今尾直樹がフォルクスワーゲンの最新SUV「T-Roc」に試乗した。「ゴルフII」を思い出したという。
これからのコンパクトSUVとは
クルマと遊ぼう──ウィズコロナ時代のウィズカー【マセラティ レヴァンテ編】
目も覚めるようなアトランティックブルーメタリックにホワイトのルーフが清々しい。7月15日に発売となったフォルクスワーゲン・T-Roc(ティーロック)は、葉山とか軽井沢とかに似合いそうな、都会派のコンパクトSUVである。
T-RocのTは、VWのSUV一族であるトゥアレグ(Tuareg)、ティグアン(Tiguan)のT、Rocはロック&ロールのRock(揺さぶる)に由来する。♪だんだんだん、だんだんだん。ウィー・ウィル、ウィー・ウィル・ロック・ユー! と、フレディのマネをして歌っていないで、先に進めたいと思います。
T-Rocはフォルクスワーゲンの現行ラインナップでゆいいつ2トーン・カラーが選べる。ルーフの色にはホワイトとブラックがあって、ホワイト・ルーフは4つあるグレードのうち、試乗車のスタイル・デザイン・パッケージという仕様に設定されている。
ルーフがブラックだと、写真で見る限り、精悍な印象を受ける。ホワイトだと、1950~1960年代のファミリー・カーっぽくて、いいなぁ、と、私は思うけれど、それは筆者が勝手に思っていることである。
直線基調の外観は、SUVとしては低めで、ファストバック風に下がっていくクーペ・スタイルのルーフ・ラインを特徴とする。リアのフェンダーがモリモリ盛りあがっているけれど、日本仕様はいまのところFWD(前輪駆動)のみになる。
本国には4WDがあるのだから、日本市場にも導入すればいいのに……と、思う反面、兄弟車のT-Crossなんて、より本格SUVっぽいカタチをしているのに、本国にも4WDの設定がない。今次のSUVブームは4WDであることは必要条件ではない、と、フォルクスワーゲンは判断しているのだ。
そういえば、2017年10月にワールド・デビューをT-Rocが飾ったときのリリースにこんなことが書かれている。
「コンパクトSUVは、ヨーロッパと中国で80%が販売されていた。ブラジル、インド、ロシア、米国でも重要度が高まっている。10年後(ということは2027年)、世界市場におけるコンパクトSUVの年間販売台数は640万台から1006万台にまで成長すると見込まれる」
1.5倍に膨れ上がるコンパクトSUVセグメントの成功要因として、フォルクスワーゲンは「ダイナミックな外観」「高い機能性」、そして「コンパクト・サイズなのに高い着座位置」の3つをあげている。「高い機能性」のなかに「オフ・ロードの走破性」も入っているとも考えられるけれど、独立して書き出されているわけではない。日本仕様のT-RocがとりあえずFWDのみなのも、今後のコンパクト・クロスオーバーSUVのあり方を示しているのかもしれない。
H.Mochizukiドイツ車らしい乗り心地
エンジンはフォルクスワーゲン/アウディ自慢の直噴ディーゼル・ターボのTDI、2.0リッター直列4が気筒日本仕様には選ばれている。ギアボックスはおなじみのデュアル・クラッチ式オートマチックの7速DSGである。
着座位置はSUVらしく若干高めだけれど、ヨッコラセとよじ登るほどには高くない。クーペ・スタイルのため、室内はものすごく広いわけではないけれど、天井が迫ってくるような圧迫感はない。
インテリア、とりわけインストゥルメントまわりのデザインはシンプル&クリーンで好感が持てる。兄弟車のT-Crossとも共通するこれは、いかにもモダンな小型実用車という雰囲気で、高級そうに見えない居心地のよさがある。チープ&シックなわけである。
スターター・ボタンを押すと、フロントに横置きされている2.0リッターTDIが目を覚まして、ゴロゴロ、ディーゼル・サウンドを奏ではじめる。ゴルフやパサート、ティグアンでおなじみのTDIは、最高出力は150ps/3500~4000rpm、最大トルクは340Nm/ 1750~3000rpmを発揮する。車重1430kgのボディを走らせるには十分以上で、ブレーキ・ペダルを緩めるだけで軽やかにスタートする。ブレーキは低速でサーボがちょっと効き過ぎる。と、思ったけれど、すぐに慣れた。
乗り心地はドイツ車らしい、路面の凸凹を踏みしだくような印象で、ボディがしっかりしていて、走行距離が3041kmの新車ということもあってか、足が動くのが硬いというのか、タイヤが硬いというのか、テキパキと硬い。
高速域で真価を発揮
一般道から首都高速にあがると、水を得た魚、路面がよくなったこともあるけれど、乗り心地がスムーズになる。
4500rpmぐらいからゼブラ・ゾーンが始まるタコメーターを眺めながらアクセル・ペダルを踏み込むと、2000あたりから、ぐおおおおおおおおおっと加速する。さすが340Nmの大トルクである。
首都高速の流れに乗って走っていると、エンジン音が高まる前の1500rpmぐらいでDSGがシフトアップする。低速ではゴロゴロいっていたけれど、エンジン音はたいへん静かである。
目地段差を乗り越えるときに、バフォン、バフォン、という音が伝わってくる。ショックそのものはさほどでもない。音の大きさが庶民的というべきか、小型車っぽい。速度が上がるほどに、風切り音が聞こえ、ロード・ノイズが出やすい路面ではそれがはっきりよくわかる。目地段差ではときに跳ねたりもする。足まわりに電子制御の類をもっていない。基本的には高速セッティングで、バネが硬めなので、速度が低いとボディが揺れる。
自動車に乗っていることの面白さというのは、時々刻々と状況が変わることをナマで味わえるライブ感にある。そのライブ感を、ダメなクルマはダメに伝え、よいクルマは生き生きと伝えてくれる。
ダッシュボードのMODE切り替えボタンを押して、電子制御のプログラムをスポーツにすると、エンジンのレスポンスがよくなり、ステアリングがちょっと重くなる。ちょっと昔のホット・ハッチに乗っているような感覚があるのはディーゼル・エンジンが昔のガソリン・エンジンみたいな野太いサウンドを発するからだ。
ゴルフはやっぱり偉大だ!
