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ハースF1チーム新代表、小松礼雄物語(中編):F1エンジニアとして評価を確立。盟友グロージャンと向かった新興チームで味わった“地獄の日々”

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ハースF1チーム新代表、小松礼雄物語(中編):F1エンジニアとして評価を確立。盟友グロージャンと向かった新興チームで味わった“地獄の日々”

 10代からイギリスに渡ってF1の夢を追い求め、ハースF1のチーム代表まで登り詰めた小松礼雄。その成功の裏には、佐藤琢磨との出会い、ルノー/ロータスでのロマン・グロージャンとの蜜月など、様々なサイドストーリーがある。そんな彼が自身の“幸運”なレース人生について独白した。今回はその中編。

 大学で博士課程に進んでいた小松は、コリン・コレスからF3チームでのレースエンジニアのオファーを受ける。これを承諾すべきか悩んでいた頃、イギリスF3で共に戦った佐藤琢磨から電話があった。

■ハースF1チーム新代表、小松礼雄物語(前編):イギリスで人生を変える出会い。佐藤琢磨がF1の世界へと誘った

———やるべきか、やめるべきかと迷い続けているうちに、琢磨くんから電話がかかってきたんです。「アヤオ、元気?」って。

 僕はコレスからオファーを受けていて、それを受け入れることになるかもしれないという話をしました。すると彼は「それって辞退できる? HRD(ホンダ・レーシング・デベロップメント)の田中詔一社長のところへ行って話をした方がいい。君と話したがっている」と言ったんです。それで田中さんとオットマー・サフナウアー(当時のHRD副社長)に会いに行ったところ、彼らはF1での仕事を与えてくれました。

 当時はテストが無制限だった時代です。僕はビークルダイナミクスのグループに所属しましたが、テストの度にダンパーやサスペンションセッティングなど、常に新しいものがありました。博士号取得のための研究とも直結することがたくさんあったので、とても良かったです。

 それから1年か1年半が過ぎ、タイヤ部門に移ることになりました。当時はタイヤ戦争の真っ只中で、各チームはかなりのパフォーマンスをタイヤから引き出していました。BARでの最終年となった2005年は、タイヤに関してミシュランとひたすら分析を重ねました。楽しかったですね。

 そこでミシュランの人が僕の仕事を評価してくれたのだと思います。すぐにルノーからアプローチがあり、移籍することになりました。やることは同じでしたが、優勝やタイトルを争っているチームだったので、素晴らしい時間を過ごしました。1日に30~40種類のタイヤをテストすることもありましたね。ミシュランのサポートの下、ヨーロッパの色んなサーキットに行きました。ポール・リカール、ヘレス、バレンシア……ひたすらタイヤテストをしてパフォーマンスを追い求めました。

 そうして(2006年を最後に)タイヤ戦争は終わるわけですが、僕はパフォーマンスエンジニアをやりたいと思っていました。2007年からテストチームに(パフォーマンスエンジニアとして)配属され、2008年はレースチームで同じ役割をしました。その3年後にはヴィタリー・ペトロフ担当のレースエンジニアになりました。最初のレースでいきなり表彰台を獲得できたのは最高でしたね。そのレースはピレリタイヤでの最初のレースでしたが、僕たちは他が3ストップをする中、2ストップ作戦を成功させました。それからも良いタイヤマネジメントを見せられたレースがたくさんあったと思います。

 それからヴィタリーともう少し仕事をした後、ロマン(グロージャン)の担当になりました。彼とは2009年にもパフォーマンスエンジニアとして関わったことがありましたが、彼はその後GP2に戻ってチャンピオンを獲得した後、F1に戻ってきたんです。

 ロマンは素晴らしいドライバーです。マシンの限界までプッシュする力は信じられないほどでした。彼とは多くのことを経験してきましたが、優勝できなかったことは今でも残念に思っています。彼はその天性のスピードをもってすれば、F1で勝てたはずだからです。

