性能を大きく高めた650S
text:Felix Page(フェリックス・ペイジ)
【画像】マクラーレン650SとMP4-12C、最新のアルトゥーラを写真で比較 全108枚
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
今ほどピリピリしていなかった2018年。サリー州ウォキングから生み出された2番目の量産スーパーカー、MP4-12Cの取引価格は7年で半分にまで下がっていた。
2020年に確認した時も、英国では6万8000ポンド(1020万円)も出せばMP4-12Cのオーナーになれる状況だった。スーパーカーとしては完璧とはいえなかった、ドライビング体験が価値を伸ばせずにいるようだ。それでは、1つ新しい650Sはどうだろう。
それまでのマクラーレンとスタイリングやメカニズムは似ているが、単なるフェイスリフト版とは異なる。当時2万ポンドの価格上昇に合わせて、最高出力は650psへ、最大トルクは69.0kg-mへ増強。
ドライバーとの一体感を濃密なものとするため、トランスミッションは高速化され、シャシーにも大幅な改良が施されている。待望といえる内容だった。
タイヤサイズはワイドになり、ホイールは軽量な新しい鍛造へスイッチ。ボディの空力特性も見直され、ダウンフォースは27%も上昇していた。サスペンションも引き締められ、強化されたセラミックブレーキも採用されている。
車内も刷新し、アイリス(IRIS)と呼ばれた古風なインフォテインメント・システムは、より有能なシステムへバトンタッチ。内装にはアルカンターラが贅沢に用いられている。
一番の目玉といえるのが、大胆なフロントまわりのデザイン。マクラーレンのフラッグシップ・ハイパーカー、P1に触発された造形は、現行モデルへも受け継がれている。
価格はスペックや装備で大きく変化
650Sは、ハードトップとオープントップのスパイダーが提供されたが、意外なことにスパイダーの方が人気は高かった。全体の台数の75%を占めている。
スパイダーなら、3.8LのV8サウンドを直接運転しながら楽しめる。フォールディング・ルーフのメカニズムも、コンパクトで厄介に感じることもない。補強が施されているが、重量増は40kgほどに留められた。
オープンで楽しめるスリリングな体験との引き換えの、動的特性のペナルティは最小限。今となっては、スパイダー人気は好都合だったといえる。650Sの生産が終了したのは2017年。その後、手強い720Sへ交代している。
英国では10万ポンド(1500万円)ほど出せば650Sの中古車が見つかるが、同価格帯の他社のスーパーカーほど怯える必要はない。金属の腐食や安価なOEM部品、怪しい整備記録などを過度に心配しなくても大丈夫。
ただし、すべてのマクラーレンが同条件ではない。650Sはスペックや装備で取引価格も大きく変化する。新車時の注文フォームの内容が、そのまま流通価格に反映している。
最も高価格帯に属する650Sの場合、サスペンション・リフターシステムやスポーツエグゾースト、メリディアン社製のサラウンド・システム、カーボンファイバーの内装トリムなどが装備されている。
そして、V8サウンドはスパイダーの方が最高に楽しめることは間違いない。
不具合を起こしやすいポイント
エンジンとトランスミッション
V8エンジンは、適切にメンテナンスしていてオイル不足に陥らなければ、基本的には故障知らず。メンテナンスのインターバルは1年毎か1万6000km毎で、英国の場合は1500ポンド(23万円)ほど見ておきたい。
MP4-12Cのトランスミッションはシールの不具合が知られているが、650Sの場合は心配いらないだろう。
タイヤとホイール
新品のタイヤは、1セットで900ポンド(14万円)ほど。ホイールはグレーかシルバー、ダイヤモンドカットが新車時は選べた。ダイヤモンドカットのホイールは、3度までは研磨して美しさを保てる。
サスペンション
サスペンション・アキュムレータの圧力がなくなると、コントロールパネルにサスペンション故障の警告が出ることがある。経年劣化するから、長期所有する場合は定番のメンテナンスといえるだろう。ダンパーなどが不具合を起こすことは稀。
ボディ
修理か所を見分けるのは難しいが、純正の部品や塗料を供給しているのはマクラーレンのみ。ディーラーで修理履歴を確認できる。
アルミニウム製のボンネットやフロントフェンダーが酸化するという報告があるが、マクラーレンは腐食に10年間の保証を付けている。保証が効くうちに修理した方が良い。
ソフトクローズ機構の付いたルーフ用ラッチが、以降のマクラーレンに採用されている。650Sにも後付けが可能だ。
ブレーキ
セラミックブレーキが標準。ハードなブレーキングを繰り返すと、想像以上に早く摩耗する。交換費用は安くない。比較的穏やかに運転していれば、数年は使えるだろう。
電装系
警告灯が付くことがあっても、クルマを停めてECUをシャットダウンさせると、解消される場合が多い。
650Sに2週間以上乗らない場合、ボンネットのラッチを閉じずにバッテリーを充電しておくと良い。ジャンプスタートも可能。完全に電気の落ちたマクラーレンの起動は、簡単なプロセスではないのでご注意を。
専門家の意見を聞いてみる
アラステア・ボルス
「650Sは先代のMP4-12Cより速いだけでなく、よりスポーティな走りを楽しめます。取引価格は、今が下がりきった辺りだと思います。常にMP4-12Cと720Sの間の価格帯に属してきました」
「ハードトップのクーペとスパイダーの走りに、妥協と呼べる違いはありません。好みで選んで問題ないでしょう。フォールディング・ルーフの構造は非常に信頼性が高く、心配いりません」
英国ではいくら払うべき?
8万5000ポンド(1275万円)~8万9999ポンド(1349万円)
5万km前後の走行距離を刻んだ、頻繁に乗られてきた初期の650Sクーペが英国では出てくる。
9万ポンド(1350万円)~9万4999ポンド(1424万円)
後期のクーペやスパイダーが混ざってくる。ブラックパッケージやステルスパッケージなどが付いていることも。
9万5000ポンド(1425万円)~9万9999ポンド(1499万円)
ディーラーでの完璧な整備記録を備える、ワンオーナー車など状態の良い650Sが英国では見つかる。
10万ポンド(1500万円)以上
望ましいオプションをすべて取り揃えた、新車に近い状態の650S。執筆時、マクラーレン・スペシャル・オペレーションズ(MSO)でカスタマイズされた2015年式650S スパイダーを、13万9900ポンド(2098万円)で見つけた。
知っておくべきこと
英国の場合、各地域にマクラーレンのサービスセンターがある。しかし中古の650Sの場合は、ブラックリーベースにあるソーニー・モータースポーツ社など、マクラーレンを理解する専門ガレージに診てもらった方が、経済的とはいえる。
英国で掘り出し物を発見
マクラーレン650S スパイダー 登録:2016年 走行:3万7800km 価格:9万1979ポンド(1379万円)
モデル中期の650S スパイダーで、英国の流通価格としても真ん中に位置する。バックカメラにカーボンインテリア、スポーツエグゾーストなどが備わる魅力的な1台。ディーラーでのメンテナンス記録もすべて残っている。
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