トヨタ bZ4Xやスバル ソルテラ、レクサス RZなど、続々と新型EVが発表されているが、爆発的に売れることを期待するのは難しい。日産 サクラや三菱 eKクロスEVは価格帯的にも手が届きやすいため、受注は好調のようだが、登録車クラスとなると起爆剤となるインパクトが必要だと考えられる。
そんな起爆剤となり得そうなデザインを採用しているのが、トヨタがEVラインナップの一角として発売を明言している「コンパクトクルーザー」だ。日本でもそのデザインから、FJクルーザーや市販化には至らなかったTJクルーザーとイメージが重なる人も多く、注目度が高いクルマとなっている。
注目度爆上がり!? 武骨さがたまらない! コンパクトクルーザーEVの期待値
そんなコンパクトクルーザーだが、登場前から欧州のデザイン賞を受賞したという。その期待値について語っていきたい。
文/桃田健史
写真/TOYOTA
撮影/三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY
■ミラノデザインウィークデザイン賞受賞!! つまり……ホントに出すんですよね?
ミラノデザインウィークのデザイン賞を受賞した「コンパクトクルーザー」。写真は2021年12月に、トヨタがメガウェブで一斉にラインナップを公開した時の姿(撮影:三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY)
トヨタの欧州デザインスタジオであるED2(イーディ・スクエア)が描いた「コンパクトクルーザー」が、ミラノデザインウィークのデザイン賞を受賞した。
そうしたニュースが日本でも注目されるのは、日本のユーザーがトヨタに対する「コンパクトクルーザーは、本当に量産するんですよね」という”念押し”の現れのように思える。
まずは、次世代BEV(電気自動車)としての存在だ。今はなき都内の大型施設メガウェブで2021年12月14日に実施された「BEV(バッテリーEV:電気自動車)戦略に関する説明会」。
筆者はこの説明会の現場を取材したが、会見の前半、bZ4Xを筆頭にそのほか4台のbZシリーズコンセプトモデルが登場した時点で、トヨタのBEVに対する本気度を感じた。
ところが、会見に進む中、豊田章男社長が「具体的には、2030年までに30車種のBEVを展開し、グローバルに乗用・商用各セグメントにおいてフルライナップでBEVをそろえてまいります」と前振りし、トヨタBEVラインアップを一挙公開した。
豊田社長の背後にあった幕が下り、舞台上には量産BEVのbZ4Xのほかに、15ものBEVコンセプトモデルが登場したことは、多くの人の記憶に新しいだろう。
そのうちの一台、一番後ろの3列目、左から2台目がコンパクトクルーザーだった。
会見のあと、さまざまなメディアがトヨタBEV新戦略を取り上げたが、その中でコンパクトクルーザーに対する評価がすこぶる高かった。
だたし、コンパクトクルーザーを含めて、これらコンセプトモデルについて、豊田社長は量産前提の「本気」を示したが、トヨタとして量産確定を正式発表している訳ではない。
過去にも、量産前提という触れ込みだったが実際に量産されなかったり、初期プロトタイプから量産までかなりの時間を要したトヨタ車は少なくない……。
■TJクルーザーの二の舞にならない?
〇〇クルーザーといえば、ユーザーにとって”苦い想い”がある。それは、TJクルーザーだ。
2017年の東京モーターショーで世界初公開された際、筆者はトヨタブース内で以前からの知り合いを含む複数人のトヨタ関係者から「市場動向を見極めてから量産へ」といった声を聞いていた。
実際、展示されたコンセプトモデルの外観はボディのウエストラインから天井までの、いわゆる上屋(うわや)が小さい独特の意匠だが、インテリアの出来栄えから量産前提というトヨタの想いが伝わってきた。
2017年の東京モーターショーで世界初公開されたTJクルーザー。存在感のあるスクエアなボディに、SUVらしい大口径タイヤを装着。SUV×バンの融合させた新ジャンルを開拓するモデルだった
ダッシュボードのデザイン、そして助手席とリアシートがフルフラットになる機構など、とてもしっかりと出来ていた印象がある。
プラットフォームもプリウスやカムリと共通で、当時トヨタ車が続々と転換していたTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)を採用するといった触れ込みも、量産前提の条件として理解できる内容だった。
その後、自動車メディアの一部ではTJクルーザー量産化を指摘する記事が出たが、結果的にTJクルーザー量産計画は事実上、フェードアウトしてしまったようだ。
なぜだろうか? ひとつは、社内体制の中で意思決定プロセスに関することではないか。
TJクルーザーのコンセプトモデルが登場した当時、トヨタは社内カンパニー制という新体制に移行してから1年ほどであり、筆者の記憶が正しければTJクルーザーはCV(コマーシャルヴィークル)カンパニーが対応していたと思う。
つまり、これはランドクルーザーや各種ミニバンを担当するトヨタ車体だ。
その後のトヨタのSUV戦略では、RAV4を中核に、ヤリスクロス、カローラクロス、ハリアー、さらにダイハツとの連携でライズという、乗用車からのクロスオーバーとしてのSUVが主流となっていった。
ミニバンとSUVの融合というTJクルーザーでは、トヨタが想定する販売台数に達することが難しい、または海外市場での需要があまり見込めない、といったトヨタ上層部の経営判断からTJクルーザーは事実上、お蔵入りになってしまったのかもしれない。
また、当時の報道で「FJクルーザー後継」という言い回しを数多く見たが、FJクルーザーがアメリカ主体の海外モデル専用車だった時代からその動向を知る者のひとりとしては、TJクルーザーとFJクルーザーは同一線上にいる製品でないように感じていた。
なぜならば、FJクルーザーには、GMハマーH3というガチンコライバルがいたからだ。当時、アメリカ国内で両モデルの比較試乗を各種メディア向けに頻繁を行った者として、そう感じる。
一方、TJクルーザーは上屋の小ささという外観意匠ではFJクルーザーっぽさが少しあるが、実際のライバルは三菱デリカD:5であった。トヨタとして、競合他社による”唯一無二の存在”は基本的に許さない、といった営業戦略の現われだろう。
いずれにしても、前述のトヨタ新BEVラインアップの中にTJクルーザーらしきモデルはなく、それに代わって注目が集まっているのがコンパクトクルーザーだ。
e-TNGA採用のコンパクトクルーザーが、トヨタBEV飛躍の起爆剤になるだろう。今後のトヨタの動向を注視していきたい。
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