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ACコブラの最終形 AC 289スポーツ Mk IIIのシャシーにスモールブロック 前編

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ACコブラの最終形 AC 289スポーツ Mk IIIのシャシーにスモールブロック 前編

フォードのV型8気筒にACエースのシャシー

英国なら、魚とジャガイモ。日本なら、カモにネギ。それくらい最高のマリアージュとなったのが、フォード社のV型8気筒スモールブロック・エンジンと、小柄で機敏なACエース社のシャシーだった。

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その場しのぎ的な必要性と、大きな野心で作られたACコブラだったが、エンジンとシャシーとの組み合わせ以上の能力を発揮した。ワークス・スポーツカーや耐久レース・シーンに影響を与え、1962年の誕生から半世紀が過ぎた今でも、伝説が消えることはない。

英国サリー州、ACカーズ社の技術者だったテムズ・ディットン氏と、北米テキサスのレーシングチームを率いたキャロル・シェルビー氏との合作が、ACコブラ。複数の仕様が存在したが、今回ご紹介するのはオリジナルの最終型、AC 289スポーツだ。

コブラの開発には、旧式化したフラッグシップ・モデルを再起させたいという、ACカーズ社のオーナー、ウィリアム・ハーロック氏とチャールズ・ハーロック氏の思いがあった。評判の良くないエンジンに対する解決策でもあった。

当初、コブラの前身となるACエースが搭載していたのは、ブリストル社やゼファー社の直列6気筒エンジン。設計が古くパワーも充分とはいえず、シャシーの潜在的な能力を発揮しきれずにいた。

そんなACカーズ社にとって、フォード社のV型8気筒は手っ取り早い代替ユニットになった。手頃なコストで、表彰台の上段に導いてくれる可能性を秘めていた。コブラ・プロジェクトを推進したシェルビーにとっても、夢の実現に適った手段といえた。

ハイプロと呼ばれた289ユニットへ

結果、当初に作られたコブラのプロトタイプは、基本的にはエースと殆ど変わらなかった。違いといえば、パワフルな260cu.in(4.3L)のV8エンジンと、シャシーへ施された変更や補強程度だ。

ロンドン郊外からロサンゼルスに到着したコブラは、サンタフェ・スプリングスに店を構えていたディーン・ムーン氏を経由し、シェルビーの元へと渡った。そこで早速、デビュー戦が待っていた。

1962年10月、カリフォルニア州リバーサイド・レースウェイで開催されたレースに出場すると、メカニズムの不具合で勝利は得られなかったものの、強さの一端を披露。シボレー・コルベットを凌駕する走りを印象付けた。

コブラの強さを確信したシェルビーは、アップデートに着手。デフ側に組まれるインボード構造のブレーキはホイールハブ側へ移され、エンジンはハイプロと呼ばれた289cu.in(4.7L)のスモールブロックへ置換された。

結果、当初の260cu.inのV8エンジン版は、75台ほどしか作られていない。ちなみにシェルビーは、北米にコブラが届くとACカーズのエンブレムを外していたという。

その後Mk IIへ進化したシャシー番号CSX2126以降のコブラでは、ステアリングにラック・アンド・ピニオン式を採用。CSX2160以降には、フロントフェンダーにエアアウトレットが追加された。フェンダーもワイド化され、幅の広い6Jホイールを包んでいる。

新開発のシャシーにビッグブロックのMk III

オリジナル・コブラのモデルライフで最大の変化となったのが、1965年に登場したMk III。ほぼ完全に再設計されたシャシーに、427cu.in(7.0L)のビッグブロックV型8気筒が搭載されている。

ひと足早く、このアイデアをカタチにしたのがレーシングドライバーのケン・マイルズ氏。1963年には、Mk III以前のシャシーに7.0Lのフォード・ユニットを押し込み、ブレーキとサスペンションを強化したコブラを試していた。

エンジンが大きすぎると考えたのか、彼は390cu.in(6.4L)ユニットへ載せ直し、1964年にセブリング・レースウェイを走っている。ところが、それでもじゃじゃ馬過ぎ、コース上に留めておくことすら難しかったらしい。

マイルズは、プラクティス中にコースアウトしてしまい、立木に衝突。補修して本番を戦うが、燃費の悪さとオイル漏れに悩まされ、充分な走りはできなかった。最終的にコンロッドをアスファルトへ落とし、リアタイアしている。

彼のトライは、1950年代初頭に起源を持つシャシー設計の古さを浮き彫りにした。だが、堅牢で先進的なシャシーが必要だと、シェルビーに気付かせることにもつながった。フォード社も、モータースポーツで長くコブラが活躍できるように支援した。

新しく設計されることになったシャシーは、フォード社が有するコンピューターを活用。サスペンション・エンジニアとして活躍していたクラウス・アーニング氏の協力を受け、内容が煮詰められていった。

Mk IIIの生産台数は僅か56台

最終的に現実的なカタチへまとめたのは、フォード社のエンジニア、アラン・ターナー氏。開発されたシャシーは、2本のパイプが縦方向に並ぶという点で、Mk IIコブラとの共通性を備えていた。パイプは4インチ(102mm)へと太くなっていたが。

シャシーの前後は上方へ持ち上がり、サスペンションを受け止めている。フロント側には横置きリーフスプリングにかわって、コイルスプリングにアームストロング社製のダンパーが組まれた、不等長ダブル・ウイッシュボーンが与えられている。

リア側は、トレーリングアーム。こちらも、コイルスプリングとダンパーという組み合わせだ。

1965年のレース参戦に向けて、規定に設けられた生産台数の達成が目指されたが、最終的に作られたのは56台のみ。努力の甲斐なく、100台の半分程度という少なさだった。その一部はデチューンを受け、公道用モデルとして販売されている。

思うような結果が伴わなかった427エンジンのMk IIIだったが、シェルビーは輸入台数を縮小。ACカーズ社とシェルビー社との関係性に陰りが出るなかで、さらに2年間、コブラは生産が続けられた。最良と思われるコンポーネントを組み合わせて。

ACカーズ社が選んだのは、Mk III用のコイルスプリング・シャシーと、289cu.inのハイプロ・エンジンというマリアージュ。最高バランスのコブラといえる、289スポーツが誕生した。

この続きは後編にて。

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