9月10日に富士スピードウェイで6時間の決勝レースが行われたWEC世界耐久選手権第6戦。フェラーリ、ポルシェなど注目のマシンも初来日を果たしたハイパーカークラスでは、トヨタGAZOO Racingがワン・ツー・フィニッシュを決め、マニュファクチャラーズタイトルを手にした。
週末の観客動員数は、WEC富士大会の過去最高となる5万4700人。レースも随所にバトルが見られる、白熱の展開となった。
そんなレース後の富士スピードウェイのパドックから、各種トピックスをお届けする。
■富士では10戦中9勝のトヨタ
トヨタGAZOO Racingは、富士で開催された10回目の現行WECのイベントで、9度目の勝利を挙げた。彼らが“ホーム”コースで挙げたこの勝利の数は、彼らのWEC全体での勝利数の20%を占めている。
マイク・コンウェイ/小林可夢偉/ホセ・マリア・ロペスにとっては、今季4勝目。これは彼らが世界選手権タイトルを獲得した2019/20シーズンの優勝回数に匹敵する。
しかし今季、彼らはチームメイトのブレンドン・ハートレー/平川亮/セバスチャン・ブエミに15点のビハインドで、11月の最終戦バーレーン8時間レースを迎えることになる。
フェラーリAFコルセの2台のクルーがタイトルを獲得する可能性は、わずかではあるが残されている。51号車陣営は首位から31ポイント差、50号車は同じく36ポイント差。8時間と長距離戦のバーレーンでは通常の1.5倍の獲得ポイントが設定されており、ポールポジションの1点と合わせ、理論上は最大39ポイントを稼ぐことが可能だ。
■接触から巻き返したGTEウイナー
AFコルセ54号車フェラーリ488 GTE Evoのトーマス・フローとフランチェスコ・カステラッチは、2017年の富士以来となるWEC表彰台の頂点に返り咲いた。
また、彼らのコ・ドライバーであるダビデ・リゴンにとっては、2013年の上海6時間レース以来となるGTEアマクラスでの優勝となった。
カステラッチとフローの長年のコンビにとっては、34戦未勝利、15戦未表彰台というGTEアマでの苦難に終止符を打つ勝利となった。
54号車フェラーリは、3時間目にベン・キーティングの33号車シボレー・コルベットC8.Rと接触するアクシデントから立ち直った。
「コルベットに当てられたときはとても怖かった」とフローは言う。
「ラッキーなことに、僕の過去のラリー経験のおかげで、クルマを芝生の上に留めたまま、ウォールにぶつからずに直進することができた。僕らはそこから立ち直ることができたんだ。これは、チームのパフォーマンスを表している」
一方のキーティングは、レーシング・インシデントだと主張している。
「彼のブレーキングラインをタイトにしようとしたのは、僕の意図だった。僕が彼に近づこうとしたとき、彼はブレーキングラインに入ってきた。でも、ブレーキングラインはワイドになるのが普通だから、彼が僕に突っ込んできたというより、僕が彼に突っ込んでいったと判断されたんだ。レーシング・インシデントだと感じたよ」
■フェラーリ499Pが“保守的”だった理由
富士は、フェラーリ499Pが表彰台に上がれなかった最初のレースとなった。AFコルセが運営するファクトリーチームは、シーズン序盤でも見られたように、ミシュランのハードコンパウンドを4輪に履いてスタートするという保守的なタイヤ戦略をとった。
フェラーリのGT&スポーツカーレース&テストマネジャーであるジュリアーノ・サルヴィは、ポルシェのポテンシャルアップを、意外なものだと評価している。
「セーフティカーが出ないレース展開においては、これが我々の予想だった。我々はここに来たことがなく、コースもよく知らなかったので、タイヤへのアプローチは保守的なものとなった」
一方、キャデラック・レーシングは4輪ミディアムタイヤでスタートする戦略をとったが、チップ・ガナッシ・レーシングが運営するチームは後にこれが間違いだったことに気づいたという。
「(トヨタなど)他のライバルたちと同じように、アウト(左)側に新品ハードを履くべきだった」と、チームマネージャー兼ストラテジストのスティーブン・ミタスは明かしている。
「そこからタイムをロスしてしまった。そういうことがあると、連鎖的に(悪いことが)起こるものだ」
彼らの2号車キャデラックVシリーズ.Rは、アール・バンバーがステアリングを握っている間に左フロントホイールが外れてしまった。メーカー側は後に、左フロントホイールのナットが剪断されたためと説明している。
なお、彼らは今月末にイタリアのイモラでキャデラックVシリーズ.Rのテストを行う予定である。
「今週末のマシンは完璧とは程遠かった」とミタスは付け加えた。「予選では多くのことを引き出すことができたが、レースペースは本来のものではなかった」。
■まさかの同士討ちに「4位だったかも」
ハーツ・チーム・JOTAのドライバー、ウィル・スティーブンスは、アントニオ・フェリックス・ダ・コスタがJOTAのLMP2チームメイト(28号車)をスピンさせたことによるドライブスルーペナルティがなければ、彼らの38号車ポルシェ963はこれまでで最高の結果を出せていただろうと語った。
「あれがなければ、4位を獲得できたかもしれない」とスティーブンスは語っている。
■燃料を満タンにできなかったポルシェ963
トヨタのWECテクニカルディレクターであるパスカル・バセロンは、スタート前に燃料を満タンにできなかった6号車ポルシェ963のミスがレース結果に影響したと感じている。
