さようなら、デミオ
text:Shigeo Kawashima(川島茂夫)photo:Masanobu Ikenohira(池之平昌信)アクセラのFMC(フル・モデルチェンジ)でマツダ3への車名変更を切っ掛けに他のマツダ車も海外展開車名に変更。デミオはマツダ2となったのだが、同時にMCが加えられた。
MC内容は定番の内外装のフェイスリフトと走行性能のブラッシュアップ、走行支援機能の拡充。GVCの展開が象徴的だが、マツダは以前から新機構や機能をいち早く普及させることに積極的。FMCを待たずに改良を加えてきたが、その点ではマツダ2へのMCは今ある最善のマツダ基準を再適合させたものと考えていい。
内外装の変化は掲載写真で一目瞭然。フロントマスクはラジエターグリル下桟からヘッドランプへと高輝度のメッキモールを配し、マツダ上級クラスと共通性の高いデザインとした。
改良新型の内装は?
内装は落ち着いた色調でまとめ、運転席電動パワーシートも設定。トリム関連に変更はないのだが、上級クラスのデザインセンスや装備を与えて小さな高級車としている。
クラス内相対評価ならマツダ車の中でも最もプレミアム志向が強い内外装である。
もう1つの改善は運転支援機能の向上である。
従来からACCは装着されていたが、MCでは停止までサポートする全車速型となった。車線維持支援は従来は警報のみだったが、新型では半自動操舵による車線維持機能が加わっている。
この他にパワートレインやサスペンションなどの基本走行ハードウェアにも改良が加えられ、車名変更も伊達ではないと思わせるだけのMC内容となっている。
2名+αが現実的 前席/後席
フロントマスクにしてもインパネまわりにしても、マツダ車は雰囲気も造形も共通点が多い。いきなり見せられると、「これはマツダの2、3、6 ???」となってしまう。
プロポーションとサイズが異なるので見間違いはしないものの、クラスやカテゴリーのコンセプトが二の次三の次ぎになったデザイン思想。しかもプレミアム感が基本なので、エントリーBセグメントのマツダ2にしてみれば、高級感が凄い! となる。
しかも光り物でがちゃがちゃ飾り付けるような高級の演出ではないのはマツダの巧みさ。大人向け高級ブランドの趣である。
ただし、雰囲気は上級クラスに負けないが、キャビンスペースは4名乗車にギリギリ。レッグスペースもヘッドルームも余裕がなく、大柄な男性の4名乗車は窮屈。付け加えるなら後席は視角的閉鎖感も強く、4名乗車頻度が高いユーザーには不向き。キャビン機能面での適応用途は2名乗車プラスα。
内外装のプレミアム感やキャビン機能からすればポストファミリーやリタイヤ世代向けのダウンサイジングには最適である。
走りの変化もこの用途への適性を向上させる要因の1つである。
明確に変わった乗り心地
試乗しても最も印象的だったのは乗り心地の改善である。
マツダ車のフットワークの弱点と言えばパッチ路などの荒れた路面での小さな突き上げに衝撃感が強く、サスの硬柔よりも硬さを意識させるものだった。
好意的に捉えればフレームやサスの強靱さとも解釈できるが、それは古びたスポーツ感覚でもあった。
しかし、新型は当たりが随分と柔らかくなっている。うねり路や加減速、コーナリング時同様のしなやかなストローク感が低速の荒れた路面でも実感できる。あるいは車軸まわりの動きがしなやかになった感じ。いずれにしても穏やかに過ごせる時間が大幅に増加した。
操舵追従のいいラインコントロール性や直進の収まりのよさも相変わらず。余談だが、スポーティな演出を抑えているせいか、高速走行はマツダ3よりも気楽に扱える。
レーンキープアシストについて
高速ツーリング性能向上に大きく寄与するLKA(マツダ名称LAS)の採用も見所。
一応、車両設定のセッティングからオン/オフと、稼働時には逸脱復帰からライントレースで利き具合をセットできるのだが、基本制御が逸脱防止のためライントレースを選択しても車線と進行方向を一致させる制御は行わない。システム任せで走らせると車線内蛇行をしてしまう。
それを嫌ってか試乗車はオフ設定となっていた。ちなみに操舵支援はスイッチによるオン/オフも可能だが、この場合エンジンを再始動させるとオンに自動復帰する。
ライントレース制御の出来は今ひとつだが、それでもLKAの採用は高速巡航の安心感を大きく高める。試乗車が初期設定をオフにしているのはちょっと解せない。
もちろん、ユーザーは初期設定オンが基本。違和感を感じる状況ならスイッチでオフが推奨!
