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「モデル長寿化」の功罪 フルモデルチェンジ周期が長くなってきた 

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「モデル長寿化」の功罪 フルモデルチェンジ周期が長くなってきた 

 最近は発売されてから長期間にわたり、フルモデルチェンジを受けていない車種が増えた。トヨタアクアは2011年12月の発売だから6年以上を経過しており、トヨタヴィッツ(発売は2010年12月)や日産マーチ(2010年7月)は7年以上だ。さらに日産キューブ(2008年11月)は9年、トヨタプレミオ&アリオン(2007年6月)は10年を上まわる。トヨタエスティマ(2006年1月)は12年を経過した。

 これはなぜか? 理由を考察するとともに、その功罪を検証します。
文:渡辺陽一郎

新型アルファード/ヴェルファイア「あの顔」の評判と売れ行き

■腰が引けてフルチェンジに踏み切れない

 上記のように、設計の古い車種が増えた一番の理由は、日本で売る車両の開発にメーカーが多額のコストを費やしたくないからだ。

 日本の乗用車メーカーの世界生産台数に占める国内販売比率は、トヨタの傘下に入るダイハツを除くと20%以下にとどまる。「日本はもはや副次的な市場」と軽く見ているから、国内を重視したエスティマ、プレミオ&アリオン、キューブなどにはフルモデルチェンジを施さない。

 それなら廃止すればいいだろうと思うが、エスティマなどは1か月に900台前後を売る。今は160車種くらい用意される日本車の内、1か月の平均台数が1000台を上まわるのは60車種くらいだ。残りの100車種は1000台以下だから、エスティマの売れ行きも立派な中堅レベルになる。廃止するのは惜しいから、12年以上も経過しながら従来型を扱う。

かつてトヨタのミニバンラインアップのなかでもエース的存在だったエスティマも今は日陰者あつかい

 中堅レベルなら現行トヨタヴェルファイア&アルファードのプラットフォームを使ってフルモデルチェンジを行い、力を入れて売れば良いとも思うが、前述のように今の日本車メーカーは国内市場を重視していない。ミニバン人気の先行きも不透明だから、腰が引けてフルモデルチェンジに踏み切れないのだ。

■デザインが古く見えにくくなった

 別の理由として、クルマのデザインが成長期を過ぎて安定期に入り、古く見えにくくなったこともある。

 過去を振り返ると、1988年に発売された5代目のS13型日産シルビアと、そこから13年遡る1975年に発売されたS10型2代目シルビアでは、外観の見栄えがまったく違った。1950~1980年代までのカーデザインは急速に進歩していたからだ。

S13シルビアは1988年登場。この頃から日本車のデザインは進化し、時間的な耐久性を獲得した

 ところが1990年頃から進歩の速度が下がり、2000年代に入るとさらに変化が乏しくなった。特にヴェルファイア&アルファード、ホンダN-BOXなど天井の高い車種は、空間効率を最大限度まで追求するから、ボディの基本スタイルはほとんど変えようがない。フロントマスクのアクを強めることで、安易に変化を付けることしかできない。

 言い換えると、あくまでも結果論だが、今のデザインは長期間にわたって変更をしないで済む耐久性を身に付けた。

■平均使用年数が伸びている

 車両本体にも同様のことが当てはまる。2000年頃からは輸入車を含めて各部の装備やメカニズム、塗装などが丈夫になり、クルマの平均使用年数(クルマの平均寿命)も伸びている。

 1978年における乗用車の平均使用年数は8年以下だったが、1988年には9年を上まわり、2000年には10年、2006年には11年を超えた。今は約13年だから、40年前の1.7倍に伸びている。そうなればフルモデルチェンジのサイクルが、10年では長すぎるが7年程度になっても不思議はない。

『わが国の自動車保有動向』(自動車検査登録情報協会刊)より。平成29年(2017年)3月末時点で、乗用車の平均使用年数は12.91年

 このほか安全性の向上、自動運転も視野に入れた運転支援技術の開発、電動化を含んだ環境技術の進化など、将来を見据えた投資も重要性を増した。これに冒頭で述べた海外市場向けの商品開発も加わり、国内市場が犠牲になって設計の古い車種が増えてしまった。

