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【ヒットの法則86】メルセデス・ベンツCLSに隠された秘密をEクラスとの比較で解き明かす

掲載 更新 4
【ヒットの法則86】メルセデス・ベンツCLSに隠された秘密をEクラスとの比較で解き明かす

2004年に欧州で販売を開始、日本には2005年2月に上陸したメルセデス・ベンツCLSは当初の予想をはるかに超えるヒット作となった。Eクラスをベースにしながら、その大柄なボディと贅沢な空間、4ドアクーペというフォーマル感はEクラスを凌ぐ車格を備えていたようだ。一方でその成功は少なからずEクラスに影響を与えるのではないかとも思えた。Motor Magazine誌はそんな微妙な関係にあった2台、CLSとEクラスを比較しながら、新たなメルセデスの姿を浮き彫りにしている。(以下の記事は、Motor Magazine 2005年10月号より)

ベンツらしくないという不満も、蓋を開けてみたら大人気のCLS
ホリエモンが、今回の衆院選出馬に関して小泉首相とナシをつけるために官邸に赴いた際、乗りつけたクルマは「黒塗りのベンツだった」と報じられた。

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この黒塗りのベンツという表現には、我々日本人の最も標準的なベンツ観が宿っていると思う。偉そうな人、成功した人、近寄りがたい人、(いろんな意味で)権力のある人……。ベンツというクルマには、そういう人が乗るものだというイメージや記号性があった。いい意味でも悪い意味でも。

だから、ホリエモンが黒塗りベンツ、という表現にも一般の方ならば一定の理解をすることだろう。儲かってるなコイツ、とか、成功したヤツは違うな、とか、さすがだなホリエモン、とか。

つまり、世間一般的にはメルセデス・ベンツというと、まだまだ威風堂々としたSクラスやEクラスのセダンというイメージが強いわけだが、欲しいマーケットの認識がそのままであってくれたならダイムラー・クライスラーに苦労はない。

メルセデス・ベンツを買うことができる層の好みや嗜好性はこの十数年で多様化し、大きく様変わりしている。それもアメリカ市場を筆頭にして全世界的に、だ。だから、気づけば、メルセデス・ベンツもほとんどフルラインナップメーカーの様相を呈しているのだ。

それでも、AクラスやMクラスといったこれまでの新規参入組(といってもすでに2世代を数えるまでになった)には、高機能車たるメルセデス・ベンツが参入しても納得のいく、市場の大きさとニーズがあったように思う。メルセデス・ベンツ=高機能車というイメージが薄れることは、なかった。だからこそ、一般人のベンツマークに対するイメージも「黒塗りベンツ」の範囲内に納まってきたのかも知れない。

市場の欲求以外にも、それじゃ物足りないとメーカー自身が思ったのかどうか。前代未聞なメルセデス・ベンツが登場した。CLSクラスである。

言うまでもなく、このクルマはスタイリングが命だ。ベースとなったEクラスよりも、長く、低く、幅広い(ホイールベースは同じ)。オーバーハングがきっちりあって、最近の4ドアセダンデザインのセオリーからには180度ソッポを向く。

カタチ優先のモデルがこれまでメルセデス・ベンツになかったかというと、そうでもない。一連の2ドアクーペやSLは姿カタチを重視したモデルだろう。ただし、格好がいい悪いは別にして、デザイン重視であることは2ドアモデルのある意味「機能」だ。カッコよくしたいからこその2枚ドアであり、そうでないクーペモデルなど必要はない。だから、後席の居住性であるとか、トランクスペースの物足りなさをトレードオフしても商品として成り立ったのである。しかも、メルセデス・ベンツは、他のメーカーならば割り切ってしまうクーペの不便さにも、ある一定のリカバリーを施す努力をした痕跡があったものだ。

ところが、CLSは4ドアである。これまでメルセデス・ベンツが、4枚ドアであるにもかかわらずデザインを最優先し、セダンとしての機能性を無視したことなどあっただろうか。

セダンであることを前提にすると、CLSというクルマはとんでもなく「低機能」なのだ。これまでのモデルカテゴリーの考え方に当てはめて言えば、メルセデス・ベンツ初の低機能車であろう。高機能車であることがメルセデス・ベンツならば、このクルマはベンツじゃあ、ない!?

