9月10日、WEC世界耐久選手権の2023年第6戦『6 HOURS OF FUJI 2023』の決勝レースが静岡県の富士スピードウェイで行われ、LM-GTEアマクラス11番手からスタートしたAFコルセの54号車フェラーリ488 GTEエボ(トーマス・フロー/フランチェスコ・カステラッチ/ダビデ・リゴン組)が、最初のピットタイミングを早める作戦で終始ハイペースを維持。レース終盤に首位を奪取して逆転優勝を飾った。
予選日までとは打って変わって青空に恵まれた富士スピードウェイ。迎えたスタートでは、クラス3番手スタートの777号車アストンマーティン・バンテージAMR(Dステーション・レーシング)をドライブする藤井誠暢が好スタートを見せる。スタート直後のTGRコーナーで前の85号車ポルシェ911 RSR-19(アイアン・デイムス)をオーバーテイクして早々に2番手へポジションを上げた。
なお、その後方ではルイス-ペレス・コンパンクのドライブする83号車フェラーリ488 GTEエボ(リシャール・ミル・AFコルセ)が痛恨のスピンを喫してしまい、マシンがコーナーの外側に停止してしまうアクシデントが発生。レースは即座にセーフティカー(SC)投入となった。
83号車フェラーリは無事にコースへ復帰しSCランは1周で終了となる。リスタートでは、2番手に順位を上げた藤井がさらなるプッシュをかけ、前戦モンツァでタイトル獲得を決めたベン・キーティングがステアリングを握る33号車シボレー・コルベットC8.R(コルベット・レーシング)をオーバーテイクし、クラストップに躍り出た。
前の開けた藤井は、後方のマシンが1分41~2秒台で走るなか1分39秒台のペースで走行し、1周につき1秒以上のリードを築き始める。その後方では、33号車コルベットのキーティングと85号車ポルシェのサラ・ボビーによる2番手争いが白熱。コカ・コーラコーナー、ダンロップコーナーと互いにオーバーテイクの応酬となるも、最終的にはボビーの駆るピンクのポルシェが2番手ポジションを奪取した。
以降、トップの藤井はさらにリードを広げるべくプッシュを続け、レース開始から30分が経過するころには後続に12秒のギャップを築く。
スタートでひとつ順位を上げ4番手となった57号車フェラーリ488 GTEエボ(ケッセル・レーシング)の木村武史は、後方に3台のライバルを従えての走行となるがペースをコントロールしつつ、攻め入る隙を与えない走りを見せポジションをキープする。12番手スタートの21号車フェラーリ488 GTEエボ(AFコルセ)に乗り込む小泉洋史は、スタートで前の2台を抜き10番手へ。さらに、フローのドライブする54号車フェラーリと9番手争いを繰り広げオーバーテイクに成功、後方からの挽回を目指す。
上位集団で真っ先にピットインを行ったのは、首位の藤井から20秒後方を走行していた85号車ポルシェだ。34周目にピットへ向かったアイアンデイムスのマシンは、給油のみの作業で第2スティントへ。一方、トップを逃げる777号車アストンマーティンは、20秒強のリードを保ちながら36周目にピットへ帰還。ドライバー交代を行い、星野敏がステアリングを握ってコースへ復帰した。
前を走る2台のピットインにより首位に浮上した33号車コルベットは、第1スティントを引っ張って41周目にピットイン。ドライバーはベン・キーティングのまま4番手でコースに戻る。なお、GTEラストイヤー・チャンピオンカーの前方3番手には、11番手スタートで28周目にいち早くピットインを行った、AFコルセ54号車フェラーリのカステラッチが浮上している。
トップ死守を任された777号車アストンマーティンの星野敏は、約3秒後方を走る2番手85号のボビーとのギャップをコントロールしながら周回を重ねていく。3番手の54号車フェラーリのカステラッチは、周囲が1分42秒前後で周回を重ねるなかで1分40~41秒台のハイペースで周回を重ね、56周目には85号車ポルシェに接近。TGR(1)コーナーでインに飛び込み、2番手を奪取した。
3番手に下がった85号車ポルシェのボビーは、ミディアムタイヤのダブルスティントに苦しみ始めた様子で徐々にペースダウン。次第に、ハードタイヤスタートの33号車コルベットにも接近を許し、57周目のTGRコーナーでオーバーテイクを許してしまう。
順位をふたつ下げてしまった85号車ポルシェはたまらずピットイン。ミシェル・ガッティンへとドライバーを交代し、フロントにミディアム、リヤにハードタイヤを装着して6番手でコースに復帰した。
■王者コルベットとAFコルセ・フェラーリが接触
2番手を走る54号車フェラーリに33号車コルベットが追い付き、ダンロップコーナーでバトルとなるが、2台は横並びで押し合うように接触し、54号車が挙動を乱してオーバーラン。この接触により、33号車には30秒のピットストップペナルティが課された。接触により順位を落としてしまった54号車は69周目にピットに向かい、ふたたびフローにマシンを預ける。その結果、2番手には33号車コルベットが浮上することに。
首位を走るDステーションの星野は70周目前後でペースが大きく落ち、そこに33号車コルベットが急接近してくる。1秒以内への接近を許すも、なんとかポジション防衛に成功した星野は72周目にピットインを行い4番手でコースに戻る。
