シトロエンもついにSUVカテゴリーに参入した。シトロエン初のSUV「シトロエンC5エアクロス」がそのモデルだ。シトロエンは、どのモデルでも「シトロエンらしさ」があり、ストロークの長いサスペンションやゆったりとしたシートの座り心地、そしてデザインにもシトロエンらしい特徴がある。そのシトロエンC5エアクロスという新型のSUVには「らしさ」があるのか試乗してみた。
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これぞシトロエン
走り始めてすぐにコンフォート性の高さを感じ、「まさにシトロエンの乗り心地だ」と感心する。こうなると意地でも「らしさ」を追及しようという気概を持って開発したのだろうと思いを巡らす。これより先にC5よりワンサイズ小さいC3エアクロスにも試乗して、レポートしているが、そのC3とは全く異なるレベルの仕上がりとも言える。
※関連記事:シトロエンC3エアクロス シャインパッケージ(FF/6速AT)【試乗記+動画】
シトロエンブランドを持つフランスPSAグループは、プジョーとDSという、合わせて3つのブランドがあり、シトロエンは量販モデルでありつつも、個性豊かなブランドに位置付けられている。個性的なものというのは、好き嫌いが激しくなるもので、それを量販できること自体が素晴らしく、日本車では真似のできない領域の製品といってもいいだろう。
そのシトロエンC3エアクロスは、エントリークラスということもあり、個性的でありつつらしさを持ったモデルだった。その上級車格になる、このC5エアクロスはプレミアムモデルに匹敵するレベルと言っていいほど、シトロエンらしさをふんだんに持ち、かつ、高級感もある走りだったのだ。
SUVにもコンフォートという価値観
パワートレーンはディーゼルエンジンのみで8ATが組み合わされている。2.0L・4気筒ディーゼルターボで130kW(177ps)/400Nmの出力。ボディサイズは全長4500mm、全幅1850mm、全高1710mm、ホイールベース2730mmでCセグメントサイズど真ん中のサイズだ。
シトロエンはSUVにコンフォートという価値観を提案するとしているが、そのラグジュアリーな乗り心地には惹きつけられる。シトロエン自身も「マジックカーペットライド」と名付けて説明しているように、空飛ぶ絨毯のように滑らかに、ふわりと走り、決して不安にならず、まっすぐに走る。
操舵フィールではステアした瞬間から俊敏に動くモデルが多くなってきているが、C5エアクロスの動き出しは穏やかだ。ただし反応遅れではない。動く幅が小さいという表現になるのだろうか、とはいえステアリングを大きく切り込む必要があるほどルーズではない。絶妙な操舵量が設定されていると言っていいだろう。
そのフィーリングを感じながら回頭が始まるが、初期のロールとピッチはしっかりある。ゆったりとボディはロールをしながら旋回を始めるが、その先も限りなくロールするのではなく、ある部分でロールは保持され旋回していくのだ。そして前のめりになることなくピッチも抑えられて旋回していく。
ドイツ車を中心に初期ロールを抑える傾向が多い中、こうした動きはシトロエンのアイデンティティであり、これぞシトロエンなのだ。そしてコーナリング中の路面変化にもダンパーは見事に減衰をし、無駄な振動を伝えてこない。コンフォート性が高く魔法の絨毯だと言われればその通りなのだ。
それと忘れてならないのは、静粛性の高さだ。全車ディーゼルターボモデルだが、エンジン音は全くと言っていいほど車内に入ってこない。ロードノイズも非常に抑えられており、プレミアムモデルのレベルに仕上がっている。もちろん400Nmもあるトルクはアクセルレスポンスに優れ、市街地、高速道でのドラビリは高レベルでバランスしていると断言できる。
秘密はダンパーインダンパー
そこまで素晴らしい乗り心地を提供するシトロエンC5エアクロスのハードパーツについても少し説明をしておく必要があるだろう。
