この記事をまとめると
■スタッドレスタイヤは1991年にスパイクタイヤの販売が終了してから一気に普及した
とりあえずスタッドレスを履けばどんな道でも安心……ではなかった! 必ず憶えておくべき「サマー」「オールシーズン」「スタッドレス」タイヤの得意不得意な場所!!
■氷と雪とゴムの関係性をメーカーが長年研究したことにより年々タイヤが進化を遂げてきた
■スタッドレスタイヤが登場してから40年くらい経つがまだ性能は向上する余地がある
スタッドレスタイヤの真価を辿る
気合と根性!
……それに執念でしょうか。
もちろん作り手のです。1991年にスパイクタイヤの発売が禁止されて以来、日本の冬用タイヤはスタッドレスタイヤに代わります。もっとも、いきなりスタッドレスタイヤに代わったわけではなく、1980年代前半から研究・開発がすすめられていました。
スパイクタイヤが禁止になる以前から、スノータイヤとかウインタータイヤとか呼ばれる冬用タイヤはあって、各タイヤメーカーは雪で必要な性能についてはかなりの知見を持っていました。
雪の路面でグリップ性能に大きく影響を与えるのは、雪柱せん断力といって、雪の路面を踏みしめ蹴り出すときにおこる摩擦力です。ですから、冬用タイヤといえばブロックパターンで、溝が深いというのがお約束だったわけです。
とはいえ、当時氷の性能を重視する人にはスパイクタイヤが用意されていて、こちらを履けばよかったわけです。このタイヤは、氷の路面でスパイクのピン(鋲)がひっかく性能がグリップ性能の大半を作り出していました。
ところが、スパイクがアスファルト路面を削って起こる粉塵問題が深刻になり、前述のようにスパイクタイヤが公道ではほぼ使えなくなってしまったわけです。そうなると、ゴムだけで雪のグリップ性能と氷のグリップ性能の両方の性能を発揮しなくてはなりません。
雪上性能は、うんと乱暴にいってしまえば、雪柱せん断力が高いほうがグリップ性能が出るので、接地面圧は高いほうがいい。つまり、タイヤは細身でブロックを雪の路面に突き刺すようにさせたほうが、理論上はいいわけです。
ところが、スパイクを使わずに氷のグリップ性能を高めるにはどうしたらいいのか。結局タイヤを氷に密着させて接地面積の広さで凝着摩擦(≒粘着摩擦)を高めるほか方法がない、というところに行きつきます。
しかし、そう簡単にゴムは氷には刺さりません。そこでメーカーはゴムを柔らかくすることを思いつきます。しかしゴムの特性として、温度が高くなると柔らかくなり、低くなると硬くなります。なので、ゴムが高温になってトロトロになってしまってもグリップせず、逆に低温になって柔軟性を失っても、グリップ性能が極単に低下します。この難しい問題を解決すべく、各タイヤメーカーは、低温で柔らかさを保てるゴムの研究を始めます。
ところが、低温で柔らかなゴムを開発すると、高温でもっと柔らかくなってしまう結果に。スタッドレスタイヤ登場初期のころのトレッドデザインは、雪柱せん断力重視のブロックパターンが主流でした。当然ゴムが柔らかいので、ドライの舗装路面ではブロック剛性が足りず、なかには60km/h程度でもまっすぐ走ることができず、常にあて舵(カウンターステアというほどではありませんが)を当てている必要があるタイヤも、なかにはありました。そうでないタイヤも100km/hくらい出すとかなり怪しい操縦性になっていたように記憶しています。
技術が発達したいまでも進化が止まらない
研究の末、柔らかなゴムは氷の路面をグリップするポテンシャルはあるものの、剛性を確保するのが難しいという結論に達します。そのあとに登場してきたのが混ぜ物で、引っ掻き素材をゴムのなかに練り込んで、これによってスパイクタイヤのような引っ掻き性能を発揮させよう……というものでした。素材はアスファルトよりも柔らかい材料。代表的なものではトーヨータイヤのクルミの殻が有名です。
とはいえこれらは、いくらかの効果は認められたものの、引っ掻き素材自体がそれほど大きくもなければ、深くゴムに刺さっているわけではないので、飛躍的な性能アップにはつながりませんでした。
時系列はちょっと前後するのですが、このころもうひとつの研究結果が明らかになりました。それは、氷が滑るのは、タイヤと氷の間に薄い水幕があるから、ということです。
スタッドレスタイヤがグリップする仕組みの例としてよくいわれている、製氷機で作ったばかりの氷は指でつまめるけれど、一度水で濡らすとつまみにくくなってしまう……というあれが、タイヤでも発生しているのです。
その結果、スタッドレスはタイヤと氷の路面にある水幕を取り除く「除水時代」に突入します。
まずはブリヂストンが発泡ゴムを発表し、吸水という概念をもち込みます。一方、ダンロップは水をはじいて氷の路面とゴムを密着させる撥水ゴムを発表。このとき、後者の考え方は個人的には面白いんじゃないかと思ったのですが、ほとんどのメーカーは「吸水」に向かいます。
なお近年では、吸水素材をゴムのなかに配合する方法が大きな流れになっています。
そしてトレッドデザインはどう変化していったかというと、氷の性能を重視するというユーザーの大きなニーズにこたえるように、ブロックパターンは広い接地面をもつデザインに代わっていきます。
ついには溝幅を細くし、溝面積を小さくして接地面積を広げていくような方向に。氷のグリップ性能は氷着摩擦が大きな比重を占めているので、接地面積が広いほうが有利だからです。
これと並行するように進化していったのがサイプと呼ばれる極細溝です。当初はストレート溝だったのが、エッジ長を稼ぐためにギザギザのサイプが主流となっていきます。そして、接地面が広がるほどサイプの重要性が増していきます。
ひとつのブロックが大きくなると、その分ブロック剛性が高くなってしまうので、サイプで適切な剛性を作り出してやることが必要になります。なので、ギザギザ状のサイプでエッジ長を長くするとともに、サイプ量自体も多くしたい……そこで考え出されたのが3Dサイプです。
ある変形量までは変形を許容しますが、変形が大きくなって接地面積が少なくなってしまうのを防ぐために、サイプ内に3Dの凹凸をつけ、大きく変形したときに変形を支え合うように工夫したわけです。
ブロックに刻まれたサイプだけでなく、トレッドデザインが作り出すブロックエッジもエッジ効果を作り出す要素として積極的に使っているようです。
また、ゴムにも再び引っ掻き素材が配合されるようになり、氷上におけるグリップ限界までグリップ性能を引き出そうとしているように見えます。
スタッドレスタイヤが登場してから40年くらい経ちますが、その間、1990年ごろは2年に1回とか3年に1回ほどモデルチェンジを行い、そのたびにはっきりわかるほどの性能アップを果たしてきました。
近年では4年に1度程度のモデルチェンジサイクルに落ち着いており、そろそろスタッドレスタイヤの氷雪性能も頭打ちなのでは? と思うのですが、驚くべきことに、ここにきて、まだ2桁%性能アップを実現しているのですから、これこそ気合と根性と執念としかいえない、努力結果といっていいのではないかと思います。
これは特定のタイヤメーカーだではなく国産タイヤメーカーすべてにいえることです。
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