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【GT300マシンフォーカス】空力重視の991型ポルシェ911 GT3 R。戦闘力向上の鍵となった“タイヤ開発”

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【GT300マシンフォーカス】空力重視の991型ポルシェ911 GT3 R。戦闘力向上の鍵となった“タイヤ開発”

 スーパーGT300クラスに参戦する注目車種をピックアップし、そのキャラクターと魅力をエンジニアや関係者に聞くGT300マシンフォーカス。2021年の第2回は、自身もドライバーとしてタイトルを獲得した土屋武士監督率いる名門つちやエンジニアリングの25号車『HOPPY Porsche』が登場。古豪コンストラクターとして黎明期からシリーズを支えた故・土屋春雄さんの遺志を受け継ぎ、GT300クラスのトップチームとして君臨する“つちや”が走らせる、2年目のGT3車両。タイプ991型ポルシェ911 GT3 Rの素性を改めて聞いた。

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躍進たかのこの湯 GR Supra GT、そしてHOPPY Porsche。乗り比べた土屋武士が語る速さのワケ【GT300予選あと読み】

 ご存知のとおり当時の国内シングルシーター最高峰、フォーミュラ・ニッポンでも印象的な活躍を演じ、スーパーGTではシリーズ前身の全日本GT選手権時代からGT500、GT300の両クラスに参戦。父・春雄監督のもと参戦したGT500での活動を経て、2015年からはマザーシャシー(MC)を投入してGT300への挑戦を再開した土屋武士監督。

 シリーズの伝説として語り継がれる『つちやMR2(モモコルセ・アペックスMR2)』や、独創的なモディファイを受けたGT500の80スープラやレクサスSC430、そして86MCなど多くのレーシングカー開発を手掛けてきた春雄監督とは異なり、息子は自らを「親父とは違って、どちらかというとチェッカーまでにどう最適に、最速に運ぶかを考えるのが得意」なレース屋だと評する。

 そんな武士“選手”がエースとしてMCのステアリングを握ると、2年目の最終戦もてぎでは自らが生み出したトレンドでもある“タイヤ無交換作戦”を見越して、ギリギリまで低めた内圧でスタートを担当。ドライバーとしては耐え難い“ポジションダウン”の屈辱も甘んじて受け、後半担当の愛弟子である松井孝允の好走を演出し、この勝利により自身初となるドライバーズタイトル獲得の栄冠を手にした。

 そんな武士監督が「新たな挑戦」として2020年シーズン開幕に際してチョイスしたのが、FIA-GT3規定車両となる現行型ポルシェ911 GT3 Rだった。実は武士“選手”とポルシェには、浅からぬ繋がりもある。

「マカオやアジアン・ル・マンにも出て、いろいろなメーカーさんとお付き合いさせてもらいましたが、プライベーターにとってサービスが整っていて、バジェットなどの面にあまり左右されないメーカーがポルシェとメルセデス、っていう印象。これはあくまで、僕の『印象』ですけどね」と、今季2021年シーズンは244号車『たかのこの湯 GR Supra GT』のエンジニアリング面も含め、総合ディレクター的な立ち位置でシリーズに臨んでいる武士監督。

「僕自身、このGTへのデビューはポルシェのGT2(STPタイサンポルシェGT-2)だったし、基本的にはポルシェが好きっていうのもあった」というが、2010年当時には“Team SAMURAI”として自らのチームで997型のGT3 RSR(ZENT Porsche RSR)を走らせており、その後もART TASTE PORSCHEなどをドライブ。

 ニュルブルクリンク24時間耐久レース参戦時にも、現地で「一緒に走っていると、ポルシェの安定感とかはやはり目に付く。この型(タイプ991)もマンタイ(・レーシング)が先行して投入したのを見ていましたしね。やっぱり消耗品費っていうことに関しても、脈々と受け継がれている歴史あるカスタマーサービスという意味でも大きかった」と、その選択が必然であったことを改めて明かしてくれた。

