2月17日、マクラーレンは、ハイブリッド・システムを搭載する「Artura(アルトゥーラ)」を発表した。なにもかもが新しくなったこのスーパーカーについて、開発担当者へのインタビューをも交えつつ、西川淳が解説する。
ほぼ新設計
マクラーレンから新しい“スーパーカー”が誕生した。アルトゥーラだ。
「今時、スーパーカーブランドでも新型はSUVじゃないの?」なんて思った人は、ひとつだけ覚えておいて欲しい。私見であるものの、マクラーレンは最後までSUVを作らないブランド(年産千台以上)になると想う。否、もうすでに、それは既定路線になっているかも知れない。
なにしろイタリアのライバルがSUVを開発しているのは公然の秘密だし、ほかの高級ブランドはすべてSUVをラインナップする。対してマクラーレンは頑なに2座のスポーツカー、それもミドシップモデルのみだ。もちろん新型車もそうである。
これまでのシリーズ・モデルともっとも大きく異なる点(そして最大のニュース)は、プラグ・イン・ハイブリッドシステムを搭載した点だ。そのために、おそらくはロゴ以外、すべてを新設計とした。
従来モデルからキャリーオーバーしたパーツは一切なし。構造はおなじで中身をハイブリッドにしたわけではないのだ。なかでも一新されたCFRPボディ(MCLA)は次世代型のアーキテクチャーで、今後、マクラーレンシリーズの文字通り核となる。
マクラーレンの電動化といえばこれまでにも「P1」や「スピードテール」といった、彼らが“アルティメットシリーズ”と呼ぶモデルがあったが、それらはあくまでも限定車で、プライスも桁違い。対してアルトゥーラは車格的にもGTと720Sの間に入るモデル。今後、マクラーレンの販売の主力を担うことになる。
“ダウンサイジング”の意味
注目のハイブリッド・システムについて簡単に触れておこう。マクラーレンのエンジンといえばこれまでV型8気筒ガソリンツイン・ターボのみだった。3.8リッターに始まり、4.0リッターも登場するなど仕様は数あれども、基本形式はひとつだったのだ。
それが今回はV型6気筒ガソリン・ツインターボ+電動モーター&バッテリーというスタイルになり、排気量も3.0リッターに引き下げられた。いわゆる“ダウンサイジング”だ。思い出すべきは「MP4-12C」である。マクラーレンが2009年にそのコンセプトを発表し、2011年から生産を始めた念願の自社開発スーパーカーだったが、大排気量の自然吸気エンジンが幅を利かせていた時代に既にV型8気筒ながら3.8リットルのターボカーを世に問うていた。彼らは常に“ゲームチェンジャー”なのだ。
V型6気筒エンジン「M630」もまた完全な新開発だ。縦置きV型120度というユニークなデザインで、V字の谷間にターボチャージャーなど補機類を積み込む。開発担当のエンジニアによれば、「V型8気筒は外部サプライヤーとのコラボで誕生したエンジンだったが、今回はマクラーレン内製だ。軽量であることはもちろん、コンパクトで低重心。しかもエンジンパフォーマンスは120度を選んだことで向上しており、高回転域までストレスなくまわる」という。
V型6気筒エンジン単体ではV型8気筒より50kgも軽い160kgで、最高出力は既に585psを得る。従来のスポーツシリーズのスタンダードグレード「570S」をこの時点で上まわっていることに留意しておいて欲しい。
これに組み合わされたのが電動化アイテム、アキシャルフラックスモーターとリチウムイオンバッテリーだ。前者はラジアル型に比べて薄型でより高トルクを発揮するモーターで、単体で95ps&225Nmを発する。P1に搭載されていたモーターよりもかなり強力だ。
専用開発のデュアルクラッチタイプの8ATとV型6気筒エンジンの間に配されており、ハイブリッドシステム担当のエンジニアは「エンジン側とモーター側の両方で連結可能だから、パワートレインの性格をさまざまに変えることができる。このセッティングがもっとも難しいところだった」と、述べた。
リチウムイオンバッテリーは7.4kWhで、フルEVとしての航続距離は30kmと少ないものの、スーパーカーにとってはこれだけでも得るところが大きい(そのわけは後述)。前出エンジニアが、「常に重量増とのバランスを取らなければならなかった」というのは当然で、これだけでもおそらく70~80kgに達する(筆者推定)。
配電ユニットとまとめて新開発ボディの床面に取り込んだ。重量配分もさることながら安全性も高い。車両重量は1.5tクラス。軽さは健在だ。マクラーレンとしてはこれが現在の(そしてアルトゥーラというモデルの格に見合った)最適解だった。
デザインのテーマは3つ
いずれにしてもハイブリッドパワートレーンのシステム出力は何と680psに達しており、0~100km/hの加速タイムはわずかに3秒。既存モデルでいえば「600LT」と遜色ないパフォーマンスであり、さらにいうと加速レスポンスはマクラーレン最強の部類に入るという。気になる(?)CO2排出量は129g/km(EU WLTPモード)。
