Porsche 911 Turbo Cabriolet × Ferrari California T
ポルシェ911ターボ カブリオレ × フェラーリ カリフォルニアT
池沢早人師、21世紀の狼「アルピーヌ A110S」を駆る!【第7回:vs ジャガー Fタイプ編】
ウインターシーズンに味わう4座オープンの誘惑
限られた冬の季節を肌で感じるには、ラグジュアリーオープンが最高だ。颯爽と屋根を開け、仕立ての良い車内で澄み切った外気を感じれば、退屈な日常から、特別な非日常へすぐにあなたを誘ってくれる。44年振りに復活を遂げたAMG S63 4マティックカブリオレをはじめとする、そんな豪奢なラグジュアリーオープン4台を佐藤久実が味わい尽くした。(前編/後編)
「オープンありきのクルマチョイスの筆頭に挙げたいモデル」
一般的に、「4シーターオープンカー」といえばラグジュアリーなクルマたちで、そもそもこの括りにハイパフォーマンス・スポーツカーであるポルシェ911ターボのカブリオレが名を連ねること自体、違和感を覚える方も少なくないかもしれない。が、敢えて選択肢の1台に加えたい。それほどまでに、快適性に優れるクルマなのだ。「スポーツカーなのに屋根が開く」という付加価値的選択の入り口から、「屋根が開くのに、これほどの本格的スポーツ性能を有する」という、オープンありきのクルマチョイスの筆頭に挙げたいモデルである。
ひと昔前なら、雨の日に911ターボを積極的に走らせることは、楽しみとは思えなかった。ピーキーな特性のターボエンジン、スピードの上昇とともに薄くなる手応え、何かの拍子にこの重いリヤが滑ったらどうなっちゃうんだろう・・・。まるで、己のドライビングスキルを試されているかのような「難しい性格」のクルマだった。しかし、これはもはや過去の話である。
今や、晴れの日はもちろん、雨でさえ、強烈なトラクション性能と絶大な安心感を備える。
「オープンにしようが、そのハンドリングの正確性と速さは健在だ」
とはいえ、軟弱になったわけではない。相変わらずサーキットで速く、気持ち良く走れる「性能主義」に、1mmたりともブレはない。パワーは上がっているし、ラップタイムも速くなっている。それでいて、乗りやすい。オープンモデルのカブリオレも同様。ソフトトップだからボディ剛性が落ちます、そんなエクスキューズはポルシェには通用しないと言わんばかり。物理の法則がひっくり返ったかのように、ハイパワーエンジンを載せようが、オープンにしようが、そのハンドリングの正確性と速さは健在だ。
しかし、現行ポルシェで最も驚くべきことは、サーキットで通用する性能を有しながら、乗り心地が格段に向上したことだ。本格的なハンドリングを楽しめるんだから、乗り心地はガマンしてね、という妥協を強いられない。そして、オープンなんだから、静粛性はガマンしてね、とも言われない。これが、今回の選択肢にこのクルマをラインナップした最大の理由だ。
「この+2が、大事であり、便利なのだ」
そして、ポルシェ911はまた、昔から「+2シート」にもこだわり続けている。
実は、4座オープンを選択する人も、リヤシートに人を乗せて走ることはほとんどないのではないか? 小さい子供がいる家庭は例外かもしれないが、一般的に見ればかなり限定的だろう。そもそも、最近のオープンカーは風の巻き込みも少なく、「オープン性能」も高い。が、リヤシートは息苦しいほどに風が入るケースも多く、ウインドディフレクターを装備するとリヤシートが使えないケースも多い。どうせ人が乗らないなら、+2は要らないじゃない。かといって2シーターは室内そのものが狭く、手荷物を置く場所にも困り、何かと不便。だからこそこの+2が、大事であり、便利なのだ。
爽快なカブリオレを購入すると、もれなく本格的スポーツカー性能が標準装備されます。そんな選択があっても良いのでは?
