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ROOKIE対TKRIの2台が魅せた超濃密な富士24時間の攻防戦。ペナルティが僅差の勝敗を分ける

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ROOKIE対TKRIの2台が魅せた超濃密な富士24時間の攻防戦。ペナルティが僅差の勝敗を分ける

「いや、非常に悔しいです!」

 5月24~26日、静岡県の富士スピードウェイで開催されたENEOSスーパー耐久シリーズ2024 Empowered by BRIDGESTONE第2戦『富士SUPER TEC 24時間レース』は、ST-Xクラスに参戦する1号車中升ROOKIE AMG GT3(鵜飼龍太/ジュリアーノ・アレジ/蒲生尚弥/片岡龍也)が、23号車TKRI 松永建設 AMG GT3(DAISUKE/元嶋佑弥/中山友貴/松浦孝亮)との息詰まる攻防を制し優勝を飾った。冒頭の言葉は、TKRIの河野高男監督のレース後の言葉だ。

「片岡さんはどっちの味方!?」スーパー耐久ST-XのTKRI対ROOKIEのメルセデス対決が見逃せない

■序盤から展開された24時間とは思えぬ攻防
 スーパー耐久シリーズのなかでも総合優勝を争う存在であるST-Xクラスは、今季第1戦は4台、第2戦富士SUPER TEC 24時間レースは5台が参戦した。ポールポジションを奪ったのはアジアからの新たなエントラントである33号車Craft-Bamboo Racing Mercedes-AMG GT3だったが、序盤から激しいトップ争いを展開したのは、スタートから速さをみせたDAISHIN GT-R GT3、そして中升ROOKIE AMG GT3、TKRI 松永建設 AMG GT3という2台のメルセデスAMG GT3だった。

 2台のメルセデスは浅からぬ因縁がある。以前にもオートスポーツwebで触れたが、AドライバーのDAISUKEのステップアップを助け、TKRIのチーム運営を行うのが、中升ROOKIE Racingの監督も兼任する片岡。レースは24時間にも関わらず序盤から熾烈を極め、ダッシュを決めた藤波清斗駆るDAISHIN GT-R GT3の背後ではTKRIのスーパー耐久初年度からチームを支える元嶋と片岡とのバトルが繰り広げられた。

 今年はスーパーGTでも争うことが多いふたりだが、もし万が一クラッシュした場合、TKRI 松永建設 AMG GT3の修理代を払うのは片岡。「僕は比較的ガツガツやりながらも、クリアランスはひとつ残していました」と片岡は笑った。

「逆のターンになったときに残してくれるかな? と思っていたら残してくれてなくてビックリしました。『おい元嶋~』みたいな(笑)。清斗を交えての序盤の戦いは『ホントに24時間かな?』というくらいでしたが、結果的に3台とも当たらなかったですし、レベルの高い序盤だったと思います」

 そんな序盤戦以降も、2台の争いは延々と続いていく。残念ながらCraft-Bamboo Racing Mercedes-AMG GT3とDAISHIN GT-R GT3はトラブルで長いピットインを強いられてしまい後退。代わってノーミスで追い上げていたDENSO LEXUS RC F GT3が3番手につけていたが、わずかな差があった。

 中升ROOKIE AMG GT3とTKRI 松永建設 AMG GT3は、夜になっても僅差の争いを展開し続けていた。ナイトランでもふたたび片岡と元嶋が接近。ただここで、2台の勝敗を分けた出来事があった。

■勝敗を分けた二度のドライブスルーペナルティ
 それはナイトランでフルコースイエローが導入されたときのこと。元嶋が前を走っていた片岡を追い抜いてしまったのだ。片岡側から見ても「本当にギリギリ」というレベルだったが、これでTKRI 松永建設 AMG GT3には一度ドライブスルーペナルティが課されてしまう。

 さらにTKRI 松永建設 AMG GT3には、再度ドライブスルーペナルティが課された。これは河野監督が「僕のミス」というもので、チームのエースである元嶋の連続運転時間を2分36秒超過してしまったのだ。この二度のペナルティで80秒前後のタイムを失ってしまったことが最終的に勝敗を分ける結果となった。

 一方、中升ROOKIE AMG GT3は2023年も富士SUPER TEC 24時間レースを制しているものの、蒲生があわやクラッシュというスピンを喫したほか、片岡がペナルティを受けていた。そのため、今季は「アクシデントやペナルティは無しにしよう。メカニックもルーティンワークでペナルティをもらわないし、ミスをしない。一発の速さよりも確実性を重視しよう(片岡監督)」というキーワードで今季を戦っていた。

 監督兼任でもある片岡は、なるべく早めに自らのスティントを終わらせるべく早朝5時を前に走行を終えると、サインガードで監督に専念。早朝6時過ぎにはメンテナンスタイムをこなしたこともあり、TKRI 松永建設 AMG GT3が首位に浮上していくことになった。

 TKRI 松永建設 AMG GT3は二度のペナルティ分のギャップを埋めるべく、元嶋と中山、そして今回助っ人として加わった松浦とプロの速さを活かしながら走行を続けていた。DAISUKEはすっかり明るくなった9時を前にふたたびコクピットに戻ったが、メンテナンスタイムを行わず、「とにかくすべてを引っ張る(河野監督)」作戦に出ていた。燃費の面、そして中升ROOKIE AMG GT3に対してプレッシャーをかける面もあったという。

