全国各地で気温35℃を超える猛暑日が続出しているなか、8月10日には今年初めて東京でも36.1℃を記録し、東京・八王子市では39℃に達するなど、猛烈な暑さが続いている。
こんな時に、もしエアコンが壊れたら……、と考えただけで恐ろしい。うだるような暑さのなかで、ノロノロ渋滞中にエアコンの設定温度を16℃にして風量もMAX……と、エアコンが悲鳴をあげるような使い方をしていませんか?
2022年9月にも運転記録装置義務化決まる! 燃費記録装置も義務化されるのか?
そして、ここ2、3年で登場した新車に使われているエアコンガスがR-134aから高額なR-1234yfに切り替わっていて(車種による)、気軽にエアコンガス補充ができなくなっている事情もあると聞く……。
そこで、エアコンが効かなくなった、あまり冷えない、といったエアコンのトラブルは、具体的にどんなものがあるのか? そして、なぜ壊れるのか? エアコンが壊れる理由と、気になる修理費用をモータージャーナリストの岩尾信哉氏が解説する。
文/岩尾信哉
写真/ベストカーweb編集部、Adobe Stock(トビラ写真/Adobe Stock@Monika Wisniewska)
【画像ギャラリー】「エアコンの調子が悪い」と感じたらチェックしたいポイント
■エアコンが冷えない理由はどこにある?
エアコンが冷えないなあと感じたらエアコンガスがなくなったか、漏れているかディーラーなどで見てもらおう(Adobe Stock@JJ Gouin)
夏場に見舞われるエアコン周りの主なトラブルの例は以下のようなものが考えられる。
・冷媒不足:冷媒(エアコンシステムに封入されている気体、主にフロンガス)がない、あるいは漏れて減少している
・コンプレッサーの故障、コンプレッサー自体の不具合
・その他、室内のフィルターやブロワーファンのホコリなどの汚れによる目詰まり
基本的には家庭用と変わらないエアコンシステムの基本機能を簡単に説明すると、液体が気体に変化する際に周囲の熱を奪う現象を気化熱効果、熱を奪う物質を冷媒と呼ぶ。
これを利用したのがエアコンの機能で冷媒(エアコンガス=HFC-12、HFC-134aやHFC-1234yfなどのフロンガス)を液体→気体(熱を奪う)→液体(熱を戻す)に変化させることで熱を循環させ、室内気を冷やす機能を得ている。
エアコンシステムの主要な部品としては冷媒を圧縮して高圧化するコンプレッサーを始め、熱のやりとりを行う熱交換器としてコンデンサーとエバポレーターなどが備える。
エアコン故障の主な原因として挙げられるのは、上記の部品や結合部分などが振動や熱によって劣化して起こる、冷媒の「ガス漏れ」だ。
エアコンシステムを構成する高圧ゴムホースや金属パイプで構成される配管部には、車両の走行(エンジンの作動)中では、エンジンや車体からの振動や熱に晒される常に負荷がかかっている。
基本的にはいわゆるメーカーの機能部品の保証期間中にトラブルに見舞われる可能性はかなり低いとはいえ、長く乗ろうとすればそれなりにメンテナンスを施す必要がある。
■まずはエアコンフィルターから換えてみよう
エアコンフィルターが目詰まりを起こしていたら交換(Adobe Stock@ahirao)
まずは日常的に気を遣ってやれば、効きが悪くなるといった軽度のトラブルであれば、簡単なメンテナンスを施しておけば防ぐことができる。
一番手は室内(グローブボックスの奥など)に設置されたエアコン用フィルターの点検。目詰まりを起こしていないか、定期的にチェックすることをお薦めしたい。
実体験としては、意外なほど風量などが大きく変わる場合があるので、「どうもエアコンの調子がよくない」と感じられたら、まずはココから確認してほしい。
使用している環境や使用頻度などによっても交換時期の目安は変わるが、エアコン用フィルター交換は1年または1万kmごとを薦めている場合が多いようだ。
交換費用はショップなどでは工賃込みで約4000~6000円。ただし、フィルターそのものは1000~2000円で手に入るから、充分自分で交換できるのでトライしてみるのもよいだろう。
■2~3年前から新規格のR-1234yfに切り替わりエアコンガス補充も高価に!
