すべてが一新されたトヨタブランドの最高峰ミニバン「アルファード/ヴェルファイア」が目指すのは、「快適な移動の幸せ」。初試乗では、その一端をドライバー目線からも垣間見ることができた。贅沢な2列目シートはもちろん最高だけれど、ハンドルを握ってこそ初めてわかる「本領発揮」もある。とくに磨き抜かれた「強靭な身体」の完成度は、想像を超える走りの革新をもたらしていた。
もしかすると今、もっとも魅力的な「運転席」を持つトヨタ車かも
【公道試乗(1)ショーファー編】では、新型アルファード/ヴェルファイア(以下、便宜的にアルヴェルに短縮)の快適性、走行性能を向上させる技術について検証してみたが、それらは同時にすべてが、ドライバビリティについても少なからず影響を与える改良・改善に他ならない。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
細部にわたるボディ剛性向上、周波数感応型サスペンションといった振動制御の新技術などによって加減速時の姿勢変化を適正化させることは、ドライバーにとっても歓迎すべき変化につながる。それらすべてが、動的挙動を安定させるとともに、フィーリングを洗練させてくれるものだからだ。
そのあたりの進化ぶりに期待しながら運転席に座ってみると、およそミニバンとは思えない「包まれ感」に驚かされる。ただしそれはけっして不快な「タイト感」をともなうものではない。
ダイナミックかつエレガントに左右に広がりを見せるインストルメントパネルと、小ぶりなメーターナセル、大ぶりだがけっして目障りではない14インチタッチパネルディスプレイを中心とした重厚感あふれるセンターコンソールなど、部分ではそれなりに主張の強いデザインながら、すべてがバランスよく調和している印象だ。
座っているだけでも「収まり感」が心地よい。少々ミニバンらしからぬ「美点」になってしまいそうだが、クルマとの一体感がほどよく感じられる。
新型アルヴェルのコクピットを、トヨタはリリースの中で「クルーザーのような」と表現しているけれど、どちらかといえば雰囲気は完全にグランドツアラーだと思えた。視点の高さはまったく違うものの、目に入ってくるのはミニバンではなく、さながらスペシャリティ性の高いクーペのインターフェイスだ。
きわめて自然体のドライビングポジションも含めて、今もっともカッコよくて乗ってみたいと思わせるコクピットを持つトヨタ車ではないか、とすら思える。
12.3インチTFTカラーメーターとマルチインフォメーションディスプレイも、ちょっとクールな印象が好ましい。機能一辺倒ではなく、ドライブモードの切り替え時のアニメーション表示など、積極的に使ってみたくなる粋な演出も盛り込まれている。4つのテイスト、3つのレイアウトを組み合わせる表示のアレンジメントは、飽きの来ない愛着を感じさせる訴求ポイントのひとつになりそうだ。
総じて、非常に居心地のよいコクピットではあるのだけれど、新型アルヴェルがミニバンである、という前提でひとつ気になったことと言えば、センターコンソールの厚みだろうか。助手席に大きめの荷物を置いたときに、すっとストレスなくつかみあげることが少し難しい。
当然ながら、助手席の「大切な人」との距離はそれなりに空いてしまうのは残念。もしかすると今後、コンソール部が最小化された、距離感近めの仕様が追加されるのだろうか。
トヨタハイブリッドシステムの「良さ」を際立たせる強靭ボディ見出し
さて、いよいよテストドライブに繰り出そう。今回の試乗会では、新型アルファード/ヴェルファイアのパワートレーンラインナップをほぼ一式、短時間ではあるが体感することができた。
アルヴェルともに2.5L直4ハイブリッド(システム最高出力250ps)のエグゼクティブラウンジを用意。ヴェルファイアでは、FF仕様と4WD(E-Four)を乗り比べることができた。
ほかに、アルファードにのみ設定されている2.5Lの直4自然吸気ユニット(182ps)×CVT(Z 4WD)、ヴェルファイアの同じく2.4L直4ながら直噴ターボを備えたハイパフォーマンス仕様(279ps)×Direct Shift-8AT(ZプレミアFF)を試乗。ラインナップの中ではお手軽仕様ともっともスポーティな仕様となる。
まずはヴェルファイア・ハイブリッドモデルのハンドルを握ったのだが、新調された「ブレない身体」との相性が抜群に良いことに驚かされた。とくに高効率でスマートな制御を見せるハイブリッドシステムは、遮音性、振動などで進化した快適性という新型のバリューをわかりやすく実感させてくれる。とくに街中をEVモードで走る時は、さまざまな意味での静粛性の高さが際立っていた。
高速道路に入って80km/hほどで流していると、さらに頑健なシャシ、フットワーク系の洗練ぶりを味わうことができる。ヴェルファイアはフロントパフォーマンスブレースや19インチの大径タイヤを標準装備する走り重視の仕様になっているのだが、不快な硬さが気になる場面はほとんどなかった。
あらゆる速度域で、操舵に対する動きは素直、しかも身のこなしが洗練されている美点のほうが、圧倒的に印象に残る。車線変更ひとつとっても、非常にスムーズ&ナチュラルだ。タイヤから伝わってくる接地感も豊かで直進時に妙なストレスを感じることはない。
