制御不能に陥ったフェラーリ121 LM
1956年4月の公道レース、ペブルビーチ・ナショナル・チャンピオンシップへ、アーニー・マカフィー氏は参戦。カリフォルニア州モントレーへ続くワインディングは、走り応えのある区間として知られていた。
【画像】フィアットV8のスポーツレーサー シアタ208 CS メキシコ・クーペ 同時期のクラシックたち 全124枚
「路肩に並木が迫るコースですが、速すぎるフェラーリ121 LM(735 LM)が制御不能に陥る可能性を、多くの人は気付いていたでしょう」。と惜しむように話すのは、当時を知るレーシングドライバーのフィル・ヒル氏だ。
「彼のご婦人と、日曜日の朝に会話したのですが、彼女もレースを心配していました。わたしと同様に」
そんな予感は、現実になった。33周目、マカフィーは第6コーナーで痛恨のシフトミス。タイヤはロックし、ブラックマークを残しながら松の幹へ運転席側から突っ込み、彼は即死してしまう。
ヒルは、キャロル・シェルビー氏に次ぐ2位でゴールしているが、ショックの余り言葉を失ったという。「レースに加担したことへ、罪悪感のようなものを抱きました」。と振り返る。マカフィーの娘は、父親の顔を見ずに成長することになった。
石油王で彼を支援していたビル・ドヒニー氏も、友人の死に心を痛め、フェラーリとシアタのコレクションを封印。1958年には、カーマニアのウェス・ベルト氏へ手放すことを決める。
ワンオフのシアタ208 CS メキシコ・クーペを入手したベルトは、カリフォルニア州パームスプリングスのレースへ参戦。その後、シボレーのスモールブロックV8エンジンへ換装するなど、改造を加えていった。
オリジナルのV8エンジンと5速MTも発見
知人のアーティストに協力を仰ぎ、ボディの変更も計画された。フロントノーズを伸ばし、エアインテークを変更したアイデアが描かれ、ボブ・キャロル氏のワークショップへ持ち込まれるが、幸いにも実施されなかったようだ。
塗装が剥がされ、アルミニウムの素地が露出したボディは、屋外に放置。付近にあったデザイン大学の学生から、注目を集めたらしい。
幸運なことに、カーコレクターのリック・コール氏が1982年に発見。イタリア車へ詳しい、アントン・クリバネク氏の知識を借り、マカフィーの208 CS メキシコ・クーペだと判明した。
コールが購入すると、クリバネクが2年間をかけてレストア。自動車雑誌を介して、オリジナルのフィアットV8用エンジンと、5速マニュアルの所在も見つけ出した。丁寧な仕事で、当時の姿は蘇った。
作業で判明した事実が、スパイダーと同じボックスセクション・シャシーがベースなこと。通常の208 クーペは、チューブラー・フレームを採用していた。
実はマカフィーは、1953年のカレラ・パナメリカーナへ、小さな1600ccエンジンを積んだ208 スパイダーで参戦。シャシーだけでなく、カギにも穴を開けるなど、徹底的な軽量化が図られ性能は高かった。最初のセクションでは、5位を走るほど。
しかし、先頭のポルシェを追い越した直後にコースアウト。コンクリート製の道標へヒットし、リタイアしてしまう。強い衝撃でステアリングラックにヒビが入り、フロントのクロスメンバーは曲がったという。
観衆の記憶へ刻まれたエグゾーストノート
その年、マカフィーは無事だった。「来年また戻ってきます。もっと軽量化の穴が必要かも」。という、冗談交じりのコメントを残している。
レストアを進めるクリバネクは、スパイダーの軽量化されたシャシーを知っていた。208 CS メキシコ・クーペは、現存しないと考えられていた、1953年のスパイダーがベースではないかと考え始めた。
インターネットが存在しない1980年代、情報収集は困難を極めたが、彼の推測は間違いだと判明。スパイダーは、1954年にもレースを戦った情報が残っていた。
クーペのボディを、誰が描き出し、成形したのかは不明。スパイダーのデザイナーはジョバンニ・ミケロッティ氏で、形にしたのはカロッツェリアのベルトーネ社。両者がクーペへ関わっても不思議ではない。だが、その証拠は残っていない。
シアタの歴史に詳しい専門家の多くは、シアタ社のワークショップで作られたのではないかと考えている。マカフィーの指示を得ながら。
レストアを終えた208 CS メキシコ・クーペは、1984年のモントレー・ヒストリック・オートモービル・レースへ参加。1955年以前のスポーツカー・クラスでコールがドライブし、ランチア・アウレリアやジャガーXK120などと競い、4位を掴んでいる。
会場となったラグナセカ・サーキットの名物コーナー、コークスクリューでは、激しい減速と共に、2.0L V8エンジンがアフターファイアの破裂音を炸裂。カリフォルニア州へ上陸してから30年という節目に、観衆の記憶へ刻まれたに違いない。
才能や情熱が消えることはない
1956年にフェラーリ121 LMで命を落としていなければ、その時のマカフィーは65歳。ツイン・ウェーバーキャブレターの調整を、彼が手伝っていたかもしれない。
208 CS メキシコ・クーペは、1991年にリビルドを受け、イタリア・ミッレミリア・レースのため欧州へ上陸。その後、当時のオーナーはオークションへ出品し、収益はアメリカの医療研究施設、スクリプス研究所へ寄贈された。
現在のオーナーは、ドイツ人のカーマニア。ハンブルクのシュタインケ・シュポルトワーゲンサービス社へリビルドが依頼され、完璧な状態が維持されている。2023年の英国コンクール・オブ・エレガンスで、仕上がった姿は公開された。
伸びやかなボディラインと、シャープで切れの良いエグゾーストノートは、当時のまま。オーナーは積極的にクラシックカー・イベントへ参加しており、最近では常連の1台になっている。
マカフィーが命を落としたコース上には、かつて慰霊碑が立っていたが、現在は残っていない。クルマを再生させたクリバネクも、2020年にこの世を去ってしまった。しかし、208 CS メキシコ・クーペは、今後もわれわれに勇姿を披露してくれるはず。
彼らの才能や情熱は、カタチに残り消えることはない。サイドガラスの赤いステッカーも、色褪せずに残ってほしい。
協力:フィスケンス社、トニー・アドリアエンセン氏、グッドウッド・モーター・サーキット
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みんなのコメント
おしむらくは、事が起こる前にナンとかして欲しかった。