2008年、3代目アウディA6がフェイスリフトを受けた。ガソリンエンジンがすべて直噴化され、クワトロシステムが最新世代のものとなったが、この時新たに設定されたのが「3.0TFSIクワトロ」だった。Motor Magazine誌は欧州で開催された国際試乗会に参加、さっそくA6 3.0TFSIクワトロの試乗テストを行っている。ここではその時の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年12月号より)
3L V6スーパーチャージャーの底知れぬ実力
9月19日に行われたアウディA6欧州試乗会から帰国した翌々日のことだった。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
アウディAGがニューS4を発表したが、このS4に、A6のフェイスリフトとともに登場した3L V6スーパーチャージャーが搭載されていることを知って、「なるほど、そうだったのか」と納得した。
具体的にどういうことかを説明しよう。実はこのニューエンジンを搭載するA6の3.0TFSIに試乗して、少々欲求不満に陥っていた。まだまだポテンシャルがあるのに、その実力を出し惜しみしているような印象を受けていたのだ。
スーパーチャージャーが低回転域から働いて、それなりにいい加速はするし、絶対的なパワーも必要にして十分、アウトバーンの200km/h巡航も楽々とこなす。
確かにそうなのだが、本当の実力はこんなものではないと感じていた。せっかくスーパーチャージャーを付けたのだから、もっとパワー感を出した方がよかったのではないかと思ったのだ。
この3.0TFSIのパワースペックは、最高出力290ps/4850~6800rpm、最大トルク420Nm/2500~4850rpmだが、S4の同エンジンは、最高出力333ps/5500~7000rpm、最大トルク440Nm/2900~5300rpmにまでパワーアップされていた。
というわけで、「なるほど」 と思ったのだ。この3Lスーパーチャージャーエンジンは、S4でポテンシャルを存分に発揮させ、A6では燃費性能などを考慮し、バランスよく仕立てたということだ。
パワースペックを上げるのは難しいことではない。A6の総合性能を上げるために何をすべきかを多方面から検討した結果、このエンジンの仕様が決定された。試乗したときに感じたこと、「もっとパワーを出せばいいだろうに」 というのは、いま思うといかにも勝手であったと少々恥ずかしい。
現在、自動車メーカーにとって、燃費をよりよくすることがいかに大きなテーマになっているかということを改めて感じる。実際にA6は今回のフェイスリフトによって、平均で15%ほど燃費を向上させることができたという。
メカニズムからデザインまで変更箇所は多岐にわたる
さて、フェイスリフトの内容を詳しく見ていこう。まずエンジンだが、4種類のTDIはもちろん、2.0TFSI(200ps)から4.2FSI(350ps)まで、5種のガソリンエンジンもすべて直噴となった。
燃費は前述のように全般に向上しているが、とくに新たに設定された2.0TDIe(136ps)は、EU総合モードで18.9km/Lという低燃費だ。
また、冒頭で触れた3.0TFSIの同モードは10.6km/Lで、従来モデルの3.2FSI(235ps)よりもパワーは35ps上回るにもかかわらず、燃費は0.2km/Lほどアップしている。
クワトロシステムは、ついにこのA6も最新世代となった。フロント:リア=40%:60%を基本として、最大でフロントへ65%、リアへは85%の駆動力を配分するタイプだ。トランスミッションは、マルチトロニック(CVT)とティプトロニック(6速AT)、そして、一部のグレードには6速MTも用意される。
サスペンションは「スポーティなキャラクターを損なわずに乗り心地を改善」 する方向で、リファインしたという。
エクステリアはシングルフレームグリル、バンパー、エアインレット、フォグライトなどすべてデザインが見直されているが、最大の変更点はデイタイムランニングライトが搭載されたことだ。
LEDはA4のように波形ではなく一直線に並んでいる。「A3からA8まで、顔がどれも似すぎている」 という指摘が一部にあるようだが、これを受けてLEDの配置をA4とは違う一直線にしたのかも知れない。理由はどうであれ、これは正解だ。ひと目でそのクルマが何であるか、わかるに越したことはないだろう。
リアスタイルはコンビネーションライトが大きく変更され、イメージを一新している。一見、A4とよく似ているのだが、よく見ると細部はかなり違う。全体から受ける印象としては、A4は「目尻が下がったやさしい雰囲気」 を持つのだが、A6は「目尻がキリッと上がった精悍なイメージ」 を漂わせている。
