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「宝石」のようなレーシングカー MGA ツインカム・ワークスマシン(2) 競技人生を静かに物語る凛々しさ

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「宝石」のようなレーシングカー MGA ツインカム・ワークスマシン(2) 競技人生を静かに物語る凛々しさ

1960年のセブリング12時間でクラス3位と4位

1960年3月26日、午前10時。アメリカ・フロリダ州のセブリング・インターナショナル・レースウェイへ集まった5万人の観衆が、FIA世界スポーツカー選手権の第2戦となった、セブリング12時間レースのスタートを見守った。

【画像】競技人生を物語る凛々しさ MGA ツインカム・ワークスマシン 同時期のレーシングカーたち 全148枚

スターティンググリッドは、予選タイムの速さではなく、エンジンの排気量別。4台のMGAは、グランドツーリング1600クラスの後半に並んだ。

ところが、UMO 95のナンバーを下げたMGA ツインカムは、エンジンヘッドが故障。僅か3周でリタイアしてしまう。

他方、UMO 96とUMO 93は完走。クラスでは3位と4位、総合では24位と29位という、まずまずの結果を残している。ちなみに、総合優勝したのはポルシェ718 RS60だった。

クラス優勝は逃したものの、UMO 93は148周でフィニッシュ。1280kmを走りきり、MGA ツインカムはパワーとタフさを証明した。

ところが一般道では、信頼性の低さに少なくないオーナーが悩まされた。レースでの強さを前提にした設計が仇となり、従来以上のメンテナンスが必要なことを、多くの人が理解していなかったためだ。

それを受け、1960年以降の公道仕様は109psから101psへパワーダウンされ、安全マージンを確保。異常燃焼を避けるため、圧縮比も下げられた。もちろん、今回のUMO 93は109psのままだ。

競技人生を静かに物語る凛々しい佇まい

12時間レースを走り終えたUMO 93のMGA ツインカムは、フロリダ州のシップ&ショアモーターズ社を通じ、レーシングドライバーでカー・コレクターのポール・ブキャナン氏が購入。彼は1963年にバルブを吹き飛ばすまで、積極的にレースへ出場したという。

その後はしばらく車庫に眠っていたが、1967年にインディアナ州のライル・ヨーク氏が600ドルで引き取っている。この時、ピストン・スピードからレッドラインは7200rpmになるだろうと、ブキャナンは伝えたようだ。

バルブとヘッドを交換したヨークは、1970年にクラッチが故障するまで楽しんだ。この時点での走行距離は、8270kmに過ぎなかったらしい。以降の33年間は、乾燥した倉庫に保管された。

グレートブリテン島に帰ってきたのは2017年。必要な整備と補修を受け、コンクール・デレガンスへ定期的に出展されている。

2024年でも、ブリティッシュ・レーシンググリーンのMGA ツインカムは凛々しい。実戦で負った小キズが点在するボディは、これまでの競技人生を静かに物語るが、そこまで劣化はしていないようだ。

エンジンルームのバルクヘッド付近は、部分的に塗装が剥がれ、当初のアッシュ・グリーンが顕になっている。ゼッケンを記す白い丸も、オリジナルのまま。セブリングの時と同じ、40番が貼られている。

ルーカス社製のスポットライトが、フロントグリルを囲む。キャブレター用の吸気口が勇ましい。日没後に4台のマシンを素早く判別するため追加された、レッドのルーフライトも当時のままだ。

生粋のレーサー 発進直後から魅力的な体験

バッテリーのキルスイッチや、レザー製のボンネット・ストラップなどが、生粋のワークスマシンであることを主張する。運転席へ座る時の心構えが、自然と変わってくる。

ブラック・レザー張りのシートは、クッションが厚く想像以上に快適。ダッシュボードには、追加されたライト用のノブが備わる。バックミラー越しの景色を、リアのロールバーが分断する。

ドライバーの正面には、細いリムの4スポーク・ステアリングホイール。その奥に、6000rpmからレッドラインの回転計と、時速120マイル(約193km/h)まで振られた速度計、燃料計や油圧計などが並ぶ。

シートを1番後ろに下げても、大きなステアリングホイールは近い。左手の指を少し伸ばすと、シフトレバーへ触れられる。ペダルの間隔は丁度いい。

燃料ポンプのスイッチを入れ、スターターを始動。1.6L 4気筒ツインカムが目覚める。

1速のレシオはロングで、2速と3速はかなりクロスしている。4速では、1000rpm当たり30km/h程度。6500rpm以下に抑えて走っても、195kmまでは出せる計算だ。

ステアリングはラック&ピニオン式。低い速度でも重すぎることはなく、感触が濃い。切り始めから遊びは小さく、かなりダイレクト。ロックトゥロックは2.75回転と、適度にクイックで、発進直後から魅力的な体験が始まる。

小さな宝石のようなレーシングカー

雨の中目指したのは、キャッスルクーム・サーキット。手強いコーナーへ突っ込み、短いストレートめがけて加速させる。Bシリーズ・エンジンは、ワイルドに轟音を撒き散らす。アルミ製のハードトップ内に、大量のバルブ・ノイズが充満し反響する。

4000rpm以上では、鋭いアクセルレスポンスが爽快。ツインカム・エンジンのサウンドも粒が細かくなり、レッドラインまで回して欲しいと誘ってくる。

舗装の傷んだ一般道では、ボディとフレームが落ち着きなく揺れていたが、キャッスルクームの滑らかなアスファルトでは見違える。コーナリングはニュートラルで、鋭いパワーオンでもグリップ力に不足はなさそうだ。

ダンロップ社製のディスクブレーキは、高い制動力を得るには踏力が必要ながら、感触はソリッド。1度慣れると、安心感が生まれてくる。セブリングのコーナーで、よりパワフルな重いマシンを追い詰めた、往年の様子と重なってくる。

64年前の勇姿をそのまま保つUMO 93は、小さな宝石のようなレーシングカーだ。堅牢さと使い切れるパワー感が、MGA ツインカムの魅力を一層強調している。筆者の心が奪われたとしても、当然だろう。

協力:ウィル・ストーン社、キャッスルクーム・サーキット

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