ファナテック・GTワールドチャレンジ(GTWC)・アジア・パワード・バイ・AWS/ジャパンカップは7月に鈴鹿サーキット、富士スピードウェイでの2連戦が終了。この先8月にはスポーツランドSUGO、9月には岡山国際サーキットでのイベントが控えている。
そんなジャパンカップに参戦するドライバーのなかに、“本場”ヨーロッパでのGTWCをよく知るドライバーがいた。GT3アマクラスにReap Fueling Ambitions/B-Maxエンジニアリングのランボルギーニ・ウラカンGT3エボでエントリーしている、濱口弘だ。
速さよし、気品よし。GTWCアジアに挑むジョホールの王子たちのモータースポーツへの情熱
かつてスーパーGT・GT300にも出場していたジェントルマンドライバーの濱口は2019年、前身シリーズのブランパンGTにオレンジ1・FFFレーシングのランボルギーニ・ウラカンGT3で参戦すると、スプリントカップのプロ・アマカテゴリーでチャンピオンに輝いた。GTWCへとシリーズ名称が変わった後も2020年、2021年と参戦を続け、今年はアジアシリーズのジャパンカップにエントリーを果たしている。
そんな濱口にアジアシリーズ参戦の経緯やヨーロッパシリーズとの違い、そして気になる自身とチームの“将来”について、話を聞いた。
■「楽しめる感じではない」ヨーロッパの“本気度”
濱口は現在、イタリアを本拠とするFFFレーシングの共同所有者という立場にあり、チームの代表は「もともと友人」のアンドレア・カルダレッリが務めている。
「2018年にブランパンGTシリーズ・アジアで(プロ・アマの)チャンピオンになったことで、ランボルギーニからご褒美で『本場に来たらいろいろとサポートするよ』と打診され、ヨーロッパシリーズに参戦することになりました」と濱口。
2019年から参戦を開始したヨーロッパでのシリーズについては、「台数も多いですし、ファクトリーチームも出ているので、“本気度”がすごかったですね」と語る。
「いわゆるプロ・アマクラスでも、“和気あいあい”な感じはまったくありませんでした。ただ、ある意味ではドライビングにすごく集中できる環境ではあって、研ぎ澄まされていくような感覚でした。『楽しいか?』と聞かれたら、『楽しめる感じではない』と答えることになりますが、それくらいコンペティティブな世界でした」
「僕はスプリントとエンデュランス、両方のカップに出場しましたが、スプリントは“運に左右されない”部分が魅力でした。その点、エンデュランスの方は運の要素がドライビングよりも大きくて……正直、ちょっと嫌になってしまった感はありますね」
ジェントルマンたる濱口がGTWCヨーロッパに惹かれたのは、コース上でのコンペティションだけではない。むしろそれとは対照的とも言えるパドックの雰囲気にも、大いに魅力を感じたという。
「やっぱりヨーロッパですごいと思うのは、ホスピタリティの部分です。我々ジェントルマンやスポンサーさんの居場所がしっかりと用意され、とても快適に過ごせます。スポンサーさんに対するメリットになりますので、そのあたりの部分は日本やアジアも学んでほしいな、というぐらいです」
3年間、ヨーロッパでのシリーズに参戦した濱口は、2022年にアジア・シリーズ/ジャパン・カップが開催されることを知ると、日本のB-MAXエンジニアリングに預けていた2019年のブランパンGTタイトル獲得車両での参戦を決断する。その背景には、現在のヨーロッパのGT3界が置かれた“状況”も影響したようだ。
「ヨーロッパはいま、GT3の“狭間の年”なんですよね」と濱口。WEC世界耐久選手権のGTクラスでは、LMGTE規定の車両を廃し、2024年からGT3をベースとしたクラスに生まれ変わる。
「そこに向けていろいろと中途半端なことが多くて……。たとえばアマである僕の立場からすると、組みたいプロドライバーが他のレースといろいろと重なっていて、あまりピンと来る人がいなかったりするんです」