インテリアはアルミ素材をより多く使うことにより、豪華でスポーティに仕立てられている。また、ステアリングホイールの形状が変更になった。これまではセンターパッド部分が大きめで、あまりスポーティな印象ではなかったが、この部分が若干スリムになったことで、インパネまわり全体とのデザイン的なバランスがよくなったと思う。
機能面ではMMI(マルチメディアインターフェイス)がバージョンアップしたことがニュースだ。2002年に登場したこのシステムは、ダイヤルを中心として、その周辺に補助的スイッチを配するもので、ダイヤルに機能を集中させたライバル車とは考え方が異なっていた。どちらが操作性に優れているかのつば競り合いがあったが、どうやらこれについてはアウディに軍配が上がったようで、ライバル車も補助的スイッチを設ける形で、システムの進化を図っている。
そのMMIの操作性がさらによくなった。ダイヤルの上部にジョイスティックのように使えるキャップが付いた。また、ナビゲーションなどのシステム自体のスペックも向上している。
どのような時も扱いやすい3LのTFSIエンジン
あらためて走りの印象をお伝えしておこう。試乗したのは3.0TFSIでアダプティブエアサスペンション装着車だった。
走り出して感じるのは、加速が非常に滑らかであること。ふつう、ターボにしろスーパーチャージャーにしろ、過給器が付いていると低回転からグイグイとトルクの盛り上がりを感じるのだが、それがあまりない。トルクが細いということではなくて、その出方が非常に自然でスムーズなのだ。まったく過給器が付いているような感じがしない。そういう点で、街中の微低速から40~50km/hの範囲では、非常に運転がしやすかった。
かと言って高速域も決して苦手ではない。トルク感に抑揚はないのだが、アクセルペダルを踏み続けていると、あっという間に200km/h近くになっている。エンジン音など、ほとんど変化がなく余裕綽々といった感じだ。これで燃費もよいというのだから大したものだ。このTFSIエンジンは何でもこなす万能選手といえる。
乗り心地は非常にいい。とくに試乗車はアダプティブエアサスペンションを装着していたので、全般にいい印象を受けたのだろうが、これを「ダイナミック」に設定しても、しっとりとした乗り味が損なわれることはなかった。それでいて、コーナーを攻めればしっかりとしたところも見せてくれる。サスペンションの煮詰めは、かなり進んだようで好感がもてた。
ところでこの欧州試乗会には、アバントに続いてデビューしたRS6セダンも用意されていた。パワースペックはアバントと同じだが、車重が少ないぶん、走りは一層研ぎ澄まされたものとなっている。非常に限られた時間と場所の試乗だったので、これについては改めて別の機会を設けて報告したいと思う。
さて、フェイスリフト後の日本におけるA6ファミリーのラインアップは、2.8FSIクワトロ(220ps仕様)、3.0TFSIクワトロ、RS6、S6のそれぞれにアバントとセダンで、トータル8モデルということになる。A6オールロードクワトロは、日本へは導入されなくなるそうだ。このジャンルはQ5に受け持たせようという考えなのだろうが、一世を風靡したモデルだけに少々残念だ。
3.0と2.8の日本上陸は2009年早々が予定されている。A6は世界では販売好調だが、日本ではいまひとつ冴えない。このフェイスリフトしたモデルで、攻勢をかけたいところだろう。そのポテンシャルは十分にあると見た。(文:Motor Magazine編集部 荒川雅之)
アウディA6 3.0 TFSI クワトロ主要諸元
●全長×全幅×全高:4927×1855×1459mm
●ホイールベース:2843mm
●車両重量:1725kg
●エンジン:V6 DOHCスーパーチャージャー
●排気量:2995cc
●最高出力:213kW(290ps)/4850-6800rpm
●最大トルク:420Nm/2500-4850rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・80L
●タイヤサイズ:225/55R16
●0→100km/h加速:5.9秒
●最高速度:250km/h(リミッター)
※欧州仕様
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フロントミッドシップとはかけ離れたフロントヘビーさが伺えます
ベンツやBMWはフロントタイヤよりめいっぱい後ろにマウントされてます