プラットフォームはEMP2でプジョー3008と共通で、新世代というわけではない。従来からのプラットフォームではあるが、ダンパーがハイドロリックプログレッシブクッションズという名称でPHCダンパーを搭載している。なんとコイルばねとオイルダンパーの伝統的な構成ではあるが、20ものパテントを持っているというから驚きだ。
特徴はセカンダリーダンパーを内蔵していることで、伸び側、縮み側にもうひとつのダンパーを持っているという構造だ。つまり伸びきった、縮みきった先にもう一回減衰できるダンパーがあるわけだ。3008にはこのセカンダリーダンパーがないタイプを装備している。つまりコンフォート性を重視するための秘密のパーツといえよう。またルノーでも似たようなダンパーを採用しているが、伸び側にはダンパーがないなどの違いがそれぞれある。
減衰特性としてはプログレッシブに減衰特性を変えていて、減衰の立ち上がりは速く、ピストンスピードの遅い領域でもフリクションがなく滑らかに減衰し、ピストンスピードの速い時でも減衰量を一定に保つことができる特徴がある。さらに、大きな入力でダンパーの底付き状態になっても、このセカンダリーダンパーにより減衰できるというわけだ。
またシトロエンはシートにも特徴があるのはだれでも知っているだろう。ふわっとした座り心地はドイツ車と正反対の考え方だ。このC5エアクロスも同様に柔らかい座り心地ではあるが、入念な開発を行なったという。表層に柔らかいスポンジを入れ、内部は高密度のウレタンを採用しているという。これは従来のウレタンの倍以上の高密度だということだ。
フィーリングとしては低反発のクッションに似ていて、柔らかくソフトに触れるが体重がかかるとある程度沈み込む。沈み込んだある部分で体にフィットし、しっかりホールドされるあのフィーリングに似ている。
路面からの入力がこうしたダンパーとシートによって無駄な振動がなくなり不快感は打ち消される。人はコンフォート性を強く感じることができるというわけだ。
競争激しいセグメントへの投入
グローバルでB、Cセグメントサイズは販売の中心的サイズであり、傾向はSUVモデルが主流というのが近年の傾向だ。シトロエンもそのマーケットにSUVを投入したことになる。後発の投入だけに、入念にマーケティングされ、ユーザーからの希望である、多彩なシートアレンジや豊富なラゲッジ容量、そしてルーミーな居住スペースを重点的に盛り込み、クラストップを目指す野望を持って開発している。
デザインコンシャスであるがために、我が道をゆくイメージもあるが、しっかりと市場調査がなされ、要求案件を満たしているモデルと考えていい。あとは実際に乗ってみて、シトロエンのコンフォート性とデザインに魅了されるのか?ということになるだろう。ちなみに軽油のディーゼルはコスパは抜群であることはいうまでもないがWLTC平均モードは16.3km/Lの燃費だ。
最後に安全性能では現在持てる限りのセンサー類を搭載していると説明している。カメラとミリ波レーダーを中心としたADAS(先進安全運転支援機能)を装備し、自転車の検知や夜間での検知性能が向上しているという。特徴的なのは高速道路でのレーンキープ機能だ。
通常は車線内の中央維持がほとんどだが、車線内の任意の場所で維持してくれる。つまり、隣に大型トラックが走行しているとき、すこし離れたいと思うことがあるだろう。マニュアルドライブでは無意識のうちにトラックから離れた位置で走行しているが、他のレーンキープ機能ではセンターを維持するため、少し圧迫感がある。そこで、トラックから少しから離れたところへ車両を持っていくと、その距離感で車線内維持をキープするのだ。白線との位置関係を自動で演算し続けるアルゴリズムを搭載しているため可能になっている。
また渋滞時は3秒以内であれば、自動で再発進するACCも搭載し、全車速対応であるため、かなりの領域で運転疲労の軽減に役立つことは間違いない。
こうして、競争激しいCセグメント市場へ投入されたシトロエンC5エアクロスは、高いレベルの競争力を持ち、激しく魅力を感じるモデルだということも付け加えておこう。<レポート:高橋明/Akira Takahashi>
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