木村、宮田莉朋の57号車フェラーリは、スコット・ハファカーのスティント中にアドバンコーナーで後続の60号車ポルシェ(アイアン・リンクス)と接触してしまうアクシデントが発生。その後2台は無事に走行を再開したが、大きくタイム失ってしまった。
また、星野の777号車アストンマーティンは、ペースで勝る後続の98号車アストンマーティン(ノースウエストAMR)のダニエル・マンチネッリ、さらに54号車フェラーリのフローに接近を許し、この2台にオーバーテイクを許し5番手に後退してしまう。
85周目には、ハードタイヤスタートで各スティントを伸ばしていた33号車コルベットがピットイン。ニコラス・バローネへとドライバーを交代しコースへ。しかし、33号車コルベットはコースへと戻ってすぐに再度ピットインを行い、接触によって科せられた30秒のピットストップペナルティーを消化することに。結局33号車コルベットは11番手でコースに戻った。
この時点で首位を走るのは、85号車ポルシェのミシェル・ガッティン。2番手の98号車アストンマーティンのマンチネッリに対し20秒以上のリードを築きながら周回を重ねている。ペナルティにより大きく順位を下げてしまった33号車コルベットは、ハイペースで周回を重ね、さらに前を行くライバルたちがピットへ向かうなかでひとつずつ順位を上げ、見た目上の2番手までポジションアップに成功する。
85号車は101周目にピットへ向かい、ラヘル・フレイにドライバー交代。トップを維持したままコースへと復帰した。以降は大きなアクシデントや順位変動もなく、レースは3時間の折り返しを迎える。
■急きょ参戦の宮田莉朋がWEC決勝デビュー
127周目、5番手のハファカーがドライブする57号車フェラーリが好ペースで追い上げを見せ、前を走る77号車ポルシェ911 RSR-19(デンプシー・プロトン・レーシング)と98号車アストンマーティンをオーバーテイク。表彰台圏内へとポジションアップを果たした。
翌128周目には2番手を走る33号車コルベットが、7周後の135周目には首位の85号車ポルシェがピットインへ向かい、両車ともにルーティン作業ののち順位をキープしてコースに復帰した。ケッセル・レーシングの57号車フェラーリは136周目にピットへと戻り、宮田莉朋へとドライバーを交代し8番手でコースに戻る。
147周目、ペースに伸び悩む様子の首位85号車に2番手33号車コルベットと3番手を走っていた77号車ポルシェが続々と接近。3台は三つ巴の状況となり、TGRコーナーのインに飛び込んだ33号車コルベットがトップを奪い返すことに成功した。57号車フェラーリに乗り込んだ宮田も159周目に85号車の背後に迫ると、各コーナーでサイド・バイ・サイドのバトルを繰り広げながら、160周目のTGRコーナーでオーバーテイクに成功し3番手に浮上する。
ここでトップの33号車コルベットに、86号車ポルシェ911 RSR-19(GRレーシング)を押し出したとしてピットストップ時に10秒静止のペナルティが課せられることに。171周目には、ペナルティを科された33号車コルベットがピットイン。それに合わせて2番手の54号車、さらに57号車フェラーリも続いてピットインを選択し、2台はペナルティを消化したコルベットの前でコースに復帰する。
トップに立った54号車フェラーリをドライブするのは、プラチナドライバーのダビデ・リゴン。追いかける宮田は3番手でコースに復帰し、ピットタイミングの異なる86号車ポルシェの後ろでラストスティントを開始した。前の86号車ポルシェをすぐにも抜いて、首位を走るリゴンを追いたい宮田だが、ストレートが速いポルシェ攻略は容易ではなく、1度はオーバーテイクしたものの抜き返されてしまう。183周目、86号車ポルシェがピットに入ったことでようやく宮田の57号車フェラーリは2番手に浮上した。
このタイミングで54号車リゴンと57号車宮田の差は10秒となり、その差はじわじわと広がっていく展開に。残り20分のタイミングでコースに大きなデブリが出たためにフルコースイエロー(FCY)が導入されるも、大勢に影響はないまますぐにレースは再開され、最終的に54号車フェラーリが後続に19秒のリードを築いてトップチェッカー。後方11番手からのスタートとなったAFコルセは28周目にいち早くピットインし、自らの走行ペースを作り上げる作戦を成功させての大逆転優勝を飾った。
2位にはケッセルレーシングの54号車フェラーリが入り、WEC初参戦の宮田はデビュー戦での表彰台獲得となった。3位には2度のペナルティでタイムを失いながらも好ペースを維持し追い上げた33号車コルベットが続いた。
藤井、星野の777号車アストンマーティンはクラス10位、小泉とケイ・コッツォリーノが乗り込んだ21号車フェラーリは同12位でレースを終えている。
【追記】FIAによって18時22分に発表されたスチュワード決定文書によると、宮田のドライブしていたタイミングの16時38分に導入となったFCY時に、決められた時間内に時速80km以下まで速度を落としていなかったとして、レース結果に10秒加算のペナルティが課されることとなった。そのため、レース結果は3位となる見込みだ。
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