すべてが新開発という点で、ほかに書きたいことがある。マクラーレンといえばカーボンモノコックボディとプロアクティブシャシーが走りの髄だったわけだが、それらも大幅に進化しているようだ。けれどもこのあたりはまたテストドライブの機会を得た時に印象も踏まえて解説したいと思う。関係者は、「ドライブフィールは明らかにマクラーレンであるものの、すべてにわたって新次元だ」と、話す。
最後にアルトゥーラのデザインについて。オートモーティヴ初期から関わるチーフデザイナーで旧知のロブ・メルヴィルと話をする機会があった。
「とにかく早く実車に座ってみて欲しい。見た目のクオリティが高いうえ、驚くほどにすべてがドライバー中心で、信じられないくらいに素晴らしいヴィジビリティ(視認性)を実現したよ」と、インテリアについて熱く話していたのが印象的だった。
ロブによると、アルトゥーラはそのMCLA構造からハイブリッドパワートレーンや要求される空力や冷却性能など、すべてが新たな基準だったので、白紙からデザインしなければならなかった。「一切の妥協なく、常に軽いことも意識した」という。
キーワードは3つあるとのこと。「ひとつは“ピュアリティ”。ラインの美しさだけでなく、内包するコンポーネンツとの融合を目指した。これにより美しさと軽量を実現する。次に“テクニカル・スカルプチャ”。自然の造形物がそうであるように、車体をとりまく様々な力によって形成されるようなデザインを目指した。そして最後に“ファンクショナル・ジュエリー”。飾りは要らない。機能的なデザインを美しくしたかった」と、話した。
アルトゥーラのシルエットは、クラシックなスーパーカーラインを継承している。長く低く尖ったノーズ、コンパクトなホイールベース、大径の前後異サイズタイヤ、前よりに盛り上がったキャビンは膨れたフェンダーのあいだに埋もれるように配され、リアのオーバーハングはとても短い。静止していてもダイナミックなエネルギーを感じる。筆者はとくに、押出しのあるマスクと、大きなサイドインテーク、エアロデバイスのないリアエンドが気に入った。
ロブが話したように、エクステリアには余計なラインや付加物がほとんどない。継ぎ目も極力減らされている。すべてが機能的に必要なデザインで、例えば空気の通り道を設けたエンドピラーは、Vホットターボの熱気を上手く逃す役割も担っている。ちなみにロブ自身のお気に入りは発表会にも登場したグリーンであるものの、自分で買うなら「ブラック」なのだそう。
インテリアの見た目も素晴らしい。“ドライバー中心”を貫いていることが即座に理解できる。中央のモニターはドライバーを向いており、メーターナセルにはハンドルを握りながら指先で操作できるスウィッチを設置。ドライビングに専念してドライビングダイナミクスに必要な操作が行えるデザインで、「最も理想的なドライビングポジションを見つけた」と、ロブは話す。
アルトゥーラのインテリアをオーダーするときには、シートをクラブスポーツかコンフォートかを選び、それから新たに3つ用意されたテーマをチョイスするという。ドライビング重視の“パフォーマンス”、ラグジュアリィな“テックラックス”、そして色や素材の新たな組み合わせで未来を感じさせる“ビジョン”、だ。
スーパーカーと電動化
マンションや住宅地のガレージを、イベントのある日曜早朝にスーパーカーで出発するのは気が引ける。ホテルの地下駐車場でも申し訳ないと思ってしまう。けれど、アルトゥーラなら大丈夫。最大30km、最高速130km/hまでフルEVで走ってくれるのだから。
それに慣れてしまううちにフル電動のスーパースポーツが欲しくなってしまうことも十分に考えられる。もっとも「アルトゥーラのエグゾーストノートも素晴らしい」と、V型6気筒エンジン開発の責任者が言っていた。
スーパーカーにとっても電動化(ハイブリッド化を含む)はいよいよ“まったなし”の時代である。排出ガス規制もさることながら、騒音規制も厳しくなる一方だからだ。ハイブリッド化のみならず、フルEVで途方もないパフォーマンスを誇示するニューモデルも散見されるようになってきた。
フェラーリやランボルギーニといったマクラーレンのライバルとなるメジャーブランドは、しばらくプラグ・イン・ハイブリッドのパワーユニットを重視することだろう。
一方、ブガッティやパガーニなどのハイパーカーブランドは思い切った電動化を目指すかもしれない。マセラティのようにピュア内燃機関とフルEVを両立するモデル(MC20)をリリースするブランドも増えるだろう。ミドシップレイアウトが今になってかえって増えつつあるのは、重いバッテリー対策も視野に入れているからだ。
いずれにしても新たなパワーユニットの開発は、コネクト技術と同様に、社会的要請に応えつつ、バリエーションを広げてユーザーの選択に任せるという手法となっていくはず。スーパーカーの未来を決めるのは我々ユーザーであることをスーパーカーブランドは知っている。
文・西川淳
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みんなのコメント
アルトゥーラが悪い車とか言わないが、これよりも魅力的な車は今後も出てくる。
でも非電化多気筒エンジンを買えるのは今だけだ。
メーカーの思惑に乗ってMC20とかアルトゥーラを買うよりもスーパーファストやアヴェンタドールを買うべし。