 従ってフルモデルチェンジ周期の長期化、基本設計の古い車種が増えたことのメリットは、メーカーの経済的な負担が軽くなることだ。

 日本では設計の古いクルマを売り続け、新興国には新型車を投入して売れ行きを伸ばし、先進技術も進化させる。1980年代まで日本車を育てたのは日本のユーザーだが、その我々を踏み台にして、今のメーカーは海外で業績を伸ばすのだ。この成功の一端を支えるのが、国内向け新型車の欠乏と、設計の古い車種の増加になる。

■プラットフォームは日々進化・熟成させることが可能

「ひとつの車種を長く造り続ければ熟成が進む」という見方もあるが、それは車種そのものではなく、プラットフォームなどの話だ。

 例えば三菱エクリプスクロスのプラットフォームは、2005年に発売された先代アウトランダーと共通だ。今では解析が十分に行われ、どこを補強すればいかなる効果が得られるのか、改良の仕方と効果が明確になった。

 そこでエクリプスクロスは、構造用接着剤の効果的な使用などによって、ボディに効果的な補強を施した。足まわりも同様にチューニングされ、走行安定性と乗り心地のバランスが優れている。

三菱エクリプスクロスは今年3月発売だがプラットフォームはアウトランダー等と同じ

 またトヨタの新しいTNGAの考え方に基づくプラットフォームを新採用したプリウスは、先代型に比べて操舵感が正確になってよく曲がるが、危険回避時には後輪の接地性が甘い。前後のグリップバランスが前輪側に寄っている。

 そこが同じプラットフォームを使うC-HRでは、重心を高めながらも優れた動きを見せる。開発者は「C-HRはプリウスよりも1年遅く発売され、ショックアブソーバーの銘柄も変わり、走りを熟成できた」という。

こちらはトヨタC-HR。プリウスと同じプラットフォームを採用

 ただしそれでも古いプラットフォームを使えば、軽量化や電動化への対応、衝突安全性の向上では不利になる。

 そして最先端の安全装備も、設計の古い車種は装着しにくい。エスティマはLサイズの上級ミニバンなのに、2016年6月のマイナーチェンジで追加装着された緊急自動ブレーキは、歩行者を検知できないトヨタセーフティセンスCであった。この時点でエスティマは発売から10年を経過しており、上級のトヨタセーフティセンスPは装着できなかった。

 つまりフルモデルチェンジ周期の長期化、設計の古い車種が増えたことのメリットは、メーカーの経済的負担の軽減だけだ。あとは強いて挙げれば、売却時の価値を下げないことだろう。初度登録から7年を経過しても現行型の状態であれば、フルモデルチェンジを受けて先代型になった場合に比べて、好条件で売却しやすい。もっともこれは、その車種を新車で買うユーザーのメリットではない。

■国内市場が衰退してゆく負のスパイラルへ

 逆に「欠点」は、すでに挙げているように膨大にある。

 まずマイナーチェンジを施すだけでは、安全性から燃費、走行性能まで、抜本的な進化は期待できない。生物の進化に世代交代が必要なように、クルマの進化にも生まれ変わるフルモデルチェンジが不可欠だ。基本設計の古い車種が増えると、ユーザーは商品力の高いクルマを購入しにくくなってしまう。

 特に今は、緊急自動ブレーキを中心として安全装備の普及が活発だ。交通事故はクルマにとって一番の欠点だから、安全装備は可能な限り充実させたい。

 そうなると設計の古い安全装備が未熟な車種は、最初から購入の対象に入らない。これ以上の欠点はないだろう。

 このような状態が続いたことで、自分の使い方や好みに合った機能を備え、価格も手頃で、なおかつ安心して使えるクルマは大幅に減ってしまった。

 日本の自動車産業は、技術と販売の両面で世界のトップレベルだが、日本に住んでいるユーザーは、優れた商品を購入する意味では恩恵をほとんど受けていない。国内販売が30年前の70%以下まで落ち込んでいるのも納得できる。

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