FFFのチーム代表を務めるカルダレッリも、先頃ランボルギーニのLMDhドライバーに選出されるなど、盛況なハイパーカー/LMDh市場へとドライバーが“ステップアップ”していく流れも、GT3の世界に影響している、ということのようだ。
「レギュレーションの面でもクルマのアップデートはないし、新車を買うのはもったいなさすぎるし……という状況のなかで、日本にもクルマを置いていたので、1回原点に戻ってアマ・アマのレースをやってみようか、と」
『練習用』だったウラカンGT3の預け先だったこともあり、B-MAXメンテでの参戦はすんなり決まったという。取材は富士戦の金曜日に行ったが、すでに鈴鹿戦を終えた時点で、GTWCアジアを「めちゃくちゃ楽しんでいる」と濱口は笑顔を見せていた。
「5年間、日本でレースをしていませんでしたが、いま日本のジェントルマンの方って、WECやル・マンに出ている方もいらっしゃって、スーパーGTやスーパー耐久などで活躍されている方もいる。その人たちとは実際に争ったことがなかったので、腕試しじゃないですけど、そんな方々とレースをするのを楽しみにしていました。実際、一緒にレースをすることができて、たまにはこうやって故郷でレースするのもいいな、と感じています」
濱口によれば、コース上でステアリングを握っていても、ヨーロッパとは周囲のドライバーの雰囲気に違いを感じるという。
「やっぱりみなさん、マナーがいいですね。(鈴鹿も)レースは荒れましたけど、やっぱりヨーロッパに比べたら、皆さん本当にお行儀がいいです(笑)。本当に温厚だな、と」
「僕らがみんな楽しんでいるのを見て、カップカーやS耐のレースをやっている人からは『アマふたりなら、予選含め現実的になるからやりたいよね』という声を聞いています。僕らも来年、もう1回やりたいと思っています」
■LMDh参入メーカーに用意される“GT3枠”でWEC参戦?
昨年のGTWCヨーロッパ/スパ・フランコルシャン24時間レースの際のインタビューでは、GTWCアメリカへ進出したいとの希望も語っていた濱口。現在、その将来に向けてはどんなプランを考えているのだろうか。
2022年に向けてランボルギーニがファクトリーチームのアロケーション(割り当て)を決める際、当初はFFFがGTWCアメリカに参戦する予定とされていたが、その後(アメリカがベースの)K-PAXがその参戦を担うことに変更されたのだという。
その点は残念な方針変更となったが、FFFには欧州で重要な役割を担う可能性もあるようだ。
「個人的には、2024年はWECのGT3をやりたいと思っています。LMDhに参戦するマニュファクチャラーには、GTの(参戦)枠も一緒についてくるんですよ。いまは基本、そういった(その枠をFFFが担う)流れになっています」
「ですから、来年はまた(GTWCの)アジアシリーズに参戦することに加え、ヨーロッパのシリーズにも出るかどうか……という感じですね」
濱口自身はWECへの参戦経験はないものの、ル・マン24時間が行われるサルト・サーキットは2020年のサポートレース『ロード・トゥ・ル・マン』で走行済みだ。このときはカルダレッリと組んでウラカンGT3を走らせ、クラス優勝を遂げている。
「ジェントルマンとしてレースをやる以上、やっぱりル・マンを経験せずには(キャリアを)終えられない。無理して車両をレンタルして、他のメーカーのGTE車両で……という話やチャンスもなかったわけではないですが、せっかくここまでランボルギーニとファミリーとしてやってきたので、その流れで出られるチャンスがあれば出たいと思っていました」
そのチャンスが、2024年に巡ってくる可能性がある。多くのジェントルマンドライバーが活躍するWECのGTクラスのフィールドで、濱口とFFFの力走が見られる日を楽しみにしたいところだ。
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