T-Rocは機構的にもキャラクター的にも、アウディ「Q2」のフォルクスワーゲン版ということだけれど、筆者の頭の中に浮かんできたのは、1.0リッターの直列3気筒ガソリンターボ・エンジンを搭載するFWDの、ちょっと繊細なQ2ではなくて、30年以上も前の骨太な「ゴルフ2」だった。
Audi Q2AUDI AGAudi Q2AUDI AG1980年代半ばに登場した、名作とされる第2世代のゴルフ。しっかりしたボディと、そのしっかりしたボディがもたらすしっかりした乗り心地。トルキーな1.8リッターの直列4気筒OHCエンジン。荒れた路面で、ビビビビと、いずこかから振動音が聞こえてきたりするところも似ている気がする。
実際にいまゴルフ2に乗ったら、もっとモッサリしていて、現代のT-Rocとは似てもにつかないことであろう。それに、21世紀の自動車の精華ともいえる先進安全装備はゼロである。
Volkswagen Golf ? zweite GenerationVolkswagen Golf ? zweite Generationでも、たとえば前ストラット、後ろトレーリングアームのサスペンション形式はおなじだし、考えてみたら、フォルクスワーゲンというのはゴルフを大黒柱とする会社ではないか。エンジン横置きのモデュラー・プラットフォーム、MQBによって、ポロからパサート、ティグアン、そしてT-Roc、T-CrossといったSUV系までまかなっているわけだけれど、もとはといえばゴルフに帰結する。
コンパクトSUVクーペという、一見まっさらで新しいセグメントのT-Rocに試乗して筆者がしみじみ思ったのはこのことなのだった。
ゴルフはやっぱり偉大だ!
価格がちょっと高いのはオシャレだから?
最後に価格面にふれておきたい。Tプレミアム・ブランドの国民車バージョンなのだから、Q2よりお求めやすい価格設定かと思いきや、事実は次の如くである。
Q2は、1.0リッターの直列3気筒ガソリンターボ、312万円から、1.4リッター、直列4気筒ガソリンターボの419万円まで。2.0リッターTDIのみのT-Rocは384万9000円から453万9000円まで。
Audi Q2AUDI AG2.0リッター直列4気筒ガソリンターボを搭載する高性能モデルのSQ2、599万円を別格とすると、フォルクスワーゲンのほうがアウディより“プレミアム”なのである。高価なディーゼル・エンジンを搭載していることもあるにせよ、前述の如く、本国にはT-Rocにも1.0リッター直列3気筒ガソリンターボがある。
おなじフォルクスワーゲンブランドで見てみると、T-Rocよりちょっと大きいティグアンは1.4リッターのガソリンのFWDが408万9000円から、TDIの4WDが456万9000円から、となっている。
T-Rocを買おうと思ったら、アウディQ2も、ティグアンも買えるわけである。なのに、T-Rocを選ぶ理由とは?
オシャレ、ということである。これはつまり、シロッコの生まれ変わりなのだ。ドアの枚数とか最低地上高の高さとかは違うけれど、トランク容量なんて、全長は弟分のT-Crossより125mm長いのに、445リッターと10リッター劣る。オシャレは役に立たなくて、便利から遠いところにあり、それゆえに贅沢だと見なされ、値付けが高くなる。高価だからオシャレ度が上がる場合だってあるだろう。
T-RocはブラザーのアウディQ2にもケンカを売る、成り上がろうとするロックン・ローラーだ。という見方もできる。その割にルックスが端正で、イカれていないのは、イイことなのか、悪いことなのか……。
結局のところ、筆者のように、あーだこーだと言ってないで、サラッと乗るのがT-Rocには似合うのでしょう。
ちなみに、2019年のフォルクスワーゲンにおける世界販売台数ナンバーワンはティグアンで、およそ91万台だった。以下、ポロ、ゴルフ、ジェッタ、パサート、日本では聞いたことのない名前の2つのモデルをはさんで、T-Rocが8位の32万8000台、9位のT-Cross、27万4000台と続いた。フォルクスワーゲンの予想によれば、コンパクトSUVの波はもっと大きくなるし、フォルクスワーゲン自身が、EV(電気自動車)というウェーブを起こそうとしてもいる。
昨日までとは違う明日に向かって踏み出したフォルクスワーゲンの第1弾がT-Rocなのだ。
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)
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みんなのコメント
筆者も納得してないな。俺も。
なんかT-Rocはツッコミどころ満載だもんな。
ゴルフはやっぱり偉大だ!
いったい何が言いたいの?