経済産業省が2030年代半ばまでにガソリン車の販売をやめて電動車のみとすることを検討しているという報道は、自動車業界に大きな波紋を投げかけた。しかしながら、現時点では電気自動車の普及率は低く、とてもそのようなスケジュールで切り替えられると思えない。
そこで海外の電気自動車事情と比較しながら、今後の電気自動車の可能性を解説してもらった。
文/小林敦志、写真/小林敦志、ベストカー編集部
【画像ギャラリー】ホントに移行できるの?? 海外の電気自動車事情と日本の電気自動車の今後を考える
■HEVを除けば日本は電化途上国
ホンダ初の量産BEVであるホンダ e。ハイブリッド車を除いた場合、日本の自動車の電化率はまだまだ低い
2020年12月に「経済産業省が2030年代半ばまでに、ガソリン車の販売をやめ電動車のみとすることを検討している」との報道は、自動車業界をおおいにざわつかせた。
その対象についてはいまのところ、HEV(ハイブリッド車)、PHEV(プラグインハイブリッド車)、BEV(純電気自動車)、FCEV(燃料電池車)とされている。拡大解釈してスズキのエネチャージまで入るとの情報もあるが、はっきりしないのが現状である。
HEVが電動車としてカウントされれば、すでに日本車は登録車を中心に広くHEVがラインナップされているので、統計上は電動化が結構進んでいることになるが、世界の電動車に対する潮流を見ていると、今後の電動化の主役はPHEV、BEV、FCEVといっていいだろう。
世界市場で見れば、日本車の電動化、とくにBEVへの対応の遅れはすでに明らか。「アメリカはどうなんだ?」との話もあるが、確かにトランプ政権時代には、車両電動化どころか、ガソリン価格が安めに推移していたこともあり、「V8イエーイ」ではないが、大排気量車がよく売れていたとの話も聞いた。
ただ、アメリカ国内でも車両電動化に熱心なカリフォルニア州では、新築住宅に対しソーラーパネルの装着を義務化している。そして既存の住宅に対しては、数年前に州政府が充電施設の設置に関して補助金を交付し、多くの住宅では“不動産価値があがる”として、居住者が充電施設を設置したとのこと。
砂漠をクルマで走れば、そこかしこにメガソーラーが新規で建設が進められている。すでに車両電動化の“下準備”は着々と行われているのである。アメリカらしいといえば、「BEV保有率の高い、富裕層の住む地域から電力供給インフラの再構築を進めている」といった話も聞いたことがある。
●アメリカのBEVは富裕層の“おもちゃ”
ロサンゼルス近郊のフリーウェイを走っていると、テスラの各モデルを当たり前のように見かける
車両電動化に消極的であったトランプ政権時代にも、カリフォルニア州のように着々とインフラ整備を進めている事実がある。これがバイデン政権となり、連邦政府レベルで本格的に車両電動化に取り組めば、全米レベルで加速度的に車両電動化が進んでいくことになるだろう。
南カリフォルニアをレンタカーでドライブしていれば、テスラのあらゆるモデルを嫌と言うほど見かける。そのほかではBMW i3やシボレーBOLTも結構な数で見かける。
BEVは富裕層の間ではファッショナブルな“ツール”として、生活圏内で好んで乗られている。カリフォルニアではフリーウェイの優先走行レーンの利用など、インセンティブもあるのだが、もっぱら電動車は富裕層の間で普及が広まっている。
筆者の私見を言わせてもらえば、いまはガソリン車に比べれば高額なこともあるが、富裕層の“おもちゃ”的存在ともいえるBEVだが、富裕層が優雅にBEVを乗っている様子を見て、庶民層の間で「いつかは私も」という思いが強まれば、BEV普及に弾みがつくことになるのではないかと考えている。
アメリカという国土の広い国では、現状ではBEV1台ですべてを賄おうとしてもなかなか難しい。