 断続的ではありながら、日本でも長年にわたって活躍を続けてきたポルシェだが、997型の時代などは性能調整の影響もあり、ストレートに滅法強い“直線番長”的なイメージも残る。しかし、やはりその核心はリヤエンジン・リヤドライブという唯一無二のレイアウトによる操縦方法にある。

 エンジンがないことで相対的に軽めのフロントは、荷重いかんによってアンダーステアを誘発しやすく、重いエンジンブロックがリヤのオーバーハングに載ることで、慣性モーメントが大きくヨーコントロール次第ではスライドが収まらない独自のハンドリング特性を持つ。それだけに、従来の“ポルシェ・ドライビング”はなるべく直線的にブレーキングを終え、鋭いターンインから高いトラクション性能を活かして早めにコーナーを脱出する、いわゆる“タテ型”のV字走法がセオリーとされてきた。

 しかし2018年のフロント周りを軸としたアップデートを経て、2019年に本格デリバリー開始となった現行モデルでは「僕自身、今のポルシェに対してそうしたイメージでの捉え方はしていない」と武士監督は断言する。

■最初の難関は“基準タイヤ”の開発

「ポルシェはリヤエンジンだからトラクションが良い。これはもう間違いないのですけど、後ろにエンジンがあるから『エアロで走らない』イメージがあると思うのですよ。スピードを落として、トラクションで立ち上がる……みたいな。みなさんそうだと思うのですけど、このクルマはよりフォーミュラ的ですね。だから『ブレーキを残しながら走らせる』なんてことはしない。エアロの恩恵を使うのが一番、効率が良い。作った人がそう考えて作ってるから『そりゃそうだよね』と」

 そう語るほど空力重視で、ダウンフォースを活かした走り方が求められるという現行型だが、それもそのはず。従来型の2018年EVO仕様に対して、フロントフェンダーのリップやフェンダー上部のホイールアーチエアベントなど、さまざまな空力面での改良により30%ものダウンフォース向上を果たしている。

 また、サスペンション形式もこれまでのストラット式からLM-GTE規定の『911 RSR』同様ダブルウィッシュボーン式に変更され、これに伴いそのキャパシティが泣きどころだったフロントタイヤ幅も、300/650-18からその他の輸入GT3勢と同等の300/680-18へと拡大されている。

 こうして走り始めたタイプ991型ポルシェ911 GT3 Rだが、やはり最初の難関はそのタイヤ開発。本格的なセッティング作業が始められたのは、変則開催の2020年で8月下旬となった第3戦の鈴鹿からだったという。

「まずはポルシェとタイヤとのマッチング、ヨコハマさんもすごく苦しんでた時期だったので、GT3車両ではGT-Rだけが速かった。その要因のひとつが、やはりスタンダードタイヤ(毎戦の選択で“基準”となるスペック)がなかったこと。とくにリヤエンジン、リヤ駆動っていうところでリヤタイヤに厳しい部分があったので、その部分ではまずちゃんとレースを走れるタイヤを作ることから始めました」

 その“基準タイヤ”がかたちになった段階で初めて「僕らも『おや、このクルマはどうやらこういう性格をしてるぞ』ってのが見えて来た。そこでドンっと変えてみたら『そうだったね』って。それからですかね、セットアップが始まったのは」と振り返る武士監督。

 その直後から、GT300チャンピオンの肩書きを持つ“走れるエンジニア”自らのドライブで、シーズン中ながら富士スピードウェイのスポーツ走行枠も活用し「セット出し」を進めた911 GT3 Rは、続くもてぎで予選2番手から初ポイントを獲得。さらに『エンジニア主導』で乗り難さ覚悟のオーバーステア傾向とした第5戦富士の手応えを経て、2度目の鈴鹿ではさらにエアロに寄り過ぎたバランスを修正。その後半スティントではコース上でのオーバーテイクを披露し、12番手から6位進出を果たすなど一定の戦果を挙げられるようになってきた。

「いわゆるクルマの“スイートスポット”に近づけた。性格が分かってしまえば、あとはもうそこを目掛けて行って、ある程度そこに入れたら、あまり動かせられない。うちは25号車というところもあるし、タイヤ開発は去年の1番のテーマだったので、開幕戦では『走り切れない、1スティント持たない、レースが出来ない』タイヤだったのが、最終戦では無交換まで来れた」と武士監督。