「そのことで、彼らは最初のスティントを短くせざるを得なくなった。そして、その次のスティントでは相当に燃料をセーブしなければならなかった」とバセロンは述べている。
「彼らは40周走らなくてはならなかった。彼らはスプラッシュを避けるために燃料をセーブしなければならなかった。そのおかげで、我々は巻き返すことができたんだ」
しかしながら、ポルシェ・ペンスキー・モータースポーツは、スタートでトップを奪った6号車のローレンス・ファントールが通常よりも6周早く最初のスティントを終えることになり、レース中に燃料セーブが必要になったことの影響が大きかったとは見なしていない。
マネージングディレクターのジョナサン・ディウグイドは、給油ミスについて次のように語っている。
「これは手順上の問題である、我々の側で解決する必要がある。最終的には、レース結果に大きな影響はなかったと考えている。だが、そうなる可能性はあった。したがって、我々はこれらの件についてクリーンにしておく必要がある」
ポルシェ963は今季最も競争力のある状態の6号車が3位表彰台を得たが、5号車ではパワーステアリングに問題が発生、彼らは最後尾でフィニッシュした。
■2度目の富士を迎えたプジョー9X8、課題はトラクション
プジョー9X8陣営は、ツイスティな第3セクターの低速コーナーでのトラクション不足に苦しみ、モンツァで見せた競争力を取り戻すことができなかった。
マニュファクチャラーのテクニカルディレクターであるオリビエ・ジャンソニーは、この結果について「予想していた通り」としながらも、プジョー9X8は2台ともほぼクリーンなレースをしたと述べた。
彼らの主な後退要因となったのは、LMGTEアマのアイアン・リンクス60号車ポルシェ911 RSR-19との接触により、93号車がスピンを喫したことだ。
エンジンカバーを外してのチェックのため、彼らはピットインを強いられた。「クラッチをチェックする必要があったんだ」とジャンソニーは語っている。
一方、怪我をしているニコ・ミューラーに代わって代役参戦したストフェル・バンドーンは、94号車でプジョーでの初レースを楽しんだ。「クルマにはすぐに馴染めたし、2スティントはとても良かった」とバンドーンは述べている。
■正式リザルトは『但し書き』付きに
レース終盤に導入されたFCY(フルコースイエロー)の際、13台の車両がスピード違反の審議対象になった。この違反についてはすでに審議は終了しており、レースの正式結果は日曜夜に発表されているものの、このリザルトには条件が付けられている。
2号車キャデラックVシリーズ.R、6号車ポルシェ963、7号車トヨタGR010ハイブリッド、50号車フェラーリ499Pから押収された部品の最終検査が行われることになっているからだ。これらの検査がすべて終了することが、正式リザルト確定の条件となっている。
レース後のテクニカル・デリゲートのレポートによれば、このほかにハイパーカークラスで車検対象となった94号車プジョー9X8からは、パーツは押収されていない。
■ニュータイヤでまさかの失速
チームWRT41号車は、LMP2クラスでWEC通算8勝目を挙げ、このクラスでの通算勝利数を歴代2位に伸ばした。WECのLMP2クラスは今季限りで廃止となり、WRTは来季、BMW Mハイブリッド V8とともに最上位クラスへと移行することになっている。
ル・マンでクラス優勝したインターユーロポル・コンペティション34号車のアルベルト・コスタ/ファビオ・シェラー/ヤコブ・スミエコウスキーの3人は、富士では9位に終わり、LMP2ドライバーズタイトル獲得に向けて厳しい状況に直面している。チームWRTの勝利により、41号車のロバート・クビサ/ルイ・デレトラズ/ルイ・アンドラーデ組がポイントリードを拡大したからだ。
インターユーロポルのチーム代表であるサッシャ・ファスベンダーは、彼らの34号車オレカは速いときもあったが、シェーラーがグッドイヤーの新品タイヤを履いた直後に、大きく順位を落としたと語った。
「アルベルトがスティント終えたとき、彼は平均的に強かった。もっと深く分析する必要があるが、ファビオがニュータイヤを履いていたときのスティントは、どういうわけかとても遅かったんだ」
■初の富士で悪天候という悲運
LMP2クラスに2台を送り込んでいるアルピーヌは、36号車で5位入賞を果たした一方、35号車は3周遅れの11位に終わった。シグナテック・チーム代表のフィリップ・シノーは、35号車のペース不足の原因を、オリ・コルドウェルとミモ・ロハスのサーキット経験の浅さに求めた。
「ミモとオリは、(プラクティスで)コースをつかむためにドライでは5周ずつしか走れなかった」とシノー。
「スタートではミモがブロックされ、すぐにタイヤのトラブルに見舞われた。彼のスティントを短縮することにしたが、アンドレ(・ネグラオ)とオリが懸命に努力したにもかかわらず、その差はすでに広がっていた」
* * * * * * *
次戦、シーズン最終戦の舞台はバーレーンのバーレーン・インターナショナル・サーキットで行われる8時間レースとなる。決勝は11月4日土曜日、現地時間14時にスタートし、日没後にフィニッシュを迎えることになる。
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