筆者が確認したところでは、ロサンゼルスエリアとラスベガスエリアを結ぶI(インターステートフリーウェイ/州間高速道路)15号線では、ロサンゼルスエリアとラスベガスエリアの中間地点にテスラ車専用の充電施設が設けられており、ラスベガスまではテスラで往来することが可能となっている。
■アジアの一部でも富裕層を中心に浸透
タイでは上海汽車の現地工場でBEVが生産されるなど、意外なほど電動車が注目されている
しかし、クルマの複数保有が当たり前のアメリカでは、BEVは街乗り用で、レジャーなどではガソリン車を利用するといったパターンも多いようだ。
韓国起亜自動車やヒュンダイ自動車などもBEVをラインナップしているが地元のひとは、「街で見かけることはあるけど、レンタカーでしょ」と語ってくれた。“まずは富裕層から普及を”というのが、“アメリカ流”なのかもしれない。
タイのバンコクでも“アメリカ流”で電動車が普及しているとの話を聞いたことがある。
バンコク市内の高級ショッピングモールの駐車場では、店舗への出入り口近くに充電施設が設置されており、そこにおもにPHEVまたはテスラとなるようだが、富裕層がクルマを停めて、充電している間に“お買い物”をするのがトレンドとのことである。
BEVはガソリン車に比べれば割高な価格設定となっているのが現状。人為的な普及促進策の強化をしなければ、富裕層から乗り始めるのは自然な流れ、過去の自動車自体の創成期であっても、富裕層の“道楽”として普及が進みはじめたとされており、時代は繰り返しているのである。
■一気に電動化を進めようと画策する中国
広州市内の道路の様子。BEVはバスやタクシー、高級欧州ブランドのPHEVやテスラが目立ち、台数は意外に少ない
世界一BEVが普及されている中国では、さまざまなインセンティブを用意し、庶民から富裕層まで一気に車両電動化を進めるような政策をとっている。
しかし、中国汽車工業協会によると、2021年2月の中国国内での新車販売台数145万5000台に対し、新エネルギー車(中国では新能源車/PHEV、BEV、FCEV)の販売台数は11万台となり、全体に対する新エネルギー車の販売比率は約7.5%にとどまっている。
しかも、北京や上海、広州など大都市の道路でさえ、走るクルマを見ていると、新エネルギー車は目立つものの、路線バス、タクシー、ライドシェア車、日本でいうところのライトバンといった、“はたらくクルマ”ばかり。
一般仕様では、ポルシェ カイエンや、レンジローバーなど高級外資ブランドのPHEV車やテスラを圧倒的に多く見かける。つまり、世界一新エネルギー車が普及している中国であっても、個人消費者レベルでの電動車普及はけっして“思惑どおり”ではない様子が伝わってくる。
そこで、中国政府はつい先日、バスやタクシーなど、公共輸送機関車の100%新エネルギー車化を推し進めることを発表している。台湾も段階的な電動車普及を進め、最終的には2040年に電動車以外の販売を禁止するとしている。
最近中華ブランドのマイクロBEVが注目されており、そのなかでもあるブランドのマイクロBEVが日本で注目されている。
“世界一売れているBEV”ともされているが、政府の新エネルギー車普及の新たな“切り札”のように見え、報道での現地レポートにおいて、“セカンドカーとして重宝している”というのも、中国におけるBEVの新しい普及スタイルのようにも見える。
●日本では選択肢の少なさが普及のネックに
写真の日産 リーフのほか、純電気自動車はまだごくわずかだ
日本国内では現状でも、BEVやFCEVなどへの購入補助金は用意されているが。電動車の普及は遅々として進んでいない。インセンティブの充実などの前に、明らかに選択肢が少なく、とくに日本車だけで見れば選択肢がかなり限定されているのも普及を阻んでいると考える。
