CLというと輸入車・旧車が多いのですが、今回はアメリカ車についての話題をお送りしようかと思います。アメリカ車といえば昨年のフォードの日本市場撤退に、まことしやかに囁かれるクライスラーの撤退の噂等先行きは決して芳しいとはいえません。以前お伝えしたキャデラック春日井の記事でも、今やGM車で正規輸入されているのはキャデラックとシボレーの一部車種のみで、クライスラーも実はダッジは日本に正規輸入されていない等…
しかし、かつてはフォードとGMが大正時代に日本に現地法人を設立し、日本での現地生産をしたことに始まり、戦後の経済成長期には巨大なボディに大排気量のエンジンを搭載したアメリカ車は日本人にとっては映画スターや政財界の著名人の愛車として成功者の象徴だった時代もあります。
キャデラックの歴史を紐解けば紐解くほど、アメ車復権のカギが見える
往年のアメリカ車の象徴といえば?
往年のアメリカ車といえば戦勝国アメリカの黄金時代の象徴「テールフィン」ではないでしょうか?
後に50’sアメリカンの象徴となるアメリカ車のテールフィンはキャデラックの戦後初の新型となる1948年型に端を発します。
カーデザインという概念に多大な影響をもたらした当時のハーリー・アールGM副社長の、愛弟子、フランクリン・ハーシェーによってデザインされた1948年型は量産車初の曲面ガラスとピラーレスハードトップを採用したといわれています。そしてリアフェンダーにはロッキードP-38戦闘機をモチーフにしたというテールフィンの装飾が施されます。
当初はテールフィン(尾翼)といっても申し訳程度の物ですが、このデザインが発表されるや、大反響を呼び各メーカーがこぞって採用することになり、また年々巨大化を競うようになります。
当初は、テールフィンの採用には消極的だったライバルメーカーのフォードも1950年代の半ばになると、テールフィンという当時のトレンドを積極的に採り入れるようになります。
1950年代後半になるとテールも変わってきます
1950年代後半になると、テールフィンを強調するかのようにテールエンドが長くなりエッジ部分も鋭角になります。さらにフェアレーンの「スカイライナー」モデルでは1950年代ですでに電動格納タイプのメタルトップを採用しています。
こちらは1957年型シボレーベルエア。アメリカンオールディーズの雑貨等でよくモチーフにされることの多い車種だけに、車名は知らなくてもクルマそのものはご存知の読者の方も多いのではないでしょうか?GMの中でも大衆車のディヴィジョンを担っていたシボレーブランドにおいてベルエアは若者のエントリーカーとしてもカリスマ的な人気があったようで、アメリカ人がベルエアに抱くノスタルジーは日本人がハコスカやケンメリのスカGに抱く思いと同じという記述を読んだ事があります。
1958年型プリマス・フューリー。1958年型プリマスといえば、スティーヴン・キング原作でジョン・カーペンター監督によって映画化されたホラー作品「クリスティーン」をイメージする方も多いでしょう。かくいう筆者も「クリスティーン」でテールフィンの50’sアメリカンオールディーズとクラシックカーのレストアレーションに目覚めました。
アメリカ自動車メーカーのビッグ3の中でもクライスラーはGMとフォードとは一線を画したユニークなメーカーだったようでデザインやメカニズムでも冒険的で、この当時のクライスラーの装備で有名な物にプッシュボタン方式のオートマチックトランスミッションのセレクターがあります。
このあと、連邦の保安基準の改正により、変速機の操作はコラムもしくはフロアのレバー式のみと定められ、プッシュボタン式のセレクターは姿を消しますが、2000年以降、欧州や日本でのインパネシフトの登場により、近年になってアメリカでもコラム・フロア以外のレバー式以外の操作方法が解禁となりました。
また1950年代後半のアメリカ車はボディのフルサイズ化とエンジンの大排気量化を競い合うようになり、ついには大衆車クラスまでフルサイズボディにV8の大排気量エンジンを搭載するようになり、テールフィンもますます長くなり高くそびえたつような先端を競い合うかのようになります。
テールフィンが最も栄華を極めたクルマ
テールフィンが最も栄華を極めたのが、なんといっても1959年型キャデラックシリーズ62でしょう。キャデラック史上最も煌びやかなクロームに最も高いといわれるテールフィンと特徴的な灯火器類はジェット機の噴射口をモチーフにしたと言われています。