 その後TKRI 松永建設 AMG GT3は深夜の雨からドライに転じるなか、DAISUKEから中山へと繋ぐ。フィニッシュまで5時間となった10時、いよいよメンテナンスタイムを消化すると、この時点で中升ROOKIE AMG GT3が首位に再浮上した。ただこの後、TKRIは中山から元嶋へ、中升ROOKIEはアレジから鵜飼に繋ぐ。鵜飼もメーカー開発ドライバーながら素晴らしいスピードをもつが、プロが繋ぐTKRIはグイグイとその差を縮め、フィニッシュまで残り1時間少々というタイミングで2台の差は10秒を切っていた。「あわや逆転か」という空気も漂った。

■死力を尽くした24時間の攻防戦
 ただ、TKRIは最後のチェッカードライバーにDAISUKEの乗車時間を残していた。今回好タイムでラップしていたDAISUKEだったが、中升ROOKIEの片岡監督はこの戦略を把握しており、鵜飼から交代した蒲生にも決して無理はさせず、最後にアレジを投入。24時間を戦い、1周差で中升ROOKIEが逃げ切ることになった。

「とにかくノーミスをキーワードにして、それを24時間やり切れたことは大きいです。逆に、ノーミスだったからこそ勝てたと思います」と中升ROOKIEの片岡監督は、TKRIからのプレッシャーをはね返したレースを振り返った。

「でもTKRIはミスがふたつあったにも関わらずあの差で来ていたわけですよね。では逆にペナルティがなければどうなっていたのか、ということでもあります。それにDAISHINなど、トラブルがなければ……というチームは多かったですね。安定感がすべてのレースになったと思います」

 一方、「あわよくば勝ってやろうと思っていた」TKRIの河野監督は「ピット作業の内容も、メンテナンスタイムをギリギリまで引っ張った戦略もすべて合格だったと思います。でも、ROOKIEはやはりキレイにマージンをとりながら走っていた。互角のレースになれば向こうもペースを上げていたかもしれない」と語った。

「(中升ROOKIEは)チャンピオンチームの貫禄がありましたよね。だからこそ余計に悔しいです。でも我々のドライバーたちも4人ともすごく頑張ってくれたし、メカニックもノーミスでよく頑張ってくれました。今回、タイヤ交換が初めてのメカもいたのですが、ピット作業もぜんぜん負けていませんでした」

 お互いに死力を尽くしての戦いとなった中升ROOKIE AMG GT3とTKRI 松永建設 AMG GT3の争い。片岡監督ももちろん寝ていないのだが、24時間サインガードで指示を飛ばし続けた河野監督は喉を痛め、レース後、ポディウムも見ることなく息子の駿佑(GR Supra Racing Conceptをドライブ)が病院に連れて行った。なお取材は5月28日に電話で行ったが、河野監督は喉の痛みはあるものの、体調は回復しているという。

■2位だからこそさらなる成長へ
 TKRIはこれまで、ST-Z参戦時代から富士SUPER TEC 24時間レースは毎年スキップしてきた一戦。2023年、ST-Xクラスでタイトルを争ったことで、今季はついにDAISUKEが初参戦を決断。片岡とRSファインがさまざまな準備を手配し、初参戦初優勝を目指したが、それは惜しくも、まさかの片岡率いる中升ROOKIEに阻まれることになった。

「僕も仮眠したりはしつつも、ずっとレースを追っていましたが、ROOKIEさんはさすがの強さですよね。ミスもないし、メンテナンスタイムのタイミングなど、戦略性をもってやっていたので、『勝つべくして勝ったな』と思います」とAドライバーのDAISUKEは、悔しさもありながら素直にライバルを称賛した。

「片岡さんはいつも場を盛り上げてくれる人ですが、すごく冷静で、客観的なものをもっていますよね。その二面性が彼の素晴らしさだと思うのですが、そういうところが出るんだと思いましたね。草レース以外は一緒に戦ったことはないのですが(笑)」

「逆に、戦うことでこうして客観的にチームを見ると、片岡さんの素晴らしさも感じますし、RSファインや、スーパーGTのGOODSMILE RACINGでどんなことをやってきているのかもよく分かるんです。彼の素晴らしさもよく分かりました」

 通常、ジェントルマンドライバーはプロがすぐそばで二人三脚でスキルを上げていくもの。TKRIとROOKIE Racingの成り立ちからこうしてライバルとして戦うふたりだが、これもまた興味深いスキルアップの手段であり、『互いに絆を深め合い、称え合い、スポーツマンシップにのっとり、正々堂々と闘う』スーパー耐久らしさなのだろう。お互いが24時間、全力を尽くしたからこその感謝をDAISUKEは語った。

「僕がここまで来たのも片岡さんのおかげですし、一緒にやるという手段ではなく、こうしてこの場にいざなってもらったということだと思います。こうして24時間を戦って感じましたけど、僕は本当に人と縁に恵まれています。こういう体制でやれることに本当に感謝していますし、僕自身も驕らず精進していきたいと思います」

「成長しないと意味がないですからね。『TKRI』の略は『TKレーシング・インビテーション』ですから。さらなる高みにいざなっていただければと思います」

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