■EV普及を推進した日産が令和に贈るピュアスポーツカー「フェアレディZ」
「カッコいい! これもEVなんだね」
新型フェアレディZプロトタイプ(以下、Zプロト)の前で、20代後半と思しき男性が同年代の彼女に話すと、女性は「そうなんだ、凄いねぇ」とニッコリ笑っていました。
彼らにとって、目の前にあるスタイリッシュで華やかなイエローの日産のクーペが、“EV(電気自動車)である”ことがとても自然なのでしょう。ふたりの会話を聞きながら、筆者(桃田健史)は素直にそう思いました。
なぜならば、「ニッサン パビリオン」の入口周辺にはEV用の普及充電設備があり、場内にはZプロト(展示は2020年10月4日まで)のほか、2021年発売予定の新型EV「アリア」の存在感がとても強かったからです。
むろん、ZプロトはEVではなく、V型6気筒ツインターボ・6速MTの搭載を想定しています。
2020年9月16日のワールドプレミアでは、内田誠社長や日産幹部らが「ほぼ量産」といい切ったのですから、各方面での噂に近い、最高出力400馬力以上を誇るハイパフォーマンスなガソリン車となる可能性が高いです。
とはいえ、「今後のZ」を考えた場合、どこかのタイミングでEVになることは十分に考えられているのではないでしょうか。
2010年の「リーフ」登場以来、「EVの日産」という企業イメージが強いなか、日産のヘリテイジ(歴史)を継承するモデルなのですから。
※ ※ ※
日産のEV史を紐解くと、じつはフェアレディZを彷彿とさせるような2ドアスポーツEVの構想が存在しました。
仮に量産されていれば、発売開始時期は2013年から2014年あたりだったでしょう。
筆者は、2000年代後半に、日産が量産型EVを計画している情報を得て、アメリカや欧州など世界各地で当時の日産、また電動車技術を提供する企業の関係者から直接、日産EV戦略について話を聞いていました。
そうしたなかで、国際電気自動車シンポジウム「EVS24」が、ノルウェー・スタバンゲル市で2009年5月13日から16日の日程で開催されました。
講演のなかで、欧州日産本部の関係者が「日産が目指すEVは5ドアハッチバックです」として、リーフのボディイメージを世界で初めて公表したのです。
その後、アメリカで日産本社幹部から「まずは、もっとも販売台数が多く見込めるファミリーユースの5ドア車を出し、そこから横展開として、少なくとも商用EVやプレミアムなEV、さらには“Zのような”2ドアスポーツEVも量産していきたい」と、日産EV戦略の骨子を教えてくれました。
その後、商用EVでは「e-NV200」が2011年から日本国内で実証試験(量産は2014年)をはじめました。
プレミアム系では、非接触充電機能を持つコンセプトモデルのインフィニティ「LE」が2012年のニューヨークモーターショーで発表されました。
その現場で日産幹部らは「次は2ドアスポーツEVを期待して欲しい」といっていたのですが、結局、リーフが日産の当初予定ほどペースでは普及しなかったこと、またそれによってEV市場全体の伸びも緩やかにとどまったことで、LEは量産されず、フェアレディZのEVバージョンを連想されるようなモデルはコンセプトすら登場しませんでした。
それ以降、日産の2ドアスポーツEV量産の噂は消えてしましました。
最大の理由は、テスラが主導して世界的に拡大したプレミアムEVでは、ガソリン車並みの航続距離を実現するため、電池容量が初代リーフ(24kWh)の4倍以上がけっして珍しくなくなり、電池パックを搭載するために床下が広いSUVや大型セダンが主流となったからです。
2020年時点に登場した、Zプロトの現物を見る限り、EVとして商品競争力がある電気容量70kWhから90kWh程度の電池搭載を連想すると、いますぐEV化をすることは難しいと感じました。
■2030年代にEVの「フェアレディZ」登場なるか?
では、さらにその先、2020年代中盤頃に登場のZ36(仮称)ならどうでしょうか。
現時点では不明ですが、大方の予想ではZプロト(仮称:Z35)の車体は現行型フェアレディZ(Z34)の大幅改良の可能性があります。
となると、Z36で車体を含めたフルモデルチェンジとなり、少なくともハイブリッドかプラグインハイブリッドが登場する可能性があるでしょう。
また、インフィニティでは日産に先駆けて、プラグインハイブリッドのラインアップが増えそうですから、その技術の一部がZ36に移植されることが考えられます。
そうなると、Z36登場時点で、その次のZ37(仮称)のEVバージョンの下地ができるともいえます。
順当にいけば、Z37の登場は2030年代初頭が予測されます。
その2030年には、ホンダは「全販売の2/3を電動化し、2050年のカーボンニュートラルを目指す」(ホンダ・八郷隆弘社長)と、2020年10月2日のF1参戦終了の記者会見で強調しています。
F1に投入してきた、技術、人材、そして資金を電動パワーユニットやエネルギーマネージメントの開発に振り替えるというのです。
こうした大胆な事業構想の転換をおこなうからには、ホンダは今後、「F1のホンダ」を彷彿されるような、EVスポーツカーを含めた電動車ラインアップを急速に取り揃えるかもしれません。
ホンダの動きが、いまから約10年先の登場が期待されるZ37のEV化計画を大きく後押しする可能性も否定できないと思います。
その頃には、電池の高性能化と小型化が進み、フェアレディZのヘリテージをしっかり感じ取れる走りのEVが実現していることを期待します。
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みんなのコメント
ブランドイメージを築けない似たもの同士。
現実はどちらもメインは軽自動車のくせに