 彼がノっている時は、速さで叶うドライバーは他にいませんでした。ただ同時に、彼の場合は常にそうだったわけではありません。

 特にロータスでの1年目は酷いものでした。オープニングラップで何度クラッシュしたか覚えていませんが、特にスパの一件(2012年ベルギーGP)は忘れられません。彼はあれで出場停止を食らいましたが、その後に鈴鹿でマーク・ウェーバー(レッドブル)をスピンさせてしまいました。大変でしたね。

 自分に何ができるのかは分からなかったですね。レースエンジニアとしては2年目で、経験も比較的浅かったです。今思い返すと、あの時の僕に5年の経験があれば、もっと助けてあげられたと思います。当時の自分には、何かあった時に対処できるほどの資質は備わっていなかったのだと思います。

 もちろん、人として出来る限り彼をサポートしようとしていました。ただ人生経験という点では、まだ若かったですね。正直今でも悪いことをしたと思っています。僕は彼のレースエンジニアでしたし、全体としてパッケージが大事なのに……。もっと助けられたし、助けるべきだったと思います。

 ただ2013年は良い1年になりました。ロマンは確実に成長していたんです。彼は周りの人間と一緒に、自分の中で色々なことを変えていきました。メンタル面でより良い準備が出来るように多くの経験を積み、レースによっては自分たちより圧倒的に速いレッドブルと張り合うようになっていました。

 鈴鹿ではスタートでトップに立ち、彼ら(レッドブル)がピットストップで出し抜くしかない状況にしたのも印象に残っています。2013年はたくさん表彰台を獲得しましたが、それでも彼のベストレースは2015年のスパだと僕は何度も言っています。

 その年は会社として、チームロータスとして瀕死の状態でした。資金がなく、ブダペストでは支払いができていなかった影響でセッション開始45分後までタイヤがない、ということもありました。シーズンの後半戦、鈴鹿では存続のためにバーニー(エクレストン)が援助をしないといけなくて、スパの週末も、サーキットに着くと僕たちのガレージは文字通り鍵がかかっていて、レースに出られるかどうかも分からない……そんな状況でした。その中で表彰台を獲得したロマンの走りは本当に驚異的と言うしかありません。

 ロマンがいなければ、僕はハースにはいなかったと思います。僕はエンストン(ルノー/ロータスのファクトリー所在地)とそこにいる人たちが大好きでした。みんなハードワークをしていて、素晴らしいチームスピリットがあったからこそ、財政難の中でもまともに戦えていたのだと思います。僕はチーフ・レースエンジニアでしたし、うまくいっていました。ロマンもそれを見ていたと思います。

 ロマンがハースと契約した時、彼がこう言ってきたんです。「ギュンター(シュタイナー/ハースのチーム代表)と話さないか?」って。それで話をしたところ、僕はギュンターのビジョンが気に入りました。とても面白いプロジェクトで、伸びしろがあると感じたんです。ただ、ロマンがいなければ移籍することはなかったでしょうね。

 イチからチームを立ち上げるというのは面白い経験でしたが、2016年の冬は地獄でしたね。最初のテストの段階から、僕たちはみんなボロボロでした。最初のマシンを作り上げるということはものすごいチャレンジだったんです。

 ダラーラを出て、みんなで大勢でバンに乗って空港に向かう訳ですよ。全員限界でしたね。僕もクタクタで、隣にいた奴は完全にやられちゃっていて、死んでいるかのようでした。「マジかよ、まだ始まってもないんだぞ!」と思いましたね。正直その時はシーズンが終わったような気分でしたから。

 そこからテストが始まっていって、睡眠時間もあまりとれませんでした。そして(開幕戦が行なわれる)メルボルンに着いたんですが、1年で一番長いフライト時間で、時差ボケもあって……それでも週末に向けて準備をして、徹夜で働かないといけません。水曜は夜通し働いて、木曜の夜に数時間寝れたくらいですね。

 ただ、良い結果が出た時にどれだけ報われるかというのを思い知らされましたね。正直ロマンがあのレースで6位に入っていなかったらどうなっていたか分かりません。あの結果が出せていなかったら、多くの人がいなくなっていたと思います。しかも次のバーレーンでは、次々にオーバーテイクして5位……あれに助けられましたね。(続く)

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