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マジック・カーペットは電動化の夢を見るか? PHEV化で進化したシトロエンC5エアクロスを試す

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マジック・カーペットは電動化の夢を見るか? PHEV化で進化したシトロエンC5エアクロスを試す

現在、シトロエンのトップモデルとなるFFのSUVに、ブランド初のPHEVモデルが追加された。ハイドロの現代的解釈と謳われるサスペンションやPHEVなどによって、静かな室内で、シトロエンならではの世界が堪能できる。

ブランド初のプラグインハイブリッドはFFのSUV

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2021年現在、シトロエンのラインナップで最上位を担うC5エアクロスにこの夏、PHEVパワートレイン版が加わった。既存モデルにPHEV版が追加される流れは、CO2削減を販売車両全体から進めている欧州メーカーではここ最近、当然の流れでもある。しかしシトロエンだからこそ、コアなファンにはその極上の乗り心地や独特の快適性が存在理由だから、現状のトップ・オブ・レンジであるC5エアクロスのPHEV化は、大きな意味合いをもつ。

意外や、プラットフォームやPHEVコンポーネントをPSAグループ内の他モデルと共有しながらも、C5エアクロスは4WDではなくFFという駆動方式を貫いてきた。1.6リッターのガソリンターボエンジンは180ps/300Nmという仕様で、110ps/320Nmの電動モーターを前車軸に組み合わせ、ICE(内燃機関)とモーターの合計ではなくシステム総合出力として225ps/360Nmを掲げるところまで、プジョー508ハイブリッドと同じだ。ただしリチウムバッテリー容量は、リアシート下により余裕があるのか、508の11.8kWhに対してSUVであるC5エアクロスは13.2kWhと大きい。このバッテリー容量はプジョー3008 GT ハイブリッド4とまったく横並びで、4WDのあちらには備わる後車軸駆動用の112ps/166Nmのリア電動モーターがC5エアクロスにはないが、マルチリンク式リア・サスペンションは共有している。e-EAT8と呼ばれる8速ATも、プジョー2車と共通するところだ。

角は丸められているとはいえ、全体的にスクエアなシルエットと、高く切られたボンネットが、SUVらしさを強調する外観ではある。ドアを開けて乗り込むと、規則正しいシートクッションの升目、そしてメータークラスター内の液晶表示には、四角い枠を見やすく並べた液晶表示が目に入って来る。スクエアは、C5エアクロスの重要なモチーフなのだ。

視覚的にはスクエアなのだが、ナッパレザー仕様が標準という「アドバンストコンフォートシート」に腰を下ろすと、明らかに沈み込むほどのクッション厚をともなって、身体がシートに包まれる。何でも、独自開発された高密度のポリウレタンフォームを用い、シート表皮中央部は平均的なシートより15mmも厚さを増すことで、この柔らかくラウンジソファにも似た感触を実現しているのだとか。シートパッドの厚さはリアシートにも及び、しかも独立3座であるため、荷室に収めた長物の置き方に応じて、各シート座を折り畳める。優れて快適なインテリアだが、クロームモールの面積やパネル間のチリ合わせ精度を高めるだけで造り込んだ、そういうコンフォートではないのだ。

並の高級車では及ばない“静寂と安寧”

視覚や触覚と並んで、C5エアクロスの車内コンフォートで強く意識されるのは、聴覚の部分だ。フロントウインドウのみならず、前席はサイドウィンドウにもラミネートガラスが採用され、遮音性を高めている。ドアを閉じただけでは体感しづらいが、デフォルトのドライブモードで電動走行を優先させるPHEVにとって、それは静かさを最大限に強調する仕掛けとなる。EVモードは135km/hを超えない限り、あるいはバッテリー残量がゼロにならない限り有効。つまり極端をいえば、ドライバーが意識して強くアクセルを踏み込むか、ハイブリッドモードその他へ切り替えない限り、ICEとの協調もしくは切り替わりは起こらない。それは最大64kmというゼロエミッション・レンジにおいて、無音に近いドライブフィールをもたらし続けようとする、ということだ。

64kmという数値は無論、WLTCモードでのカタログ数値なので、実際には50km強。それでも1860kgもの体躯のSUVが、かくも静かに走り回る動的質感には、驚きを禁じ得ない。今回はガソリン版とディーゼル版、いずれもほぼ180psのICE仕様を同じ条件で比べられたが、ディーゼルは確かにトルクが太く力強い。だがアイドリングからの振動とノイズで、静粛性はPHEV版に到底かなわない。一方のガソリン版は軽快で、ハンドリング上の切れ味は一枚上手。いずれも前60:後40に近い前後車重配分のICE版に対し、PHEV版は約56:44と、ハンドリングでは後車軸側の反応がやや遅く初期アンダーが強い印象なのだ。

とはいえ、日常的な速度域でのふとした静けさや滑らかさ、走らせている間のノイズ・バイブレーション・突き上げの少なさで、PHEVはひと回り図太い。バッテリー残量がゼロでも、直前のブレーキ制動回生で蓄えた電力によって、発進時のひと転がりは電気で駆動される点は、通常のハイブリッドと同じで、PHEVはバッテリーが空になると重いICE版になり下がるように思われがちだが、そうはならないのだ。逆にドライブモードで「スポーツ」を選択すると、パワー&トルクの伸びといったエクステンド領域というか、「味変」に凄味がある。ICE優先になり、シフトアップのタイミングが伸びて、システム出力を最大化しようとするのだ。

車両重量が増したにも関わらず角のない乗り心地には、PHC(プログレッシブ・ハイドローリック・クッション)という二重構造のダンパーが少なからず貢献している。小さい入力には柔らかく、大きな入力には素早くしなやかに反応するこのダンパー・イン・ダンパーは、90年代からラリーで使われてきた技術。ルノー・スポールのように純スポーツ寄りの応用例もあるが、シトロエンは乗り心地重視でC5エアクロスにフィードバックしている。回路を張り巡らさずともハイドロニューマティックに近い減衰特性を再現できたと、シトロエンの開発陣が開き直る、もとい、胸を張るところでもある。コーナーで車体の過度な傾きは抑えつつも、柔らかく適度にロールさせ、地面をしなやかに捉えていく、魔法の絨毯の上を行くような乗り心地は健在なのだ。

乗り手が車内で感じる心地よさや快適性を、仕立ての緻密さや豪華さに求めることを、C5エアクロスのPHEVは最初から拒否している。ノイズの極力抑えられた室内で、ソフトでスムーズな乗り心地がひたすら持続するような経験は、並の高級車が及ばない、シトロエンならではの静寂と安寧をもたらす。その意味でC5エアクロス プラグインハイブリッドは、最新にして伝統のシトロエンだ。

文・南陽一浩 写真・河野敦樹、グループPSAジャパン 編集・iconic

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