ACC 全車速対応に
今ひとつなのは全車速ACCも同様、全車速型だが、EPSを採用していないため停止保持がごく短時間。停車維持する場合はフットブレーキを踏む必要がある。
Nボックスなどは軽乗用にも拘わらずEPB(電動パーキングブレーキ)を採用しACCでの停止保持を行っていることを考えるとマツダ2にも同機能が望まれる。
内装のグレードアップと同じくらい力を入れて欲しいのだが、どうも運転支援の進化には消極的なようだ。
ガソリン車 立ち上がりが〇
パワートレインはこれまでディーゼル車のみの設定だったエンブレ回生充電システムのi-ELOOPをガソリン車にも展開したものの、構造やスペックは従来車を踏襲している。
しかし、制御特性に変更が加えられたようで、ガソリン車を新旧で乗り比べてみると、新型のほうが踏み込み直後の加速立ち上がりがいい。時間的には僅かな差だが、従来車は一息ついて大きく立ち上がる。この遅れを取り戻すために無意識に僅かながら深く踏み込んでしまう。
新型では加速に移行した瞬間の力強さが無意識の踏み込み量を抑え、ペダルコントロールも穏やかになる。遅れ少なく穏やかな加減速は余力感を高め、トルクが増加したようにさえ思えた。
軽乗用を除けば、巡航回転数を2000rpmくらいに設定した変速制御は現代の乗用車では常識。マツダ2もその通りなのだが、加速に移行した時のダウンシフト・タイミングは早めである。
ディーゼル車の味つけ
トルクに余裕のないガソリン車ならば納得もするが、25.5kg-mもの最大トルクのディーゼル車も力任せの巡航ギア維持をしない。
繋がりのいいダウンシフトで加速の伸びやかさや変速のリズム感を出しているような制御。しかも、ディーゼル車はけっこうな急加速でも1段分のダウンシフトで済ませてしまう。無闇に速さを求めているわけではない。
この辺りはスポーティなドライブフィールにこだわるマツダらしい味付けだ。
ユーティリティや運転支援機能について不満はあるものの、コンパクトな車体サイズからは想像できないほどタウン&ツーリングの両面で上質なドライブを楽しめる。走りも含めて小さな高級車と称せられるモデルである。
「買い」か?
余力たっぷりのディーゼル車で、LKA標準装着。質感の高い合成皮革のシートに運転席パワーシートのXD Lパッケージの車両価格は2WDが245万8500円(4WDは266万7500円)。
マツダ2ほどのプレミアム内装ではないが、カローラ・スポーツのハイブリッドG”X”とほぼ同等レベル。
ガソリン車の15S LパッケージにACCとLKAを装備すると215万6000円(セーフティクルーズパッケージをメーカーOPで設定)。ACCとLKAが装備できる最廉価グレードは15Sプロアクティブで、装着価格で180万4000円。
下級グレードなら車格相応とも言えるが、マツダ2の見所をすべて揃えれば価格も「プレミアム」になってしまう。
コンパクトなのに上級
実用性や車格で計るとコスパの低いモデルなのだが、プレミアム度で計ればコスパは圧倒的だ。車格が上がるほどプレミアム度は高くなる。
「贅」は車格の要点の1つでもあり、上級クラスになるほど「贅」の演出効果も減少する。逆に経済性と実用性をクラスコンセプトの基本にするエントリーBセグメントならば効果も高くなる。
とくに嗜好的な面からマツダ車を考えているドライバーには見逃せない。
プレミアム志向のユーザーに
マツダのオリジナル・モデルではエントリーに位置するが、内外装のデザインテイストも走りの味付けも上級マツダ車と近似の部分が多々。
同じような味わいなら無理して上級クラスを選ぶ必要もなくなり、だったらマツダ2でいい。
個人的にはデミオからの車名変更で車名のプレミアム感も上がったように思われ、マツダ内のダウンサイジング傾向が強まったと考えている。タウンユースの機会も多いプレミアム志向のダウンサイザーにはイチ押しモデルである。
マツダ2 試乗車スペック
マツダ2 15S Lパッケージ(2WD)
価格:209万円
全長×全幅×全高:4065×1695×1525mm
最高速度:-
0-100km/h加速:-
燃費(WLTC):19.0km/L
CO2排出量(WLTC):122g/km
車両重量:1070kg
パワートレイン:直列4気筒1496cc
使用燃料:ガソリン
最高出力:110ps/6000rpm
最大トルク:14.4kg-m/4000rpm
ギアボックス:6速オートマティック
マツダ2 XD Lパッケージ(4WD)
価格:266万7500円
全長×全幅×全高:4065×1695×1550mm
最高速度:-
0-100km/h加速:-
燃費(WLTC):19.4km/L
CO2排出量(WLTC):135g/km
車両重量:1250kg
パワートレイン:直列4気筒1498ccディーゼルターボ
使用燃料:軽油
最高出力:105ps/4000rpm
最大トルク:25.5kg-m/1500-2500rpm
ギアボックス:6速オートマティック
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