最近のハイブリッドカーの燃費は凄い。そのなかでも突出しているのがヤリスハイブリッドだ。グレード別まで細かくWLTCモード燃費を並べてみると以下のようになる。
■日本車のハイブリッド車 WLTCモード燃費ランキング
1位:ヤリスハイブリッドX/36.0km/L
2位:ヤリスハイブリッドG/35.8km/L
3位:ヤリスハイブリッドZ/35.4km/L
4位:プリウスE/32.1km/L
5位:ヤリスクロスハイブリッドX/30.8km/L
5位:プリウスA、Aプレミアム/30.8km/L
7位:ヤリスクロスハイブリッドG/30.2km/L
8位:カローラスポーツハイブリッドG、G”X”/30.0km/L
9位:アクアL/29.8km/L
10位:ノートe-POWER F/29.5km/L
11位:フィットe:HEVベーシック/29.4km/L
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これを見て驚くのは、最高燃費36.0km/Lのヤリスハイブリッドが、かつての王者プリウスやアクアを押しのけ、大差をつけて圧勝。しかもヤリスハイブリッドは1~3位を独占し、派生車であるSUVのヤリスクロスハイブリッドも5位と7位に入っている。
実燃費も凄い。詳しくは後述するが、ベストカーの実燃費テストでは、郊外を走行した際には、なんと40.0km/Lを突破しているのだ。
なぜヤリスハイブリッドはこれほどの高燃費を達成できたのだろうか? モータージャーナリストの渡辺陽一郎氏が解説する。
文/渡辺陽一郎
写真/ベストカー編集部 ベストカーweb編集部
【画像ギャラリー】日本一の最高燃費 ヤリスHVはなぜここまで燃費がいいのか写真をチェック!
ヤリスHVのWLTCモード燃費36.0km/Lはなぜ達成できたのか?
ヤリスのなかでWLTCモード燃費の最高は、36.0km/LのヤリスハイブリッドX。続いて35.8km/LのハイブリッドG、その次は35.4km/LのハイブリッドZ
燃費はクルマの維持費を左右する性能だから、多くのユーザーが関心を寄せる。また燃料消費量が少なければ、二酸化炭素の排出量や化石燃料の消費量も抑えられるため、環境負荷も小さくできる。
EU(欧州連合)では、二酸化炭素の排出量が1km当たり95gという規制値を設けた。これをガソリンエンジン車の燃費数値に置き換えると、おおむね24.6km/Lになるとしている。
そこで日本車のWLTCモード燃費を見ると、優れた数値を達成しているのがコンパクトカーのハイブリッドだ。
特にヤリスハイブリッドは、35.4~36.0km/Lと日本車では最も優秀な値を示している。ライバル車のノートe-POWERは28.4~29.5km/L、フィットe:HEVは27.2~29.4km/Lだ。
これらのうち、29.5km/Lを発揮するノートe-POWER Fは、いわゆる燃費スペシャルになる。燃料タンク容量はXとSに比べて4L少ない32Lに抑えられ、数値上の軽量化を行った。各種のメーカーオプションも装着できず、実質的に選ぶ価値の乏しいグレードになっている。
その点でヤリスハイブリッドは、燃料タンク容量も全グレードが36Lで装備も充実させた。ユーザーが不便を感じることのない内容で、無理をせずに35.4~36.0km/Lを達成している。
ベストカーが行った実燃費テストでは最高40.0km/Lを達成
ベストカー本誌が実燃費テストを行ったヤリスハイブリッドG。WLTCモード燃費は35.8km/Lだが実燃費でのWLTCモード達成率は89.1%だった
実際にヤリスハイブリッドとフィットクロスターハイブリッド。VWポロの燃費テストを行った際の写真
郊外モードでは40.0km/Lを記録。WLTCモードでの郊外燃費は39.8km/Lだからそれを上回ったことになる
ヤリスHVが実燃費テストを行った企画はこちら!
そしてヤリスハイブリッドは、ベストカーの実走テストでも優秀な結果を残した。
テストしたグレードはハイブリッドGで、WLTCモード燃費は35.8km/Lだ。それが郊外モードに準じた走行テストでは、40.0km/Lを記録している。WLTCモード燃費の郊外モードは39.8km/Lだから、これを上まわる数値になった。
実走行の燃費は、市街地モードでは32.3km/L、高速道路モードでは26.8km/Lだから、郊外モードが圧倒的に優れている。
郊外は市街地に比べて発進や停止が少なく、高速道路に比べると空気抵抗を抑えられる。郊外モードの効率がよいことは分かるが、さすがに実走行で40.0km/Lは凄い。
なぜここまで燃費性能が優れているのか?