洗練された、という意味ではE-Fourと頑健ボディとのマッチングも良好だ。街乗り領域から細かく後輪の駆動力に加えられた制御が、ある意味、2WD以上によどみのないすっきり感のあるハンドリングを生み出している。
一方、比較的ソフト路線となるアルファードのハイブリッドモデルの方はといえば、ほどよく緩めな感じがかなり好ましい。最上級のエグゼクティブ ラウンジでもタイヤは17インチで、ヴェルファイアに比べるとさまざまな意味で挙動は大きめ。それでも全体的な走りの質感や安定感、安心感は確実に従来型からグレードアップを果たしている。
ほどよく残った「ミニバンらしい」味付けは、従来車に乗っている現役オーナーにもなじみやすいかもしれない。各部が引き締められたヴェルファイアとは別の意味で、リラックスできる世界観が魅力だ。ヴェルファイアの場合は挙動や乗り心地にセダン感覚が強く、高い目線との違和感を覚える場面もあったが、アルファードは終始のんびりお気楽に操ることができる。
4WDで559万8000円、FFなら540万円とかなりリーズナブルな価格設定となる2.5Lガソリンモデルも、非常にバリューに優れているように思えた。パワー感も質感も他のパワートレーンに比べるとやや控えめではあるものの、18インチタイヤのおかげもあってか、全体的にバランスの良い走りを楽しむことができた。
シャシ性能の高さが「さらなる贅沢」を求めさせてしまうのか・・・
さて、スポーティ派に注目のヴェルファイア専用2.4L直噴ターボエンジンだが、こちらもハイブリッドとは違う意味で、がっしりボディとの相性は抜群だ。ドライバーをその気にさせるリニアリティとパワー感を、存分に引き出してくれる。
アクセルレスポンスに優れ、2トンを優に超えるボディが想像以上に機敏に動く感覚は、なかなかに新鮮だ。回転が上がった時のやや乾いたエキゾーストノートも、ほどよい刺激になっている。
あえて注文をつけるとすれば、街乗りでもう少しトルクの厚みを感じさせてくれると、いかにも「直噴ターボらしい」ゆとりをもっと味わいつくせるような気がした。アクセルに対するツキとか排気音の音圧などに、もう少し色気が欲しいと思えたのだ。
もちろんそれはあくまで「贅沢な注文」なのだけれど、ボディまわりの質感が高いからこそ、余計にもうひと押し、パワートレーンにも上質感が欲しいと思ってしまうのかもしれない。あえて言うなら「シャシが勝っている」ように感じられたからだ。もっともそのあたりは、今後追加されることが決定しているPHEV仕様が担うことになるのかもしれないが。
正直、これまでのアルヴェルに対しては半分ジェラシーも込めて「上から目線で圧倒する存在感と豪華なおもてなしを、オーナーとしてパッセンジャーに楽しんでもらう」ために選ぶべきクルマだと思い込んでいた。
だが新型アルヴェルを運転していると、「大空間高級サルーン」としての普遍的価値を極めながらも、「ドライバーが操る」楽しさについても妥協することなくしっかり大切に育てていることがわかってくる。
かなうならこのクルマで仲間たちとドライブに出かける時には、皆で乗る席を交代しながら、じっくり走り続けてみたい。クルマという乗り物がもたらす「最高の移動時間」が果たしてどこまで深まり、広がりを見せてくれるのか、新型アルヴェルならきっとわかりやすく教えてくれることだろう。(写真:井上雅行)
トヨタ ヴェルファイア エグゼクティブラウンジ 4WD主要諸元
●全長×全幅×全高:4995×1850×1945mm
●ホイールベース:3000mm
●車両重量:2310kg
●エンジン:直4 DOHC+モーター×2
●総排気量:2487cc
●最高出力:140kW(190ps)/6000rpm
●最大トルク:236Nm(24.1kgm)/4300−4500rpm
●モーター最高出力:134kW(182ps)+40kW(54ps)
●モーター最大トルク:270Nm(27.5kgm)+121Nm(12.3kgm)
●トランスミッション:電気式無段変速機
●駆動方式:4WD(E-Four)
●燃料・タンク容量:レギュラー・60L
●WLTCモード燃費:16.9km/L
●タイヤサイズ:225/55R19
●車両価格(税込):892万円
トヨタ ヴェルファイア Z Premier 2.4Lターボ/2WD主要諸元
●全長×全幅×全高:4995×1850×1945mm
●ホイールベース:3000mm
●車両重量:2180kg
●エンジン:直4 DOHC 直噴ターボ
●総排気量:2393cc
●最高出力:205kW(279ps)/6000rpm
●最大トルク:430Nm(43.8kgm)/1700−3600rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:2WD
●燃料・タンク容量:レギュラー・75L
●WLTCモード燃費:16.9km/L
●タイヤサイズ:225/55R19
●車両価格(税込):655万円
[ アルバム : 新型アルファード/ヴェルファイア初試乗(2) はオリジナルサイトでご覧ください ]
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