シトロエンのフラグシップ「C5 X」に設定されたプラグインハイブリッドに、今尾直樹が試乗した。“ふわふわトロトロ”の乗り心地などに迫る!
かつてのハイドロニューマチックに近い
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最近の自動車はつまらない。とお嘆きの諸兄に、シトロエンC5 Xがありますぞ。と、伝えたい。
シトロエンの新しい旗艦が本国で発表されたのは2021年4月、ニッポンでの発売は昨年のことだから、ご存じの方もいらっしゃるでしょう。パワートレインは1.6リッター直4ターボ+8速ATと、それに電気モーターとリチウムイオン電池をくわえ、8ATのトルクコンバーターを湿式多板クラッチに置き換えたプラグインハイブリッド(PHEV)の2タイプがある。もちろん、どちらもトラクシオン・アヴァン、前輪駆動である。
今回、筆者が箱根までひとっ走りしてきたのは後者のPHEVで、ピュア内燃機関のほうは未体験ながら、モーター駆動がプラスされたことで、とっても静かで、やさしさに包まれたなら……という感じの心地よさを堪能した。
PHEVのみが装備する、PHCの進化版、「アドバンスト・コンフォート・アクティブ・サスペンション」の貢献も大きいと思われる。
創立100周年を迎えた2019年以降、あらためて快適性を前面に押し出しているシトロエンの独自技術が、「C5エアクロスSUV」で初採用されたPHCこと「プログレッシブ・ハイドローリック・クッション」である。
ダンパーのなかにもうひとつサブのダンパーを設けたこれによって、いわばダンパーを2階建てにしたみたいな、ストローク感たっぷりの、“ふわふわトロトロ”の乗り心地を実現している。
「アドバンスト・コンフォート・アクティブ・サスペンション」は、そのPHCのダンパー内のオイル量を4本個別に制御する。そうすることで、街中や真っ直ぐ走っているときはふわトロ。コーナリングや高速時は自動的にダンピングを引き締め、腰の砕けたようなダラけた姿勢になるのを事前に防ぐ。そうすることで快適な乗り心地とハンドリングの両立を図っている。
筆者的に好ましいのは、アクティブサスペンションを名乗るものの、制御の仕方がハイドラクティブではなくて、それ以前のハイドロニューマチックに近い、と、感じられる点だ。通常の金属バネとダンパーの代わりに窒素ガスとオイルを用いたハイドロニューマチックは、水の上に浮かぶ「DS」の有名な広告が表現しているように、ふわ~ん、と浮遊感のある乗り心地を実現している。
アドバンスト・コンフォート・アクティブ・サスペンションは、高速巡航時のゆったりした周期の乗り心地だとか、凸凹路面で沈み込んでから浮き上がるときの、いわゆる伸び側の動きが、まさにハイドロそっくりで、う~む。いいなぁ。と、思っちゃう。
ただし、わりと最近試乗した1970年代の「GS」と較べると、DSとおなじハイドロニューマチックでも、フロントサスペンションのアンチ・ダイブ・ジオメトリーにより、ノーズダイブもスクウォットもほとんど無縁で、その点は大いに異なる。
C5 X PHEVはとりわけ制動時のノーズダイブが大きく、ユラユラ、ゆるやかにピッチ方向に揺れる。その揺れ方が緊張の緩和につながり、リラックス感を生んでいる。なにより、ハイドロに似ている、と、感じる。電子制御でオイル量を変えられるのだから、ノーズダイブなんて簡単に抑えられるはずである。だとすると、彼らはあえてユラユラさせているのだ。
EV走行とガソリン走行で印象が変わらない渋谷から試乗を開始して池尻から首都高速3号線に乗って一路箱根を目指す。EVモードを選んだわけでもないのに、電池がある限りはEV走行を続ける。エレクトロニック走行はとっても静かで、風の歌が聴こえてくるのみである。防音にはそうとう気をつかっているらしく、ロードノイズはごく低い。EV走行は最高速135km/hまで可能だから、日本の交通法規を守っている限り、内燃機関は始動するそぶりも見せない。
その代わり、90%あった電池のエネルギー量はみるみる減っていく。50%になったところで、ドライブモードをハイブリッドモードに切り替える。巡航時、エンジンがかかってもショックはほとんどなく、エンジンの音色も聴こえてこない。振動も皆無で、アクセルを全開にすれば、当然、1.6リッター直4ターボがうううううんっ、とうなりをあげる。かつてBMWと共同開発したこのエンジンは音色をいいから、ちっとも嫌ではない。
ハイブリッドモードでもチャージモードにしていないと、電池のエネルギー残量は減り続ける。加速時にガソリンエンジンをモーターがアシストしているからだろう。だから、とっても静かなのだ。
システム最高出力225ps、同最大トルクは320Nmある。車重1.8tのミドルクラスを走らせるには十分である。高性能車と呼べるほど速いわけではない。
一方、ステアリングは正確で回頭性がよい。前輪に引っ張られるようにスーッとコーナリングしていく。基本的にクルマの動きがゆったりしている。ワイドトレッド、ロングホイールベースのおかげもあって、ロールは軽くて穏やか、ロールの仕方もゆっくりで、安心してアクセルを開けられる。全開にしても怖くない。だから全開にできる。結局、遅いから楽しいのである。
さらに付けくわえれば、エンジンで走っているときはピュアエンジン車となんら変わらない。ブレーキのフィールも回生ブレーキっぽくなくて自然で、そこがとってもいい。
なによりいいのは、高速巡航時、EV走行とガソリン走行で印象が変わらない点だ。電池のエネルギー残量の多寡によってガラッと態度を変えるPHEVがあることを思うと得難い長所ではあるまいか。
迷えるシトロエニストよ、救世主現る!総じて申し上げると、C5 X PHEVはハイドロニューマチックのような複雑な機構を使わずに、現代のシトロエンの旗艦にふさわしい快適性を備えている。
C5 Xのホイールベースはかつてあった「CX」の2845mmより60mm短い。それでも後席の足元を含め居住空間は広く、荷室も大きい。トヨタ「クラウン・クロスオーバー」とは異なり、リヤゲートを持っているから実用性はより高い。価格は、おフランスのクルマなのにクラウンと似たようなものだ。
唯一注意が必要なのは、SUV仕立てのため、フツウのセダンよりフロアが若干高い点だ。
前席はほとんど意識しないけれど、後席はボディ剛性確保のためにドアの敷居も高い。足をとられないように気をつけたい。
2023年上半期の候補車リストに入っていたら、これぞ私的ベスト推し。
迷えるシトロエニストよ、救世主現る、である。
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.) 編集・稲垣邦康(GQ)
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