ジャガー初の純バッテリー駆動電気自動車=BEV、I-PACEが日本の路上を走り始めた。I-PACEは補助動力としてのエンジンを備えていないピュアEVで、日本車でいえば日産リーフ、輸入車でいえばレンジ・エクステンダーなしのBMW i3やeゴルフ、それにテスラなどと同類のクルマだ。
それらのなかでは、そのボディサイズや価格帯からいってテスラがライバルということになりそうだが、しかしジャガーはI-PACEをテスラのどのモデルとも違う、独特のポジションに位置するクルマに仕上げてきた。
その最大のポイントはボディのデザインで、世の潮流に乗るべく“エレクトリックハイパフォーマンスSUV”なんて銘打っているが、全高も地上高もSUVを名乗るほど高くなく、しかもそのスタイリングにもいわゆるSUVらしさは希薄だ。それはSUVというより、やや大きめの5ドアハッチバック、というべき形態なのは、写真を見れば一目瞭然だろう。
実際、そのボディサイズは全長4695×全幅1895×全高1565mmというもので、特に背が高いわけではないし、ホイールベースは2990mmという長さながら前後オーバーハングは短く切り詰められ、ノーズも短い独特のプロポーションを持っている。I-PACE、まずはその点がユニークで、ライバルと直接競合する要素の少ない唯我独尊の空気を醸し出しているところが、好ましい。
さてそのメカニズムはというと、まずはそのシャシー、というか最近の用語を使えばアーキテクチャーはジャガーがEV専用に新開発したアルミニウムアーキテクチャーなるもので、ジャガー史上最強のねじり剛性と軽量を見事に両立した、といわれるものだ。
そこに装備されるメカニズムの配置はというと、EVの定石どおりリチウムイオンバッテリーを床下に収めたうえで、前後アクスルに1基ずつの電気モーターを備えるAWDを採用。モーターのパワーとトルクは前後合わせて294kW(400ps)と696Nm(71kgm)というものだ。
対する車重は2230~2240kgと決して軽くないが、モーターもそれなりにパワフルなため、0→100km/h加速4.8秒という高いパフォーマンスを発揮するという。それに加えて、電気モーターを前後アクスル位置にそれぞれ備える構造のため、前後重量配分は50:50という理想的な数値を達成している。
床下にバッテリーを収めているためフロアが少し高めのキャビンに収まると、そこはスポーティとラグジュアリーが巧くミックスされた空間だった。試乗したのは発売記念モデルのFIRST EDITIONで、内装も多くの部分がレザーで設えられていたから、スポーツライクななかに高級感も備わっている。
しかもI-PACEの室内、広さは定員5人、事実上のフル4シーターとして充分なもので、リアシートのレッグルームやヘッドルームにもまったく不足はない。さらにそれに加えて荷物スペースも豊富で、リアのメインラゲッジルームのほかに、フロントフード内側、センターアームレスト下、リアシート下などにも小物入れが設けられている。
とまぁ実用性はヌカリないのだが、走り出して見ると、そのドライビングフィールがなかなかスポーティなことに驚かされる。まずはパフォーマンスだが、0→100km/hが5秒を切るという謳い文句どおり加速は力強く、EV独特の発進はもちろんのこと、中速以上の追い越し加速も充分に爽快なものだ。
と同時にI-PACE、身のこなしもスポーティに躾けられている。サスペンションは、フロントがダブルウィッシュボーン、リアがインテグラルリンクの4輪独立で、コイルスプリング仕様とエアスプリング仕様の2種類がある。
試乗したFIRST EDITIONには後者が標準装備されているが、しかしそれは“エアサス”という言葉からイメージするふんわりとしたものではなく、けっこう硬めの締まった乗り味を披露する。試乗車にパフォーマンスシートなる名前のバケット風シートが備わっていたのも、乗り味がスポーツライクに感じられた一因だろう。
それに加えて、ステアリングは手応えが比較的重く、レスポンスもクイックで、切り込むと同時に短いノーズが素早く向きを変える。床下にバッテリーを収めるEVゆえに重心が低いことに加えて、前後重量配分50:50の恩恵もあり、しかも前記のように脚は硬めだから、そのコーナリングはスポーティという言葉が相応しいタイトなものになる。
しかしだからといって乗り心地が悪いわけではなく、さすがエアサス、硬めながら余計な上下動のないフラットな乗り心地を提供してくれる。試乗車は標準の20インチに替えて、オプションのなかでも最大径の22インチのホイール&タイヤを装着していたため多少バネ下の重さを感じさせたが、そのショックをボディに伝えることがなかったのは、ジャガー史上最強のねじり剛性を確保したというアルミニウムアーキテクチャーの効果だろう。
のちにコイルサスペンションのモデルにも乗ったが、フラット感はエアサスほど明確でないものの、これも乗り心地良好ではある。ただしエアサスは、乗降時に車高が40mm下がるほか、オフロードでは最大50mm上げることが可能なので、SUV的用途を想定するならエアサスを選ぶ価値は充分あるだろう。
EVは、モーターの回生の度合いによって、エンジンブレーキの強さが変わる。I-PACEの場合はパネル操作でLowとHighを任意に選択できるが、後者を選べばかなり強めのエンジンブレーキが得られる。ただしそれは停止直前の回生を弱くしてある印象があるため、場合によっては最後だけブレーキペダルを踏む必要があるが、ほぼワンペダルでドライビングが可能だといえる。
そういう部分も含めてI-PACEはまぎれもなくピュアEVなのだが、加速中にEVらしさをさほど鮮烈に実感することがなかったのは、モーターやインバーターの音が、あまり明確に聞こえてこないからかもしれない。
というわけで、横浜市内の首都高と一般道のみを走った短い試乗だったが、I-PACEはなかなか好ましいクルマに感じられた。ところで、EVにとってある意味もっとも重要な一充電あたりの航続距離は、WLTCモードで438km、最長470kmと公表されている。実質60%として260~280kmは固いか?
さてこのI-PACE、モデルレンジはというと、車種はS、SE、HSE、今回乗ったFIRST EDITIONの4モデルがあり、サスペンションは最初の3モデルはコイルが標準、FIRST EDITIONのみエアサスが標準装備される。ただし最初の3モデルにも23万6000円のオプションでエアサスが装着できる。
で、そのプライスは、Sが959万円、SEが1064万円、HSEが1162万円、FIRST EDITIONが1312万円と、なかなか強気の値付けという印象をうけるが、伝統のジャガーが生み出した新しい乗り物にはそれだけの価値がある、という考えも成り立つかもしれない。
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