中華ブランドでは当たり前のようにBEVが幅広くラインナップされているのに、中国国内で思うように普及しない様子を見れば、日本の現状は当たり前のようにも見える。
日本では自国ブランドでは、HEVを除けば極端に電動車のラインナップが少ない現状では、ダラダラと自家用車メインで電動化を進めていては、普及のスピードアップは期待できない。
そこで、日本でも路線バスやタクシーから電動化を進めてみてはどうだろうか? と筆者は考える。
すでに全国各地で中国BYD製のBEVバスが営業運行を行っている。BYDのほか複数の中華系ブランドBEVバスも日本に上陸している。
多くのバス事業者では新型コロナウイルス感染拡大により、大幅な収益減に苦しんでおり、燃料としての軽油代の負担が重くのしかかっている。また日々運行しているので、エンジンオイルもその消費量がハンパではない。そのようななかで、バス業界で熱い視線を集めているのがBEVバスとなっている。
軽油に比べて電気代は安いし、内燃機関車のようにオイル交換も不要など、メンテナンスコストの削減もねらえる。すでに、世界の多くの国では、路線バスはCNGなどのガスを燃料として走っていることが多く、先進国でディーゼルバスばかりというのも珍しい。
■短期でのバスの電動化は国内3ブランドには困難か
日本国内でバス事業者向けに開催されるイベントには、中華系のBEVバスが出品されており、注目度は高い
ただ、バス車両のオリジナルでの電動化(BEV)については、国内3ブランドでは短いスパンでの市販化はほぼ期待できない状況にある。
ある国内バスメーカー関係者に以前聞いたところ、「雇用問題に発展するので、BEVはアンタッチャブル」といった話を聞いたことがある。部品点数の少ないBEVにすると、取引先でのリストラや取引先自体の廃業を招いてしまうというのである。
現場の運転士レベルなどでは好評のBEVバス。中華系メーカーならば、日系のディーゼルバスと価格はほとんど変わらないとのこと。中国国内での営業運行実績もあるので、路線バスの電動化を進めるには、中華系メーカー車両の導入が早道なのだが、政府レベルでは「安全保障上の問題がある」との声もある。
いまは良好な日中関係であるが、いつこれが崩壊してもおかしくない。その時に「部品供給をとめる」とか言われてしまうのではないかというのである。
中華系以外には、韓国ヒュンダイ自動車もBEVバスに熱心なのだが、“安全保障上”とまではいかなくても、やはり政治レベルでの不安要素がまったくないわけではない。
●東南アジアなどの新興国では欧州メーカーが展開
ジャカルタ市内を走るバス高速輸送システム「トランスジャカルタ」。ダイムラー、スカニア、ボルボなどのシャシーに現地でボデーが架装される
そのなか、東南アジアなどの新興国で積極的に動いているのが、欧州系メーカーである。ダイムラーやスカニア、ボルボが、いまは内燃機関車となるのだが、バスシャシー販売を積極展開している。
バスシャシーのみを販売し、上屋、つまりボデー架装は地元メーカーに任せるというものである。いまのうちに、各国の市場に食い込んでおき、きたるべき車両電動化もそのまま進めてしまおうとしているのではないかとの話もある。
日系バスメーカー3ブランドも、何らかの形でダイムラーやスカニアなどと提携関係にあるので、いざとなったら外資頼みで車両電動化を進めるのではないかともいわれている。
いま盛んに全国で“連節バス”の導入が進んでいる(HEVとなるが)。連節バスではダイムラーやスカニア車両のほかに、日系ブランド車もラインナップされているが、連節バスで“要”となる技術は外資製となっている。
「これを日の丸連節バスと呼んでいいのか」という声も業界内では聞かれた。“もの作り大国日本”は過去の話。いまはバス以外でも“できない技術”が増え続けているのである。
■タクシー電動化はLPGスタンド減少の救世主?