 昨季に引き続き25号車を担当する木野竜之介エンジニアとともに、ダウンフォースを活用した車両特性を考え抜く日々が続き、ポルシェ提供のエアロマップを眺める毎日。するとタイヤに厳しいはずのポルシェは、空力の“スイートスポット”から外れていると「すごいハードコンパウンドのタイヤしか使えなかった」のが、一旦そのポイントをキャッチすると「他のGT3よりも全然、柔らかいタイヤを使えてる」状態に持っていけた。

「それはすごい変化です。面白かったですね。そういう風に積み上げることができて、エンジニアもすごく成長することができた。人を育てるのがウチの活動の趣旨なので、そういった意味では非常に良い時間を重ねられたなぁ、と」

 その実践は2021年に入ってからも続き、チームに所属する松井孝允、佐藤公哉の2名のドライバーたちにも、同様の“エンジニアリング”的な学びが続いている。

「ドライバーが『行けるようになった、行けるようになった』って言うけれど、タイムは上がってないし『全然、間違ってるんじゃない?』って。それでドライビング含めて『ちょっと別の方向にしてみるから、それに対処して走ってみて』って。すごくオーバーになるかもしれないけど。そしたら『いや、逆にリヤ安定しました』って。そんなことも起きてます」

■今季のテーマはスーパーGTの“必修課題”の攻略

 このポルシェもその他のGT3規定車両の例に漏れず、用意されるスプリング、アンチロールバー、シム類には限りと範囲がある。路面μ(ミュー)が低く、耐久性重視のワンメイクタイヤを基準にセットされる欧州の推奨では、日本のハイグリップ、高摩擦係数の路面では「セッティング可能範囲の端(または外が理想)」になる車種の例も散見される。しかし、このポルシェでは「鈴鹿でも富士でも、そういう苦しさはない」という。

「もちろん、走行中のレイク角を探って最適は探しましたし、スプリングも今は……変えないんじゃないかな? あとバンプラバー変えたりするし、アンチロールバーも1ノッチ変えたり。基本的に決まっちゃうと、動きが大きくなる分だけ少し抑える、ってぐらい。それはもうどのクルマも一緒で」

「とくにバンプラバーは自由だし、僕はいつも使ってセットアップするタイプ。もう20年以上やってるので、ありとあらゆる組み合わせは作ってある。タイヤの構造によって変えることもあるし、キャンバーをどこに置くかによって『奥を抑えようか』……というのもある。そのへんは今までのノウハウで。なのでどちらかというと『忙しい運転をするようなクルマじゃないよ』って。なので、去年のやってきたところを思い出して、ここで1回戻そうと」

 ハイグリップなタイヤと路面に、ダウンフォースを活用したセットアップ。コーナリングスピードが速ければ速いほど、速度の二乗で遠心力は増えていく。いくら低い位置にマウントされていようと、リヤの車軸より外に置かれたエンジンブロックは、空力が効けば効くほど“慣性”が悪さをする。

「だから高速コーナーの最大荷重のところだけは網羅できない。そこは我慢するしかない」と武士監督。

 さらに自然吸気の4リッター、水平対抗6気筒“フラット6”は吸気を考えてもやはり夏場は厳しい。小さいコーナーから武器であるトラクションを活かそうにも、大排気量NAやターボ車の中低回転域トルクには太刀打ちできないのが現状だ。つまり、スーパーGTでは“必修課題”とも言える『集団走行時』に厳しさを抱えている。

「そう。それが今季のテーマ。第2戦の富士ではそこが良かった。予選順位に対しては、いつも決勝で上に行けてる。そこはまあ狙いどおり。去年の前半戦で『ペース上がらない、タイヤがキツい』ってところからはもう完全に脱却してるので、あとはタイヤをもっとチャレンジングなもの、予選で前に行けるようなものが使えれば、もっと上に行けるんじゃないかな?」

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