ただ、どうやらそう考えるのは、オールドファンだけのようだ。日本でのCLSの販売は好調である。初期トラブルや生産上の問題で納車は多少遅れ気味らしいが、それでも本年度4000台という目標は軽く超えそうな勢いという。新しいモノ好きの日本人がブランドの力に負けてホイホイ買ってるのかと思いきや、海外でも好調らしい。アメリカでは高級SUVを乗り回していたビバリーな女性層にウケているというし、本国ドイツでもデザインコンプレックスを克服した1台として人気……。

さすがはメルセデス・ベンツ、4ドアセダン、もとい、4ドアクーペという市場が確かにあったぞ、とするのはまだ気が早いだろうが、かの強力ブランド「メルセデス・ベンツ」にもマーケティング的な手法が有効だったという事実には学ぶべきことが多い。

ちなみに、CLSの登場で気になるのはEクラスセダンへの影響、カニバリだが、まったくないとは言えないようだ。この7月(2005年)までで、登録ベースでいうと、CLSが2800台でEセダンが4000台。Eクラスの台数は去年より確かに減っているが、追加された3L V6DOHCを積むE280などの効果で今後はもっと台数が伸びるとダイムラー・クライスラー日本は予測している。

対するCLSには受注残がまだ1000台もあるらしい。当初はCLS500人気が高かったが、それは右ハンドル車の導入が遅れたことにも関係しているという。

今ではほぼ半々、CLS350の方がやや多いぐらいだ。また、BMW6シリーズや身内のSLを検討していた人がCLSに流れるケースも。客層は予想通り、50~60代の子供から手の離れた熟年夫婦が求めるパターンが多いのだそうだ。

メルセデスの機能を敢えて無視したことで成功したCLS
そんなCLSを改めて評価してみよう。お相手はもちろんEクラス。最も売れセンとなる350グレード同士で比較してみた。

この2台を並べてみると、よくもまあ同じモノをベースにこれだけ違う雰囲気の4枚ドアが作れたものだと感心する。

少し離れて見ると、確かにホイールベースは同じ感じだけれども、CLSの方が断然 大きい。実際に、長く幅広いわけだが、それ以上に大きく見える。

しかし面白いことに、近寄るとその印象は逆転する。Eクラスはキャビンもでかくて堂々としているのに対して、CLSは背が低いこともあって急に小さく感じる。要するに、身長170cmの標準的な日本男児からすれば、Eクラスには威圧感を感じ、CLSは背を丸めた眼前のネコよろしく見下ろすのだった。外観のサイズ感はそれほどまでに違っている。

その差は乗り込む際にも顕著だ。何の違和感もなくドライバーを席へと誘ってくれるのはやはりEクラスで、CLSはその点フレンドリーではない。傾斜した太いピラーが、出腹を苦労して曲げていることをあざ笑うかのように頭を叩く。九州で行われた試乗会から数えて頭を打つこと数度。なかなか慣れないのも、まだこのクルマをセダンだと認識している判断の甘さからか。CLSはクーペと思うべきだ!

リアシートへのアクセスもほぼ同様だ。念のため言っておくと、CLSは完全4シーターである。後席左右は前席と同じようにコンソールで仕切られているから、無理すれば5人乗れるというものでもない。ショールームで初めて見て、座れないじゃないか!と驚く方も多いと聞いた。

インテリアに関しても、あくまでコンサバなEクラスに対して、CLSのそれはメルセデス・ベンツにしては前衛的といえる。ウイングのように拡がったダッシュパネルと低められた着座位置により、ワイド&ローな雰囲気が一層強められ、ことによればSLよりもスペシャルな気分を味わえる。

この特別感こそ、エクステリアにも増して重要だ。いくらスタイリングに凝っていても、中に座ると隣のセダンと同じじゃあ話にならない。オーナーはエッジの効いた特別なスタイリングのクルマに乗っている自分を想像してニタつき満足を得るものなのだ。その想像力をいっそうリアルに掻き立てるためにも、インテリアの特別感は重要だ。

もっとも、特別なインテリアであることと、ちゃんと使えるは同義語でないことが多い。それはCLSも同様で、すべての人を受け入れてほぼ完璧な運転環境を与えてくれる計算ずくの設計=パッケージデザインとは程遠いものだ。ドライビングポジションが決めづらく、良好な視界の確保もままならない。誰にでも運転しやすいセダンというメルセデス・ベンツお得意の機能がほとんど損なわれている。

その点、Eクラスはやはり素晴らしい。まず、運転席に座った瞬間に、クルマの存在を小さく感じる。この時点ですでに自分のコントロール下におけたという、ある種の自信を持つことができる。スイッチ類にいつものメルセデス流だなと安堵するのもそう。手が勝手に動いて、例のシート型の電動レバーを調節し、ほぼイッパツでドラポジが決まる。もちろん視界は良好、Aピラー奥の景色だって見えそうだ。

走り出しても、その安心感は変わらない。動き始めからなぜだかホッとするのは、AMG以外のセダン系メルセデス・ベンツの特徴である。重めでしっとりジワリと効くステアリング、あたりは柔らかだが動きはリニアな足まわりのセッティング、ちゃんとタメのある加速感、それらをひっくるめると安心感になるという下半身の設計……。

