話題性のあるニュースが相次いだ2023年の自動車業界。日刊自動車新聞電子版でも自動車メーカーからサプライヤー、アフターマーケットまで、ジャンルを問わず様々な記事が注目を集めていました。
そこで、電子版編集部では2023年を振り返り、自動車ニューストップ10をまとめました。簡単な解説とともに、この一年の業界動向をおさらいしてみてはいかがでしょうか。
【10位】大手損保、事故車修理の「指数対応単価」20年ぶりに改定大手損害保険各社は、事故車保険修理の工賃算出で使用する「指数対応単価」を23年4月から一斉に引き上げました。改定は約20年ぶり。物価や労務費などの上昇を踏まえたものですが、国会で政府が取引適正化を促したことが背景にあります。
ただ、今回の改定だけでは、資材費や人件費、エネルギー費などの上昇分を賄えないとして、板金事業者の業界団体である日本自動車車体整備協同組合連合会は、大手損保各社に対して団体交渉を申し入れる方針を示しています。
【9位】新車ディーラーの再編相次ぐ電動化やソフトウエア定義型車両(SDV)など技術の高度化、サブスクリプションサービスの普及、人材不足など事業環境の変化を背景に、国内販売会社の再編が相次いでいます。ホンダは直営販社の統合を進めており、23年4月には北関東、中部、近畿、中四国で、24年4月には南関東、東北、九州(沖縄県除く)で統合します。日産自動車も直営販社である神奈川日産と日産プリンス神奈川を24年4月に経営統合します。
トヨタ陣営では、ウエインズグループが23年1月に神奈川県内の3販社を経営統合。愛知トヨタも5月に4社を統合して東西に分けたほか、千葉・埼玉でトヨタ系ディーラーを展開するトヨタ勝又グループは24年1月に体制を再編し、グループ6社を2社ずつ振り分けます。
【8位】電動化シフトでサプライヤーの「選択と集中」電気自動車(EV)など電動化シフトはサプライヤーの事業環境に急激な変化をもたらしており、事業の再編や売却などが目立つ一年となりました。ホンダは、燃料タンクなどを手がける八千代工業をインドのマザーサン・グループに売却すると発表。デンソーも点火プラグ事業などを日本特殊陶業に譲渡する検討を開始しました。ピストンリング大手のリケンと日本ピストンリングもライバル同士で経営統合し、競争力強化を図ります。
また、総合電機メーカーも新たな動きが活発で、三菱電機は自動車機器事業を分社化し、カーナビから撤退するなど事業再編を進めます。日立製作所は、日立アステモへの出資比率を下げ、ホンダ出身の竹内弘平社長が就任。パナソニックもパナソニックオートモーティブシステムズの一部株式を米国投資ファンドに売却し、成長に向けた資金を調達します。
【7位】自動車メーカー、生産回復や円安で業績好調長らく続いた半導体不足が緩和し生産回復が進んでいることで、自動車メーカーやサプライヤーの業績が好調に推移しています。加えて輸出産業でもある自動車は、歴史的円安も好業績の追い風となりました。日本メーカーの主要市場である北米での旺盛な自動車需要も拍車をかけています。
一方で、EVシフトや価格競争が激化した中国事業では、日本メーカー各社が苦戦を強いられています。深刻な販売低迷を受けて、三菱自動車は中国での生産・販売からの撤退を決定。日産は中国の工場を輸出拠点として活用することで稼働率を維持する方針を打ち出しました。
【6位】豊田章一郎名誉会長が死去トヨタ自動車の豊田章一郎名誉会長が23年2月に逝去しました。トヨタ創業者である豊田喜一郎氏の長男で、トヨタ自動車販売(当時)社長、工販合併後のトヨタ自動車初代社長、会長、名誉会長と、長くトヨタグループをけん引。日本自動車工業会会長や経済団体連合会会長も務め、日本の自動車産業と産業界全体の発展に貢献した功績は計り知れません。
【5位】自動車メーカーでトップ交代相次ぐ2023年は自動車メーカーのトップ人事が相次ぎました。トヨタでは、14年にわたり社長を務めた豊田章男氏に代わり佐藤恒治氏が新社長に就任しました。スバルは開発畑の大崎篤氏が社長に就任、電動化対応を推進していきます。マツダはマーケティングや米国法人社長の経験がある毛籠勝弘氏が新社長に就任しました。いすゞも8年ぶりにトップ交代し、新社長兼COOに南真介氏、片山正則氏は会長兼CEOと、ツートップ体制を構築しました。
【4位】日野と三菱ふそうが経営統合で合意2023年は商用車業界でも大きな動きがありました。トヨタグループの日野自動車と、ダイムラーグループの三菱ふそうトラック・バスが経営統合に向けて基本合意しました。トヨタとダイムラー・トラックが持ち株会社を新設し、2社を傘下に入れます。持ち株会社の出資比率は同割合とし、日本で上場。これに伴い日野はトヨタの連結子会社から外れる見通しです。2024年末までに統合完了を目指します。
