアリング上のメモリーボタンに記憶することができ、好きなときに呼び出すことができる。
◆街なかでも感じられるピュアスポーツセダンぶり
長々と解説をしたのは、今回のテスト距離ではすべてをテストしきれなかったため、まずはクルマ全体の概要をお伝えしておきたかったのだ。したがって今回のテストではたまにスポーツモードは選択したものの、基本的にはすべてデフォルトとなる標準のモードを選択した。
ゆっくりと白のレザーシートに腰を下ろしてインパネ周りを見渡すと、そこに広がるのは見慣れた5シリーズの景色だった。もちろんよく目を凝らせば、そこかしこに“M”の文字や、前述の好みの設定を保存できるステアリング上の赤いM1とM2ボタン、そしてスピードとタコメーターの数値など、それっぽい装備もある。だがこれら以外に、M5のハイパワーぶりを伝えてくるものは何もないと言っていいだろう。
しかし、インパネにあるエンジンスタート・ストップボタンを押し込むと、ハイスペックのエンジンであることを主張する野太い排気音とともに、このクルマが只者ではないということを感じさせながらエンジンは目覚めた。
アクセルを軽く踏み込み、M5を混んだ街の流れに紛れ込ませると、その様子はまさにスポーツセダンそのもの。まず思った以上に足まわりがしなやかであることに驚く。M3のようにガチガチでスパルタンな印象かと思ったのだが、ボディがしっかりしているのでサスペンションがきちんとストロークしショックを吸収してくれるのだ。街なかで走らせている分には、普通の5シリーズに少しハードなMスポーツサスペンションを組んだ程度の印象だ。
しかし、より深くアクセルを踏み込むと、その表情は一変。少し頭を持ち上げて猛然と加速を開始する。それは1950kgという車重をものともしない豪快さで、まさにパワーとトルクで押し出す暴力的なものだ。多少路面が濡れていても滑ればすかさずスタビリティコントロールなどが介入。だが、それは非常に自然でドライバーはメーター内の警告灯によって感知する程度のものだ。4WDの抵抗感は交差点を曲がる時に感じられるが、意識させるのはそのくらい。普通に走らせている分には駆動方式など気になることはまったくといっていいほどなかった。
◆ワインディングでは水を得た魚のように
この印象は高速に乗り入れても変わらない。非常に安定しており、直進安定性も高く、この辺りはもともとの5シリーズの印象に近いが、さらに速度域を上げれば四駆の影響も大きく貢献してくると思われる。また、ステアリングの座りもよく快適なフィーリングだ。
8速MステップトロニックトランスミッションはDSGなどよりもはるかにシフトアップが早く、特にそれはスポーツやスポーツプラスを選んだ時に顕著だ。ワインディングなどでパドルシフトを使うと、非常に気持ち良く、かつ素早く変速出来るので思い通りのトルクとパワーを手に入れられる。そういった時にはこのハンドリングが生きてくる。コーナー手前でパドルシフトによりシフトダウン。軽くブレーキングを残しながらステアリングを操作し、エイペックスを通過しながら徐々にアクセルを踏み込むと、ほぼニュートラルステアでコーナーをクリア出来るのだ。そういったシーンではボディサイズも車重も気になることはなく、運転に集中出来るのは見事といえるだろう。
しかしこのテスト以前に、一度だけ経験することが出来たサーキットでの走行では、M3などと比較すると若干上屋が重い印象があったので、そういった極限なシーンを常に求めるのであれば、やはりひとまわりは小さいM3などをお勧めしたい。
◆3シリーズとは違いナビは優秀
ナビゲーションの使いやすさは明らかに現行3シリーズなどよりもはるかに使いやすく、音声に関しても極めて聞きやすい。操作性も思い通りの階層に希望するメニューがあるので、ストレスなく操作が出来るだろう。
今回テストをして一つ気になる点を挙げるとするならば、それは室内側のドアハンドルだ。アルミで仕上げられているそれは、例えば強い日差しなどが当たるとかなりの高温になり、下手をすると火傷を負ってしまいかねない。そのあたりは注意が必要と感じた。
◆燃費はそこそこ
今回の燃費は以下の通りだった。
市街地:5.7km/L
郊外:8.3km/L
高速:10.3km/L
確かにこの数値だけを見ると暗澹たる思いに駆られるが、よく考えて欲しい。600馬力、750Nmを誇る4.4L V型8気筒ツインパワーターボなのだ。街中ではアイドルストップも作動するが、どうしたって4WDの抵抗も受けるのだから、このくらいの数値は許容範囲といえるだろう。それ以上に、素晴らしいハンドリングと加速を考えるなら、とても良いと評価出来るかもしれない。
◆初代の血筋を受け継ぐM5
少し個人的な話をさせてもらうと、じつは初代M5にとても魅力を感じている。程よいボディサイズに5人乗ることが可能でありながら、いざとなればサーキットも走ることが出来るのがその最大の要因だ。そして何よりもこれ見よがしではないエクステリアデザインがとても好ましかったのだ。そんな思いを胸に今回の試乗に臨んだのだが、やはりボディサイズはかなり肥大しており、当時からの格差は隠せなかった。しかし、いざ走り始めるとやはりM5はM5だ。確かに一般道や高速を含めて日本の道路交通法のもとでは正直、この性能を持て余してしまう。なぜなら一度この加速Gや旋回性能を知ってしまうと、再び試したくなる要求を抑えるのに苦労してしまうからだ。そのための自制心さえしっかり保つことが出来れば、極めて優秀なスポーツサルーンといえる。
今回のテスト車にはオプションとして用意される後席用モニターが装着されており、このクルマの一方の性格を表している。つまり、後席に人を乗せることも踏まえたスポーツサルーンなのだ。そういったシーンでは極めてジェントルな走りを、そして、一人になった時にはそのパワーを開放し、思い切ったドライビングが楽しめる二面性を持っているのだ。まさにビジネスマンズエクスプレスということができ、まさに初代M5から受け継ぐ血筋とも言えるだろう。
文&写真=内田俊一 Shunichi Uchida
<driver@web 編集部>
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