このところのメルセデス・ベンツの良さがしっかりと感じられ、機能を突き詰めてきたメルセデス・ベンツならではいう印象を強くする。新しいのだけれども古式ゆかしい、といった風情。あっさりしているが深い味付けだ。

CLSを世に送り出したメルセデス・ベンツの実力
対するCLS350はのっけからE350とは違う印象を与えたが、走り出してから感じることもまるで異なる。ステアリングフィールは軽くシャープだ。足まわりのセッティングはSL譲りで左右への動きを重視したもののように感じるし、軽やかな加速フィールはスポーティさを強調している。

エンジンを掛けたときの音もそうだが、加速時のエキゾーストノートもE350に比べてワイルドだ。まるでスポーツカーに乗っているような気分で、モード的にはやる気マンマン。わかりやすくて濃い味付けである。40~50km/hあたりでのクルマの動き方は、それほど違わない。ハンドルを握る手が軽やかに動く分、CLS350の方がシャープに感じるが、動きはほぼ同じだ。しかし、速度域が高速に入ると、様相は一転。シャープすぎるCLSに戸惑うこともしばしばだった。

動きたがるベンツも珍しいよな、と思いながら気づいたことは、なんとなくBMWっぽい動きをするなあ、ということだった。直進安定性重視のメルセデス・ベンツに対して、コーナーを駆け抜ける歓びのBMWと色分けすれば、CLS350は間違いなくBMW寄りに位置するベンツだ。

E350の高速道路での走り味はといえば、こちらは紛うことなくベンツである。とりわけ、クルマのカタチや大きさを把握できていることが、安心のあるドライブフィールに繋がっている。それでいて、どっしりとした直進性をみせてくれるのだから、やっぱりベンツの高速巡航はいいなと感心するのだった。

千葉での取材途中に、「今からタコ焼き食いに大阪に行こう」と言われても苦にはならない。とまあ、乗った印象がまるで違う2台だったが、同じものが一つあった。それはブレーキの効きとフィールで、良いも悪いもひっくるめてそのあたりの「守り」は均質にというのが、メルセデス・ベンツの矜持ではあるのだろう。

CLSクラスは、メルセデス・ベンツをクルマとしては認めるが、愛車としては認めない理屈っぽい人たちのネガを消してみよういう試みでもある。権威主義的なスタイルが嫌、といったメルセデス・ベンツを買わない主な理由をツブして、どうだ? と迫っている。非ベンツ派の買わない理屈やいい訳を無効にするもの、なのだ。

かく言う私も、CLSには随分惹かれている。異母兄弟のようなクライスラー300Cを手にしたから、しばらくは特殊な4ドアセダンなど買う理由もないのだが、やはりあのカタチには所有したいという欲求をくすぐられてしまう。シャープなサイドラインには見とれてしまうこともしばしば……。

ただ、せっかくネガをツブしたのだから、乗り味あたりはE350風でも良かった気がするのだが、どうだろう。もっとも、そういう安直な解答にならないのも4ドアクーペを機能化してしまったメルセデス・ベンツ一流の計算ということになるだろうか。

身近にこんな女性たちがいる。E350を買った人と、CLS350を買った人だ。ふたりの言い分がふるっていた。Eなカノジョはこうのたまった。「CLSみたいなちょいエロなオヤジグルマは嫌だわ」、CLSなカノジョはこう言い張った。「Eみたいにオジン臭いクルマなんてまっぴらご免よ」

メルセデス・ベンツって、やっぱり凄いなと思う……。(文:西川 淳)



メルセデス・ベンツCLS350(2005年)主要諸元
●全長×全幅×全高:4915×1875×1405mm
●ホイールベース:2855mm
●車両重量:1730kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:3497cc
●最高出力:272ps/6000rpm
●最大トルク:350Nm/2400-5000rpm
●トランスミッション:7速AT
●駆動方式:FR
●車両価格:850万5000円(2005年当時)

メルセデス・ベンツE350アバンギャルド(2005年)主要諸元
●全長×全幅×全高:4820×1820×1435mm
●ホイールベース:2855mm
●車両重量:1690kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:3497cc
●最高出力:272ps/6000rpm
●最大トルク:350Nm/2400-5000rpm
●トランスミッション:7速AT
●駆動方式:FR
●車両価格:808万5000円(2005年当時)

[ アルバム : メルセデス・ベンツCLS350とE350アバンギャルド はオリジナルサイトでご覧ください ]

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みんなのコメント

4件
  • 新車で買うのは「ベンツで遊べる」余裕ある人の車
    年収1000万以下の貧乏人の意見など耳を傾ける価値ゼロ

    ボロボロの150万円の中古を乗ってるのは本当に貧乏くさい・・・
  • この時代はコストカットだらけで故障も尋常じゃなかったしいかにも大衆車って感じだったな
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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