北京汽車のフリート販売用BEVセダンEU。電池を取り外して充電する
一方のタクシーでは、燃費の良いJPNタクシーの登場もあるとされているが、東京も例外ではなく、LPガススタンドの廃業が相次いでいる。いまや、地方の県庁所在地であっても、街を走るタクシーはガソリンハイブリッドやガソリン車ばかりとなっている。
LPガススタンドの廃業で、距離の離れたスタンドへ行くことになり効率が悪くなっているだけならまだしも、“LPガススタンド空白地帯”まで生まれているのである。
ただし、地方の山間部などではガソリンスタンドの廃業も目立ってきている。ガソリン車ですら、タクシーの運行が難しくなるエリアが増える日も近いともいわている。
そこで気になるのがBEVタクシーである。試験導入レベルを除けば、世界で本格的にBEVタクシーが導入されているのが中国。それでも、まだまだ内燃機関車が多いのだが、着実にBEVタクシーが増えている。
日本では、かなりの山奥まで電気はしっかり引かれている。タクシー車両の電動化は地方の山間部などから始まるのではないかともいわれている。BEVタクシーではBYDがすでに“e6”というモデルをベースにしたタクシー車両を世界市場でラインナップしている。
e6自体は2009年にデビューした“10年選手”のBEVなので、タクシー車両としてのコストパフォーマンスも高いようである。このほかには、レンジエクステンダー搭載のロンドンタクシーとなるが、こちらはコストパフォーマンスが気になるところ。
■日本のタクシーのEV化には壁が
バンコク市内でも試験導入と思われるが、BYDのBEVタクシーが走っている
ただ、車種選択の前に、タクシーでのBEV化には大きな壁が立ちはだかっている。
いままでのタクシーならば、ガソリンスタンドでの給油や、ガススタンドでのガスの充填となるので、数分レベルで終了するが、これが“充電”となると、1時間近くは時間を要してしまう。
中国 深圳市ではBEVタクシーの充電が終わるまで待っている間は、“充電手当”をドライバーに支給しているとのことなので、ほかの中国の都市でも同様の措置を取っているようである。
また、北京汽車のフリートセールス専売となるタクシーベースのBEVセダンは、リチウムイオン電池が脱着式となっており、電池のみで充電ができるので、待ち時間がないこともあるのか、タクシーでの普及が目立っている。
ただし、日本国内では1カ所に大量のリチウムイオン電池が集まることになるので、消防法などに抵触するようで北京汽車の車両のようなシステムはいまのところ使えない。
日本でもタクシーのBEV化にあたっては、各事業者において組合などから、充電中の待機時間の対策が大きな議論となるだろう。
日系ブランドで耐久性も含めたコストパフォーマンスの良いタクシーベースとなるBEVが存在しないだけでなく、導入における労使問題も加わり、バス以上に本格導入に際しては困難を極めそうである。
日本メーカーも電気自動車を活用した再生可能エネルギー普及など、様々な手段で電気自動車普及に努めている
“2030年半ばまでに電動車以外販売禁止”とぶち上げたのはいいが、単純にガソリン車の販売だけ禁止すればいいという問題ではない。
まずは公共輸送機関での、先行しての積極的な車両電動化は一般消費者への電動車のアピールにも非常に効果的であるし、日々街を走っているのだから、温室効果ガス削減にも効果を発揮するだろう。
デジタル化推進と同じで、かなりのレベルで出遅れている日本の車両電動化を一気に進めようするのはかなりの力業が必要。
台湾ではまず自ら(政治家や役人)お手本を、ということで公用車のフル電動化を進めるとのこと。段階的に車両電動化を進め、電動車とはどういうものなのかを、国民にひろく知らしめるためにも、バスやタクシーの電動化(BEV)を進めるのは非常に有効と考える。
海外から訪れた外国人のなかには、日本の空港に降りたつと、“想定外にガソリン車などの排気ガスの臭いがする”と感じるのだそうだ。とにかくここまで出遅れたら、段階的に電動化を進めて整理していくことは大切だと考える。
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みんなのコメント
カリフォルニア州だけで北米と片付けたがるw
あのー、州によっては石油が産業のところも
あるんですけど、大統領選とか見てなかったんですか?
これだからベストカーみたいなにわかの集まりは・・・