新会社では、開発・調達・生産領域で協業します。また、トヨタとダイムラーは水素をはじめ商用車向け次世代技術開発でも協業します。今回の統合により、国内商用車メーカー4社は、いすゞ自動車・UDトラックス連合と、日野・三菱ふそうに二分されることになります。
【3位】ジャパンモビリティショー開催東京モーターショーから名称を一新した「ジャパンモビリティショー2023」(日本自動車工業会主催)が東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催されました。コロナ禍での中止を経て4年ぶりの国際ショーとなった今回は、気候変動から移動制約者対策まで、世界が抱える課題をモビリティの新技術でいかに解決するのか。自動車・部品メーカーと他産業やスタートアップといった「新たな仲間」が手を携え、未来のモビリティ社会を会場で提示しました。今回は前回の約2.5倍となる475社・団体が出展し、最先端の技術を披露。11日間で111万2千人が来場しました。
【2位】次々と問題が判明したビッグモーター自動車業界にとどまらず社会的にも大きな話題となったのが、自動車保険の不正請求問題が発覚したビッグモーターです。不正請求だけでなく不正車検や街路樹の違法伐採など、次々と問題が判明。沈黙を続けてきた同社ですが7月に都内で会見し、創業者の兼重宏行社長が初めて公の場に姿を現しました。兼重社長と、長男の宏一副社長が退任し、和泉伸二専務が社長に昇格しました。
保険金不正請求問題は損害保険会社の責任も追及される事態に発展。ビッグモーターとの取り引きが多い損害保険ジャパンは、不正を知りながら取引再開を主導したとして白川儀一社長が引責辞任の表明に追い込まれました。
様々な不正の発覚で、売り上げの大幅減をはじめ、店舗の閉鎖や従業員の離職、損害保険代理店登録を取り消す行政処分などが続き、業績が急速に悪化しているビッグモーターですが、伊藤忠商事と子会社の伊藤忠エネクス、独立系投資ファンドのジェイ・ウィル・パートナーズの3社連合が買収を検討すると発表しました。事業再建の検証に向けてデューデリジェンス(資産査定)を2024年春まで行い、買収するかどうかを決定します。
ただ、ビッグモーターは現在も兼重親子が株主の資産管理会社「ビッグアセット」の100%子会社です。伊藤忠側は兼重親子の影響力排除を買収の条件としており、兼重親子がどのような決断を下すのか、今後の行方に注目が集まっています。
【1位】ダイハツで認証試験不正が発覚2023年の電子版で最も注目を集めたのが、ダイハツ工業の認証試験不正です。12月20日に、国内外64車種と3エンジン(生産終了モデル含む)を対象に25の試験項目で174個の不正が判明し、全車種の生産・出荷停止を発表。ユーザーをはじめ、仕入れ先や販売会社など自動車業界に衝撃が走りました。
発端は23年4月に発表した、海外で生産・販売する車両4車種の側面衝突試験の認証申請での不正行為です。その後、5月には「ロッキー」とトヨタにOEM(相手先ブランドによる生産)供給する「ライズ」のハイブリッド車で、ポール側面衝突試験に関する認証手続きでの不正行為も判明。外部の専門家3人で構成する第三者委員会で全容解明に向けた調査を開始し、12月20日に公表しました。
国土交通省は12月21日、ダイハツ本社に立ち入り検査を実施。また、国交省と自動車技術総合機構で、全ての現行生産車の基準適合性について技術検証を行います。
今回の不正によりダイハツは、1月末までの生産停止を決定しましたが、生産再開のめどは立っていません。これを受けてダイハツでは従業員の休業期間中の給与や、仕入れ先の損失補償を行う方針です。親会社のトヨタもダイハツの資金繰りが悪化した場合は融資を行う方針を示しています。
今後の動向は、国交省の調査結果次第となります。調査結果によっては型式が取り消される可能性もあります。一方で国交省は、現行生産車の基準適合性を確認した車種から順次結果を公表する方針を示しています。ユーザーの不安を速やかに払しょくするとともに、安全性が確認された車種から出荷再開できれば、サプライチェーンや販売現場への影響を抑制することにもつながります。
(2023/12/31修正)
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