ファインモータースクールで今季7回目の体験走行会開催
事故などで障がいを抱えてしまって、2輪車を諦めた人に再びオートバイに乗ってもらい、オートバイに乗る趣味を一緒に楽しんでいけるようにしたい……。レーシングライダーとして世界で活躍した青木三兄弟の長男・青木宣篤選手と三男・治親選手のふたりが立ち上げた一般社団法人サイドスタンドプロジェクト(SSP)が、障がい者を対象とした「パラモトライダー体験走行会」を定期的に開催している。
全盲ライダーも果敢に走行! 障がいのある方も楽しめる「パラモトライダー体験走行会」が開催
開催場所は関東中心だったが三重県など徐々に拡大中
その活動初年度となる2020年は「パラモトライダー体験走行会」を6回開催、そして2021年はこれまですでに6回を開催。そして10月11日に7回目が開催された。当初、千葉県にある袖ヶ浦フォレストレースウェイ、そし茨城県にある筑波サーキットで開催していたこの体験走行会は、昨年末に群馬県自動車学校、そして神奈川県向ヶ丘自動車学校で開催。さらに、今年6月には三重県にある鈴鹿サーキットと、徐々にだが新たな開催場所が増えている。今回はこのSSPの活動にも協賛する、埼玉県のファインモータースクール上尾校で初めての開催となった。
ファインモータースクールは、高齢者講習専門の大宮校に加え、指扇校、上尾校と埼玉県内に3拠点を持つ自動車学校で、会場となった上尾校は、そのなかでもっとも大きな教習コースを持つ施設となっている。エコドライブを教習カリキュラムに取り込んだ「楽エコ運転」が学べるオリジナル教習を展開するほか、家族で楽しめる「まるごとバイクフェスティバル」というバイクイベントを開催。そのほかにも「ジュニアドライビングスクール」でクルマの楽しさを伝えていく活動など、「事故のない 心豊かなひとを育む社会をつくる」という理念実現のため、さまざまな活動を展開している。
この日は記者会見も行われ、ファインモータースクールを運営する株式会社臼田の臼田和弘代表取締役も出席。「SSPに参加するのは初めて。この企画話を聞いて、とても良い取り組みだなと思いました。青木さんの『過去にバイクを乗っていて、これを機会にふたたびバイクに乗れるようになった方の表情を見るのは嬉しいし、とにかくパラモトライダーに楽しんでもらいたい』というその思いに共感しました。当社の考えに通ずるものも感じましたので、協力を申し出ました。今後も協力させていただければと思っております」とコメント。
4名のうち2名が初めて参加してくれた
今回は4名の障がい者が参加。その内、初参加は2名。辰己晃一さんは胸椎の脊椎損傷(Th11-12)の不全麻痺で車いすを使用しているものの、つたい歩きはできるという状況。そしてもうひとり、奈佐誠司さんは脊椎損傷(Th7-8)とともに引き抜き損傷で、左腕は動くもののグリップを握ることは難しいという。
2回目の参加となる囲 美和さんは「壊死性筋膜炎(人喰いバクテリア)」による右足大腿部からの切断。3回目の参加となる古谷 卓さんも胸椎(Th12-L1)の脊椎損傷による下半身の完全麻痺だ。
4名同時進行でプログラムを進めるのではなく、それぞれ1時間ずつの時間を設けてステップアップをしていくこととなった。
また、この参加者と一緒に、青木兄弟の大先輩にあたる小林大さんも来場。小林さんは80年代に全日本ロードレース選手権250クラス(1984、85年にチャンピオン獲得。1987年は味の素TERRAカラーのNSR250でチームメイトの清水雅広選手とタイトルを競い合った)、そしてロードレース世界選手権にもスポットで参戦し活躍(1987年の日本GPで初参戦初優勝)した元ライダー。ヘリコプターの墜落事故で足に障がいが残っているものの、杖を突いて歩くことができ、この会場にも顔を出してふたりの仲間のライダー復帰の様子を眺めていた。
思う存分楽しめるよう参加者に合わせてバイクをアレンジ
SSPでは、下半身不随の障がい者でも乗車が可能となる補助システムを搭載したバイクを製作した。制御の利かない下半身は、両腿を制御するシートベルト、そしてライディングブーツとバイクのステップをビンディングで接合。そして、停車時・走行開始時に自立しないバイクを数多くのボランティアスタッフが支えることで、ライディングを可能にしている。
今回もシフトべダルにアクチュエーターを取り付け、シフト操作を手元で行える仕様となった車両4台を持ち込んだ。サイドアシスト車(アウトリガー補助輪付きの小型車両)2台と、MVアグスタ・ストラダーレ800、BMW F750GSとなる。サイドアシスト車は3タイプ(接地タイプの補助輪付き、補助輪が10cmほど浮いた仕様、補助輪が20cmほど浮いた仕様の3種類)のサイドアシストを、プログラムによって付け替える。
また、下半身不随でかつ左手の握力がない奈佐さんに対応するため、クラッチ操作を右ハンドルで行うシステムを追加。ハンドルの前方にブレーキレバー、手前側にクラッチレバーというレイアウトでのバイクとなった(ただ、これについては要改善ポイントもあり、SSPとしてはさらなる改良を加えていく予定)。左手はハンドルを握るサポートとして、ウエイトリフティング選手が使用する、シャフトと手首を固定するサポーターを用意して体験走行を行った。
久しぶりのバイク試乗後は誰もが笑顔に!
この日は、好天に恵まれ、10月だというのに、まだまだ陽射しがきついなかでの開催となった。今回も総勢40名近い多くのボランティアスタッフが早朝から会場に集まり、サポートの確認作業をするなど、順調に準備を進めていく。前々回から導入されたライダーとサポートスタッフとの通信用インカム「B-com」は、今回から外部スピーカーを通して会場全体にその内容が流されることとなり、パラモトライダーの歓喜の声が会場に何度も響き渡ることとなった。
大阪から初参加となった奈佐さんは、事故の前まで着ていた当時の自身のツナギを持ち込み、35年ぶりにその姿を披露。革ツナギを着ただけですでに満面の笑みとなっていたが、汗をかきながらも「短い時間だったけれどバイクに乗れて、感無量です。歩けるようになるのに近いくらいの感動です。自分ももっとこの活動を広めたいとまじめに思いました。バイク最高!」とコメントしてくれた。
サイドスタンドプロジェクト(SSP)の「パラモトライダー体験走行会」は、次回ついに本州を飛び出し、九州での開催となる予定。会場は11月14日(日)、 熊本県にあるHSRサーキットだ。
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