エアコンガス、HFC-134a(=R-134a)は200g 1本、約500円~
エアコンの効きが悪くなったり、エアコンガスの量を点検したことがない人はショップなどで受けられるエアコンガスのリフレッシュを薦めておきたい。
エアコンガスは長年の使用で、ガスの中に不純物が溜まることなどで冷却効果が低下する。またエアコンガスが規定量に満たないとコンプレッサーの負荷が増えて、燃費も悪くなったり、故障の原因になりえる。
具体的には専用のガス回収機でクルマからエアコンガスを回収し、不純物を取り除く。回収したガス量と規定量の差分のガス、エアコンオイルを規定量加え、綺麗になったエアコンガスをクルマに充填する。料金はHFC-134a(=R-134a)では、約8000~1万円(車種によって異なる)となっている。
ハネウェルのカーエアコン用冷媒、ソルティスyf(HFO-1234yf)、200gで1万円前後~
ここ2、3年以内に登場した新車は、新規格のエアコンガスHFO-1234yf(=R-1234yf)対応に切り替わっている(車種によって異なる)。
国内では、2015年4月に施行されたフロン排出抑制法にて自動車用エアコンについて定められた 2023年までにGWP(地球温暖化係数)を150以下とする低GWP化目標の達成に向け、このR-1234yfへの移行が進んでいるのだ。
このR-1234yfは、R-134a(=HFC-134aのGWPは1430)に比べ、GWPが1未満と非常に低く、GWPを99.9%低減するという。
またR-1234yfの大気寿命はわずか11日と、R-134aの13年、CO2の500年以上に比べ非常に低く、分解に数十年を要するHFC(代替フロン)やCFC(特定フロン、オゾン層破壊物質)とは異なり、R-1234yfは大気中に滞留しないという。
ただし、R-1234yfの200g缶1本1万円前後もする。R-1234yfの工賃込みのガス補充料金はR134aに比べ、3万~5万円程度と非常に高価となっている(車種によって異なる)。
参考までにR-1234yf対応のエアコンガス適正量はハスラー320g、フィット370g、クラウン600g。
■エアコンの修理費用とエアコンが壊れない走り方
左上のコンプレッサー、右上のエバポレーターが壊れるとやっかいだ(Adobe Stock@dougilly)
ここからは、以下にエアコン関連の修理費用(工賃込み)を紹介していこう。
・エアコンガス補充/約8000~1万円(R-134a)、約3万~5万円(R-1234yf)
・エアコンガス漏れ修理/約2万~3万円
・エアコン・コンプレッサー交換/約5万~10万円
・ファン(ブロワー)モーター交換/約2万~5万円
・エバポレーター交換/約5万~10万円
・エキスパンションバルブ交換/約2万円
・エアコンフィルター交換/約2000~5000円(年1回交換)
・サーモスタット交換/約1万円
※車種によって異なるため、あくまでも目安としてください
なお、軽自動車や輸入車など、車種の違いなどによって価格が変わってくるので注意しておきたい。これらのなかで、エンジン周りの部品のひとつであるエアコン用コンプレッサー(以下、コンプレッサー)の故障はやっかいだ。修理に高額の費用がかさむことが多いからだ。
エンジン本体側のプーリーからベルトを介して駆動されるコンプレッサーは、エンジンの駆動力を使っているので燃費への影響についてよく言及されるわけだが、コンプレッサーが壊れると“重整備”といえる修理内容になる。
コンプレッサーが壊れた場合には、本体の交換とともに、冷却回路内に残っているエアコンガス(冷媒)を回収して修理したうえで、新たに既定量のコンプレッサーオイルとエアコンガスを補充するため、最低でも3万円以上の費用がかかることになる。
たとえばコンプレッサーが焼き付いてしまった場合、冷媒とともに削られ落ちた金属カスなどの不純物が冷却回路内の隅々までに回ってしまうため、冷却回路を構成するパーツを総入れ替えする必要が出てくる。車種にもよるが、約10万~30万円という高額の修理代がかかることも覚悟しておきたい。
エアコンが臭くなったり、エアコンの風が弱くなった場合はエバポレーターが原因だ。エキスパンションバルブで低温・低圧にされた霧状冷媒を大量に気化し、ファンにより送られる車室内の暖かい空気がエバポレーターを通過することによって冷却し、室内を冷房化する。
暖かい空気がエバポレーターフィンに当たり、露点温度以下に冷却されると空気中の水分が凝縮し、エバポレーターフィンに水滴が付着する。この結果 、車室内の湿気をとることができる。
このエバポレーターが壊れた場合、交換費用は約5万~10万円。洗浄も行ってくれるが1回1万円以上かかる。小さい子供がいて、カビや細菌が気になる人はフィルター交換とともに年に2回のエバポレーターの洗浄をお薦めする。
エアコン(とエンジン)に負荷をかけるような扱い方、すなわち、高回転域を頻繁に(長時間)利用するような走り方は避けるべきで、クルマに優しい適切な使い方を心がけたい。
ほかにも、猛暑のなかのひどい渋滞や買い物などで駐車場に停車しているような状態でエアコンを30分以上付けっぱなしにするなど、エアコンはもちろんのこと、エンジンや補機用バッテリーなどの電装系の負担が大きくなるような使い方は極力避けるべきだ。
まずは日常のメンテナンスを行い、それを欠かさなければ、エアコン関連のトラブルはある程度防げるはずなので、日々のチェックを怠らないことが肝要だろう。
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