MotoGP第9戦オランダGPでは、ふたりのヤマハライダーが、表彰台のいちばん高いところと2番目に高いところに上った。ヤマハとして、2021年シーズン初のワン・ツーフィニッシュ。けれど、その胸中はそれぞれに異なっていた。
ファビオ・クアルタラロ(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)は、オランダGPで今季4勝目を挙げた。2番グリッドから好スタートを切ってホールショットを奪ったクアルタラロは、1周目でフランセスコ・バニャイア(ドゥカティ・レノボ・チーム)の先行を許した。5周目の最終シケインではクアルタラロがバニャイアを交わすも、バニャイアはドゥカティのデスモセディチGP21のトップスピードで1コーナーまでに再びトップを奪う。
しかしその翌周、クアルタラロはバニャイアを交わすポイントを変えた。今度は11コーナーの立ち上がりでバニャイアに先行し、12コーナーで完全にオーバーテイク。その先には最終シケインが控えており、ドゥカティのトップスピードを生かすことができるポイントではなかった。
クアルタラロは、決勝レース後の会見のなかでこう振り返っている。
「難しいレースだった。ペッコ(※フランセスコ・バニャイアの愛称)が前を走っていて、彼をオーバーテイクができなかった。ペッコはラインを締めていたし、(バイクには)加速力もあった。僕は何度も12コーナー立ち上がりで抜こうとして、彼のバイクに少し当たってしまった。そのあと、12コーナーのインで抜ける可能性があるとわかった。抜けるとは思わなかったけれど、そこが抜きどころだったんだ」
一方のバニャイアは「最終シケイン出口では常に、ものすごく僕は速かった。ストレートで僕が彼を抜いたのは、彼が最終コーナーの立ち上がりがとても悪かったからだ。僕のバイクは速かったよ。ただ、12コーナーではバイクがうまく走らなくて、0.4秒、0.5秒も失っていた。ほかの部分では、ファビオみたいに速く走っていたんだけど」と語っている。まさにその12コーナーでクアルタラロに仕留められたバニャイアは、その後、トラックリミットを5回超過したことで、ロングラップ・ペナルティを科され、後退。6位でレースを終えた。
そしてクアルタラロは、バニャイアを交わしたあとに後方との差を広げ、独走で優勝を飾った。チャンピオンシップではランキング2番手のヨハン・ザルコ(プラマック・レーシング)とのポイント差を広げることに成功し、シーズン前半戦をいい形で締めくくった。
ここで、クアルタラロのシーズン前半戦を振り返ってみたい。第9戦オランダGPまでを終え、4勝と2度の3位表彰台を獲得している。その一方で第4戦スペインGPではトップを独走中に腕上がりの症状が出て13位に終わり、第7戦カタルーニャGPでは、レース中にレーシングスーツのファスナーが開いたまま走行したことでペナルティを受けるなど、順風満帆とは言い切れないシーズン前半戦でもあった。
また、クアルタラロは今季、ヤマハのサテライトチームからファクトリーチームに移籍したが、それがプレッシャーの一つの要因になっていたことを明かしていた。
「シーズン序盤、チームからのプレッシャーはなかった。でも、外部からのプレッシャーが大きかった。聞かないようにしても……。“キング”バレ(バレンティーノ・ロッシ)がいた場所に来てしまったものだから、それだけで小さなプレッシャーを常に抱えているんだ。メディアからのコメントでも、『チームのなかでも重要な位置にいるのだから、うまくやらないといけない』というような、ね」
4勝目を挙げ、ポイントリーダーで前半戦折り返しのクアルタラロ「今は考え方も目標も明確」/MotoGP第9戦決勝
「カタールでの優勝はすごくうれしかった。そこから僕は、周りのそういうコメントを聞かなかった。ポルティマオ(第3戦ポルトガルGP)では僕の考え方において、すごく重要だったよ。去年はひどいレースだった。でも、今年は素晴らしいレースになった」
クアルタラロが今季、何度か言及してきたことがある。今季は2020年シーズンの経験が礎になっている、ということだ。昨年はMotoGPクラスで初めてチャンピオンシップリーダーとなり、転倒を喫し、10位以下でレースを終え、そうしてタイトルを逃した。その昨年を踏まえてクアルタラロはメンタリティーを変える必要があると考え、プレシーズンではその点において取り組んだ。
「昨年はアップダウンがあって、安定していなかった。でも、僕はとても多くを学んだ。結果を得ては、そこから常に何かを得ているんだ。昨年のシーズン終盤には、チャンピオンシップを戦うためのチャンスがなくなってしまったけれど、僕は経験を得た。それは価値のあるものだと思う。今、ピットでも、バイクに乗っていても精神状態はかなりいいと感じている。考え方ははっきりしていて、目標も明確だ」
精神的にひと回り成長したクアルタラロは、後半戦もけん引することができるだろうか。
■ビニャーレスの決断
オランダGPのレースウイークでは、ビニャーレスも好調だった。3回のフリー走行でトップタイムを連発。予選ではポールポジションを獲得した。ドイツGPを最下位で終えたビニャーレスは、オランダGPで復調していた、ようだった。
決勝レースのスタートでは、先行したクアルタラロがビニャーレスのちょうど目の前に入る。そのためビニャーレスはアクセルを閉じなければならず、4番手に後退した。ただ、ビニャーレスにとって問題だったのは、むしろそのあとだった。自分たちのバイクではオーバーテイクが難しかった、とビニャーレスは語った。
「僕は(前を走っていた)タカ(中上貴晶)をオーバーテイクできなかった。レースでは、ここが問題だったんだと思う。もし1周目、2周目で彼をオーバーテイクできていたら、まったく違ったレースになったと思うんだけど」
「優勝できなかったからといって、がっかりしてはいないんだ。自分のポテンシャルをすべて発揮できなかったから、がっかりしている」
ビニャーレスは、そうポールポジションから2位で終えたレースを振り返っている。とはいえ開幕戦カタールGP以来の表彰台獲得だった。しかし、これは遅きに失していたのかもしれない。このとき、ビニャーレスにはヤマハを離脱してアプリリアへと移籍するという“うわさ話”が広まっていて、会見ではそれについて、多くの質問が飛んだ。
「技術的な面で、失望しているんだ。人に対してではないよ。2018年はすごく厳しいシーズンで、2019年は打開した。でも2020年には再びバイクが、すべてが変わってしまって、またわからなくなった。ヤマハのみんなにはお礼を言いたい。ただ、ドイツGPのレース結果を受け入れるのは、とてもつらいものだった」
ビニャーレスの心の中で、少しずつ何かが損なわれ続けていたのだろうか。そうして、この会見が行われた翌日の6月28日、ヤマハによってビニャーレスが2021年シーズンを持ってビニャーレスとの関係にピリオドを打つことが発表された。
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