91ps/12.2kgmの1490cc、直3DOHCエンジンに、80ps/14.4kgmのモーターを組み合わせるヤリスハイブリッド
ヤリスハイブリッドがここまで優れた燃費性能を実現させた背景には、複数の理由がある。
まずハイブリッドを含めて、ヤリスに使われる設計の新しいM15A型直列3気筒1.5L、NAエンジンに注目したい。内径よりも行程寸法の大きなロングストローク型エンジンは、圧縮比を高めて燃料消費量を重視した設定になる。
モーターの付かない1.5L、NAエンジンのWLTCモード燃費も、21.4~21.6km/Lだから、従来から使われる1Lエンジンの20.2km/Lよりも優れている。
フィットが搭載する1.3Lの19.4~20.4km/Lと比べても良好だ。ヤリスが搭載するNAエンジンの低燃費には、CVT(無段変速AT)の高効率も影響を与えたが、エンジン本体の燃費効率も優れている。これがハイブリッドの優秀な燃費性能にも結び付いた。
ハイブリッドシステムも刷新されている。モーターの高出力化と高効率化を図り、潤滑方式も改善して損失を抑えた。パワーコントロールユニットも新規開発され、低燃費制御とモーター出力の向上を可能にしている。
駆動用リチウムイオン電池は充電量を拡大して、減速時に発電した時の回生効率を高めた。放電量も高まり、モーターの駆動力向上に貢献している。
このリチウムイオン電池の進化も燃料消費量の抑制に結び付いた。基本的なハイブリッドシステムは、以前のTHSIIと同様だが、使われる個々のメカニズムは進化を重ねている。
新世代のGA-Bプラットフォームを採用した新型ヤリス。最軽量モデルでは1トンを切る940kgでハイブリッドでは1050~1090kgを達成。また、重心高を15mm低くし、ボディのねじり剛性は30%以上強化。優れた操縦安定性と上質な乗り心地を実現
このほか軽量化や各種の抵抗低減も効果を発揮した。注目されるのはヤリスの軽さだ。
ボディ各部の骨格を工夫して、十分な剛性を持たせながら、車両重量を軽く抑えた。ヤリスハイブリッドの車両重量は1050~1090kgだから、ノートXやSの1220kg、フィットe:HEVの1180~1200kgに比べると100~150kgも軽い。
ノートe-POWERのWLTCモード燃費は29.5km/Lが最高(Fグレード)
フィットの最高燃費はe:HEVベーシックで29.4km/L
ノートe-POWERやフィットe:HEVのメカニズムは、エンジンが発電機を作動させ、モーターが駆動を担当するものだ。
フィットのe:HEVは、高速巡航時において、エンジンがホイールを直接駆動して効率を一層高めることも可能にしている。これらの複雑な制御が燃費効率を向上させる一方で、ヤリスに比べて重量の増加を招いた面もある。
トヨタは1997年に初代プリウスを発売した時から、THSのシステムを使い続けてきた。熟成を重ねているから、膨大な知見もある。それを昇華させたのが、ヤリスハイブリッドといえるだろう。
ヤリスハイブリッドのWLTCモード走行における二酸化炭素排出量は64~71g/kmだから、先に挙げたEUの95g/kmを大幅に下まわる。フィットe:HEVの79.0~85.4g/kmも95g/km以下だが、ヤリスハイブリッドはさらに少ない。環境負荷を大幅に軽減させた。
ヤリスHVがあればEVいらず!?
ハイブリッドは純ガソリン車のなかに含まれないことになっているので、2030年の東京都、2025年の我が国における新車販売禁止の対象にはならない
最近は「電動車」という言葉が頻繁に使われる。マイルドタイプのハイブリッドを含めて、モーター駆動の機能が備わればすべて電動車に含まれるが、「電動車=エンジンを搭載しない電気自動車」と受けとる人も多い。
「電動車」の語感は、なんとなく「電車」もしくは「電気機関車」に似ていて、限定的なニュアンスがあるからだろう。HV&EV(ハイブリッド&電気自動車)といった幅の広い表現にしたほうが誤解を招きにくい。
特にヤリスハイブリッドのように実走行で40.0km/Lを達成すると、電気自動車が環境性能で必ずしも有利とはいい難くなる。
電気自動車を二酸化炭素が排出されない太陽光や風力発電、あるいは課題の多い原子力発電だけで走らせるなら別だが、実際には火力も使うからだ。
火力発電された電気で電気自動車を走らせ、結果的に50g/kmくらいの二酸化炭素を排出するなら、ヤリスハイブリッドの環境負荷は電気自動車並みに小さいといえるだろう。
電気自動車に賛成とか反対という話ではなく、用途やボディの大きさなどに応じて、ハイブリッド、プラグインハイブリッド、マイルドハイブリッド、燃料電池車、電気自動車といったさまざまな「電動車」を使い分けるべきだ。
まさに電動技術の適材適所。ヤリスハイブリッドの燃費は、目からウロコというか、「電動車」の解釈が問われる今の時代にピッタリなクルマであった。
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みんなのコメント
日本の電力の90%が、化石燃料由来の電力。 発電所、製鉄所が日本のCO2排出の4割だそうだ。
車が環境にやさしくても、車に使用する電力の生産過程でCO2を多く排出している日本の発電事情が問題。
ノルウエーは、自然由来の発電で100%まかなっているらしい、
そのような国であれば、EVが環境にやさしいということになる。
豊田自工会会長は、そのことを問題提起したとおもう。
経営も優れて、車の性能も優れて、社員も優れて、世界をけん引するリーディングカンパニーである。次は全体固定電池搭載、充電不要の振動発電機の実用化、e-fuel燃料エンジン、空気圧縮エンジンも夢ではない。