驚きと倦怠感に満ちた2024年
今年の自動車業界を振り返る――というと少し話が大きくなり過ぎてしまうので、とりあえず僕がライターとして担当した記事を振り返ることにしたい。その方が具体的だし、身の丈に合っているので書きやすいと思う。
【画像】「これヤバい…」記者が今年一番カッコいいと思ったクルマ【ジェンセンFF/ジェンセン・インターセプターを写真で見る】 全21枚
まず僕はこの1年で、おおよそ800本の記事(正確な本数は未確認)をAUTOCAR JAPANに投稿させていただいた。そのうち99%が、本家である英国のAUTOCAR UKが書かれた英語記事の翻訳だ。欧州で発表された最新モデルのニュース、技術解説、ランキング、過去の名車特集など、その内容や性質はさまざまだった。残る1%は、一から書かせていただいた僕のオリジナルの記事で、ニュースと特集が半々だった。
これらをざっくりと振り返ると、自動車の歴史と伝統を上書きするような出来事が多かったように思う。ポルシェ911のハイブリッド化、メルセデス・ベンツGクラスのEV(予想と異なり、EQGという車名は与えられなかった)、中国メーカーの拡大。さらに、世界的なEV需要の成長鈍化、ドイツ大手フォルクスワーゲンの不調、何百万台にも影響が及んだ日本国内メーカー5社の認証不正など、業界全体を揺るがすような “大事件” も起きた。
このように偉そうなことを書くと、「お前は何もわかっていない」、「自動車業界を何と心得る」とお叱りを受けそうなのだが、あくまでも僕個人の感覚としては、新しいデザインやテクノロジーが次々と登場した新鮮な驚きと、今ひとつパッとしない倦怠感みたいなものが1年を通して共存していたように思う(そうでないという方がおられても、反論するつもりは一切ありません)。
今回は年末特集ということで、特に印象に残った記事を3本選び、そこから少しだけ話を広げながら、2024年が(僕の主観で)どういう年だったのかを振り返る。
1:EVの快進撃と停滞 テスラ・モデルYが前年ベストセラー車に
【世界で最も売れたクルマ EVとして初、120万台達成 「RAV4」超えたテスラ】(1月26日掲載)
今年最初の衝撃は、テスラの快進撃を伝えるものだった。去る2023年の車種別の新車販売台数で、テスラのEV「モデルY」が王者トヨタを抜いて世界トップに躍り出たのだ。2位のトヨタ「RAV4」も107万台(前年比6万台増)と好調だったが、モデルYは圧倒的で、120万台以上が売れた。
これで2024年の世界市場はEV化まっしぐら……と思いきや、そうは問屋が卸さない。むしろEVへの需要は踊り場を迎え、売り上げは伸び悩み、多くの企業を困らせた。メルセデス・ベンツやトヨタはEVの販売計画を修正し、以前よりも控えめな目標とした。フォルクスワーゲンも苦戦し、ドイツ国内工場の閉鎖やリストラを検討し始めた。テスラですら、全従業員の10%の削減に追い込まれた。
そのような状況の中で、米国の新興企業フィスカーの破産(6月)は、避けられない運命だったのかもしれない。僕はフィスカーの実車に触れる機会には恵まれなかったが、少なくともデザインや機能面では面白い提案をされていたと思う。創業者のヘンリック・フィスカー氏にとって2度目の挑戦であり、僕も少し期待して見守っていただけに、破産の知らせは個人的にショックだった。
当事者に対して礼を欠いた表現になってしまうが、一時期は雨後の筍のように生まれていた新興EVメーカーたちが、今ではかなりの数を減らした(あるいは音沙汰がなくなった)ことから、ほとんど “ふるい” にかけ終わったのではないかと思う。もちろん、これは今年に始まったことではないけれど。
2024年は、特にEVを扱う方たちにとっては厳しい1年だったはずだ。2025年も、残念ながら、おそらく気が休まることはないだろう。せめて体調を崩されませんように、と願うばかりである。
2:世界のトレンド? 「レトロ」デザインが大注目
【ルノーが1970年代風「2ドア・クーペ」発表 レトロな軽量スポーツカー、270馬力のモーター搭載】(9月5日掲載)
クルマの見た目にこだわる人はとても多いと思う。僕も自動車デザインの話題は大好きだが、1年を通して最も強く印象に残ったのは「レトロ」という単語だ。ノスタルジックなレトロデザインは今や、1つの流派として定着しているようだ。
