加速力に見合った制動力を生み出さない
ドイツ・シュツットガルト郊外に位置する、メルセデス・ベンツのウンターテュルクハイム・テストコースを疾走する。ストレートエンドの手前で130km/hに到達し、右足を緩める。
【画像】シルバーアローの幕開け メルセデス・ベンツSSKL ストリームライナー 同時代のクラシックも 全139枚
7.1L直列6気筒エンジンに追加された、スーパーチャージャーの悲鳴が収まる。エグゾーストノイズも一時的に静まる。その直後、ロッドで制御するクラシカルなドラムブレーキが加速力に見合った制動力を生み出さないという、恐ろしい現実へ直面した。
今回は、高速周回コースまでは開放されていない。ここの名物といえる、巨大なバンクコーナーの走行は許されていない。メルセデス・ベンツのスタッフによるドライブで、数枚の写真を撮影させてもらったが。
それでも、1930年代のレーシングドライバーが、いかに勇敢な心の持ち主だったのか理解するには充分な体験だった。近年とは異なり、よりオープンな環境にあったことも間違いないだろう。
ちなみに、このコースへ隣接するように、シルバーアローズを名乗るアメリカン・フットボール・チームのホームグラウンドがある。筆者がステアリングホイールを握らせてもらったクルマとも、まったく無縁ではないといえる。
空気力学の黎明期に生まれた重要なマシン
メルセデス・ベンツSSKLといえば、切り立ったフロントグリルが付いた、ロングノーズの2シーター・レーシングカーを思い浮かべるかもしれない。しかしこれは、流線型のストリームライナー。ボディの後端は、ロケットのように尖っている。
レーシングドライバーのマンフレート・フォン・ブラウヒッチュ氏が、1932年のベルリンでドライブしたマシンを忠実に再現してある。1931年製メルセデス・ベンツSSKLのシャシーが、ベースにされた。
2023年に目の当たりにしても、鈍く輝くアルミ製ボディは存在感が半端ない。今から90年以上昔なら、相当なインパクトだったことは想像に難くない。
このSSKLの歴史的価値を認識し、再現プロジェクトを率いたのは、メルセデス・ベンツ・クラシック部門のミヒャエル・プラーグ氏。彼は経営陣に対し、復元する価値を以前から唱えてきたそうだ。
オリジナルは、行方がわからなくなっていた。ドイツ人ジャーナリストのグレゴール・シュルツ氏による調査では、レース後に通常のSSKL用ボディへ戻された可能性が高いようだ。
ミヒャエルは当時の技術図面を探し出し、写真資料を揃えることで、ストリームライナーの復元を実現へ導いた。メルセデス・ベンツによるモータースポーツの歴史を紐解くだけでなく、空気力学の黎明期に生まれたマシンとして、重要性は小さくなかった。
完成までに7か月を要したという。2019年のグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードで、その姿は初披露されている。
一時的にモータースポーツ活動を休止
オリジナルのメルセデス・ベンツSSKは、1928年に生産がスタート。当初は、世界トップクラスのレーシングカーだった。ワークスドライバーがステアリングホイールを握り、イタリア・ミッレミリアやドイツ・アヴスレネンなどのレースで優勝を掴んだ。
そのドライバーのなかで、エース級の活躍を見せたのがルドルフ・カラッチョラ氏。だが、ベルリン・アヴス・サーキットで開かれた1932年のアヴスレネンでは、アルファ・ロメオ8C モンツァをドライブしている。
アメリカに端を発した世界恐慌の影響で業績が悪化し、メルセデス・ベンツは1931年からモータースポーツ活動を休止していた。それでも非公式ながら、プライベートチームは限定的にファクトリーチームによるサポートを受けられた。
1932年シーズンもメルセデス・ベンツの姿はなく、アルファ・ロメオの最新マシンが話題を集めた。それを駆るルドルフが、アヴスレネンの優勝候補として目された。プライベート勢は、設計の古い軽量化されたSSKLで上位を狙うことになった。
しかし、数々のスピード記録を樹立したオートバイレーサー、ラインハルト・フォン・ケーニッヒ・ファクセンフェルト氏は、レースに勝つアイデアを持っていた。技術者でもあり、空気力学を研究していた。
より軽く、より速く、より敏捷に走るライバルと互角に戦うため、SSKLの改造をメルセデス・ベンツへ提案。滑らかなラインを持つ、ボディの強みを訴えた。
低抵抗ボディは80ps上昇することに相当
空気抵抗を小さくすることは、エンジンの馬力が80psほど増えることに相当すると、ラインハルトは主張。210km/hから230km/hへ、最高速度が上昇する可能性があると見積もっていた。ただし、説得力はあったものの、予算も時間も限られていた。
メルセデス・ベンツのレーシング部門を率いていた、アルフレッド・ノイバウアー氏が非公式にアイデアを承認。プライベーターのマンフレート・フォン・ブラウヒッチュ氏が、メカニックのウィリー・ジマー氏から資金を借り、流線型ボディを実作へ移した。
その製造を請け負ったのは、現在のシュツットガルトに存在したコーチビルダーのヴァルター・ヴェッター。職人が手作業で成型し、驚くことに約2週間でまったく新しいボディを完成させた。
それでも時間は足りず、塗装までは間に合わなかった。アルミニウムの素地が露出した、特徴的な容姿が誕生した瞬間だった。
ジマーは完成したマシンを受け取ると、ベルリンまで自走。初めてそのスタイリングを目にしたアルフレッドは、大きな衝撃を受けたようだ。遥かに速いラップタイムを知ると、さらに圧倒されたといわれている。
SSKL ストリームライナーは、当時のどのレーシングカーとも異なっていた。自動車における空気力学は黎明期にあり、専門としたラインハルトですら、空気を効果的に受け流す方法を完全には理解していなかった。
この続きは後編にて。
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