メリハリ効いた非対称
ミシュランのニュータイヤが登場した。パイロットスポーツ4から5へ、6年ぶりのバトンタッチである。
【画像】クルマとのマッチングの幅、広がる【ミシュラン・パイロットスポーツ5を試す】 全87枚
はじめにミシュランのパイロットスポーツのおさらいから。
このシリーズには4つのラインが存在する。
スポーツ性能の頂点を極めるサーキット向けのパイロットスポーツカップ。その下にサーキットも楽しめるフラッグシップのパイロットスポーツ。
今回登場したパイロットスポーツ5は公道にフォーカスしたスタンダードで、さらにスポーツEV用のパイロットスポーツEVも昨年登場している。
今回のパイロットスポーツ5の先代にあたる4は、昨年デビューしたGR 86/BRZに標準装着されており、今後も一部のサイズは継続生産されるという。
つまりポテンシャルはまだまだ第一線といっていいのである。
新しいパイロットスポーツ5は最新のプレミアムタイヤらしい見た目を持つ。
サイドウォールは艶消しの質感を効果的に使った「フルリングプレミアムタッチ」というデザインで、決して大きくはないが、「MICHELIN」のロゴが浮き上がって見える。
一方トレッドパターンはモータースポーツからフィードバックされた「デュアルスポーツトレッドデザイン」という非対称パターンを採用。
一見してわかるのは排水溝が太いイン側とブロックが密集したアウト側のメリハリがこれまで以上にはっきりとしているということ。
これにより、ドライのグリップとウェット性能をともに高めているという。
ウェットで「薄味」が変化
今回はカローラ・スポーツを使用して、4と5の比較がおこなわれた。
ドライ路面の高速周回路におけるハンドリング、操縦安定性を試してみて「ん?」と首をかしげてしまった。
普通この手のスポーツタイヤの新旧を比べると、新型の手応えが1~2割増しで感じられることが多い。
ところが今回は、例えば高速レーンチェンジの初期応答など、5の方がフィードバックが弱いくらいで、ゆったりと感じられた。
直進している時でも路面を掴む感じより転がり感が強くエコタイヤに似ている。
もちろんこれは「4に比べてわずか」なのだが、件の「1~2割当たり前」感覚からするとかなり意外な感じがした。
いかなるタイヤでも性能バランスと新円による転がりを重視するミシュランらしいといえばらしいのだが……。
今回5が登場した理由の1つに、4のトレッドの減り方があったという。
4はショルダーの摩耗が進み、イン側の山が残っているのにライフが終わってしまうという声が多かったのだとか。
ショルダー部分のグリップを少し落としたため初期応答性も落ちてしまったのでは? と勘繰りたくなってしまった。
ところが試乗のステージがウェットのハンドリング路になると「薄味」な印象に変化が現れた。
路面のタッチが柔らかく感じられる5だが、少し慣れてくると転舵に対する反応には遅れがないことがわかってきた。
そして4とはそもそものグリップのレベルがまるで違う。
転がり抵抗の低減とウェットグリップに効く新しいコンパウンドの効果がはっきりと体感できたのである。
途切れない新しさ
とくに素晴らしいと感じたのはコーナーの奥でステアリングを切り増したときのグリップ性能だった。
スロットルを軽く踏んだままクリアしようとすると、4ではグリップがすっぽ抜けてしまうのだが、5では舵角を増してもグリップ感が途切れない。
この「途切れない」という感覚が、4と5の最大の違いだと感じた。
ドライ路面の4は転舵初期にガツンとコーナリングフォースが高まる印象があるが、その後のスリップアングル増加はグリップがわずかに途切れているといえるのかもしれない。
その点5は転舵の最初からステアリングを切り増した最後までフィードバックが一定で途切れることがない。
活発な30代から、40代になって少し落ち着いた感じ?
5の方がパターンノイズもロードノイズも静かだし、乗り心地も明らかに良くなっていることがわかる。
自動車が内燃機から電気に完全に切り替わるのはもう少し先だとしても、近年環境性能のハードルは一気に高くなっている。
そんな時代にあって、スポーツタイヤだけが以前と同じ方向性、歩幅で性能向上するはずはない。
今回パイロットスポーツ5の試乗が進むにつれ、総合性能の高さがジワジワと伝わってくると同時に、ただグリップを高めればいいというだけではない現代のスポーツタイヤ開発の難しさも実感した。
総合的なバランスに優れたパイロットスポーツ5は、性格的なクセがない、よりミシュランらしいタイヤともいえるので、マッチングの幅も広がっているはず。
これは時代の流れを反映した秀作だ。
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