代表例の1つはフィアットの「500」だろう。近年では、ルノーも「5 Eテック」や「4 Eテック」といった新型EVでレトロモダンなデザインを採用している。ユーザー側の注目度も高いようで、ここに挙げた『ルノーが1970年代風「2ドア・クーペ」発表~』という記事は、ありがたいことに、掲載後しばらくYahooニュースのカテゴリー別ランキング(産業)の上位にとどまっていたと記憶している。
これは個人的な見解に過ぎないが、ほんの数年前まで、業界の一部では「レトロ=かわいい=女性向け」というステレオタイプがかなり幅を利かせていたように感じる。そのような偏ったイメージはほぼ廃れたようで、今ではレトロデザインは、好みの違いこそあれ、老若男女を問わず広く受け入れられていると思う。
大局的には、中国や米国の新興企業が目新しさで注目を集めているのに対し、既存の自動車メーカーが自社の伝統や歴史といったレガシーを武器に応戦するという、熾烈な企業間競争が透けて見える。
これは外見の問題だけでなく、ネーミングも同じで、かつて人気だったものの系譜が途絶えてしまった名車をフィーチャーするような流れが、フォードなど一部メーカーで見られる。確かに、どこかで聞いたような車名は安心感があるし、なんとなく良いイメージが浮かびやすい。
当然ながら、こうしたデザインやネーミング戦略を忌避するメーカーもあるので、業界全体が「右へ倣え」でレトロ一辺倒になるわけではない。ルノーも製品ラインを器用に分け、レトロなモデルと標準的なモデルを両方やるという二刀流の構えだし、全面的にレトロを取り入れるメーカーはむしろ少数派だろう。
3:朽ちた廃車に感じる「ロマン」 ジャンクヤード探訪記シリーズ
【「風の丘」で眠る何千台ものクルマたち 家族経営の巨大ジャンクヤードで見つけた珍しい宝物 40選 前編】(11月2日掲載)
これはニュースではなく、ジャンクヤードに置かれた廃車を巡る特集記事だ。
今年は、自称 “ジャンクヤード・ジャンキー” のウィル・シャイアーズ記者が書かれた、米国の巨大ジャンクヤードを探検する特集記事を何本も翻訳させていただいた。広大な敷地(たいていは雑草が生い茂った原野のような土地)に何千台と並ぶ廃車を1台1台カメラに収め、車種と年式を識別し、簡単な歴史やエピソードを交えて紹介するという内容だ。
ご本人に直接お話を伺ったわけではないが、シャイアーズ記者の書かれる記事はどれも、クルマに対する慈しみとユーモアにあふれている。腐りかけたクルマを単なるドンガラとして扱うのではなく、一種のストーリーテラーのように見て、さまざまな情報を汲み取ろうとする。
錆びついたフロアパン、色褪せたボディ、ぽっかりと穴の空いたエンジンルーム……。もう二度と道路を走ることのない廃車がずらりと並んだジャンクヤードは、筆舌に尽くしがたい感情を芽生えさせる。僕はすっかり、シャイアーズ氏の記事とジャンクヤードの虜になってしまった。
ジャンクヤードはクルマが最後に行き着く場所だ。数十年かけて部品を少しずつ剥ぎ取られ、骨格をむき出しにされ、最終的には破砕機にかけられて金属片になり、リサイクルで他の製品(キッチン用品とか)に生まれ変わり、またわたし達のところへやってくる。その一連の奇妙な面白さは、おそらく、廃墟が好きな “廃墟マニア” の方々にも共感していただける部分があると思う。
「自分のクルマもいつか、そのような場所にたどり着くかもしれない。そしてその樹脂部品や金属は、巡り巡ってスプーンや文房具になって手元に戻って来るかもしれない」――そんな想像をしてみると、今身の回りにある物への愛着が、より一層深まるような気がする。
最後にご挨拶だけ
どのような人が記事を読んでくださるのか、僕からは皆さんの顔が見えません(僕の顔は皆さんに見えていると思いますが)。僕はかれこれ4年間、クルマに関するさまざまなタイプの翻訳記事を書くという仕事をしてきましたが、読者の方とは一度もお会いしたことがなく、名前はおろかおおまかな年齢性別すらわかりません。
ただ、AUTOCARの読者には自動車愛好家の方が多いはずなので、皆さんは遠からず僕と同じような「クルマ好き」なのだろうと勝手に想像しながら、自宅でPCのキーボードを叩いています。お粗末ではありますが、こういう記事を読んでくださる方がいるおかげで、僕はこの仕事を続けることができています。
いつもありがとうございます。どうぞ素敵な新年をお迎えください。
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