キャデラックシリーズの中でも「黄金郷」を意味する「エルドラド」はその名の通り、エアコン、パワーステアリング、オートマチックトランスミッション、パワーウィンドー、クルーズコントロール、6wayパワーシート、オートクロージャートランクを備え、V型8気筒OHV6396ccエンジンを搭載、345馬力を発揮し、エアサスまで備える等、現代のクルマにも引けを取らない高級車です。特にこの1959年型は57年型ベルエアと並び50’sアメリカンの富の象徴としてさまざまなモチーフになっています。
また、アメリカで一世を風靡したこのテールフィンは世界中のカーデザインに影響をもたらします。なかでも当時、ありとあらゆる最新の技術と文化をアメリカから採り入れていた日本では特に顕著で、国産車がこぞってテールフィンを採用します。
なかでも、代表的なのが日本のRS型トヨペットクラウンでしょう。当時、トヨタ車の販売を一手に担っていたトヨタ自動車販売株式会社の社長「神谷正太郎」は第二次大戦前にGM日本法人の副支配人を務めていたこともあり、神谷率いるトヨタ自販のマーケティングにはGMに倣っている部分がうかがえ、トヨペットクラウンのデザインにもアメリカ車の影響がみられます。これは当時、クラウンの主要なマーケットであったタクシー業界ではドライバーからアメリカ車に対する信仰ともいえる信頼性があったのと、利用者からもアメリカ車のような見栄えのするデザインのタクシー車両が好まれたという事情があるようです。
テールフィンの流行は高級車だけにとどまりません。なんと360ccの軽自動車にまでおよびます。当時の日本人にとって「テールフィンの生えたクルマ」は「富める国アメリカ=豊かさ」の象徴だったのです。
ヨーロッパのテールフィンたち
テールフィンの流行はアメリカ車信仰の強い日本だけに限りません。欧州でもさまざまな自動車メーカーが導入します。
なんとドイツのメルセデスベンツも1959年に登場したW111型Sクラスでテールフィンを採用し、そのものずばり「フィンテール(FinTail)」日本でも「ハネベン」という愛称で知られています。合理性が正義のメルセデスですらテールフィンを採用するくらいにマーケティング上無視できない存在だったのでしょう。
1950年代のアメリカ車をそのままダウンサイズしたようなその風貌で、一瞬日本のトヨペットクラウンを思わせる(?)ものがありますが、このクルマはシムカ・ヴデッドというフランス車です。ちなみに筆者はヴデッドというクルマを初めて知った時に「こんな国産車あったっけ?」と思ったくらいです。ただし、ヴデッドのブランドはシムカが買収したフォードのフランス現地法人が開発した車両という事情もあるとは思いますが、欧州でも1950年代後半にはテールフィンがそれなりに浸透していたという事でしょう。
こちらは、日本でもいすゞのノックダウン生産で有名になったイギリスのルーツ社ヒルマン・ミンクスですが、当時の世界的なカーデザインのトレンドに則りテールフィンが採用されています。
消えたテールフィン
しかし、1959年を最後にテールフィンは熱が引くように小さくなっていき1960年代後半になるとテールフィンはアメリカ車から完全に姿を消します。
一説には、消費者団体から「過剰な装備とクロームの装飾が自動車の価格の高騰を招いた」という指摘を受け、その指摘はテールフィンにも及んだためといわれています。
一見言いがかりにも思えますが、事実1950年代のアメリカの大衆車はフルサイズ化により価格が高騰し、1960年代に入るとVWやダットサンといった外国製の安価で経済的な小型車が北米市場でも台頭しはじめ、1970年代に入るとオイルショックや品質低下によりそれまでのフルサイズに過剰な装備品というマーケティングは次第に求心力を失っていき、1970年代半ばになるともはやテールフィンのアメリカ車はアメリカ本国でも恐竜のような過去の遺物のような扱いになります。
1950年代、すべての力と富を支配していた戦勝国アメリカの絶頂期を象徴するアイコン、それが長く巨大なテールフィンを持つアメリカ車なのかもしれません。
[ライター・カメラ/鈴木修一郎]
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