「フェラーリという“ブランド力”があるからこそのプロダクト」
待ち合わせ場所に待ち受けるフェラーリ・カリフォルニアTに近づき、クルマの室内を覗き込んだ瞬間、「うわっ、やられた!!」と驚きとともに瞬時に魅了されてしまった。何と、内装にデニムがあしらわれているのだ。高級車のトリムやシートのマテリアルといえばレザーでしょう!! 微妙な色合いやしっとりと柔らかい革の質感で各ブランドは個性を醸し出しているものだ。ところが、そのレザーにデニムを組み合わせてしまう、常識を覆すマテリアル。色合いもレザーとブルーデニムの2トーンで鮮やかだ。
一般的に「デニム」はカジュアルとされる素材。これはかなりの高等テクニックだと思う。ファッションでも同じで、例えばセンスのない私がパーティーにデニムを履いていったら、「あ~あ、やっちゃったね」という目で見られ、ドレスコードを外した空気読めない感を漂わせるのがオチだろう。でも、センスのある人がトータルコーディネートでドレスダウンすると、オシャレでしっくり場に馴染む。
ちなみにこれは「テーラーメイド」という仕様で、他にも様々なマテリアル&カラーの選択肢がある。こんなことをあっさりとやってしまえるのも、「フェラーリ」という、高級かつ華やかな“ブランド力”があるからこそだろう。
フェラーリにとってのこだわりは他にもある。トランクを開けると、フロアはカーボン製。もう、ここまでやるか、という感じだ。もっともこれは単なる視覚的なものだけでなく、軽量化という機能性もある。
「まったり走っても、スポーツカーらしいフェラーリの世界観にどっぷりと浸かれる」
大変失礼ながら「フェラーリのオープンカー」という響きに、ちょっとナンパなイメージを抱いていたが、カリフォルニアTは随所に「スポーツカー」としての徹底した姿勢が見られた。このクラスともなると、自動的にシートベルトがせり出す機能が当たり前のように装備されているものだが、カリフォルニアTはシートのショルダー部にベルト通しがあるのみのシンプルさ。無駄な装備は排除されている。
走りも然り。常用域においてもステアリングはシャープな反応を示し、アクセルやブレーキもレスポンスに優れる。オープンエアを満喫しながらまったりと走っていても、スポーツカーらしいフェラーリの世界観にどっぷりと浸かれる。
一方、最新のダウンサイジングターボエンジンが搭載されるのも特徴。新型のV8ターボは、「カリフォルニア」から大幅にパワーアップされたにも関わらず、燃費も向上している。トルク感や速さは申し分ない。しかし、体感的にはNAの時のような爽快なパワーフィールに欠ける。そして、オープンゆえエンジンサウンドもダイレクトに届くが、以前のように、ついつい高回転まで回したくなるような響きではない。技術的、性能的には優れるが、フェラーリならではの心揺さぶる魅力が薄れているのがちょっと残念。
しかしながら、トータルとしては十分魅力的なオープンスポーツカーである。4シーターといえども、実質的にリヤシートに人が乗ることはほとんどないのであれば、2+2レイアウトも選択肢としてありではないだろうか。
REPORT/佐藤久実(Kumi SATO)
PHOTO/篠原晃一(Koichi SHINOHARA)
【SPECIFICATIONS】
ポルシェ911ターボ カブリオレ
ボディサイズ:全長4507 全幅1880 全高1294mm
ホイールベース:2450mm
車両重量:1665kg
エンジン:水平対向6気筒DOHCツインターボ
総排気量:3800cc
最高出力:397kW(540ps)/6400rpm
最大トルク:660Nm(67.3kgm)/1950-5000rpm[オーバーブースト時:710Nm(72.4kgm)/2250-4000rpm]
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前マクファーソンストラット 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前245/35ZR20 後305/30ZR20
最高速度:320km/h
0-100km/h:3.1秒
CO2排出量:216g/km(EU)
燃料消費率:9.3L/100km(EU)
車両本体価格:2502万円
フェラーリ カリフォルニアT
ボディサイズ:全長4570 全幅1910 全高1322mm
ホイールベース:2670mm
乾燥重量:1625kg
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3855cc
最高出力:412kW(560ps)/7500rpm
最大トルク:755Nm(77.0kgm)/4750rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前ダブルウイッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前245/40ZR19 後285/40ZR19
最高速度:316km/h
0-100km/h:3.6秒
CO2排出量:250g/km(EU)
燃料消費率:10.5L/100km(EU)
車両本体価格:2450万円
※GENROQ 2017年 1月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。
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